若者の街
三題噺もどき―にひゃくにじゅうに。
柔らかな日差しが肌を刺す。
夏の痛々しい日差しとは全く違う、暖かな柔いもの。
春がその顔を見せつつあるのだと、鈍感な奴でも感じざるを得ない。
冬ももう終わりかと、寂しい気持ちになるのはなぜなのだろうか。冬なんて、寒いだけで、何もいい事なんてないように思えるのに。
―こう感傷的な気分になってしまうのも、この季節のせいなのだろうか。
「……」
まぁ、きっと久しぶりに外に出てきて、なんとなく寂しいような気分になっているのかもしれない。大勢の人の息を、生身で感じるのが、久しぶりで。そわそわとして、一人浮いているような気がして。誰かに隣にいて欲しいような、いてほしくないような気持ちになっていて。
特に、普段1人で仕事をしているものだから、他人の気配というものだけでも、きついものがあったりするのかもしれない。あまりにも久しぶりすぎて、感覚が鈍いような鋭くなっているような。
―こんな気持ちになるなら、外に出るんじゃなかったなぁ。
「……」
とは、思わないが。思っていても、声には出さないが。
外でないとできない仕事が今日は入ってしまったのだから、仕方ないのだ。
寒い冬の日ではなかっただけ、マシと思っていよう。
今日のような、暖かな日に外に出られて幸せだ。
―まるで冬眠から覚めた動物みたいなこと言ってるな。
「……」
しかし、今日はやけに人が多いような……。
久しぶりに出てるやつの感覚なんてあてにはならないが、それでも人は多いような感じがしている。
ぱっと見、若い子が目に付くような…。
「……?」
なぜだろう。
あのぐらいの年齢の時は、学生だった気がするのだが。あれか、リモート授業とかで、学校には行っていないのだろうか。ただのサボりか。それだとしても、多いような気がするが…。まぁ、今時の子達はメイクとかもしっかりしているし、見目にとても気を使っているから、年齢なんて一言に言えないし、見た目だけでは判断できないのだが。―もしかしたら、思っているより、年上の子だったりするかもしれない。
「……!」
と、思いながら、その疑問に終止符をつけようと思っていたが。
あぁ、なるほど。
ふと聞こえてきた彼ら彼女らのセリフに、春休みという単語があった。
もうそんな時期なのか。ほんの数週間ほどの、短い休み。だった気がするが。
そんな春休みでさえ、そんなにおしゃれをして遊びつくすのか…。尊敬してしまうなぁ。こんな引きこもり生活をしている人間からすると、服を選んでメイクをして外に出ているだけで素晴らしいと思う。
「……」
普段着ている制服を脱ぎ捨て、好きな服を着て楽しむ。
そんな彼ら彼女らは、とても眩しく見えてしまう。
あんな時期が誰にでもあったのだろうか。キラキラと眩しい、思い出に語りをするには少し恥ずかしいけれど、美しい記憶。
―あまり自分では思いつかないが。きっとあるのだろう。恥ずかしい過去ならたくさん思いだすのになぁ…。
「……」
しかし、それはそれとして。
だ。
「……」
なんとなく、その彼ら彼女らに違和感を感じた。
目的地に向かう、通りを歩きながら。
チラチラと視界に入る、キラキラとした若人たち。
その、誰もが。
「……」
その誰もが、なぜか赤い鞄を持っていた。
「……?」
一人残らず。
誰も欠けることなく。
彼も彼女も関係なく。
一人一つの、赤い鞄。
「……」
形は様々あれど、どれも赤い。
赤い、鞄。
「……」
若者たちの間で流行っているのだろうか。昔からそういう流行りとかに無頓着なもので、分からないのだが…。そんなに浸透するものなのだろうか、流行というものは。1人ぐらいはぐれものが居てもおかしくないと思っているのだが。
しかも、その赤い鞄…どこか生々しく見えるのはなぜだ。
皮の素材なのか、何なのか知らないが、やけに赤赤としていて、ぬらりとしていて…。
「……っ」
なぜか、ふるりと身震いがした。
今歩くこの通りの異様さに。
この、町の異様さに。
刺さる視線の多さに。
「……」
若者が多いというより。
「……」
若者しかいない。
「……」
大人と言われる存在が。
「……」
居ない。
「……」
歩く人の中に、自分と同じか、それ以上の見た目の人間が。
―いない。
「……」
ここに居る誰もが、ほんの少しまで制服を身に着け、キラキラと輝いていたであろう。
若者だけ。
「……」
「……」
「……」
さっさと帰路につこう。
きっと、目的の相手はもう居ない。
―相手も自分も、大人の部類だ。
お題:春休み・赤い鞄・制服




