お父様
眠いです
「おや?ミサじゃないか?どうしたんだーい?!」
お父様、さすが私にすぐ気付きます。
こんなに頑張って物陰に隠れてても。
お父様がにこにこと手を振るから、私も観念して物影から出て、元気に振って応える。
我が家の応接室は、お客様対応の為か、とても広くて調度品も多い。
隠れるのには、絶好の場所なんだけど。
「おとーさまぁーっ!さびしくて、会いに来ちゃったーっ」
どこの愛人だよ。
自分にツッコミを入れながら、お父様の元へ走り寄る。
思いっきり抱き着いて、くるくると回る。
抱きしめられ、頭を撫でられる。
「そうかそうか、少しの時間だけど、会えなくて寂しかったんだね。私の天使だよ、ミサは」
頬にキスをされ、口の中にお菓子。
太るわー、これ。
「お父様、何をしてたの?」
周りを見ると、商談相手らしき、イケてるおじ様がこちらを微笑ましく見てる。
これは、チャンス。
「はじめまして、ミサレイです。5歳になります。お仕事の邪魔をして、ごめんなさい。どうしてもお父様に会いたくて」
習ったばかりのカーテシーでご挨拶して、捨てられた子犬のような表情でそっとおじ様を見上げる。
練習した、これ。効果も我が家の両親と、働いてる人達で試験済。
「いやあ、実に羨ましいですな、こんなかわいらしいお嬢さんがいるとは」
ほっほっほっと笑うおじ様。
素敵じゃーん。この人、いいわー。
「これから大事なお話があるから、ミサはお母様のところへ戻りなさい」
やっぱり、こう来たか。
「ミサね、お父様の隣にいたいの。静かにしてるから、、、ダメ?」
再びの捨てられた子犬。
お父様は、ぐっと息を詰めてる。
「いいではありませんか、私は大歓迎ですぞ。このようなかわいい天使が側にいれば、きっと商談も上手く行きましょう」
来た!おじ様!ありがとう!
「そうですか、、、では、ミサ?静かにしているんだよ?」
遂に、成功だ。
商談をこの目で見る。
「それでは、これが前回の───」
お互いに難しい資料を見ながら、詳しい話し合いが始まった。
小麦の値段が上がって、工賃を上げなくてはならない、とか。
前年と同じ納税額となるから、利益が減る可能性も考えなくては、とか。
たくさんお話をしながら、机の上は資料でいっぱいになっていた。
私が、こっそり横から見てもバレないくらい。
ふむふむ、ここ数年の小麦や綿、貴金属などの生産量と、その価格変動を資料にしてるのか。
そして、人件費ね。
ここ数年で様々な人件費が上がってるから、商家の利益が減ってるのか。
「これ以上、工賃が上がっては、、、」
「しかし、国王の決められたことでは、、、」
なにやら、国王様が、人件費を上げるようにお達しを出したらしい。
うむむ、国王様的には、利益をみんなに分配して貧富の差を縮めたいだろうけど。
稼げなきゃ、その分野からは手を引くのも、商売。
こりゃー、なかなか難しい話だわ、確かに。
大体の資料を見れたから、二人へ挨拶をして、するりと部屋から出て行く。
雰囲気が掴めただけでも良しとしよう。
ミサが去った後
「ずいぶんと、優秀な娘さんをお持ちですな」
「いや、そんな、なにせ一人娘で甘やかしてしまいまして」
「ふふふ、実に羨ましい限りです」
イケおじ様からは、褒められていたらしい。
コロナ恐いです。