1話
「いい加減諦めたらどう?」
38号の言葉を無視して、少年は焚火に手をかざす。
大昔、小さな国の都市部だったというこの場所は、瓦礫を撤去する自走ロボット達の作業音だけが響き、生物の気配は微塵もない。虫も鳥も、勿論人も。
大昔、夜を照らしていた巨大な塔も、今や少年の雨宿りの止まり木の一つでしかない。
「ねえ、ハチ。何度も言ったと思うけれど、人類は滅んだんだ。このまま世界中を隅々まで歩き回っても、誰に会うことも出来ない。時間の無駄だよ。」
「そう思うなら、付いて来なければいいだろ。誰も頼んではいないんだから。」
ハチと呼ばれた少年は心底鬱陶しいそうに言う。
「そういうわけにもいかないさ。人の為に尽くすのが、僕らロボットの存在意義だからね。たとえ君の癇癪で、このボディが何度壊されようともね。」
「なら、もう黙ってろ。39号になりたくないならな。」
「はいはい。」
焚火の灯りがゆらゆらと揺れる。
遠く暗闇の中、ロボット達は正確無比な仕事をしているのだろう。この世界に明かりを必要とする存在は、僕一人なのだろうか。
ハチは自分のくだらない思考に頭を振る。
夜は考えまで暗くなっていけない。だいたい、ほんの二年前まで母と二人で暮らしていたのだ。この世界に他に人が居ないなんて、そんなわけがない。
「寝る。」
ハチがそう宣言すると、今まで響いていたロボット達の作業の音がピタリと止まる。代わりにどこからともなく心地の良い音楽が流れだし、ふかふかのベッドが用意される。
ハチはどっかりとベッドに横たわるとそのまま目を閉じる。
ハチの寝息が聞こえてきたころ、焚火の火はそっと消えた。