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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
水の勇者
43/54

其の六

 ──シアト


 二つに分かたれた頭部を載せた首が転がる。かなり長い間忘れていたこともあってやはり腕が落ちているな。師匠のように十二分割とは行かないが八は行けていたのに。


「赤、橙、黄、緑、青、紺、紫───全て貫き(束ねて)一つ(白く)。七棺の名を冠する抱擁、その全ては天を照らす齎しの一条」


 握った刀が白い槍に姿を変える。それとともに曇っていた視界が晴れるような、爽やかな感覚。


「救出おめでとう」


 魔獣の首を切り落としたことでその体が魔石となる。必然、それに掴まれていたマオも落下するが、音一つ立てずに軽やかに着地した。低空とはいえそんな階段を一歩降りるような気軽さの高さではないと思うのだが。


「ありがとうじゃないのか。捕まったのも自分からだろうに」


「はっはっは、良いではないか無事倒せたのだから。狂人の考えなどわからないからな。それより体はどうだ?」


 体……特に異常はないな。別に傷を負ったとかでもないし。


「そいつ多分素面でやってたぞ」


「なに……?」


 やってたって何をだ。特におかしなことはしていなかったと思うが。


「お前アリベルがおかしくなったとき迷いもせず戦っただろう。なんでだ」


「なんでって、特に気付けの手段がなかったからだが。魔法も使えなければ水を取り出せる状況でもなかったし」


「な?」


 同意を求めるようにガレウスの方を見るアレン。何がな?なのだろうか。


「では魔法にかかって戦っていたとかではなく素で仲間と戦ったと?」


「魔法にかかっていたのはアリベルの方だろう。そもそも私に魔法は効果がない。それに仲間として信じているからこそ、この程度では倒れないと信じたからこそ戦ったのだ」


「……そうか。不自然な気配を纏っていたから信用ならないと思っていたが……そうだな、仲間をそこまで信じれる人間なら私も背中を預けられそうだ。これからよろしく頼むよ」


 なんか受け入れてくれたらしい。良かった良かった。最初は素振りには出さねど敵意が滲み出ていたからな。仲間として認められたのなら嬉しい限りだ。


「終わったかしら」


「アリベルか。終わったぞ」


「良かったわ。足引っ張っちゃってごめんなさいね」


「いや、それは───」


 ちらりと魔石を懐にしまい込んでいる最中のマオを見る。


「村長さんのほうが足引っ張ってたから問題ねえ。捕まってなかったらこいつの投槍で余裕だったろう。いやまあ刀でも余裕だったが」


 そうだな。確かに、マオがいなければ威光で刺し貫けただろうが、別の手を使うことで自分の未熟が分かったのだ。これから鍛錬するときは刀に力を入れよう。まあ足を引っ張っていたというのは概ね同意だが。


「何を話しておる、帰るぞ。日が暮れるまでには街に戻りたい」


「無理じゃねえかなぁ」


 私もそれは無理だろうと思う。


 *


 無理だった。もう少し歩けば森は抜けられるだろうが、日も沈みかけ。限界のところまで粘ったがもう野営の準備を始めねば暗闇の中進むことになる。


「……さすがに間に合わないな。ミーンについても門は閉まっているだろうし」


「村長さんがいれば行けるんじゃねえの」


 マオがいれば門を開けさせることも出来るだろうが、この暗闇の中を進むのは危険だ。この戦力であれば大抵の敵はどうにかなるかもしれないが足元も見えない状態で戦うのは嫌だな。


「いや、我が帰ると通用門ではなく正門だな、開けるのは。開閉は時間も労力もかかるし音も大きい。衛兵にも負担をかけるし住民にも迷惑がかかる………さすがに明日だな」


「通用門を使えばいいではないか」


「我オーカ自治区の区長代理ぞ。そんな人間が通用門からこそこそ入るなんて外聞が悪い。少なくとも一部連中は騒ぐ程のことでもないのに猿になるだろう」


 そうだろうか。マオが仕事しないという噂は街中で囁かれてるし他の街の者の耳にも入っているだろう。そこに漬け込める人間はとうに行動を起こしてるだろうし、悪い噂が広まったところでちょっと通用門から入っただけで大騒ぎするような連中が手の届くような存在ではあるまい。


「喋ってないで手を動かして。もう日が沈むまで時間がないわ」


「おう」


「わかっておる」


 木々の間に紐を通し風を凌ぐ為の幕を垂らす。一人寝れるだけの空間をつくったら四隅を打ち止め……暗くてよく見えず何度か指を打った。鎧があるから怪我はないが普通に痛い。

 アリベルとアレンが薪拾いに行ってる間に残りの設営も済ませておこうか。

 そうして作業を続けているとふと、マオとガレウスの会話が耳に入ってくる。本来はミーンに戻ってからする話をここでしてしまうのだろう。


「五人の英雄……?知らないな。勇者の話しか聞いたことがないが」


「あー、まあそうか。途絶えることもあるか。我も三百年は広めてなかったしな」


 そう言って話の内容を語るマオ。


「ほう、そんな話が………何故勇者は英雄足り得ないんだ」


「背負うものがないから。憎悪で戦った者、武勇を示すべく戦った者、ただの好奇心から戦った者、気に食わないからと戦った者、友を信じられず戦った者。誰一人として思いを背負っていない。誰一人とて背を見せ守る者がいない。当然だな。魔王とは守るべきものがある人間は挑まないようになっているのだから」


「つまり誰かを守り、思われる存在が英雄だと」


「そうだ」


 ああ、そういえば言っていたなそんなこと。あれはもう一月半も前の事か。


「では、その英雄はそうだったのか」


「そうとも。あのとき世界全てが敵であったが、少なくとも一人は彼らを思い、彼らはそれを守るべく戦ったのだから」


「では勇者は───」


 英雄になれないのか。思わずそう問いかけようとし、やめた。アレン達が帰ってきたからというのもあるが、問いかけてしまってはいけないと直感が告げていた。

「まだ出てきてないのに背中から刺されたミトンちゃん可哀想」

「誰よ」

「最後の勇者。多分次回あたりに出てくるんじゃない」

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