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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
水の勇者
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其の二

「さて、まず調味料。まあてめえらが全部覚えられるとも思えねえし、ここにいるのは冒険者。外に持っていくには嵩張るもんが多すぎる。だからてめえらは塩胡椒だけ覚えておけばいい」


 講義が始まった。が、どうも冒険者向けなので省略されてるところがあるらしい。これは午後の方、平民向けも出るべきか。


「で、お前らの出来る料理なんて焼く、煮るくらいか。ああ、やろうと思えば揚げるくらいなら出来るか。まあ揚げるは脂取りすぎるからあまり薦めない」


 揚げる……後でやってみるか。肉を焼いたときに出る油を使えば良いのだろうか。


「特にがさつなお前らのことだから野菜なんて食いもしねえだろう。まあ必要な栄養は肉食ってればだいたい取れるし、冒険者ってことはそれなりに動くから脂が多くなりすぎるはそこまで問題ない。まあ取りすぎないに越したことはないが。しかしここで問題になるのは魔法使いだ。基本的に戦闘では動くことは少ない……魔法使いが動かないように前衛が守ることになるだろう。移動でそれなりに動くだろうが三食毎回肉なんて生活してたら腹が出ることになる」


 何人かの魔法使いが俯き自分の腹を見る。出てきた自覚があるのだろうか。


「冒険者で太ることの危険性はわかるだろう。体力が落ち、移動が遅くなる。怪我で動けなくなったときに運んでもらうのに余計な負担をかけさせる。悪い事しかない。一応寒さに強くなったり極限状態での生存率が上がるという事もなくはないが結局動けないと死ぬ」


 そんな利点があったのか。まあこの鎧大きさがあっていないから腹も胸もきついのでこれ以上肉をつけるのは難しいが。脂肪はともかく筋肉もつけすぎてはいけないから絞るのが厳しい。


「まあ野菜食っても美味くないし長期の保存が効かないし嵩張るから野菜とか持ちたくないという気持ちもわかる。だからここでは食える野草とその調理法を教える。あ、茸は教えねえぞ。俺でもたまに間違えるし、イルミナさんや館長でも極稀に間違えるからな。お前らが茸食う時は飯どころか食わなきゃ死ぬ状況で茸以外に食うものがない時だけだ。店で出される茸は基本厳重に確認した後実食して安全性を確かめてるから安心して食べていい」


 茸か……昔師匠が取って来たのを食べて酷い目にあったな。中ったのは私だけで当の本人は爆笑するだけだったが。師匠いわく間違えて取ってしまう可能性のある茸はどれも腹を下す程度で死にはしないものばかりらしいが……死ぬかと思った。


「じゃあまずキクノープルス。よく道端に生えてる赤い草だ。地面から垂直にまっすぐ生えてるから見分けやすいだろう。ああ、地面に這うように生えてる赤い草はキュノーンだ。食うと目眩がして汗が止まらなくなる。発汗作用も熱出たときとかに役立つから覚えておくように」


 赤い草……何度か見かけたな。見るからに毒持ってそうだったから口にはしなかったが食べられたのか。三千年前には無かった草だし、このあともそういったのが出てくるだろうか。


「このキクノープルスの食べ方だが葉は硬めなので一旦茹でる。二、三分茹でれば食べやすい硬さになるだろう。ついでに灰汁抜きも出来る。そしたらそうだな、鍋に干し肉でも突っ込んでもう十分も煮込めば塩っ気がついて特に味付けも何もいらないな。肉を食い過ぎないように野草で嵩増し出来るしこのやり方が一番簡単だ。また余裕があるなら一口程度の大きさに切って卵と一緒に炒めるといい」


 卵…そんな割れやすくて傷みやすいものを持ち歩くことはないな……いや、周りには不信感の様なものを見られない。では割れずに運ぶ手段が出来たのだろうか。………まあマオが発明したのだろうな。じゃあ魔法使えることが前提だろうし私には使えないか。


「次、ヒラーカ。丸みを帯びた小さな葉の草だ。似たような草にも毒はないから安心して食え。生でも食えるが軽く炙って塩まぶして食うのが美味いと思う」


 あの草まだ生き残っていたのか。というか昔と違って似たような毒草はなくなったのか。三千年生き残ってるの凄いな。私は見つけたら鍋に入れてたけどそういう食べ方もあるのか。


