其の七
霧を突き破り飛んできたのは熱く燃え盛る火球。無防備な魔獣の横腹を殴りつけるように吹き飛ばす。
「お、おいミトン。どっちかに当たったらどうするつもりだよ」
アレンも起きていたようだ。霧でぼやけているが後ろにいるのはガレウスとアリベルだろう。
「あの二人は当たっても問題ないんでしょ!!それより、全然効いてないんだけど!!!」
確かにゆっくりと起き上がる魔獣に今の一撃が効いているようには見えない。それどころか、その背の瘤が大きく膨らんでいる。
「何かくるわね」
見たらわかる。背中の瘤が破裂したかのように無数に空いた穴から吹き出でる霧により、最早自分の手すら見えない程に視界が白く染め上げられる。闇雲に歩けば確実にはぐれるし、何より動く影が敵か味方か判別出来ない。それに、先程の突進についてもここまで視界が悪いと避けることも難しい。だから、
「シャーレ!羽ばたけ!!!」
『りょーかいー!!!』
暴風が吹き荒れる。普段空を飛ぶときには絶対にしない力強く荒々しい羽ばたき。巻き起こされた風が、霧を吹き飛ばし木々にしがみついていた木の葉を散らす。霧が晴れ降り注ぐ朝日に照らされた白い魔獣の姿は先程見たよりもだいぶ小さなものだった。
「どうやらあやつ、霧の出しすぎで体が縮んだようだな」
「そうね。あんな可愛らしい姿になってしまって」
現れた魔獣の大きさは少し大型な犬程。先程までの馬のように大きな姿とは大きく異なる。
「倒しやすそうでいいじゃな───」
「シャーレ!」
『いったーい!!』
小さな姿に油断したミトンを魔獣が襲う。間一髪でシャーレが庇ったがシャーレが痛がるというのは相当な威力の攻撃なわけで、まともに食らっていれば軽装のミトンは粉々に……この場で鎧とか着てるの私だけだな。
「シャーレ、こっちだ!!!」
この中で一番防御力のある私が引き受けるべきだろう。
シャーレが抑える魔獣に向かう。
「私も手伝おう」
「ガレウス……お前あの魔獣を抑えられるのか」
「勢いがついていない今なら。たださっきみたいに走られると無理だな」
十分。私よりも力はありそうだし。
「攻撃を受けるのは私がやろう」
シャーレが解放した魔獣が勢いよく走り出す。散々攻撃を止められて怒っているのか、あるいは霧を晴らされたことで追い詰められてるのか狂乱状態で突っ込んでくる。
「……重っ!!!」
小型化しているというのに、腕を押してくるあまりの重量に足が軽く浮く。すぐに踏み込むも引き摺られ、長く線を描きながらようやく木にぶつかり止まった。
「ガレウス!!!!」
「おう!!」
突進は止めた。特に誰も怪我していない。あとは二人がかりで押さえ、その間に倒してもら、えば………ああくそ、動き過ぎた。激しい戦闘はしない方がいいって言ったのはマオだろう。それがこんな……ああもう、
「絶対に離すものか」
ここで手放せば私は無事でも他の連中に少なからぬ被害が出るだろう。だから……まだ倒れるわけにはいかない。
*
──ミトン
見てる?ウルーリー。気を失って、それでも決して離さず立ち続けるあの姿。逃げ腰で盾を構えてた親しみやすい貴方とはだいぶ違う。
「偉大なるその名を称え、身を捧ぐ我に恵みの火と日をお与えください」
私は、火の魔法以外は得意じゃない。だから、どんな魔法でも使いこなせるエイジーナが羨ましかった。もちろん、火の魔法は私の方が上だけど。
「今日を生きる我々に。暗きを生きる我々に。嘆きに落ちた我々に。明日よりの光を。輝ける未来を」
だけど、火の魔法はあの魔獣には効きめが薄かった。
きっと火の魔法であってもいずれ倒せはするだろう。だけどそれではあの頑張りを無駄にしてしまう。
今打つべきはいずれ勝てる手ではなく必ず勝てる手。
「そこに後悔はなく。ここに未練もなく。ただある御手にて。故き底より我らを救える」
アリベルとアレンが剣を振るう。ジャコラとは違い、思わず見とれてしまうような緻密な攻撃。広く深く。だから私は一撃で貫く。
「その栄誉ある名を語り継ぎ、未来永劫誉れ高きその名と共にあらん」
そして、何よりも悔しいのはガレウスの纏う水の操作が芸術のように美しいこと。マオの使う魔法が、音楽の如く重なり合って戦いの最中だというのに心が落ち着くこと。魔法の天才なんて呼ばれて、自称して、でもそれは驕りだった。けれど、負けたくない。私は私にできる最大を。
「火日の極彩」
白光が魔獣を貫く。いつも使う火球と異なり細く、細く、ただ細い一本の糸のような光線。だが、魔獣の魔石を確実に砕き、その体を霧散させる。溢れた黄色い光はすべてアレンに吸い込まれて───視界が暗む。
「二人揃って気絶したか。無理させすぎたな」
「魔石砕いたら魔人化するか死ぬんじゃ……」
「アレンは魔素なら全部吸収出来るし魔人化も中毒も起こらない。他の人に流れる魔素も一人で吸収しちゃったしね」




