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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
剣の勇者
32/54

其の五

スマホ壊れて設定メモ消えたのでサルベージして他の端末に分散させるのに時間かかったので遅れた


次スマホ壊れても更新できるようにはなりました

 早朝。窓が無いので日は見れないし、小鳥のさえずりは聞こえないがそれでも朝の訪れを感じ目が覚める。おそらく朝の五時頃か。食堂に行って何か貰ってこようか。キノッソス氏がいるかはわからないが、料理人は仕込みのために朝が早いという話を聞いたことがある。勤勉な彼ならきっともう起きているだろう。

 そう考えて立ち上がろうとしたとき、勢いよく扉が開かれる。


「起きろ……って起きておったか。なら良い。一時間後、遅くとも二時間後に出発だ」


「わかった。いつでも行ける」


 昨日は支度はそのままにしてすぐ寝たので文字通り今すぐにでも行ける。


「ああ、それとこれを渡すように頼まれてたの忘れておった」


「これ……剣?」


「始祖様御手製のものだ。これは……」


「抜けないんだが」


 何度鞘から抜こうとしても抜けない。硬くて抜けないというよりは徐々に力が抜けていく感じで鞘から刀身を覗かせることすらできない。


「話は最後まで聞け。その剣は時が来るまで抜けないそうだ」


「時?」


「ああ、何でも()()()()()()()()()()()()じゃないと抜けないとか」


 意味がわからない。奇跡を授かる?誰に?自分で起こすものだろう、奇跡というのは。少なくとも彼…女……はそう言っていた……。


「おい、どうしたボーっとして」


「いや、何でもない。少し考え事をしていただけだ」


 何か大事なことを忘れている。その確信はあるのに確証がない。

 これまでの人生の中で居なければならない人がいたはずなのに、その人がいない歴史を歩んで来たという矛盾。それをおかしいと感じられないほど自然に飲み込まれている。


「そうか。では他の奴らを起こしてくるので先に食堂で待っていろ。ああ、シャーレは起こせよ」


「飯と聞けばすぐ起きるだろう」


 *


 飯と聞かせたらすぐに起きた。起きたときは元気だったが食事が出来上がるのにまだ時間がかかると知り今はうつらうつらとしている。


「んで、移動はどうすんだ。流石に前回みたいに運ぶわけではないよな」


「今回はお主とシアトがシャーレに乗れ。我とアリベルはこいつに運んで貰う。こい」


 しばしの沈黙。マオの号令で誰もすぐには集まらず、二、三分経過した頃だろうか。ドタバタと足音がする。


「すまない館長、遅くなった。何の要件だ」


「我とアリベル……そこの彼女を運んで欲しい」


「いいが……まだ資料整理の途中なんだ」


「シャヘルにやらせておけ。あやつはそういうの得意だ」


「いや、シャヘルは今日は休みのはずで……いや、わかった。どこまで運べばいいんだ」


「糸の魔王城前まで。お主なら二時間とかからないだろう」


 現れたのは熊のように大柄の男性。鍛えあげられた筋肉で制服を弾けんばかりに膨れ上がっている。かつて騎士だったのだろうか。奴ら基本的に筋肉至上主義で暇さえあれば鍛えているような連中だから目の前の男のような体躯の男が大量にいた。しかしこんな体躯であっても人を二人運びながら二時間で魔王城前まで行けるとは思えない。