「まだまだ紹介するものはあるぞ。カーレイルの樹になる実は……」


 *


「さて、今日の講義はおしまいだ。実習もやったしとりあえず明日からでも試してみろ。あとそこの白鎧はちょっとこい」


 ああ、うんまあ気付かれるよな。実際に調理したときも何度かすれ違ったし。


「ねえあなた、お呼ばれされるなんてキノッソス先生とどういう関係?」


 隣に座る女性冒険者が話しかけてくる。その顔には嫉妬に似た怪訝な表情が浮かんでいた。確かに、キノッソスは魔人だから見た目若いし顔も良く一日中厨房で動き回っているからかそれなりに鍛えられている。惹かれる理由もわからなくはない。というか最初に言ってた見知った顔ぶれって……いや、いいか。


「マオ……館長に世話になっていてな。恐らくそれで呼ばれたのだろう。あと余計なお世話だろうが多分私はもとよりどんな女性でもイルミナ女史には勝ち目がないから他を探す方が良いぞ」


「それは……わかってるわよ。この街の住人でイルミナ先生に惚れてない人間なんていないの。男も女も関係なくね。だいたい子供時代はあの人に面倒見られてるから皆初めての恋はあの人で、館長さんに勝てないことに気付いて初恋は散って行くのよ……そしてそこで夢に囚われ続ければ私や彼女たちのように叶わぬ恋を追い続けることになるの」


 何か触れてはいけない部分に触れてしまったのか凄い早口で語りだす女性。見た目は悪くないのだから引く手数多だろうに纏う残念さがその手を引かせるのだろう。かつて世話になった山猫団の皆に通じるものがある。とりあえずこれ以上絡まれないように部屋の前、キノッソスの下へ。


「それで、何の用だ」


「講義中にふと思ったんだがお前が野草食べたら魔素中毒起こしそうだからやめとけって話だ」


「これまでの旅で何度か食べたがなんとも無かったぞ」


 こちらに来てからも問題は無かった。


「そうなのか……いや、食堂で出したものは食べれていたから……後で一緒に館長に聞きに行くか。客の食える食えないはしっかり把握しておきたい」


「分かった。時間が合えば。話はそれだけか?」


 明日明後日は無理だろうが一週間後くらいなら問題ないだろう。


「ああそれだけ。じゃな」


 言い残すと慌ただしく消えていくキノッソス。次の商業組合の方に行ったのだろう。………なんか視線が痛い。


「よおシアト、手合わせ頼めないか」


 キノッソスと入れ代わりで入って来たのはガッセルだった。手合わせ……この視線から逃れられるならいいや。


「頼まれた」


 そそくさと部屋を出て、ガッセルの後を付いていく


「それで、なんでまた戦おうなんて」


 やって来たのは冒険者組合の修練場。冒険者証を取るときにガッセルと戦ったところだ。前と違うのはガッセルが持っているのが剣ではなく巨大な片刃の斧というところか。


「いやぁ俺は割と負けず嫌いなんだわ。そんでまあ、この前すーぐ負けちまったもんだからちょっと鍛え直してな。そんでもう一回戦おうってわけさ」


「たった一ヶ月しか経ってないがそこまで強くなれるのか」


 凄いな。そろそろ初老に差し掛かろうというのに目をみはる様な成長速度だ。見習いたい。後で鍛え方を聞いてみるか。


「煽ってんのかよ……いや本心で言ってやがんな。強くなったというか昔の勘を取り戻してただけだ。本当もう少し仕上げたかったがお前さん全然来ないんでな。丁度良い機会だと思って声かけたのさ」


「別にどこでも声をかけてくれて構わないのだが。いつでも相手になる」


「いや俺もこの冒険者組合でそれなりに高めの立場にいるからなぁ。そう易々と出歩けないんだわ」


 まあこれから入ってくる冒険者の試験官をやってるんだ。それだけ組合から信用されてるということだし、重要な立場だということ。確かに、そうそう組合を離れられないだろう。


