#33 合成獣戦・序幕
今日は2話投稿です
ダンジョンへ向かう途中、ふと不穏な気配を感じる。
足元に微かな音。
「なあ、豆人、なんか聞こえね?」
「あー俺も気になってたんだわ」
なんだ?
合成獣関係かもな…
ややこしいことになったな。
そう思った刹那。
地面が、揺れた。
「グルラァァァァ…」
地面を突き破り、異形の巨大生物が姿を現す。
「なっ…」
間違いない、こいつが合成獣だ。
基本的には人形をしている。
だが、尻からは蠍の尾が生えており、毒を滴らせている。
そして、頭が2つあった。
それぞれの頭からはコボルトの犬歯がちろちろと覗いている。
腕は、鋏状になっているものと、人間の腕のようになっているものがそれぞれ一対ある。
コボルトと蠍、どちらもランクの高い魔獣ではないが、合成獣になるとこれほど強くなるんだな、と少し感心してしまう。
それもそうか。イヴィルはデーモンの劣化種。悪魔系統のスキルを使って肉体を強化させ、憑依することは難しくないだろう。
精神生命体が故に生み出したその強さ。
一筋縄では、当然いかない。
俺は攻撃を開始しようと抜刀術の構えを取る。
その瞬間、また地響きが鳴った。
2体目の出現に身構えたが、そうではない。
合成獣が、歩いたのだ。
人間の街に向かって。
「まずい!!」
「ああ…」
俺は急いで立ち回る。
速度が取り柄の俺だからできた技。
しまった、超音速のスキル検証を忘れていた。
これは痛い。
バカにならないほど痛い。
やっちまった。
まあそんなこと考える暇はないわ。
強引に思考を切り捨てる。
俺がやるべきなのは…こいつの足止めだ。
誰かが結界かなにかでなんとかしてくれることを信じて。
「らぁぁ!抜刀術:鬼神乱舞!!天覇八連!!」
体が、軽い。
進化してから本気で戦ったことがなかったのでわからなかったが、だいぶ戦いやすい。
それでも、大したダメージは与えられていない。
それでいい。俺がやるべきことは、最低限の足止めだからだ。
「ルゥオォォォォ…」
合成獣が、ハサミ型の右腕を振り下ろす。
地面が刔れた。
速い。
愚鈍そうな見た目とは裏腹に、パワーと速度を併せ持っている。
俺は間一髪避け、ジャンプしてからカウンターを叩き込もうとした。
振り下ろされた、ハサミ型の腕のスタンを狙って、だ。
だが。
ジャンプした俺は、脳震盪が起こるような強い揺れを感じた。
地面の揺れが、空中にまで伝わってきたのだ。
周りでスルトやアルテミス、それにギルバートも、反撃を試みているがダメージはろくに通っていない。
スルトの大槌も、アルテミスの月光魔術も、ギルバートの円盾によるバッシュも、まるで通じていなかった。
十二王魔の一角、ヴァーミリオンのブレスでさえも。
無論、ヴァーミリオンの攻撃が効かないとなると、アンピプテラズのブレスは言うまでもない。
蒼炎と、深淵が、少しずつダメージを通しているくらいか。
フェンリルは、噛みついたり爪でひっかいたりすることで動きの阻害に徹している。
これは、俺が前に伝えておいた作戦だった。
フェンリルは、速度に特化している分火力が低いので、合成獣相手にはダメージを通すのは難しいだろう。
だから、動きの阻害に徹するよう言っておいたのだ。
それを差し置いて、大きなダメージを受けずに攻防を続けるとかどんだけ堅いんだよ。
俺は隙を見て合成獣のステータスを確認しようとした。
個体名:オルール
種族:合成獣
称号:infinity
Lv:infinity
infinity
だが、読み取れたのはこれだけだった。
つまり、俺とあいつとでは実力差がかなり開いているということなのだろう。
あるいは、鑑定妨害を持っているか。
どちらにせよ、相当強力なのは間違いない。
想定以上だ。
エルラと豆人が結界を張っている。
「結界、どうだ!?」
「あと…ちょっとっ!!」
豆人もエルラも、攻撃を避けながらなのでなかなか結界を張れないらしい。
俺は、相手の隙を見て攻撃を叩き込む準備をする。
