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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
剣の勇者
34/54

其の七

39℃の熱とか久し振りに出た

 合流したアイゲム氏とアリベルの二人の格好は対極だった。方や返り血で血まみれ、方や一切の汚れもついていない。


「あの戦い方でよくそんなに綺麗なままで居られるな」


「それはそうよ。私の踊りはいつだって美しくなくっちゃ」


 よくわからないが美しく踊れば血がつかないようだ。本当よくわからないな。


「そっちはそんな血塗れで大丈夫か?」


「問題ない。そも、魔人は毒が効かない」


 そういえば言っていたなそんなこと。毒も病も効かないんだったか。羨ましいな。病……には罹った記憶がないからいいとして毒が効かないと言うのは素晴らしい。あの煩わしい銀食器を使わなくて良くなるのは本当に……おい木匙はどこだ銀なんてもの使ってたら落ち着いて食事も出来んわ……王城に戻ったときの心の声が漏れて来たな。今言ったところでなんの意味もないのに……ええいあのクソ親父が。

 ぽつり、と雨が鎧を打った。


「雨は夕方からじゃなかったか」


「そのはずだ。タメルの予想が外れるとも思えんし……ああいや、ミーンの街とこちらでは距離があるな。それでズレたのか。どうする?このまま帰るか?」


 このまま濡れて帰るか、止むまで待つか。


「雨強くなりそうだし帰った方がいいんじゃね」


「そうだな。このまま待っててもいつ止むかわからないし私も帰った方がいいと思う」


「そうね。濡れたら風邪引きそうだし」


 それは半裸(そんな格好)だからじゃないだろうか。


「では帰るか。シアトとアリベルはシャーレで……ああいや、落雷が怖いか。かと言って今のアイゲムに近付けるのも少し怖いな」


「館長、ミーンに雨が降るのは夕方からだよな?なら雨雲の速度はそこまで速くないはずだ。落雷の気配はないし今出発しても問題無いのでは」


「それもそうか。もし何かあったら自分らで解決してくれ」


 無茶を言うな。落雷を自力でどうにか出来るわけがないだろう。


「アリベル、一応その剣を置いていけ。シアトもその槍を置いていけ。気休め程度にしかならないが身に付ける金属は少ない方がいい。あ、鎧は脱がなくてもいいというか、言っても脱がないだろうお主」


 師匠からは鎧は脱ぐなと言われているし、私自身も脱ぐことには抵抗がある。あと誰かからも脱ぐなと言われた気がするな。誰だっけ。

 悩んでいるうちに雨が本格化してきた。ぽつぽつと落ちるだけだった雨粒は木の葉を叩く音に変わり、木の葉の隙間から抜け鎧を、服を濡らしていく。


「雨が激しくなって来たな。早く行った方がいいぞ」


「そうだな。シャーレ」


『いつでもいいよー!』


 竜の姿を維持したままだったシャーレはいつでも行けるようだ。その巨体故に木陰に収まりきらず雨に濡れたままになっている。


「では行ってこい。……アイゲム!早く脱げ!!」


「村長さん!?何を言って……」


 最後に何か聞こえた気がするが無視して飛んでいく。木々の合間を抜け空高く。いつの間にか雨を抜け曇天の下へ。言われていたような雷の気配はなく、至って順調だ。行きよりも少しだけ風が強いがシャーレはよく飛んでくれている。


「ねえ」


「なんだ」


「あなたってなんでこんなに暖かいの?こんな速度で飛んでるのに風も少ないし」


 知らない。確かに、こんな高い場所にいるのに寒いとは感じないし、真下の木々も激流より速く流れていくが風は吹いて来ない。


「不思議だな。詳しいことは知らんが」


「そう……あなたって綺麗な声してるのね」


「はっ?え、何を言って……」


 特にこの声に好悪はないが綺麗だとは初めて言われた。


「風に巻かれるような不思議な声だけど、よく聞けば元の綺麗な声が聞こえるわ」


「耳がいいんだな。私はこれまで生きてきて自分の素の声なんて聞こえたことがない」


「まあ踊り子ですから」


 踊り子なら耳がいいのだろうか。いや曲に合わせて踊ることも多々あるだろうし踊り子なら耳が良くてもおかしくはないか。少なくとも踊り子なら返り血を浴びないよりは説得力がある。


「ところで、あなた帝都にいた事あるわよね」


「あるな。たった二年だが」


「五年でしょう。白咲近衛隊初代隊長シェア───」


「そいつは死んだ」


 無力だったから。何も守れなかったから。忌まわしかったから。だから死んだ。私が殺した。あれは既に死んだ(かばね)が悍ましく蠢いていた三年だ。捨てたはずなのに、捨てられたはずなのに兄弟姉妹の情などに流されるから。


「どうして死んでしまったのかしら」


「許せなかったが許すしかなかったからだ。それより、そのことはすべての記録から消させたはずだが」


「ふふ、私はね、すべてを知りたいのよ。勇者のすべてをね。だから調べ尽くしたの」


 知りたいってだけでそこまで調べ上げるとは思ったよりやばい奴かもしれない。さらに言うなら当時の白咲は第六王女(ハーヴェルシー)の護衛だった三人が無理矢理名乗らされたものだから、消される前にも大した記録は残されていないというのに辿り着いたというのは恐ろしい。


「あとあなた帝都に来る前はどこで何をしてたの?どれだけ調べても出てこなかったのだけど」


「師匠と一緒に山に籠もってた。それより前は探ると殺されかねないから運が良かったな」


「知ろうとすると殺されるとか怖いわね。何したのよあなた」


「生まれの問題だ。忌み子って奴なんだよ私は。母も……まあ父も私を愛してくれたが。兄弟はどうだったろうか知らないがな」


 ミーンの街が見えて来た。この話はここで終わり。なんか普通に戦うより疲れた。帰って槍を受け取ったらすぐ寝よう。マオ達が帰って来るのは一時間は先だろうが。

「アリベルちゃんは勇者オタクだね。二本の細剣の名前はそれぞれシアトとアレンだったりする」

「大図書館好きそう」

「実際好きだね。帰ったら勇者について漁ろうとか思うくらいには好き。あとの二人については彼女も知らないからね」

「でも大事な情報はないんでしょ」

「そうだね。本当に重要というか知られると不味い情報は禁書庫の中だ」

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