「そうか。では早く始めた方がいいか?」


「いいや、ここから動けないってだけで別にやることはないからな。ぶっちゃっけ暇だ」


 暇なんだ。


「準備はいいか?」


「ああ」


「それじゃいくぜ」


 斧による大振りの攻撃。前回の剣と比べて隙だらけで、何処を突いても勝ちが取れるだろう。振りも素早いものだが直線的。避けるのは容易く、懐に潜り込み絞め落とすも間から槍を差し込むも容易く行えるだろう。

 だから………一歩引いた。確実に取れるという自信があったのは、まず間違いなく罠だからだろう。剣から斧に持ち換えたからと言ってそんな隙を晒すとも思えないし、実際に一歩踏み込んでたとき、そして元いた位置の首があるところを慣性を無視して折り返してきた斧が通り抜けていた。


「さすがに釣られねえか」


「前回無かった隙が今回あったからといって飛びつくようには鍛えられてはいないので」


「そうかい。あんたいい師匠にあったんだな」


「寝込みに襲って来たり食事に変なもの混ぜたりしないで頭がまともだったら尊敬出来る師匠だよ」


「…………」


 何か言って欲しい。


「いや、うん、技術は確からしいし……」


「基本は教わったが応用はあまり見て貰えなかった。どっちかというと座学の方だな、教わったのは。まあ全く役に立ってないものもあるが」


 食べられるものの見分け方や身近なもので作れる毒物、あるいは症状から読み取れる毒物とその対処法くらいか。あれだけ時間かけてたのに得られたもの少ないな。


「そうか……まあ誰か師がいたというのは幸せなことだぞ」


「それはまあ、否定はしない」


 師匠があそこで拾ってくれなかったら確実に死んでいたし、師匠以外に拾われていたら今ここにはいないだろう。まあ師匠以外に拾われていたらどの道殺されていただろうが。それなりに高い地位だったようだし。


「俺はそんな奴いなかったからな。お前が羨ましい、ぜ!!」


 速い!?いや斧の振りが速いのはさっきのでわかっていたが踏み込みが速い!そしてそこから───


「…っ!!」


 下顎を打つように振り上げられた斧……違うな、本命は腕か。

 振り上げられる斧が掠めるのを無視して右腕を引く。ただでさえ懐に潜られた時点で槍じゃ不利なのに掴まれて殴り合いなど最悪だ。だから多少の怪我は捨て置きとにかく掴まれないように……


「難儀なもんだよなぁ、槍って。刃のついてる部分が穂先しかないからこうして掴めちまう。剣ならこうはいかなかった」


 最初から狙いは槍か!腕を引いたのは悪手だった!!どうする……接近された以上肉弾戦で……そうだな。


「のわっ!!」


 槍から手を話した瞬間よろめくガッセル。その隙を付き一旦距離をとる。落ちた槍を回収したいが流石に許してはくれないだろうな。


「なんちゅう重さの槍振ってんだよ。落としちまったじゃねえか」


「平和の象徴らしいのでな。そう簡単には振るえないぞ」


「平和の象徴が武器って……冗談上手いなお前」


「師匠の受け売りだ」


「じゃあ冗談下手だよ!!」


 再び高速の踏み込み。そこから振るわれるのは致命の斧と破滅の掴み。斧は的確に首筋を狙っており、左手に掴まれればそのまま組み付かれるだろう。回避をしなければ負け、しかし回避をしてもまた同じ択を迫られる。ならば受け止めるしかあるまい。


「は?」


 左手の甲で斧を弾いた。弾かれるとは思っていなかったのかガッセルが間の抜けた声を上げる。私も弾けるとは思ってなかった。この鎧どれだけ硬いんだ。

 生まれた隙をつき、迫っていた左手をすり抜けるために体をひねり、伸ばした右手でガッセルの腰に差さっていた剣を引き抜く。今回は使っていなかったが前回使っていた剣だろう。

 剣を持った右手を引き抜く動きを起点とし、一番火力の高い斧を狙う。少々厳しい体勢ではあるが、体を回して腕を捻りガッセルの腕に沿うように剣を走らせ……


「取ったわ」


 刃先に引っ掛かった斧の刃を巻き込むように奪い取る。大きな音を立てて転がる斧を蹴り飛ばし、一旦下がって距離を取る。ガッセルほどの巨漢が使うのであれば問題はないのだろうが、私が片手で扱うには少し大きすぎる剣を両手で握り直す。

