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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
白の勇者
3/54

其の二

「呼んだか館長」


 呼び鈴に応え現れたのは腰まであろうかという茶色い髪を大雑把に束ねた背の高い女性。右目の下から頬にかけて大きな傷痕がある。


「カーテか。イルミナのやつは帰ってきているか?」


「おう、館長代理ならさっき」


「では呼んで来てくれ」


「解ったぜ」


 イルミナと呼ばれる人物を呼びに行くためカーテ女史が部屋から出ていったあと、部屋には沈黙が漂う。


「……」


「……」


 何か話しかけるべきか悩んでいたその時、扉を叩く音が響いた。


「ご用ですか館長。用がないのでしたら本日の試験の採点に戻りたいのですが」


 扉を開け、眼鏡をかけた白髪の女性が入ってくる。彼女がイルミナだろうか。先程のカーテ女史と同じ服を着ている。この図書館の制服なのだろうか。


「残念ながら用がある。そちらはシアト。勇者計画の第一号だ。部屋へ案内してくれ」


 そう頼まれたイルミナ女史は不機嫌さを隠そうともせず言い放った。


「………ご自身で案内すれば良いのでは?」


「いや、こやつが戦ったのは我が写し身でな。いまいち信用が得られていないのだ。かといって他の司書に案内させるわけにもいかないだろう」


 その返答を聞いて納得できてしまったのであろう諦めた様な表情を浮かべながら彼女は頷く。


「成る程、確かに。他の方々……特にカーテなどは勇者と聞いただけで飛びかかってしまいますものね」


「頼むぞ。採点の方は我がしておく。教材室か?」


「え?」


 よほど意外なことであったのか、石のように固まってしまったイルミナ女史。幸い、石化はすぐに溶けたようだ。


「普段から仕事をしない貴女が…?子供たちの試験の採点を…?はぁ、明日は雪ですか。この夏の暑いなか涼しくなるのであればそれでも良いのですがね」


「いや、我とて仕事くらいするわ」


「ここ三百年くらいはしてなかったじゃないですか」


「…………」


 痛いところを突かれたのか黙ってしまうマオ。どうやら三百年程仕事をしていなかったらしい。


「いいから早く行け。試験は教材室でいいのだな?」


「ええ、模範解答の方は職員室にあるので取って来てください」


 返事の代わりにひらひらと手を振り、入ってきた扉とは別の扉から出ていくマオ。そこには魔王としての威厳はなかった。


「では、私達も行きましょうか。一度玄関まで戻った方が解りやすいですかね」


「ああ、そうしてくれ。窓から入るつもりはないからな」


「ではこちらです」


 *


「ではまずこちら、玄関かつ大図書館の受付となっております。本をお探しの際や、返却の際は受付を通してください。そして無人の場合でも絶対に本を無断で持っていかないでください。そちらから見えないだけでこちらは見てますからね」


「こちらが伝承や神話などの部屋その一ですね。その二は確か三部屋ほど右に行ったところだったかと」


「こちらが歴史の部屋ですね。先程までお使いになっていた会議室の裏口側になります」


「こちらが問題集の部屋ですね。子供たちの演習問題を作るための資料や、過去の公職試験の問題集が保存してあります」


「こちらからは勇者専用の部屋となります。(わたくし)とマオ様、そして勇者の方々しか入れません」


「そしてこちらが勇者様方のお部屋となります。どこでも一つ、好きな場所を選んでいいですよ」


 そうして通されたのは今入って来た側の壁を除き他の壁にそれぞれ二つ扉がついている部屋。

 選べというのはこの中から自分の部屋としたい場所を選べということか。


「では一番左端のこの部屋にする」


「ええ、解りました。ではそのように。何か不満があればお呼びください」


 部屋を決めるとイルミナ女史は退出して行った。

 部屋の中は小さな本棚と箪笥(たんす)、それから机、椅子、寝台があるだけの質素なものだ。広さはおよそ16ミイン(約10m²)程だろうか。

 ともかくここが拠点になるのだろう。

「キョウカちゃん、キョウカちゃん、このイルミナっての僕達より後に設定決まったらしいのにもう出番あるよ、どう思う?」

「別にいいんじゃない。主要キャラって訳でもないから」

「なら尚更じゃないかな。僕達もメイン張ってる訳じゃないし」

「でも重要な立ち位置にいることは代わりないわ。ならそれでいいじゃない」

「あれ、今回キョウカちゃんがまともだぞ…?」

「いや普段から貴女の方がおかしいから」

「えっ?………………え?」

「こっち見ないで」


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