其の三
*
「──そうか、報告ご苦労。各員にいっそうの警戒を促すと共に魔法を打ち消したからくりを探るよう指示しておけ。現状ほぼ黒が確定している商業組合を中心に探るようにもな。こちらでも出来る限りのことはする」
赤毛の女を撃退し、帰ってくるには正午を逃しすでに一時間は経っていた。
額に怒りを浮かべたマオに事の顛末を話すこと十分。レーク氏に対してそう命令し遣わせる。と言っても図書館の中だけだろうが。
「さて諸君、色々忙しくなってしまったが予定が押している。出発だ」
当初の予定通り出発するらしい。魔法殺しの調査の方が重要だと思うが私が言えたことではないだろう。見たところ私の体質とは違うようだったが手伝えることがあれば手伝いたい。
「……そういえば、シャーレに乗れるのは二人まででは…?」
パッと視線が集まる。言葉もなく交差し合う視線。誰も何も言わないが、考えることは同じだろう。
「「「最初はグー!じゃんけん……」」」
師匠から教わったじゃんけん。いつの時代、どの場所でも変わらないようで、目で見合っただけでお互い同じ瞬間に同じ言葉が浮かび上がる。
その結果は──
パー
パー
グー
負けた……。
*
「ちょっと待って無理無理無理無理──みやぁああああああああああああ!!!!!!!!」
『ご主人うるさい』
いやだって竜に握られて飛ぶなんて初めてだしすごく怖いし揺れるし地面見えるし高いし無理無理無理無理無理だってだってこんな───
「ぐぇ」
「おい、気失ってないか。不味くね」
「もうすぐ目的地だ。そこまで行く」
*
「やはり地上が一番いいな」
昨日雨が降ったのか、少しぬかるんだ土と草に寝転ぶ。鎧に土が着くが気にしない。いつも気付いたら元の真っ白い状態に戻っているから。
「そういえばマオ、お前自力で飛べなかったか」
「飛べるな。ただお主と共に飛ぶと空気中の埃や魔素を払うための手間が省けて楽なので使うのならお主も一緒だな」
「あれは二度とごめんだ」
酒樽の中に入って坂でも転がった方がまだ良い揺れだった。やはり人間は空を飛ぶものじゃないな。地上こそ至高。我らは土に作られたのだ。だって土に帰るのだから。
「いつまでそうしているつもりだ」
「気がすむまで。少なくとも酔いが覚めるまでは起き上がれない」
ふらつくし、何より立ち上がろうとすると吐きそうになる。頭に白く靄がかかり、腹がずっしりと重い。赤毛の女のせいで昼食を食べられてないがそれで正解だったな。こればかりは感謝せねば。いや、気分が悪いのに吐くものが無いのは逆に辛いな。やはり許せない。
「さて、時間も押してることだしもう開けてしまうか」
「もう開けるのか」
これまでは一夜明けて朝に扉を開けていた。夜を迎えるのを避けるためと街を案内するためだったはずだ。今開けるとシャーレがいるとしても着くのは夕暮れ、街を案内する余裕も、厄災について話する時間も取れないのではないか。
「早く帰らねばならない理由が出来たのでな」
まあ、あの女のことだろう。放っておくわけにもいくまい。酔いもだいぶ治まった。ゆっくりと立ち上がる。
「ああ、開ける前にこれをそこいらの草むらに撒いておけ」
スッと差し出された小瓶。掌にすっぽり収まるほどに小さな小瓶の半分ほどに赤い液体が入っていた。
「なんだそれ」
「いつぞやの魔生の血。どこぞの小娘が小遣い稼ぎにばら蒔こうとしていたので取り上げた。捨てておこうと思ってな」
「ふーん」
パッと広く振りかける。自身にかからないように慎重に。
「それと新しい勇者の戦闘力を見ておこうと思ってな」
は?
「どうやって?」
「あまり知られていないが兎魔生の血は魔生を引き寄せる効果がある。明日の朝には大量の魔生が蜜に誘われわらわら集まって来るだろう」
「んな虫じゃねえんだから」
つまりいま撒いた血のせいで魔生が集まって来ると。なるほど。魔王なんてものを作っただけはある卑劣さ………
「やはりここで殺すべきか」
スッと槍を突き付ける。
「出来るのか?震えておるぞ?」
「一回やったのなら二回も三回も変わらない」
魔王の方を一度殺している。もう一度貫くだけだ。
「おい落ち着けって。村長さんもなんか考えがあるんだろう」
考えだと?何があっても人を危険に晒す様な奴を放ってはおけない。
「まあ考えというほどでもないがな。夜の間は血が残って魔生共はここいらを動かないから朝に全滅させればよい。もし失敗しても我なら余裕で対処できる」
「夜の間に人が通ったら?」
「こんなところを通るのは後ろめたい悪人だけだ。普通の人間が夜にこんなところを通る理由がない」
「悪人なら死んでよいのか」
「よい。それにお主もいま殺そうとしてるではないか。それともなんだ?自分はよいのか?」
それは……
「俺も何人も不幸にする奴が一人死ぬ方がいいな。それより早くしないと日が暮れるぞ」
「そうだな」
「………」
マオが扉に手をかける。雷鳴が響き渡り、凄まじい光があたりを飲み込む。体が痺れ、視界が白く飛ぶなかマオが扉の中に入って行く音が聞こえる。
「初めまして、アリベル。我はマオ。疑問もあるだろうが今は時間が惜しい。共に来て貰おう」
未だ視界が点滅するなか辛うじて見えたものは六本の剣を携えた踊り子の様な女性。詳しくは見えなかったが以前連れられた酒場で見たものに似ているからたぶんそう。雷鳴のせいで会話は聞こえないが、話の中でこちらの話題が出たのだろう。その女と目があった気がした。
「やっとプロローグの折り返し」
「まだ始まってすらいないとかバカなの」
「作者は馬鹿だよ。見切り発射でやるからこうなる」
「救えないわね」




