キミの正体を知った日。
「明日、来ると思う?」
私の問いに君は、「来るよ。」とまるで知っているかのように答えた。私は、知っている。明日が、来ることを。君ももちろん知っている。だって、私達には、ある理由で知れるんだからー。
「はぁ。」
暇だ。そして、退屈だ。私ー内川愛は、とってーも!暇で退屈なのだ。
「どうしたのよ、愛。ため息なんかついて。」
声をかけてきたのは、幼馴染で親友である相川優だ。
「だって〜、暇なんだもん〜。大好きな小説が書けないだなんて〜。」
「はい、はい、愛ちゃんは大変ですね〜。」
ムカッ。知らないでしょ。私がどんなに小説好きか!
「そんなこと言ってないで、はやくご飯食べよ!」
私は、強引に話題を変えた。
「う、うん!そうだね。」
パカッ。お弁当の中身は、ご飯、鶏そぼろ、だし巻き卵、タコさんウインナーと種類が豊富だ。
「わ〜。美味しそう!」
優が目をキラキラさせた。
「あ、祐介君だ〜!」
声がした方向を向くと、祐介君こと谷川祐介がいた。祐介は、クラス一の人気者。そして、頭も良くて、運動神経抜群!運動神経抜群で、頭は平凡な私とは、大違いだ。
「よ!愛ちゃん!」
「祐介〜!愛ちゃんと呼ぶのは、やめてって言ってるでしょ!愛でいいから!」
祐介もまた幼馴染。私を愛ちゃんと呼び、私に何かといたずらしてくるやつだ。心底むかつく。
「はいはい、愛ちゃんが怒っていまーす」
「あぁ、もう良い!知らない!」
「あ、ちょっと愛ー!?」
そんな、優の声を無視して、私は教室を飛び出した。
「ちょっと、祐介。流石に、あれは酷いんじゃない?」
私が居なくなったあと、優が祐介を叱っていた。
「そうか?俺は、何とも思わないが?」
「全く、デリカシーがない男ね。なんでモテるのかしら。」
「あんたらだけじゃないのか?そんなに気にするの。」
はぁ。祐介、デリカシー無さすぎ。本当に困る…
そんな気持ちを抱えたまま、放課後を向かえた。
「愛。帰ろ。」
優が、声をかけてきた。
「うん。」
教室を出て、学校を出て、家までの道のりを歩いた。はぁ、いつまで、私はこの道を歩けるのだろう。意外とはやいかもしれない。明日かもしれない。
歩いていたら、あったという間に家へ着いた。
「優。また、明日。」
「うん。また、明日。」
そう、二人で言い合って家へ入っていった。
「ただいま〜」
「あら、おかえりなさい。ご飯出来てるよ。」
この人は、私のお母さん!自慢なんだ!
「はーい」
「ただいま〜、ゆり〜。」
我が家の犬、ゆりにご挨拶。
ペロペロと私の頬を舐めた。
「キャハハハ!やめて」
「愛。手、洗ってきなさい。」
「はーい。」
不服そうな感じで答えてしまった。
「「いっただきまーす!」」
今日の夕飯は、ご飯、味噌汁、肉巻きポテトと私の大好物ばかりだ。
「美味っしい!」
「はは、良かった。」
「ただいま〜。」
「あら、お父さん。おかえりなさい。今日は、はやいのね。」
「愛、真菜。ただいま。」
「おかえりなさい。お父さん。」
「ゆりもただいま〜。」
「ワンッ!」
「そうか、そうか〜、偉いぞ〜。」
「あなた。手を洗って、ご飯食べて。用意するから。」
「おー、分かった。」
はぁ、父親の事、私嫌いなんだよな。酒癖悪いし、お母さんなんでこんな奴と結婚したんだろう?まぁ、興味無いけど…
「お〜!やっぱり真菜の料理は、美味いな〜!」
「あら、嬉しいわ。」
「愛。お酒を持ってきてくれ。」
はぁ?何で、私がやらなくちゃいけないのさ。ここで反論すれば、後でアーダコーダ言われそう。
「はいはい。」
「おい!はいはい、とは何だ!」
うっわ、最悪。こいつ、ホント嫌い。居心地悪っ!
