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十二年前の出会い(1)

「生き残りだった子供? どういうこと、まさか……」


 そう呟いた後、ハッとしたようにネフティスはある方向に視線を向ける。その先にいたのは育生だった。彼は何を思っているのか、黙してその場に佇んでいる。


「おや、お前もいたのか、ネフティス。お前は何も知らされていないのかい? 一番大切なことを妹に隠すとは姉上、あなたも人が悪い」


 セトが哀れむように言うが、ネフティスはキッと彼を睨め付ける。


「うっさい、ボクはお前の言葉なんか信じないよ! お前は昔っから嘘つきで、人を謀ってばかりじゃないか!」

「ふふ、そうだったかな? だが、たまには私だって真実の一つも語るさ。まあ、話すよりは実際にその目で見てもらった方が早いだろう。たしか、このニュースだったかな?」


 セトはくるりと長い人差し指を回す。すると、彼の前に巨大なスクリーンらしきものが現れ、ある映像と音声を流し始める。


『……年四月十九日、日鷹山で発生した大型旅客機墜落事故で亡くなったのは、乗員乗客合わせて五百人以上と見られております。そして、今も救助隊による大規模捜索が行われています。その模様を現場からお送りいたします』


 何かのニュース番組だろうか、女性アナウンサーが淡々と原稿を読み上げている。そして、画面は事故現場へと移る。そこでは、巨大な旅客機の残骸が無残に散らばり、救助隊とおぼしき大勢の人間が必死の捜索に当たっていた。だが、もう原形を留めていない旅客機の残骸を見るに、生存者はいないだろうことが容易に見てとれる。


 だが――。


『スタジオにつないでください、現場の山田です! 今、一人の生存者が見つかったとの情報が入りました!』


 現場のリポーターが興奮した面持ちで、ある方向にカメラを向けさせた。その先には、救助隊に抱きかかえられた男の子の姿が。彼は身体のあちこちに擦り傷はあるが、奇跡的に一命を取り留めたようだ。すると、唐突にニュースを映していたスクリーンが消える。


「どうだ、ネフティス。少し頭の弱いお前でも、さすがにわかっただろう? お前はなぜ姉上が少年を育てていたのか知らなかったのかい?」

「ボ、ボクは、姉様がとある事情から男の子を育てることにしたとしか聞いてない……。姉様がお決めになったなら、間違ったことはないと思ってたから」

「ふむ。細かい事情は姉上から聞いていないと。そういう大雑把なところは昔から変わっていないな、ネフティス」


 セトに小馬鹿にされ、ネフティスは不快感を露わにしたが、すぐに真顔を浮かべた。


「待ってよ。じゃあ、今のヒコーキ事故の生き残りの男の子が……」

「そうだ。今は立派に成長した、そこにいる少年だよ。どういう経緯かは知らないが、姉上が彼を育て上げたようだがね」


 セトの説明を聞くのもそこそこに、ネフティスが傍の育生に気遣わしげに問いかける。


「イクオちん、キミは知ってたの? キミの乗ってたヒコーキが落ちた原因が、その……」


 その問いに育生が答える前に、セトがおもしろおかしそうにせせら笑った。


「まさか、知っているわけがあるまい? 姉上は、いわば彼が乗った旅客機を落下させた一因だ。それを知って、十二年も共に時を過ごしたなど……」

「……知ってたさ」


 今まで黙り込んでいた育生が静かに口を開く。その言葉を耳にしたセトは、片眉を上げ不可解そうに小首を傾げた。


「うむ? 今、何と言った? 少年」

「知ってたって言ってんだよ。十二年前、オレの乗った旅客機が落ちた原因、全部」


 育生がこれ以上ないほどきっぱり言うと、セトはますます怪訝そうな表情になる。


「そんな馬鹿な話があるかね? あの旅客機には大勢の人々が、そして恐らく君の家族が乗っていたのだろう? そんな罪なき人々を死なせた一因が姉上だと知り、それでも君は彼女と今までずっと一緒に暮らしてきたというのか?」

「ああ、そうだ。何度も言わせるな、このキザ野郎!」


 なおも自分の言ったことを信じようとしないセトに育生が苛立った。すると、セトは自身の顎に手をやり、何か思案する素振りを見せる。


「ふむ。だとしたら、これはますますもって不可解だ。自身を命の危機に追いやり、家族すらも奪った女神と共に過ごして、一体何の得があるというのかね? 姉上はいわば君の敵も同然……」

「さっきから、好き勝手なこと抜かしてんじゃねえ!」


 不意に育生が声を荒げた。それに驚く、この場にいた一同。育生はここにいる全員の視線を一身に浴びながらも続ける。


「元はてめえが自分の兄を殺し、人間界に逃げこんだのが発端じゃねえか。そのことを全部すり替えて、イシスのせいにしようとしてんじゃねえよ!」


 育生に怒声を浴びせられ、セトが細い目を丸くさせる。そして、感心したように言う。


「これは予想外だな。私はてっきり姉上が十二年前のことを隠し、少年と暮らしているとばかり思っていたからね。まさか真相を知ってもなお、姉上に肩入れするとは……」

「イシスは十二年前のことを隠し立てしようなんて、一切しなかった。イシスはそんな卑怯な真似をしたりしねえ、セト、てめえなんかと違ってな!」


 そして、育生は十二年前のことを思い出し始める。

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