第17話【カプレーゼ】
映画のサブタイトルを各話のタイトルにしてましたが話の内容と噛み合わないため、やめます。
ペペロンチーノというのはイタリアン料理なため、イタリアン料理のコース名を各章にし
イタリアンの飯の名前をその話のタイトルにします。
7月になり、熟した梅の実が地面に転がっているのを目にするようになった。
鞍牛が出所する。
重たい鉄城門が開かれ、1人の男が関門を抜けた。
「また来ます」
「もう来んな」
栃木県刑務所、刑務官が刃物の切先のような眼でアスファルトに唾を叩きつけた。
雨を貯めた黒い雲の下に彼は不貞腐れた子供の表情で闊歩した。
目の前に数年ぶりに会う子分が待ってくれていた。
「ようお前ら」
「ご苦労様です」
待機していた2人の子分と三谷、彼らは膝に手をついて頭を下げる。
鞍牛は満面の笑みを抑え、クレバーな顔を取り繕う。
「久しぶりです。鞍牛さん出所おめでとうございます」
三谷は右手にかけた黒のジャケットを鞍牛の肩へ羽織らせる。
「ずいぶん腹を括ったんだな。身なりも立派になって・・・・・・おまえのスーツ姿、似合ってるよ」
鞍牛は三谷の全身をジロジロと眺める。
もしも捕まらなかったら三谷と修羅場を一緒に歩みたかった。その悲しい思いと懐かしい顔に会えた喜びを噛み締めつつ本心は胸に隠した。
「いえいえ鞍牛さんの武功に比べれば俺なんて足下にも及びませんよ」
三谷は三谷で久々に会う人物に対し、以前の立ち振る舞い方が出来なくて、ぎこちなかった。
車に乗せられ、しばらく東京まで走る。街ブラをし、日が暮れた頃に赤旗の店で真っ当した刑期を労った。
夕方になって雨足の激しい音が地面に弾けた。
赤旗が組に入ってから2年が経つ。そのすこし前に捕まったから会うのは今日が初めてだ。
「はじめまして、赤旗と申します。この度のお勤め、お疲れ様でした。
慰労会が俺の店では物足りないかもしれませんが、楽しんでってください」
俺は背中に両手を組んで頭を深々と下げた。先輩方の憧れの存在であるこの人に失礼はないようにしたい。
「あぁ。ありがとうな」
挨拶の後に鞍牛がまずビールジョッキを片手に飲み干す。そして三谷も飲み始めた。
2人連れた子分のうち1人は外で待機し、もう1人が三谷の後ろに立っている。
鞍牛は喉を鳴らして飲み干し、テーブルの上に置いてある焼けた肉を口にいっぱい放り込んだ。
静かに咀嚼をし、追加で運んだビールをあっという間に空にさせる。
テーブルには焼けた肉が数多く皿に並べられたがそれを鞍牛さんはあっという間に口へと運んでいった。
1人がバクバクと食べるのを黙って眺めている。三谷さんは頬杖をついて、肉を焼いた。
皿に置いたものを勢いよく平らげる。そしてまたビールで喉を冷やした。
「これの為のなら何回だって入れる」
今まで食べるのに夢中になって喋れなかった鞍牛だったが3杯目のジョッキを胃袋に流し込むと、酔いが回りだしたのか喜びを言葉にした。
「追加をくれ」
「一つですか?」
「いや3つだ」
「はい!」
俺は1人でビールをジャッキに注ぎ、切り分けた肉を大慌てでテーブルへ移動させる。
暑い環境で身体を動かしていて背中に熱がこもるからシャツが張り付く。
「おい赤旗!灰皿だ。寄越せ」
彼らはオーダーした物が届くまでに一服、タバコが吸いたいようだ。
鞍牛さんは口から塊の煙を吐く。口内のドロっドロの肉の油と煙草の煙が口の中で混ざり合うと格別な旨さが脳内に走る。
「あー幸せだ。この組み合わせはコカイン級だ。ようやく、染み染みとシャバの空気を満喫しきった」
「刑務所だと味のあるもんは食べられませんからね。それで東京の観光はどうでしたか?」
「そうだなぁシャバはかなり変わった。なんだか浦島太郎の気持ちが分かった気がするよ」
「かなり法律も厳しくなったもんで、表歩けば禁止、条件つき解除が多い世の中です。でかい顔して歩く奴も減ったので誘拐も気軽には出来なくなりました」
「だろうなぁ。務所で仲良くなった奴が同じ事言ってたわ。ヤクザの立場も悪くなってっな。それで追い風のように今、本部の組長も死んだんだ。看板かかげたこっちもしんどいんだろ?」
「正直な話をするとどう取り繕っても、現状は辛いです。でも続けないと面子が潰れてしまう。ならここが頑張り時ですわ」
気振れの鞍牛という異名に反して人間らしい優しい顔で会話をする。
「暗い話しないでくださいよ。せっかくですし鞍牛さん、良かったら新参者のコイツらに闘牛鞍牛と謂れた話してやってくださいよ」
三谷の“げははは”という喉を震わせる笑い声が室内を轟かす。それを冷たい目をして手を振った。
