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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
火の勇者
45/54

其の一

 ──シアト


 大爆発。勇者を封印している小部屋が、扉を開くのと同時に爆炎を上げ砕け散る。


「シャーレ!!」


「あいっ!!」


 呼び掛けるよりも早く竜の姿となったシャーレが三人を庇い、私は降り注ぐ瓦礫に中を真っ直ぐ扉ヘかける。ぶつかっても問題ない瓦礫は無視し、大きな瓦礫を打ち払いおそらく無事であろうマオと、大きな怪我を負っているだろう勇者の元へ。


「マオ!!」


「瓦礫に埋まっておる……引っ張り出してくれないか」


 埋まって……ああ、腕だけ見えている。瓦礫の山を掻き分ければ体のあちこちに破片が突き刺さり、肉が抉れ骨が砕け見るからに痛々しい姿。


「お、おい大丈夫か…」


 普段の姿からは想像出来ない弱った姿に動揺する。きっと彼女なら何もなかったかの如く汚れ一つない姿でいると思っていたから。


「問題……なくはないがどうとでもなる。それより勇者だ。肩貸せ」


「本当に大丈夫か?」


「早くしろ、間に合わなくなる」


 そう、確かにこの爆発の中心にいるのは勇者だろう。だがこれだけの爆発の規模。とても無事だとは思えないし、これだけの傷を負ったマオを不用意に動かすわけにもいかないだろう。


「いいから!!早く行け!!!今ならまだ意識から蘇生が出来る!」


「……傷に触れるぞ」


「構わん、この程度の痛みならもう慣れた」


 慣れるような痛みではないはずなのだが、いつものように余裕の表情を浮かべ立ち上がるマオを支える。腕を回し肩に乗せ、脇に手を入れ支えてやればどこかしらの傷に必ず触れることになる。それでも声を上げるどころか表情一つ変えることのないマオを連れ、辛うじて残っている壁の向こうへ。

 そこにいた、否あったのは上半身と下半身が分かれ、左腕が引き千切れた男女の区別が付かない程に黒く焦げた死体。


「……っ、まだ生きてる」


 微かに、風に吹かれたかのように微かに揺れ動いた唇が、その死に体がまだ辛うじてその意識を体に留めている事を伝えてくる。


「生きてるのか。なら話が早いな。アレンを呼んで来てくれ」


「アレン……あ、ああわかった」


 出来るだけ急いで、扉の残骸を抜け外へ出たところで瓦礫が止んだからかこちらに向かっていたアレン達と合流した。


「おい大丈夫か?村長さん結構大きな怪我してたみたいだが」


「それより中の勇者は無事なのか」


「無事ではないが辛うじて息はある。アレン、マオが呼んでいた」


 崩れ落ちた部屋の中へ入るように促し黒焦げの勇者と並んで倒れるマオの元へ案内する。


「来たか。手の届くように屈め」


「こ、こうか?」


 マオの手が届くように腰を落とし、頭を垂れる。その頭をマオの傷だらけの手が掴み、離れないように握られた。不幸なのは頭を垂れていたから前髪を思いっきり引っ張られるようになっていることか。


「いってぇ!指が目に入ったんだけど!!!」


「うるさい静かにしろ。シアト、お前もだ。その兜取って屈め」


 え?私も?


「いっ!」


 ところどころ抉れたその腕で何処にそんな力があるのかと言いたくなるような強さで握られたかと思えば、そんなこと気にならなくなる程の虚脱感。体力などと曖昧なものではなく、体の中身が吸い出されるような感覚。徐々に視界が明滅し始める。それと同時にマオの傷がみるみる治っていく。


「───ここに捧げるは我が全て。この眼はその偉業を見つめ、この耳はその御言のみを聞き、この口は全てその名を讃えるのみ。この喉はその覇業を伝え、この腕は片時も離さず、この足はひたすら貴方だけを追う。祝盃をあげて。鐘を鳴らして。花を散らして。今、我が全ては貴方の物となろう。“木水の秘冠(ゼル・エル・ゾア)”」


 聞いたこともないような詠唱。これまで何人かの魔法使いと共に魔獣の討伐を行ったことがあるが、その誰もこんな詠唱はしていなかった。

 そして、その異常性は詠唱だけでなく効果としても現れた。

 失われた左腕と足が新たに生え、焼かれた髪と肌が再生する。どんな魔法であっても、ほぼ死んでいる状態の人間を蘇らすことはない。ましてや、完全に癒やすことは不可能。

 失われた手足が生える魔法は見たことがある。ただれた肌が再生する魔法は見たことがある。死んだ髪が生える魔法は見たことがないが、それらを一瞬でこなせる魔法など聞いたこともない。ウェリチのやつもそんな魔法はないと言っていた。


「マオ……そろそろ離せ……」


 大規模な魔法を見て興奮して薄れていたが、体を吸われていく感覚は消えていない。もう意識を保つのも厳しくなって来た。

 せめて兜だけでも……


「ん、すまん吸いすぎた」


 手から零れ落ちていた兜を拾い上げなんとか被ったところで意識は黒く染まり落ちていった。


「俺も離して欲しいんだけど!!」


「お主はまだ余裕あるだろうがこの便利な魔石替わり(底なしの魔素)が」

「マオちゃんの敗北宣言。使う度に精神が蝕まれてく系の禁呪(精神汚染しない)だからね秘冠」

「実質危険ないじゃない」

「いやまあ、秘冠の発動回数を参照する精神汚染魔法があるけど使い手がまだいないってだけだから……それこそマオちゃんでも使えないし」

「万人が使う為に作られたのが魔法なのに使えないのはどうなのよ」

「人は誰だって特権にしがみつくんだ」

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