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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
白の勇者
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再び会えたなら。

───???


 昔々、王都に一人の男がいました。男は素直で優しく、働き者で純粋でした。


 ある時男はイノリという女性に恋をしました。


 男は一生懸命仕事をし、彼女のためにお金を貯めました。男は貯めたお金で指輪を買い、告白の言葉と共に彼女に送りました。

 彼女は男の告白を受け、結婚することを誓いました。


 しかし、結婚式の直前男は友人が西の果てで危機にあってるという噂を聞き、気が気でなりません。

 イノリは彼に結婚式はあとにして友人を助けに行くようにと彼を快く送り出しました。


 ですが友人の危機というのは真っ赤な嘘だったのです。

 美しいイノリと結ばれる男に嫉妬した男たちが純粋な男を騙し、その隙に彼女を襲うつもりでした。


 それに気付いたイノリは花嫁衣裳のまま街から逃げ出し、男を追いました。


 西の果てで、彼らは再び出会いました。片方はぼろぼろの花嫁衣裳で。もう片方は惜しみ無い愛を抱いて。


 彼らは西の果てで結ばれ、幸せに暮らしました。


 イノリが通ってきた道はイノリの街道と呼ばれ、そこで式を挙げた花嫁花婿は一生を通してなお溢れ出る愛で包まれるのです。

 イノリの願いによって。


『純粋の花嫁伝説』


 ─── ああ、今思い出しただけでも……


 *


───マオ


 静かなよるに配慮したのか、僅かに聞き取れる程度に扉を叩く音が響きました。


「入っていいぞ」


 私の許可を得て入ってきたのはイルミナでした。


「商業組合の調査が一段落したのでご報告をと」


 五日ですか。思っていたよりも早かったですね。


「言ってみろ」


「はい。ではまず、新規商業公正法を皇帝に提案したのは商業組合の組長でした。力を付けていた商業組合の意見を皇帝は封じ切れなかったらしく」


 商業組合?あそこの組長は気に食わないですが頭は回るはずです。それこそ、怖いくらいに。


「あの狸がそういった愚を犯すとは思えないが」


「そのことなんですが、どうやら最近組長が変わったようで」


「ほう、初耳だが?」


「ええ、ミーンの街とその周辺に対しては巧妙に隠されていましたから。それ以外の街にはそうでもなかったらしいですが」


 新規商業公正法が公布されたのは一年近く前だったはずです。さらに詳細を詰めるのに半年程かかっていたと考えると、おおよそ二年程の間ミーンの街に隠し通していた訳でしょうか。確かにここのところ街に来る行商人は組合の息がかかったものが多かったですし。


「それは…きな臭いな」


「どうやら前の組長が()()()()()成り上がったようです。とてもきな臭いでしょう?」


「ああ、きな臭い。続きを聞かせてくれ」


「ええ、それで奴らの狙いは冒険者組合を潰すことと武器を回収することです」


 なるほど、それで自分たちは冒険者組合の鍛冶屋の武器を模造した粗悪品を売り、よその鍛冶屋から安く武器を買い叩いてるわけですか。なんのために良い武器を集め粗悪な武器をばら撒いて……戦争?ミーンの街と商業組合で?そんなことをする理由……確かに商業組合と仲がいいとは言えませんがそれなりに甘い汁は啜らせてたはず……。


「粗悪品であれば手にした冒険者は身を守れずに死んでしまうし素人目には冒険者組合と提携している鍛冶屋の武器と商業組合の粗悪品を見抜けぬからな。そして冒険者組合と提携している鍛冶屋の武器を使った冒険者が死んだと噂され信用が落ちるわけだ。なんで今まで気付かなかったのだ」


「我々の時間感覚が異なるからでしょう。私も見落としていました。まさかこんな愚かな手を使ってくるとは思わず……」


 常に最善手を打つものだという先入観が強すぎましたね。まさかここまで愚かしい手を売ってくるとは。勇者の準備のためにここ三百年は政治に注目してこなかったのが仇になりましたか。施行された法を最低限追うだけでは駄目ですね。


「言い訳はよい。それは我の失態だ。ただでさえ激務なお主に甘え過ぎた。………たまには我に甘えてくれても構わぬぞ」


「お心遣い感謝します。ですが館長にも私にも立場があるでしょうし辞退させていただきます。では、今判明している情報は以上です」


 断られてしまいました。確かに、立場というものがありますが人目に付かないここくらいなら昔みたいに甘えてくれても良かったのに。


「そうか、ありがとう。ところで組長の名前などは解るか?」






「あ、そういえば言ってませんでしたね。ムク・ドレアスというそうです」






 その時、どのような表情を浮かべていたでしょうか。

 心の中で荒れ狂う感情をなんと表せばよいものでしょうか。

 胸と首が締め付けられるような、熱い感情。

 ムク・ドレアス。その名前が頭から離れません。

 なぜだとか、三千年前の人物がなぜ生きているかだとかそんなことはどうでもいいです。大方転生現象でも利用したのでしょう。彼ならそれくらいの執着心は持ち合わせているはずです。

 それよりも今心の中を満たしているこの感情。

 ああ…また会える。ああ、また会った時には…その時には今度こそ……私が……。

 そう、この感情は紛れもなく…


「館長?どうしました?」


「ああ、いや、何でもない。それよりもオーディンの監視の数を増やせ。あいつはおそらくそこに用がある」


「解りました。ではそのように」


 イルミナが退室したのを確認し月を見上げる。

 窓に映る顔は、僅かな怯えと悲しみと、そして喜びと怒りに赤く染まっていました。

「オーディンにムクねぇ。懐かしい名前だ。オーディンは確か僕が名付けたんだっけ」

「いや知らないわよ」

「そういや北欧神話は残ってなかったね。いやほとんどの神話は残ってないか」

「神話?黒い雷とかの?」

「いいや、違う」

「じゃあ知らないわね。きっと残ってないわ」

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