「嫌だね。でかい顔して悪いことした話するなんて、カッコ悪ぃ。ただ、お前らも分かるだろ、ヤクザは人様に迷惑かけれるんだから良い商売だって」
「あっ・・・・・・はい!」
三谷もその部下も意表を突かれた顔から、言葉を呑み込むと威勢よく肯定した。
「それでこれから鞍牛さんはどうされるんです?」
「そうだな・・・・・・ぼんやりだけど考え中だな」
「決まったら何があってもでもついて行きますよ!」
「あぁぁっ嬉しいよ」
爪楊枝を歯の隙間に当てて取り除きながら言葉にする。遠くから見てて、その顔からは哀愁があった。
恐そうな異名のせいで何をされるか分からずに物怖じしていたが刑務所で毒気でも抜けたのか、品のいいおじさんの只住いに見えた。
酒も肉も米もたらふく食べた三谷と鞍牛はもう胃に入れなくなった。
三谷の子分は先に帰らせられ、俺は締め作業に取り掛かる。
2人で卓を囲んで静かに、楽しそうに時間を過ごしていた。ねむそうな顔をしながらこの先の展望を三谷が語る。それを眼だけははっきりとさせて聞いていた。
「ふぅ終わった」
大量のジャッキやグラス、大小異なる皿を洗って棚に戻す。
掃除をしに行くと三谷と鞍牛が眠っていた。急に声が聞こえなくなったと思ったらこれか。
床やテーブルをありったけ汚して寝られたから始末が悪い。
起こさないよう、最新の注意を払って卓に置かれた皿を回収しようとした。
三谷が嫌いだ。俺は過去に鍵のかかっていないトイレを掃除しようとしたとき、偶然、三谷が用を足していた。
“すいません”と謝ってすぐに扉は閉めたものの、後から殴られた。俺が悪いようで悪くない事態で癪に触った。
殴られたくないから慎重に掃除をする。
「もう店仕舞いか」
すると鞍牛さんに話しかけられた。俺の動く気配を察知して目を覚まさせてしまったようだ。
「はい、時間も時間なんで・・・・・・」
愛想の良い言い方をする。
“そうか”と鞍牛さんは感情を入ってない言い方をする。が、彼はまどろみつつ双眸が坐っていた。
何処を触れれば逆鱗なのか分からない、背後を狙われている感じを覚えた。
「・・・・・・赤旗、くんだったけ。自分の店を持てるなんて若いのに出世じゃないの」
「いやぁ、たまたまですよ」
「三谷から聞いたよ」
針を通すように慎重な口調をされる。
「何をです?」
手を動かしながら俺は応えた。
「本部に呼ばれたんでしょ。おれも三谷でさえまだ招集なんてかけられないのにさ、すごいじゃん」
冷たい顔をする鞍牛さんは俺の手や足の動きを細かく観察する。
「たまたまですよ」
手を止めて、合わせないようにした眼を合わせた。
真剣な面持ちを俺はする。こっちの真剣さを測られているようでこの人の目つきが嫌だ。
「そのあと、組長は殺された。偶然の一致か何か知らないが一枚噛んでんだろ?俺は赤旗くんに見立てを付けている」
「そんな、俺、いや自分は下働きですよ。本部からもたまたまなんです」
「どれ、が、たまたまなんだ?」
駒を進められて、自分の陣地を狭められる話題の展開の仕方をされる。
「挙句には本部から帰って来たら何も訊くなというお触れ。変だろ。三谷から聞かされた俺も不思議に思っている」
「いや・・・・・・それは・・・・・・」
あくびをしながら三谷が眼を覚ました。
「あぁん?」
腰の尾を引っ張るような張り詰めた空気を三谷が察知した。
「何話してたんです?」
鞍牛さんに質問した。ケラッと笑った顔になる。
「いやなんでもねっ。赤旗くんは若いのによっぽどの大義を計らったんだなって話をしてた」
「そうです、か・・・・・・」
嘘か本当かを空気を読んで確かめるのに数秒黙った。1分経ちそうな頃に三谷が口を開けた。
「タクシー呼べや」
「あ、はいっ!」
空気を切り返してもらえた。危ないところだった。
タクシーはすぐに来た。足元がふらつく三谷は鞍牛さんの肩を借りて先に乗り込んだ。
少し待っててくれ、と、運転手に指示を出す。
「赤旗くん、俺は本部の組長を殺した奴を突き止めたいんだ。そして、ヒヨッた極道共も殺すつもりだ。楽しそうだろ」
「え・・・・・・」
返答に詰まる顔を楽しそうに笑ってタクシーへ乗り込んだ。
あなた!ここまで読んで頂き誠に感謝なのですわ(拍手*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*)
次の話も楽しみにお待ちになってくださいまし (ノ_<)
読んでいただくあなたにぜったいに期待わ裏切らない面白いを提供致しますわよ(ノ_<)




