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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
火の勇者
44/54

背く者こそ

 ──???


「かしらかしら、ご存知かしら」


「知らない。知る気もない」


 白い少女の問いを、興味もないと一口に切り捨てる土気た少女。目の前の紅茶の香りが煩わしいと、目を閉じる。


「何かしら。気になるわ」


 仕方ないとばかりに、黒の少女が聞き返す。


「何の話だい」


「気になりますわね」


 緑と黄も追従する。どうせ今日は何もないのだ。暇を潰すにはいいだろうと。


「あれでしょう?最後の勇者様達の話。彼女達ならやってくれるっていう」


 青の少女が先に言ってしまう。きっと白が話したかっただろうに。


「そうよ、そうなのよ。でも最後の勇者様ったら仲間をおいて突っ込んでしまったわ」


「それは………」


 扉の開く音がする。本来誰も入れるはずのない木の洞に、来客を訪れる音が。そして、そんなことが出来るのはただ二人。一人は今は眠っているので来たのは彼女だろう。


「やあ、僕だよ。皆元気にしてたかな」


 ああ、いつからだろうか。彼女がこんな話し方をするようになったのは。少なくとも共に戦っていた時はこんな喋り方ではなかったはずだ。まあもっと自信持って話せよとは言ったが。


「あら、こんにちはクソ女(お母さま)。赤なら今日が当番でいませんわ」


「で、なんの用?こっちはクズ女(お母さま)の顔なんて見たくないのだけど」


 反抗期だろうか。いや、最初からこんな感じだったな。


「手厳しいなぁ。まあ子供を産んだ覚えはないんだけどね。ああ、用だったね。ちょっと眼を貸してもらえるかな」


「「「「「「絶対やだ(いいよ/わ)」」」」」」


 眼を貸すくらいなら別に構わない。彼女がそうする必要があると判断したのだろう。彼女が自分から行動するときはいつもそうする必要があるときだった。


「ああ………やっぱり産まれてる。まああの子が気付いてない訳ないか。自分で作ったシステムだもんね。………………………うそ、もう気付かれた。え、桜素透過?そんな……」


 腰掛けた椅子から立ち上がり、大慌てで駆けていく彼女。扉の前でくるりと振り向き……


「また…ね、陽生君。私…その……頑張るから………って、聞こえてないか」


 小声で呟かれたその言葉。ああ、そっちの方が彼女らしい。無理して演じているキャラよりよっぽどいい。

 たった数分の来客は、きっとこれからの嵐の先駆けなのだろう。

 もう茶会は終わりの時間。少女達の語らいは幕を下ろす。


 *


 ──ミトン


 扉が開く。真夜中故に、音の響かないように静かに。私は、静かに扉を閉めると部屋の主へと向き直った。


「ああ、やっと終われるの?そうだとしたらようやく僕はあいつのところに行ける。頼むよ勇者君。もう三千年待ったんだ」


 部屋の中にいたのは黒い髪の少女。三千年という時が狂わせてしまったのか、虚ろな目をして語りかけてくた。


「ええ、望み通り殺してあげ───」


 人の頭程の太さのある氷柱が、真っ直ぐと飛来する。ほぼ確実に胸を貫く軌道。あ、避けられない。


「“火の一(ゼン・アト)”」


 だから、こっちも同じくらいの火の矢で対抗する。これくらいの魔法、詠唱なんていらないんだから。


「随分な挨拶じゃない。さっき死にたいって言ってたのは嘘なの?」


「殺せるなら殺してよ!!!でも勇者を倒せっていうのはイノリに頼まれたんだから手を抜くわけにも行かないの!!」


 再び氷の柱が少女の周りを囲む。その数十二本。あれ全てが飛んできたらさすがの私でも受けられない。


「私だって!」


 私が負けたと知れば、皆引き返すだろう。弱い癖にこんなところまで付いてきて。絶対に死なせない。死んでも死なせない。私は、皆を裏切ってここにいるのだから。

 だからああ、早く殺してよ。私の死体を見て、皆逃げ帰るだろうから。

 でも、何故か手を抜けない。あの氷柱に貫かれようと思う度、脳裏に過ぎるのは皆の笑顔ばっかり。その笑顔が、緩む私の手に力を込めさせる。

 死を目前として、世界がゆっくりと進んでいく。十二の針がゆったりと近づいていく。頭を過ぎるのは皆のこと。頼りになる(泣き虫な)重戦士のウルーリー。多彩な魔法を使う(下手糞な)魔法使いのエイジーナ。なんでも切り裂く(腰の入ってない)剣士のジャコラ。

 ああそうだ。魔法の打ち合いなら大得意だった。だって私は、


「魔法の天才なんだから!!!“火の十(ゼン・ハレ)”!!!!」


 十級の魔法。本来は詠唱破棄で使うようなものじゃないけれど、全力でやるしか出来ない。それに、これだけの威力の火球を受けてまだ立っている。


 *


「───ただある御手にて、故き底より我らを救える」


 凍れる仮面を被り、背からは氷で出来た翼を生やす異形と化した少女にむけて全力で詠唱をする。直感が告げる。この魔法を使えばほぼ確実に死が訪れる。これであの少女を殺せても、殺せなくても。でも、それでいい。彼らがただ死んでゆくよりは、ただの高慢ちきな私一人が死ぬ方がいいだろう。


「───その栄誉ある名を語り継ぎ、未来永劫誉れ高きその名と共にあらん。“火の極彩(ゼン・ヘレゼ)”」


 爆炎が吹き荒れ、世界は赤く染め上がった。

「嫌われちゃった」

「それはそうよ。別に結婚したわけでも婚約してたわけでもない彼氏の名字名乗ってる人がいたら私も引くわ」

「いや、それ三千年前までの僕だけだから。少なくとも今の僕はもう吹っ切れたから」

「ならその口調やめたら?」

「いや、もう癖になっちゃったから……」

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