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跡形もない君を

作者: 腹黒兎

* 地震や津波を想像させる表記があります。


空と溶け合った海を見ながら半日を過ごしている。

穏やかな波の音はどれだけ聞いても飽きることがない。引いては押し寄せる波に色を変える砂浜も、白い波が動く様も。

波打ち際から離れた場所に座り込めば、視線が下がってより海が近く見える。太陽の光が水面に反射してキラキラと眩しいほどに輝いていた。


去年は海水浴客で溢れ返っていた砂浜が今は寂しいほどに人がいない。

ふらりとやってきた人たちは海を見てしばらくしてから肩を落として帰っていく。誰も彼も無言で海を見つめ、無言で去っていく。


白く綺麗だった砂浜はたくさんの漂流物が打ち上げられ、いまだにあちらこちらに痕跡を残している。

これでも綺麗になったほうだ。少し前までは打ち上げられて腐った魚や、ゴミのような漂流物などで悪臭が漂っていたのだから。


こんなに綺麗な海があんなふうに様変わりするなんて思いもしなかった。

嵐や台風なんて比ではない。

見たこともない高い波が何度も町を襲った。

何もかもを飲み込んで去っていった。


赤い太陽が海面を染めていく様を見ながら、まるで荼毘のようだと思った。

ゆっくりと沈み、最後の陽光が吹き消されるようにして消えた。

涙が静かに頰を伝って流れ落ちる。

消えたのは期待なのか、希望(のぞみ)なのか。

固まった体を動かして立ち上がる。

明かりの少ない地上とは反対に空は星で溢れていた。

月明かりに反射する波も同じように煌めいて見えた。

黒い波が揺らして飲み込んでいく。


かえしてください。


ひとかけらでもいい。


この手に、この地に、かえしてください。


何ひとつ残してくれなかった海に懇願する。


全てを奪っていった海に哀願する。


魂だけでもいい


どうかおねがいです


かえしてください







黒い海は波の音だけを響かせていた。



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