 暴風が吹き荒れる。扉は開いてるとはいえ、室内にある修練場に自然の風とは明らかに違う不自然な風が。


「切り刻んであげる」


 暴風に背中を押され、ほとんど吹き飛ばされるように駆け出す。不思議と風は私を支えるように吹き荒れるし、教わってもいないのに風に乗った戦い方がわかった。


「うお!!」


「さあ死になさい!!!」


 師匠に教わった剣の型──皇家に伝わる剣術の原型らしい──をガッセルにむけて振るう。殺すべく全力で。それでも肌の一部切り裂く程度で中々致命傷を与えられない。


「さあ!さあ!!」


 何より速く、円を描くように風に乗せて振るう剣は、紙一重で避け続けているガッセルを徐々に徐々に追い詰めていき───


「そこまでよ」


 間に割り込んだ二本の棒に止められた。いや、これは───


「あなた達死ぬ気だったのかしら。少なくともあなたは殺すつもりで振るってたわね」


 アリベル!


「なんで止めるの?」


「聞こえなかったかしら。訓練で殺し合う馬鹿がいたからよ」


「ふふ、こうして剣を抜いた以上はどちらかが死ぬまでよ。訓練だとか関係ないわ」


 それに剣を抜いたのだからどちらかが死ぬまでこの衝動は治まるまい。だから斬るのみ。


「何言ってるの?」


「何って……」


 あれ、何を言ってるのだろう私は。ああいや、剣を抜いたからには斬るのは当然であり目の前での全ての人は──違う、違う。人の命は奪うべきではなく、またそんなことをしてしまったら───


「隙あり!!」


 いつの間にか背後に回ったガッセルが組み付き、剣を奪う。いつの間にか風は止んでいた。


「あ、ああ………すまない、助かった。いつも剣を抜くとおかしくなってしまうのに、ここ数年は触れることがなかったから気が緩んでいた」


「ええ、傍から見ていても明らかに異常だったもの。まあそういった異常行動の記録はなかったから新たなことが知れて嬉しいけど。ねえ、その腰の剣を抜いて私と戦わない?多分私なら死なないだろうし」


「いや、こっちの剣は抜けない。試してみるか?」


「いいの?なら喜んで………確かに抜けないわね。抜こうとすると力が抜けてく……どうなってるの?」


「知らん。マオから貰ったものだからマオに聞いてくれ」


「あの人に……じゃあいいわ。もう興味も無くなった」


 そんな会話を続けているとガッセルともう一人、おそらくアリベルと共に入ってきた冒険者が小声で話しているのが聞こえて来た。


「おい、助けて貰っておいてあれだがこの女も大概おかしくないか」


「曲がりなりにもあの館長の客だぞ」


「ああ納得」


 納得じゃないが。今私も頭おかしい認定しただろう。いやあれだけの醜態を晒しておいて弁明のしようもないな。


「あちらは?」


「ああ、彼が私を連れてきてくれたのよ。殺し合ってるから止めて欲しいって」


 他に人はいないと思っていたが見られていたのか。そう思って周りを見渡すとかなりの人数が修練場に集まっていた。どれだけ周りが見えていなかったんだ。

「はーいステイ、ステイだよキョウカちゃん。まだ出番じゃないからね」

「離して!!今なら合法的に本編に出れるから!!」

「まだ早いよ。僕達は後で出番あるから」

「私は最悪削られるかもしれないんだけど!!後書きに出てくる謎の女で終わるつもりはないわ!!!」

「いや君がいなきゃ……いや、なくても本編進むし過去編にも影響ないか」

「…………」

「ごめん僕が悪かった。僕が悪かったから泣かないでよ」

「泣いてない………」

「いや泣いて……うん、話変えようか。ガッセルは男女に結構な人気あるので今シアトは間違ったムーブしてる」

「………でもこいつ節穴じゃない。私もシアトも一番得意なのは剣よ」

「いや、なんか頼れるイケオジなのにちょっと抜けてるギャップがいいんだってさ」

「????????」

「よくわからないよねぇ、まあギャップが良いっていうのは賛成だけどやっぱ若い方がいいよね」

「貴女より圧倒的に若いと思うけど」

「僕は時が止まってるから永遠の十七歳だよ」

「ないわね。うん、ない」

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