「あなた。もうよして。」
「あぁ、そうだな。真菜、愛してるよ。」
「あら、私だけ?愛のことは?」
「そうだよ。僕が愛しているのは、君だけさ。愛は、知らないよ。」
「ッツ!」
乱暴にドアを開けて、飛び出した。
「ちょ、愛!?」
というお母さんの声を無視して。
「はぁ。」
一生懸命に走って着いた先は、海だった。
「さて、これからどうしよう?いくら夏だからって、夜は寒くなるよね。う〜ん?」
そんな事を考えていた直後、急に睡魔に襲われた。
「ん?」
次に目が覚めたのは、見覚えのない部屋だった。その場所にいるのは、私だけ。とにかく、動こうとしても、中々動けなかった。よく見ると、縄で拘束されている。
ガラリ、と音がした。ドアの音?
ドアの方を見るとサングラスをつけ、全身黒の男の人がいた。
「内川、愛だな?」
その声は、野太い声だった。それに、私の、名前を?
「あ、う、うん。あなた、誰?」
「私は、X。お前は、今からあることになってもらう。」
「X?ていうか、ここは、どこ?あることって何?私は家に帰れるの?」
「それを今から、説明する。」
「ある事とは…、お前は、明日から『世界を知るスパイ』になってもらう。」
「はぁ?世界を、知るスパイ?そっか、これ夢か!良く出来てるわ〜。」
「夢じゃないぞ。ちなみに、世界を知るスパイの事何だが、このパソコンを使ってもらう。」
何で、私が?私、機械音痴だよ?
「じゃ、そういう事だからよろしくな。」
そのままXは、立ち去ろうとした。
「ちょっと、待ちなさいよ。」
「まだ、何か?」
「他にも、いるの?」
「あぁ。」
「そう。」
「じゃ、これからよろしくな。」
そう言って、Xは立ち去った。
その後、私は強烈な睡魔に襲われ意識を手放した。
ぴよヨヨヨ。七時を知らせる目覚ましだ。まだ、眠い…もう少し、寝かせてくれ…。
「愛ー!!起きなさーい!」
ん?お母さん?はぁ。げんなりして、ベットから身を起こす。ん?あれ?自分の、部屋?さっきのは、夢か。ホッと、息をついた。部屋をぐるりと回した時、違和感を覚えた。それは、自分の勉強机にあるパソコンだ。え?私、パソコン持ってない…。じゃあ、これはー!Xが言ってたパソコンの事?私、世界を知るスパイに…。なんか、ショック。
とりあえず、パソコンを開いて見た。すると、ホーム画面に移動した。「パスコードを入力してください。」って、書いてある。パ、パスコードって何?暗証番号の事?うーん。とりあえず、愛をローマ字で打ってみた。すると、「ようこそ!世界を知るパソコンへ!」と出てきた。スペースキーを押してみた。「アルゼンチンのビデオを観て、気付いた事を送れよ。」はぁい?アルゼンチン?って、時間!と思ったら、今日は休日だった。はぁ、危なかった…皆勤賞が失われるところだった。良かった。まぁ、部屋でやるのも落ち着かないから海の浜辺でやろうか。
ザザーン。海の塩っぱい匂いと砂浜のキュッという音がして、あぁ入りたいなという気持ちになる。
あれ?先客がいる。誰だろう?そこには、見ない顔をした人物がいた。
「あの、もしかして世界を知るスパイさん、ですか?」
急に話しかけられたからびっくりした。
「あ、はい。」
「俺も、そうなんです。」
その男の子ー今川真君は、私と同い年で、明日転入するらしい。
「真君は、なんの依頼?」
「俺は、アルゼンチン。」
奇遇にも同じだった。
「あのさ、真君じゃなくて、真でいいよ。」
「ま、真?」
「うん。俺も愛って呼ぶからさ。」
「わ、分かった。真。」
「うん。あ、後俺明日君の学校に転校してくるよ。」
「えっ?」
「じゃーね!」
えぇ?ちょっと、待ってー!?
