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女神さまのお使い(2)

 目的の商店街は自宅の最寄り駅のすぐ前にある。そして、この大きな商店街を抜ければ、自宅へ到着するというルートだった。メールでイシスが指示してきたのは、この商店街でも随一の激安スーパーでの買い出しだ。育生は商店街の入り口から激安スーパーへと向かう。


 今は夕方ということもあり、激安スーパーは多くの買い物客で大混雑していた。それもそのはず、今日は月に一度の特売日なのだ。主に大勢の主婦でごった返す激安スーパーの入り口に立ち、だが育生はわずかに口端を上げる。


「さすがイシス、この日に買い出しを要求してくるとはな……。だが、舐めてもらっちゃ困る。オレはイシスに散々こういう場で鍛えてもらったんだから」


 そして、一体どうしたらこの大勢の買い物客の間をかいくぐって、目的の商品をゲットすることができるか、頭の中でシミュレーションした。もう幾度となく特売日にこの激安スーパーで買い物をしてきた育生にとって、この場は独壇場といってもよかった。


「……さて、と。行くか」


 育生は激安スーパーの入り口から店内に一歩踏み出す。そして、最短ルートで目的のものを順番に手に入れるコースを辿っていく。この場所は大勢の客でごった返していたが、その人たちを押しのけて無理矢理進んだりすることは決してしない。そんなことをしたら、イシスに小一時間はお説教を食らうはめになるからだ。


「いいこと? イクオ。あなたが立派な紳士になるためには、女性には鷹揚かつ親切に接するのですよ。女性に乱暴な口をきくことや暴力を働くなど、もってのほか。そのような男は、禍物にも劣るド畜生のゴミ屑ですわ」


 優雅な口ぶりとは裏腹に、過激な内容をイシスがいつの日か育生に言い含めたことがあった。イシスは育生を立派な男に育て上げるべく、幼い頃からいろいろな礼儀作法、女性に対しての接し方を教えてきた。その甲斐あって、一見派手な茶髪で軽そうな外見の育生は、中身は立派な紳士として育ちつつある。


 育生は主婦で溢れ返っている店内をスムーズ、かつスピーディに進んでいく。そして、頼まれた材料の最後の一つである豆腐売り場へ向かおうとしたときだ。


 すれ違いざま、育生は誰かに肩をぶつけてしまう。長身でそこそこ筋肉もついた自分と接触すれば、相手はそれなりにダメージを受けるかもしれない。そんなことを懸念しつつ、育生は慌ててぶつかった相手に顔を向けた。


「す、すみません、大丈夫ですか?」

「あ、はい……」


 ぶつかった相手は、育生が通う向陵高校の女生徒用の制服を身に付けている。そして、さらにその顔を覗くと、よく見覚えのあるものだった。


「春野……?」


 育生は思わず彼女の名を口にする。


「あ、沖野くん……」


 春野奈ずなも驚いたように育生の名を呟いた。今日の授業が終わった後、まるで逃げるように教室から去っていった奈ずな。その彼女が今、育生と同じく激安スーパーの中にいるのだから、驚きだった。


「もしかして、春野も買い物なのか?」


 育生は昼間の友人の忠告を頭に留めつつも、つい奈ずなに話しかけてしまう。それに奈ずなは当惑しつつも、小さくうなずいてみせた。


「あ、あたし、両親が共働きで……家事全般はあたしがやってるの」

「家事全般って、洗濯とか料理も?」

「う、うん……」


 奈ずなの返答に育生は感心する。育生も決して家事ができないわけではないが、料理だけは未だに苦手で、イシスに任せきりになってしまっている。そのかわりといっては何だが、掃除や洗濯などのほかの家事は極力手伝ってはいるのだが。それにしても一人で全部をやるというのは、学生である身では相当大変なことだろう。


「すごいなあ、春野は」

「え?」


 育生が感嘆しつつ言った言葉を耳にし、奈ずながようやくまともに視線を合わせてきた。


「だって、学校行きながら家のことやってるわけだろ。オレは一人暮らしじゃないけど、料理とかは同居人に任せっきりだよ」

「そ、そうなんだ……」


 いつのまにか今までのように会話をしている、育生と奈ずな。だが、今いる場所が大混雑している激安スーパーの中だということを思い出し、育生は奈ずなに問う。


「もう買い物終わる? オレあと豆腐があれば、終わりなんだけど」

「あ、あたしは、あとレジに行くだけ……」

「今はとにかく会計済ませて、ここから出ない?」


 そう、育生は奈ずなに提案する。人がひしめき合う通路で突っ立って会話していては、ほかの客の迷惑になるかもしれないからだ。同じことを奈ずなも思ったのか、一も二もなく首肯する。


「じゃあ、行こう」


 それから育生と奈ずなはレジへと向かい、それぞれ会計を済ませ、購入した品物をまとめると、混雑した激安スーパーを後にした。


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