その時。
「Fire(F x,y,z:100,100,5000 T x,y,z:0,0,0)」
ロックフォール戦を彷彿させるような、巨大な火柱が合成獣に直撃した。
ソウヤの攻撃だった。
技能士の攻撃は、発動まで時間がかかるが重量級のものを出すことができる。
「ナイスだ!!」
さすが異世界人。
「こっちも、結界っ、張れた!!」
エルラからの伝達。
呪詛師の主な武器は、「式紙」だ。
呪詛の文様が描かれたその紙は、生み出した使い手の思い通りに動く。
今回は、結界を作るように設定してあったのだ。
とりあえず、周囲への被害は抑えた。
こちらからの反撃が、始まる。
「スイッチ!!ギルバート、交代!!」
「了解!!」
戦いは順調である。
エルラ、豆人、ソウヤがこちらのほうに回ってきてくれたおかげでだいぶ楽にはなった。
今は、俺とギルバートがタンク、スルト、アルテミス、ヴァーミリオンがアタッカー、豆人、モンスターズがデバフ、そしてソウヤがどかーんと大ダメージを負わせる感じだ。バッファーはいない。ちなみにエルラは、式紙で色々こなしている。式神と呼ばれる、術式で魔獣を召喚するやつとか、
俺にタンクができるのかと思うかも知れないが、心配無用。
刀堅とか、抜刀術:竜嵐一過とか、受けの技も持ち合わせてるんだよ。
モンスターズは今回、避けタンクじゃなくてデバフだ。
さすがにモンスターズにヘイトを向けるのは危険だしね。
結構善戦していると思うし、こちらが勝つのも時間の問題かも知れない。
力関係的には互角だ。
だが、俺は今から、切り札にしてた「 超音速 」を使おうと思う。
そろそろ、みんなのMPが切れそうなので、早く終わらせないとえらいことになるからだ。
俺は、抜刀術の構えを取って、唱えた。
「 超音速 」
一見、何の変哲もないように見える。
だが、 超音速 を鑑定した時の説明にはこう書いてあった。
『風の加護を得たことによって音速を超え、速度が10倍になる。』と。
今までの俺とは、速度が違う。
直線で動けないことを見越して、俺は合成獣の心臓部を見据えた。
貫通できれば幸いだ。だが、切込みを入れただけでも、大ダメージ自体は期待できる。
「はぁぁ!!!抜刀術:鬼神乱舞重連!!!!」
抜刀術の重連。
天空流の使い手でも、使えるものは一握りしかいないという。
だが、超音速で強化された今の俺にはそれができた。
俺の、神速の抜刀術が、合成獣の胸を襲う。
刀が2連続で、合成獣を削る。
貫通。
そのまま空中で旋回しようとするが、案外旋回がスムーズにいったため、バランスを崩した、
しかし、すぐに立て直して次の攻撃の体勢に移る。
「いいぞ、雄伍!!」
声援も聞こえる。
そして、もう一度、今度は首を目掛けて。
「抜刀術:覇閃八連!!!」
俺の、通常技の中での最高火力を叩き込む。
覇閃は、威力が高いがゆえに、斬撃より打撃という感じだ。
「らぁぁぁ!!」
二刀によって繰り出される八連撃が、頭部と体を完全に分離させた。
そのまま、着地。
一瞬の静寂のあと、歓声が湧き上がった。
「やったな、雄伍!!」
「最後のやつすごかったぞ!!!」
そんな言葉に、俺って強くなったんだなってしみじみ実感していた。
だが、そんな思いもつかの間だった。
「なっ…なんだあれ!!!」
「再生…まだするのか!?」
「こちらでなんとかします!! Wind(F x,y,z:0,0,0 T x,y,z:0,100,5000)!!」
一時的に弱体化しただけだったようである合成獣を、風の刃が穿った。
だが、それすらも、再生していく。
「!?」
どうやら、先程のものは第一形態でしかなかったらしい。
それにしても…
前例がない。形態変化なんて。
いや、待てよ。形態変化ができる魔物の討伐方法が参考になるかも知れない。
形態変化するのは…クラーケン、スクイッド…海棲のモンスターだけか…
いや、まだあった。
その生物は…
超人。
合成獣戦は相当長くなります