「その方は?」


「あ、まだ紹介していなかったか。こやつはアイゲム。非常時の伝令役が主な仕事だから足は速いぞ」


 足が速い……馬の魔人か?だとしたら二人運んで移動するくらい出来るか。


「じゃあ荷車出すからすこし待ってていてくれ」


「気にするな。まだ出発ではないからな出発の時間は少しずらす」


 いかに早くてもシャーレに追い付ける馬なんていないからな。時間がずれるのはしょうがないだろう。


「そうだ、さっき見た感じ雲の動きが怪しい。夕方まで雨は降らない予想だが風が強く空も荒れるだろう。陸空どちらも悪路である故あまり食いすぎるなよ」


 そうなのか。昨日はそんな気配なかったが夜のうちに変わってしまったのだろう。


「では一時間後。……我はシャヘルを探してくる」


 *


「うわ、確かに風強いな」


「マオの言ってたとおりか……シャーレ、飛べるか?」


「うん」


 煙が広がる。白翼が広がる。曇りだというのに陽の光を浴びてその白鱗が輝きを放つ。


『いつでも行けるよ!!』


「では出発しようか」


 大翼が羽ばたき、浮かび上がる。風は強く吹き荒び、右へ左へ推し進めようとするがそれらをものともせず空を切り裂き進み続ける。昨日散々言ったがやはり空はいい。いつか自力で飛べるようになれればいいな。


「ところで離してくれないか」


「いや離すと落ちるし。なんか昨日より速いんだよ。荒いし」


 風が強い分荒ぶるのはわかるが速いのか。わからん。

 幾分か進んだ頃、後ろに乗ったアレンが声をあげる。


「あれじゃないか村長さんたち」


 目下小さく見えるのは下半身が馬の胴であり、本来馬の首があるところから人間の胴がはえた恐らくアイゲム氏とそれに引かれる荷台。遠目にも人が二人乗っているのがわかる。


「ああ、そうだ…こふっ」


「どうした?風で冷えたか?暖かいと思うんだがな」


「いや、大丈夫だ。少し咳が出ただけ…こほ、がほっ……それより高度を下げて近付こう。揃っていた方が良いだろう」


「ああ、そうだな……本当に大丈夫か?」


『ご主人……?どうしたの?』


「何でもない。それよりあそこに見えるのがマオ達だ。近付いてくれるか?」


『うん』


 シャーレがゆっくりと高度を落とす。そうしている間にも咳は酷くなっていく。朝は特に体調に異常はなかったはずなんだが。


「ん、おお追い付いたか。こっちだ」


 あちらもこちらに気付いたのか手を降ってくる。


「………かっ、がふっ!」


 咳を抑えるために添えた手にべちゃり、と何か暖かいものが口元を抑えた手にかかる。それは赤く赤く、鉄の匂いを漂わせながらこびり付く。


「………あ、え………血………?」


 なんで。


「けふっ…かはっ……」


 くそっ、咳が止まらない。幸い血は口内からのもので喉はやられていない。いや咳が出ている時点でやられているか。冷静だな思考は。いや混乱してるのか。


「お、おいどうした」


『ご主人!!?』


 呼吸が荒くなる。シャーレの背で蹲り、息を整えようと試みるが、上手くいかない。

 シャーレが下降しているのか地面が近付いて来る。手のひらほどの大きさだったマオ達が大きくなっていくのに伴い、こちらの様子がわかったのか荷台の上が慌てだした。


「どうした!何があった!!?」


「血を吐いてるじゃない!大丈夫?」


 既に大声で話せば聞こえるくらいの距離にまで近付いている。


「いったん降りるぞ。竜の嬢ちゃん行けるか?」


『うん…』


 力なく答え、シャーレは降下を始める。体を労わってくれているのかゆっくりと。


「すまない…」


「謝るのは俺の方だ。俺のせいで……お、おい!!」


 その言葉は最後まで聞こえなかった。激しい戦いのあとのような吸った息を呑み込めぬまま吐き出す感覚。視界が狭まる。気を失うほどではないが思考の纏まりが拙くなる程度には白ばむ。力が抜ける。体が大きく揺れて、手が離れて、地面がもうすぐそこまで迫ってくる。


「おっと、大丈夫……ではないな。すまない。完全に組み分けを間違えた」


「マオか……」


「喋るな。とりあえず地上に戻るぞ。さすがに重い」


 鎧を着た人間を抱えているというのにゆっくりと降下していく。今までのような激しく揺れる飛び方ではなく、なめらかに降り立つ。


「とりあえず口内をみせてみろ……よし、まだ口の中からしか出血してない。症状から肺に入ってるだろうが大事にはなってないな。多少息苦しいだろうが死ぬことはないだろう」


