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告白は危険とともに(2)

「ごめん。春野の気持ちは嬉しいけど、オレはそれに応えられない」


 育生は奈ずなに向かって深く頭を下げる。この体勢では見えないが、一体彼女は今どんな表情をしているのか、どうしても気になってしまう。そして、奈ずなは何を考えているのか、言葉を発しない。それが気まずく、育生はなかなか頭を上げることができなかった。


「……そっかあ。やっぱり、あたしなんかじゃ、沖野くんとは釣り合わないもんね」


 落胆混じりに奈ずなに言われ、育生は慌てて顔を上げた。


「違う。別に春野が釣り合わないとか、そういうことじゃない。オレには、その……」


 育生はハッとする。奈ずなが真顔でこちらを見据えていることに気づいたからだ。


「……好きな人、いるの?」


 胸間を言い当てられ、育生はドキリとする。


「もしかして、イシスさん?」


 奈ずなにすべてを悟ったかのように問われ、育生は言葉が出なかった。イシスに対して抱くようになった想い、それを言葉にするのなら「好き」という感情なのだろう。彼女を養い親、魔術の師匠としてではなく、一人の女性として。自分の中ではっきりと形にできなかった想いが奈ずなの告白によって形作られたのは、何という皮肉だろう。


「……そうだよね。あの人、すっごくきれいだもんね。あんな人と一緒に暮らしてたら、好きにならないわけないよ。最初っから、あたしの入り込む隙なんてなかったんだ」


 奈ずなが自嘲するように言う。それにどう反応したらいいかわからず、育生はただ黙っていることしかできなかった。


「あたし、一つ目の願いが叶って嬉しかった。沖野くんとデートできて、本当に夢みたいだったの」


 奈ずながまるで独り言のように話し続ける。


「人間って、欲が出ちゃってダメだね。一つ目の願いが叶ったら、次の願いを叶えたくなっちゃう。それであたし、二つ目の願いができちゃったの」

「二つ目……?」


 ここでようやく育生が奈ずなの言ったことをおうむ返しに呟いた。奈ずなはコクンとうなずく。二つ目の願いとは一体何だ? と尋ねるより先に、奈ずなが思いもよらない行動に出た。彼女は制服の胸元に手を入れ、何かを取り出す。奈ずなが手にしたものを目にし、育生は愕然とした。


「春野、それは……」


 見間違うはずもない。それは幾度も自身の目で見てきたものだからだ。奈ずなの手の平の上で妖しくきらめくグラントクオーツ。一体なぜ彼女がそれを持っているのか問いかける間も育生に与えず、奈ずなが次の行動に出た。


「お願いグラントクオーツ、あたしの願いを叶えて!」


 奈ずなの言葉に応えるようにグラントクオーツが光を放った。その眩しさに育生は目を瞑ってしまう。だが、すぐに目を開いた瞬間、驚くべきものが視界に入ってきた。


「な……んだ?」


 育生の口から呆けた声が漏れる。なぜなら、眼前に巨大な怪物が現れたからだ。そして、既視感を覚える。なぜなら、それは大きなヘビの姿を模していたからだ。さらに言えば、ヘビは何本もの頭をうねうねともたげさせている。


 この間、夜の公園で現れた禍物も巨大なヘビの形をしていた。なぜ、こう何度も巨大なヘビと遭遇するのか、そんな疑問が湧いてくるが、今は悠長に考えている場合ではない。


「ごめんね、沖野くん。あなたの心は、あたしのものにはできない。でも、その身体だけはあたしのものにさせてくれる?」


 奈ずなが少し悲しげな微笑を浮かべ、言った。その言葉の意味が理解できず、育生はただ眼前の巨大なヘビを見上げることしかできなかった。いや、正しくはヘビに見据えられ、身体を動かすことができなかったのだ。これはこの間のときとはまったく違う。公園のときのヘビには、視線で人間の動きを制御する能力などなかった。


 そうしているうちに、ヘビの頭の一本が育生目がけて伸ばされる。このままでは身体を捕らえられてしまう。その後どうなるかなど想像したくもないが、とにかく逃げなければ。頭ではわかっていたが、身体がどうしても言うことを聞かず、指一本すら動かせない。


 まさに万事休す――育生は唯一動かせる目を思わず瞑ろうとする。そのときだった。

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