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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
剣の勇者
33/54

其の六

 既に二つの場所で戦闘が行われている。

 一つはここから少し離れたところで行われているアレンとシャーレの組み合わせの戦い。シャーレの背に跨ったアレンが、ここからでも目に見えるくらいの魔素を纏うことで二百程の魔生を集め、それをシャーレが爪や牙で引き裂き、尾で薙ぎ払っている。

 もう一方はアリベルとアイゲム氏の戦い。大半はシャーレ達に引きつけられ、こちらにいるのは三十程だがたった二人で相手どるには多い数。しかしアイゲム氏はその怪腕で剣の一振りで五体は吹き飛ばし、アリベルの方は戦場の只中で()()()()()。その踊りに合わせて四本の剣が舞う。縦横に無尽。その紐を手繰り、その剣を弾き、当の本人は楽しく踊っているだけだというのに周囲の魔生が切り刻まれていく。


「ふむ、あちらは大丈夫そうだな。ではシャーレ達の方に行こうか」


 二対三十というのはものすごい兵力差なはずだが、それでも問題ないと思えるくらいにはあの舞いは鮮やかで、美しく瞼の奥に焼き付いた。


「それでは少し手数を増やそうかの」


 空気中から泥が集まる。何が起こっているのかわからないが、その泥は集まり、型取り、やがて一体の騎士として歩み始める。それが八回。

 八体の騎士は一切臆することなく二百の魔生に突撃していく。その剛腕は先に見たアイゲム氏のものに同じで、並み居る敵を薙ぎ払い、奥へ奥へと進んでいく。


「すごいな」


「であろう?なにせアイゲムのやつを基にして成型しておるからな」


「そんなに凄い人だったのか」


「如何にも。あやつほど騎士らしい騎士はなかなかおらんよ。もっとも、本人に言ったら拒否されるがな」


 恐らく本人は気付いていないと思うが、その顔は我が子を自慢する母のような顔だった。キノッソスが言っていた母親代わりというのは彼女の中で無意識かつ大きな部分を占めているのだろう。……私はそうした母の顔を見れていないな。自慢出来るような子ではなかったが。


「なんだその目は」


「いや、別に」


 少し羨ましいな、と。


「いくぞ」


「ああ」


 アイゲム氏のように同時に五体は無理だが、一度に二、三体くらいなら相手取れる。先程マオに言われたように大した数を相手には出来ないが、二百体も相手にするには人手は少しでもあった方が良いだろう。

 飛びかかる兎を叩き落とし、背後を動く猿を打ち、眼前を飛ぶ鳥を突く。その血を払いつつ足元の鼠の頭を砕き、跳ねる猫を殴りつける。


「きりがないな」


 かと言って広域殲滅技なんて持っていないし、槍を変形させる隙もない。仮に変形させたところで結局有効な広範囲攻撃なんてないし、大技は使えば動けなくなる。うーんもどかしいな。終わったら何か探して見るか。そのためには無事に帰らねば。


 *


 ──アレン


「なあ、竜の嬢ちゃん。火とか吹けねえの?」


『無理』


「そうかい」


 出来れば楽だと思ったんだがな。

 眼下の黒い群れを見る。竜の嬢ちゃんが潰してくれたおかげで足元は真っ赤な血溜まりだが。あの血には毒があるんだっけか。竜の嬢ちゃんは思いっきり触れても平気っぽいが念の為触らないでおこう。


