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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
水の勇者
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其の五

「さて、気は済んだだろうしそろそろ帰ろうか。早くせねば日がくれてしまう」


 陽はおおよそ天の頂上に辿り着きつつあった。確かに、これから帰っては日が沈むか否かといったところでミーンの街着くことになってしまうだろう。もしかしたら間に合わないかもしれない。崩れ落ちた部屋に背を向け深い森の中へ。


「あ?」


「あら?」


「おや」


 三者三様の反応。皆近付いてくる気配に反応したのだろう。おそらく魔獣のものだが、先程までに一切感じられなかった気配がいきなり現れたのだ。当然驚くだろうに、そこは皆手練れの冒険者。即座に武器を構え警戒を始める。


「ん……」


 急に気配が現れたのはそういうことか。ここまでは緑の天蓋に覆われ、木々を渡る猿等は大きな音を立ててくれていたので警戒が薄れていた上からの襲撃。

 深い森の中に空いた空から現れるは巨大な鳥。鷲…鷹……違うな、こんな鳥は見たことない。真っ赤な顔をした色鮮やかな鳥。大柄なガレウスより二回りほど大きいその鳥は、その大きさを除けば一目で魔獣とわかるだけの特徴がなかった。だがこれは確実に魔獣だろう。開かれた嘴の中から除く舌に付いた瞳と目が合い確信する。


「うっ……」


 ちょっとくるな。不気味さとはこうも心を削らせるものか。この間の狼の魔獣も不気味といえば不気味だったが私の役割は兎狩りだったからな。そこまで怖くはなかった。いや、目というものに意味があるのだろうか。


「…っ!」


 背後からの斬撃。不規則ながらしっかりと追撃してくる読みにくい軌道の剣。直接まみえたことはないが、見たことはある。


「アリベル」


「…………」


 返答はない。ただ虚ろな目をして剣を振るう。上から振り下ろされたと思えば右から飛んで来て、そして下からの斬り上げ。二本の腕は剣を手繰るのに使われている為に動きが剣と合致しないし、目は虚空を向いたまま。いやしっかりとこちらを見つめられていても対処出来ないと思うが。厄介だな。動きが読めない上に大抵の鎧は中身ごと切り裂く剣と打ち合いたくはない。幸い、この鎧は抜けないようだが。


「他に正気なやつは!!」


「私は大丈夫だ!」


「俺も問題はない」


「シャーレも!」


 どうやらおかしくなったのはアリベルだけらしい。マオは返事がないがどうせ無事だろう。というかマオが戦闘に参加していたら確実に負けている。


「じゃあそっちは任せた。俺たちはあの鳥を落と……」


 アレンの言葉が止まる。何か絶句するような光景でも見たのだろうか。少し気になるが目の前のアリベルから目を逸らすことも出来ない。


「ああ、ずっとこうしたかったの。切り結んで感情を得て、それからあなたを知る。知識だけでは満足出来ないもの」


 そういえばこういうやつだったな。かなり大変なことになっているが。


「今である必要ないだろう」


 不規則に暴れる剣を弾く。剣の精度は上がり鎧の隙間を確実に狙ってくるようになり、弾く他なくなったが四本の剣相手に戦うというのは辛いな。


「今である必要………いいえ、あるわよ。今でないといけないの」


「それはなぜだ」


「なぜ……かしらね。でも今でないといけないのよ。───偉大なるその名を称え、身を捧ぐ我に恵みの火と土をお与えください」


 魔法の詠唱。こちらに魔法が通じないのはアリベルもわかっているだろうからいつぞやのイルミナ女史のように妨害をしてくるのだろうか。


「──今日を生きる我々に、暗きを生きる我々に、嘆きに落ちた我々に、明日よりの光を、輝ける未来を。“火土の五(ゼン・ゼレ・タナ)”」


 風が吹く。呷られ、揺らされた四剣は一斉に、美しい軌跡を描いて襲ってくる。敵でありながら見事で、戦いの途中だというのに見惚れてしまう程の攻撃。出来ることなら今この瞬間だけでも絵として残しておきたい。

 目の奥にその白い軌跡が焼き付く程美しい一撃を、槍で払い拳で撃ち落とし脚で蹴り上げ鎧で受け止める。防いでしまったのは少し惜しいな。


「良い技だった。次は私ではなくあちらに向けてくれ」


 全ての剣が弾かれ、無防備になったアリベルの頬を叩く。乾いた音を立て、よろめくアリベ───


「っ!!」


 倒れざまに突き出された刺突剣が、胸当ての隙間を正確に貫く。かろうじて身をひねることに成功し傷付くことは避けられたが鎧がズレないようにと胸にまいていたベルトが断ち切られた。


「殴っておくべきだったか」


「いや、やめてね。反撃するつもりで構えてたから攻撃しちゃっただけでもう正気に戻ったわ」


 正気に戻ったか。なら良かった。動きに大きな問題はないとはいえベルトの切れた状態でこれ以上相手するのは辛かったし。体と鎧の動きに僅かとはいえブレが生じては確実に負ける。


「なら良かった。じゃああっちの方に加勢にいこうか」


「ねえ、さっき何か刺さったと思うのだけど」


「ああ、滑り止めみたいなものだ。この鎧貰い物なので少し大きさが合わないんでな。ほら」


 引っかかっていたベルトを引きずり出す。手が入りやすいところで引っかかってくれて助かった。こんなところで脱ぐわけにはいかないし変なところに入ってたら動きを阻害することになる。


「じゃあ私はもう一回おかしくならないように隠れてるわね。他に魔獣や動物が来たら相手しておくから」


 そう言って森の影へと消えてゆく。確かに、何故アリベルだけがおかしくなったのかはは分からないがあの魔獣によるものであるのは明らかだしアリベルは外れていたほうがいいか。

 そう思いながらまだ戦っているだろうアレン達の方を見ると………?


「何がどうしてこうなった」


 そう言うしかない状況だった。

「シアトのファッションセンスは終わってるから鎧の下はベルトでグルグル巻きにされてるよ。お中元のハムみたいな。本人に言ったら鎧の隙間を埋めて動きを阻害しないようにするため効率的な格好とか言うけど」

「あのセンスはどうにかして欲しい」

「意外だね。君はシアトに同調すると思ったけど」

「そんな訳ないでしょ。むしろ貴女の方が同調すると思ってたのだけど。そんな裸みたいな格好してるし」

「きっちり全身覆ってるけど」

「緩くて薄いのよ」

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