「魔法で治せないの?」


「無理だ。そもこれは魔素中毒による症状だ。周りに魔法の媒体となる魔素がないから魔法が通じないし、回復魔法は周囲の魔素を体内に送り込み、その魔素が疑似的な肉や骨として働くから無意味どころか悪化させる可能性がある。……しばらく安静にしていたら体に馴染むだろう。魔素はそういう風に作られてるからな」


「悪い……俺のせいで」


 いや、アレンのせいではなく私の体質が原因……待て、今何か……


「いや、今のお主が無意識のうちに放す魔素量は普通に生きていれば問題ない量だ。それこそ生まれたての赤子でもな。此奴の生きた時代が魔素がかなり薄かった時代というのと赤子よりも耐性がなかったこと、そしてそんな奴をお主と一緒にした我の責任だ」


 今はそんなことを言っている場合ではない。これは恐らく


「マオ……」


「ええい安静にしておけと……」


「足音がする」


 小さいけれど確かに足音がする。人のものではなくもっと小型の動物のもの。恐らく──


「魔生か!」


「魔生って?」


「小さい魔物みたいなものだ!!アレンはそのままシャーレと一緒に囮として獲物を引き付けておけ!!アリベルはこっちに向かってくる奴を迎撃しろ!!アイゲム!!お前もだ!!剣は持ってきているだろう!!!」


「分かったわ」


「了解」


 シャーレが飛び立ち、たちまちその姿が見えなくなる。アイゲム氏は腰に挿していた剣を抜き、アリベルは六本の剣のうち二本を引き抜いた。それは二本の細剣。いや、剣というには刀身はなく、先の尖った円柱のような形状をしている。その刃のない刀身で首輪から垂れる紐を絡ませ、その先に繋がった残り四本の剣を一気に引き抜く。そのどれもが白く美しい剣で、この曇天の中陽光を浴びているかのような輝きを放っていた。


「見惚れてる場合ではないぞ。お主の治療を進めねば。ほれ、口を開けろ」


 言われたら通りに口を開ける。すると口の中にマオの手が入れられた。


「大人しくしておれ」


 ピンと伸ばされたマオの指先が喉の奥に当たる。

 黒い靄のようなものが喉を通り、体の中を満たすような錯覚。小石を投げ込まれるように喉が塞がれていく。


「こんなものか」


 糸を引きながらゆっくりとマオの手が引き抜かれる。息が詰まって、吸うも吐くもままならない。喉の奥が貼り付き、呼吸をすることを拒んでいる。


「苦しいとは思うが声を絞り出して我の言うことを復唱しろ。いいか──」


 ──偉大なるその名を称え、身を捧ぐ我に恵みの火と土をお与えください。“火土の始(ゼン・ゼレ・マ)


 風が吹く。そよ風よりも小さな風だが、私が初めてこの手で起こした魔法に状況が状況ではあるが感動を覚えていた。


「調子はどうだ」


「えっ、あ、問題ない」


 咳は止まっている。喉の苦しさも消えた。口はまだ鉄臭いが、血は止まってきている。乾くと気持ち悪いだろうな。


「立てるか?」


「ああ」


「なら良かった。では合流しようか。最も、一対一が得意なお主がどこまで戦えるかはわからんがな」


 一言多いわ。

「あーあ、マオちゃん選択間違えたな」

「あ、え?なんで?」

「あー、そうだね。無菌室で育てられた人間に風邪の免疫はあるのかとかそういう感じかな。多分まだ口の中しかやられてないしそのうち治るさ」

「随分呑気じゃない!!」

「まあまだ軽傷だし、ここで死なないことは君がよくわかってるんじゃないか?」

「はぁ?なんで私が?」

「あ、それを知ってるのは未来、あるいは過去の君か。ごめん忘れて。そのうちわかるから」

「……あんたおかしいわよ」

「知ってる」

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