不要になった災いの元
その町に入るや否や奇妙な光景が私の目に飛び込んだ。
町の中に人気は無く、西洋風な作りの町のあちこちで無作為に公衆電話だけが立ち並んでいた。
昭和のイラストのように霞んだ空気は和やかなグラデーションで赤紫の夕空を彩っていた。
裏路地に回るもやっぱり公衆電話があらぬ方向を向いているだけで住民は見当たらなかった。
どうしようもないので何となく受話器を手に取る。艶やかなプラスチックの感触がひんやりと手に馴染んだ。
そして、耳元にあてがおうとした時、何かが通話口から垂れた。粘度を帯びたその赤黒さには見覚えがあった。
血だ。
私は驚いて後ずさりをすると後ろにあった別の公衆電話にぶつかってしまった。
バランスを崩した電話の台は倒れると乗せていた電話機も地面に落ちた。電話機からは血が溢れ、地面の隙間を赤いラインが走った。
電話機に入ったヒビから中がちらりと覗いた。
光の無い人の目がこちらをじろりと見ていた。