其の六
「して、調査って何をすればいいんだ」
「知らね。俺も初めてだからな。シャヘルと行ったやつは違うだろうし」
「私も初めてね。そもそも冒険者に興味なかったもの」
「あんた達本当に探索者なの?」
なったばかりだしろくに依頼を受けていないのだから仕方ないだろう。そもそも冒険者組合が出来た時はそんな三つの区分はなかったのだから。
「小動物の動きや植物の変化、森の音等からそこに新たな主が生まれたかが分かる。そしてどこを見ればいいのかは私が教えよう」
意外なところから声が上がる。いや、山に籠もって暮らしていたそうだし意外でもなんでもないか。……私も山で暮らしてたがわからんぞ。
「ガレウス……お前そういうことも出来たんだな」
「私をなんだと思って……」
「「「色呆け」」」
「え?なにどういうこと?」
だって第一声がな……。
「お主ら……いや、今日はそういう目的だが……」
シャーレの背に乗ったマオが呆れた様子で声を漏らす……そう、頭上から声を漏らすのだ。今シャーレの上にはマオ一人だけ。しかし我々は地面を歩いているわけでも、馬車に揺られているわけでもない。
「大丈夫かシャーレ」
『重いけどだいじょーぶ!!』
シャーレに括り付けられ、今は宙づりに浮かぶ籠の中からシャーレに尋ねる。多少揺れるが馬車に揺られるよりはずっと小さな揺れに、決して広くはないが五人で乗っても問題ない大きさ。まあ魔素を放出する関係でアレンと私は対角線上におかれ身動きも出来ないが。
「しかし驚いたわね。私より年下の子がいると思ったら本物の竜だなんて」
「現代には竜はほとんどいないのだったか?あとシャーレはマオ、イルミナ女史に次いで長く生きているぞ」
封印されている期間を入れたら私の方が上だが、さすがにそこは勘定に入れまい。
「一旦話を止めろ。着いたぞ」
どうやら目的地に着いたらしい。マオの治めるオーカ自治区の最西端であり隣のエネリク領との境目となる山。どれだけ速く歩いても二日、実際に歩くとなると荷物もあるし四日か五日はかかる距離。シャーレであっても夜明けとともに出発し今は日暮れだが、五人抱えながら一日で飛べるって凄くないか普通に。
『降ろすよー』
ゆっくりと地上が近づいてくる。事前にマオが見繕った野営地であり他の場所に比べて平坦、あまり手入れがなされていないのかところどころ草が生えているが許容範囲内だろう。火も起こせないというわけでもないしな。
「むぅ……大地がひび割れる程焼いたからあと三年は問題ないと思ったのだがな。草花の成長は侮れん」
「そうだろうな館長さん。自然というものは雄大で人が思い通りになるものではない。故に自然の流れに身を任せるべきだ」
「ああ、そうだな。では自然の流れに任せて火を起こしてくれ」
*
冷たいものが体を覆う。これは……朝霧か。先程見張りを交代して眠ったばかりだというのに目が覚めてしまった。そろそろこの風除けも買い替えた方がいいか。
「どうした、小便か?」
「そういう発言は良くないぞガレウス。ただ霧で目が覚めただけだ」
「ああ、今日は冷えるからな。霧も出始めたしそんな薄い風除け一枚じゃどうにもならないか」
そう言うお前は風除けもなく平然と過ごしているがな。まあ私も霧が出てなければ風除けなくても平気だったりするし深くは追及しないが。
「もう冬だからなぁ。……しかし本当に冷えるな。毛布か何か持ってないか?」
「私が持ってると思うか」
思わん。誰よりも荷物の少なかった男がそんな気の利いたもの持ってるはずがない。
「まあないだろうな。少し火を借りてもいいか?」
「構わん。好きなだけ当たると………」
言葉が途切れる。何かに気が付いたのか……ああ、霧が濃くなっている。どこからか獣の唸り声のような音と何か大きな…そして柔らかいものが打ち付けられるような音。
「………そういえばマオはどこへ行った?眠らなくても平気だとか言って見張ってたはずだが」
「館長さんなら用を足しに行くとかで離れているが……」
あの女!!!
「他の奴らを起こせ。私はマオを探しに行く」
音のした方へと走り出す。恐らく奴はそこにいるし、魔獣もそこにいるだろう。
「マオっ!!」
そこにいたのは転がる魔石と倒れ伏すマオ、そして顎の大きなずんぐりむっくりとした馬のような魔獣。その背には大きな瘤があり、そこに空いた無数の穴から霧が吹き出ている。
「妙な馬だな」
「河馬の魔獣だな。普通は河や湖、沼にいるがまあ魔獣だしこんな山の麓にいることもあるだろう。色も違うしな」
カバ……?聞いたことないが、あの魔獣はカバの魔獣と言うらしい。見た目からして足は速くなさそうだが重量がありそうだ。まあ魔獣は見た目で判断出来ないがっ、
「なっ!!」
咄嗟に倒れるマオを蹴り飛ばし私も転がるように回避する。
直前まで立っていたところを魔獣が駆け抜けた。
「はっや!!!」
「普通の河馬でも人間の四から五倍程度で走るらしい。我も実際に見たことないがな。魔獣になったからかさらに速度が上がってるようだ。言うまでもないだろうが当たったら死ぬぞ」
見たらわかる!!!!
突進を食らった木をへし折りつつ怪我を負った様子を一切見せない魔獣。恐らくこの鎧があってもひとたまりも無いだろう。
「クソっ、なんてものを呼んでくれたんだ!!」
「違う。我が呼んだのはそこに魔石として転がっておる。そいつはもとからいた魔獣だ」
どっちにしろ最悪だよ。魔獣呼び寄せてたんだから。
「また来るぞ。動けるか?」
「問題ないわ。傷の修復はとっくに終わっておる」
やっぱりいいなぁその体。どんな傷でもすぐ治るなんて魔獣を殺したい放題………あの魔獣どこへ消えた?一瞬たりとも目を話さずにいたはず……
「来ておるぞ!!」
っ!まったく気付かなかった。マオの一言がなければ回避が間に合わず正面から撥ねられていただろう。
「霧に消えるのか」
「奴の白味がかった灰色の体色が霧に紛れるのに最適なのだろう。視覚以外の情報に頼れ」
幸い音は消えないし臭いも鼻が鈍い私でもわかるくらいには強い。これならなんとか……
「えっ?」
体が宙を舞う。ここまで接近されたことに気付けない程度の速度で致命の威力はない。だが気付けない攻撃は確実に流れを握られることになるだろう。ああ、これは面倒な───
「“火の三”!!!」
そうでもなさそうだな。
「鎧は耐えられるけど中身がね。上手く衝撃を逃がせられたらいいんだけど」
「そういうの教えるのが師匠である貴女の役目だったんじゃないの?」
「いや、まあそうなんだけど僕だって忙しいんだからね。ずっとそばに居られたわけじゃないし……」
「本当、貴女って嘘つき」
「いや、うん軽率にずっと一緒なんて言ったのは悪かったと思ってるよ。シアトだけでなくキミとの約束も破ることになったし」
「約束?会ったことあったっけ」
「アレー!?覚えられてないの!!!????」
「冗談。ぼんやり覚えてる」
「………それはそれで不安なんだけど」