「“火の始(ゼン・マ)”」


 俺は高位魔法の詠唱なんざ知らねえから使えねえが、初級の魔法で人間の頭くらいの大きさの火球が出来るんだ。もっと勉強しとけば良かったか。

 少し遠くを狙って放り投げる。火球は二、三体の魔生を飲み込み燃え尽きる。

 火力が足りねえ。


「ふむ、悪くない大きさだったな。鍛えたらなんとかなりそうだ」


「あ?村長さんか。別にいいや。俺は魔法なくてもやれたし」


 もっと勉強しとけば良かったなんて思ったが別に勉強したいわけでもないんだよな。


「残念だ。簡易詠唱でもその大きさの火球が出せるなら学べばさらにその才能を引き出せる」


「いらねえ。魔法無しでも魔王倒せたし」


「成功体験が手段の変化を許さないか。我のような老害によくある頑固さだ」


 うるせえ。


「それよりなにか袋持ってないか。無茶な飛行をしたことで少し吐き気がする」


 台無しだよ全く。

 袋……なんかあったか…あ、あったな。何も入ってない薬草袋が。


「ほらよ」


「済まないな。本来は吐くなんて機能はないんだが吐き気は頭を分解するか機能を追加して思いっきり吐くかしたらすぐ治るから」


 おい待て今なんつった。魔人だったとしても自分の頭を分解しようとはしないだろ普通!!てか出来るのか!?よく分かんねえな魔人。


「ふぅ、すっきり。シアトなしで飛んだのは久しぶりだから対策を忘れておったわ。さて、仕事しようかシャーレ」


『先生!?』


「そうだ。いいかシャーレ。あっちを向いて大声で叫べ。我がそれを攻撃にする」


『うん!!』


「それじゃ、合図したら行くぞ」


 これ俺いらなくね。時間稼ぎしただけじゃん。


「せーのっ」


『──────ァ』


 聞き取ることのできない程の爆音が、次第に小さくなっていく。それは消えたわけではなく、その音をそのまま破壊力に変換していっているのだ。その証拠に竜の嬢ちゃんの向いている方向の魔生は尽くが見えない力に押し潰されている。


「よしよし、大半は片付いたな。ここいらの掃除は終わりだ。このやり方はついでに魔生の駆除をこなせるがシャーレの無双になって勇者の練度に繋がらないな。次回やるときはシャーレに留守番させるか……?」


「それそのままあいつに言えば納得するんじゃないか」


 近隣の村の住人が魔生に悩まされているから駆除のついでに対集団戦の能力を見るとでも言えば昨日の諍いは起こらなかったろう。


「あーまあ、なんと言うかな。我はあやつにとって悪役のままでいたいのだ。特に理由はないがな」


 よく分かんねえな。この世全ての謎が解けても女の心は理解出来ないたぁよく言ったわ。


「では残党狩りだな」


「俺血を避けながら戦えないぞ」


「ならそこで見ておれ」


 そうしようか。ふと周囲を見れば、棒立ちで立ち尽くし震える鎧が一つ。地面が汚れてるからか足元こそ血に塗れているがその体や兜には一切の汚れ一つもない。


「どうした?俺またなんかしちまったか?」


 白い鎧(シアト)は錆びついた音でもしそうな動きで首を傾ける。


「……普通に怖かった」


 あー、あの攻撃の至近距離にいたからな。相変わらず声はおかしいが心なしか涙声だった。まあ俺だってあんな攻撃の直ぐ側にいたら腰抜かすだろう。

 ……なんであれだけの魔生が潰された攻撃の至近距離にいて血の一つもついてないんだ。


 *


 ──シアト


 誰だって肝が冷えるだろう。あと数歩歩みだしていたら挽き肉よりも酷い結末を向かえていたのだから少しくらい泣いたっておかしくないだろう。


「もう最後だしいいよね……」


 だから多分変な方向に吹っ切れた。残り全員ぶっ殺す。


「我らを見下ろすその息吹」


 《(オウ)■■(カンソク)■■(キテイ)値を■■(ミタ)■■(テイ)マす》


「眠れる時を告げ、密やかに隠るる朧月」


 《■■■(カイセキカイ)シ:フ(メイ)■■■■■(イデンシジョウホウ)()す/(ジョウ)件を■■(ミタ)して■■(イマ)す》


「報いるは目覚めを告げる春麗」


 《第一■■(コウソク)■■(カイジョ)


「雲に陰るも陽はそこにあり」


 《■■(ヨウイキ)(ゲン)(テン)カイ》


 《準備完了》


「穿うがて、“テンテラの威光”」


 白光が翔ける。もう十も残っていない敵のうち三を貫き、帰るうちに四を刺し抜く。それでも一切血をつけることなく、テンテラの槍は手元に戻って来た。残り……はマオが処理してしまったな。これ私いらなかったのでは。

「ちなみにアレン君は十七歳だよ。今決めた」

「なんで今決めてるのよ」

「そういや設定してなかったなと。まあ作者馬鹿だからどこかで設定して忘れてる可能性もあるけど遡るのめんどくさいって」

「それくらいやりなさいよ」

「全くだよねぇ。ま、何であれダイスの女神様はアレン君は反抗期終わりくらいの面倒臭いお年頃だって言いました」

「せめて自分で決めなさいよ」

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