「ただいま。」
「愛!?何処に行ってたの!?」
お母さんの高い声が響いて耳が痛くなる。
「ごめんなさい。」
「ごめんなさいで済む訳ないでしょ!?」
うぅ、もう嫌だ…。ここは、地獄だ。お母さんは、赤鬼。お父さんは、青鬼。ちょー嫌だ。家出したい…
「あーもう!いい!お母さん達なんて知らないんだから‼」
ダッシュで駆け出して自分の部屋へと行く。
「はいはい、皆さん転校生を紹介します。」
え?転校生?もしかして…
「はじめまして、大堀中学校から来た鳴瀬真です。」
真?そういえば、昨日転校してくるよって言ってたっけ?
「じゃあ、内川愛さんの隣ね、席は。」
「はい。」
「愛。よろしくね。」
「うん。真。」
「えーなになに?二人知り合い?」
優が、不思議そうに言った。
「うん。昨日、海で会って。」
「へぇ~。」
ニヤニヤしながら言う優。
「もう、そんな関係じゃないよ。」
「ふ〜ん。」
それから、真の人気は祐介を上回った。
転校してきて、翌日には女子だけでなく男子も真の席の周りに群がっていた。
「愛。一緒に帰ろう。」
「うん。」
真が誘った。
「おい、愛ちゃん。俺とは?」
祐介がまた邪魔をしてきた。
「おい。お前。愛に何かようか?」
真の普通の声とは違い、低く、野太い声だった。
「え、ぁ、す、すいません。」
流石に祐介も真の気迫に負けたらしい。
「愛。待たせてゴメン。」
「え、あ大丈夫。」
「真。ありがとうね。」
「え?」
「ああいうこと、昔っからあるんだ。」
祐介に嫌味を言われて、ギャン泣きしてごめん、の一つも無かったこと。今思えば、最悪だったな。
「辛かったね。頑張ったね。」
そう言って、真はそっと抱きしめ、その後、ふわりと唇に柔らかいものがあたった。それが、キスだと気が付いたのは数秒後だった。
「ただいま。」
「「おかえりなさい。」」
え?何で、父親の声もするんだ?もしかして、はやく帰ってきた、とか?うわ〜、嫌だな〜。
「お父さん。帰ってたんだ。」
せめて、父親の前では外面を良いようにしないと!
「あぁ、今日、半休貰ってな。」
「そうなんだ!」
「ほら、ほら。手洗って、ご飯にしましょ。」
お母さんが割り込んで、私は洗面台へと向かう。
「ごちそうさま。」
ふぅ。美味しかった。
ピロリン
メールだ。真から?
『話がある。海で待ってる。』
何だろう?
「真。」
「愛。来てくれて、ありがとう。」
「ううん。」
「あの、連絡が来た。みんな宛に。愛は、世界を知るスパイ、クビだって…。」
「何、で?」
「わからない。」
「とにかく、近いうちにパソコンXが取りにいく、かも…」
「そんな…」
ショックだった。もう、私は役目が無い…。
「あと、もう一つ黙っていた。」
「何?」
「俺は…」
真の話から翌日。
何でだろう。真が、Xだったなんて。信じられない。学校、行かなくちゃ。
「行って、来ます。」
「はーい。はい、おべんとう。」
そっか。今日、給食か。そうか。私、食物アレルギーがあることすっかり忘れてた。私は、乳卵アレルギーを持っている。とにかく、行かなくちゃ。
フラフラとした足取りで行く。
「愛?」
流石に優も不思議に思ったらしい。
「愛。」
ビクン。え?ま、真。逃げなくちゃ!
「愛!」
無視しなくちゃ。私は、君の正体をしても私は、私のままでいられない、かも…。
「愛。」
逃げた屋上の先にも真が来た。逃げようとする私に、「待てよ。」と手をギュッと掴んだ。
「何なの!?」
振り切ろうとしても、真の力が強くて抜け出せなかった。
「話、聞けって!」
「話、って何なの!?私に話すことなんてないでしょ!?」
「とにかく、聞けよ!」
っぐ。
「で、何?」
「俺は、Xだ。」
「知ってる。」
「だから、俺がX。あのさ、俺は愛のこと、凄く好きなんだ!」
え?好き?
「だから、俺と付き合って。」
額に汗が滲んでる。それぐらい、必死だって事が十分に伝わった。
「はい!ありがとう。そして、ごめん。」
「ううん。」
こうして、私ー内川愛と真ー鳴瀬真は、今日付き合う事になり、数年後、結婚。その後は、2児の子供を授かることになったのでした。




