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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
剣の勇者
28/54

其の一

グラブル8周年おめでとう(遅い)

ガチャピン様はネクタルください

 ──シアト


「死ぬ…我もう死ねる……」


「そんなにか。ここ一週間以上見かけなかったが」


 心なしかげっそりとしたマオが倒れ伏す。不思議なことにそれだけの激務の中で肉体は一切変化していない。魔人であるイルミナ女史でさえ目に見えて細くなっているのに。


「ん、お主らには伝えてなかったか。この前お主ら魔獣に襲われただろう。その時見つかった遺体がこの街の住人でな。その犯人捜しと後処理、それから隠蔽に追われていた」


 それは辛いな。遺体の女性とは面識はなかったが、この街の人の繋がりの強さは一ヶ月も居れば見えてくる。


「……隠蔽?」


「ああ。今の宰相と仲が悪いという話はしたよな?」


 聞いたな。宰相は今の時代では極々珍しい、私が元いた時代では当たり前だった選民主義だったか。


「そういやそんなこと言ってたか」


「これから忙しくなるというのに余計な面倒事を増やしたくない」


「それで隠蔽……いいのか?」


「……一番有力だった容疑者が我でな。まあ一応犯人らしき人物は確保したが尋問の時に服毒して死んだ。犯人を仕立て上げて殺したと言われても仕方ない状況だ」


 だからもみ消したと。まあ確かにマオならそんなことはしないと思うが、口振りから無実を証明する事も難しいのだろう。


「釈然としないが一応解決だ。流れの犯罪者が街に入り込み殺人を犯したところを衛兵が目撃、その際人質を取ったのでやむなく殺害ということで処理してある。あやつもこの程度のよくある事件を追及できるほど暇ではないだろうしな」


 よくあるのだろうか。まあ私がいた時代と違って魔獣に対する策が多く出てきて人同士の争いが増えているのかもしれないし、当時にしたって私が気付かなかっただけかもしれない。


「それで、俺たちを呼んで何を───」


「ああ……二週間経ったのか」


 二週間。次の勇者を目覚めさせるのに必要な期間。もうそんなに経っていたのか。


「うむ、勇者の解放だ。出発は昼過ぎ。一日分の旅の準備しておいてくれ。知らせるのが遅れてすまない」


「おう」


「わかった」


 とはいえ準備といっても一日、二日程度の旅では新たに用意するものはほぼない。それはアレンの方も同じだったようで互いに顔を見合わせる。


「あー、これだから……まあいい。とりあえず今一度荷物を見直せ。それが終わったらもう一度ここ来て待っておれ」


 *


 部屋に置いたままだった荷物は特に異常も破損も見られない。他になにか……そういえば折れた小刀をラロウ氏のところに預けたままだった。


「シャーレ、街に出る。ついてくるか?」


「うん!行く!!」


 元気なことで。行き掛けに何か買ってやろうか。そんなことを考えながら部屋を出ると目の前にマオが立っていた。


「どこに行くのだ?」


「ラロウ氏のところに。預けた小刀を受け取りに行こうと思ってな。何か用か?」


「いや、特に。少しシャーレに確認したい事があったが帰って来てからで構わん。多少遅れても良いが昼頃には帰ってこい」


 そういって踵を返し奥の方へと戻って行く。

 昼まではあと二時間ほどあるし何もなければ遅れることはないだろう。早く戻ってくる分には何も問題ないしもう出発してしまうか。


 *


 大図書館の麓で子ども達が遊んでいた。そういえば学舎なるものがあるというのは聞いたな。いつもこの時間には街の裏の山にいるから実際に見るのは初めてか。

 ふと、シャーレの方を見る。その目は遊ぶ子ども達を見ていた。……そういえばずっと付き合わせて、遊ばせたりしていなかったか。


「行ってこい。確かイルミナ女史が担当しているかなんかだったはずだから話せばわかってくれるだろう」


「え、でも……」


「私のことはいいから、遊んで来たらいい。たまには羽を伸ばすのも重要だろう」


「うん!!」


 小走りで子ども達の輪の中に駆けていくシャーレ。あれくらいの子どもというのはすぐに打ち解けるらしい。一言二言交わすだけで遊び始める。その姿を後ろに街へと繰り出す。


 大図書館のそびえる丘を取り囲む塀の門から続く大通りを進み、もはや見慣れた街へ。昼前だからか人は少ない。肉屋を通り冒険者組合を通り……そういえば魚屋は見ないな。帝都ではかなりの数見かけたが……あそこは海が近いからか…?しかしこのミーンの街も三つの川に囲まれた台地の上に建ってるしな。

 等とどうでもよいことを考えているうちに街の外れ、ラロウ翁の工房まで辿り着いていた。


「出ていけ!!」


「ちっ、このけち爺!」


 怒号と共に赤毛の女が転がり出てくる。何事か工房に向かって叫び続けていたがこちらに気付くや舌打ちをして逃げて行った。


「今のは?」


「ああ……あの娘はお主のあの小刀を狙っておってな。かなりの業物じゃからのぉ、これ。修復に少々時間はかかったが二、三日前に完了した。そしたらあの娘がつきまとうようになってな。何でも“この業物は私が持つにふさわしい”そうだ」


「へぇ、そんなに良い物なのか」


「お主この小刀の持ち主なのにこの良さがわかっていないと?」


「まあ貰い物だし、他に同じような小刀を見たことがないから比較のしようがない。一応短剣とかは見てみたが形状が違い過ぎる」


 今回のように折れた時の予備として探してはいたが結局見つからなかった。そういえば似たようなものすらないのにこれを師匠はどうやって手に入れたのだろう。


「とりあえず入れ。……ああ、待て。その前に一応冒険者証を見せてくれ」


 首に下げた冒険者証を胸元から取り出す。首周りは籠手を着けた指が通るには少しきついがなんとか引っ掛け取り出せた。


「儂が名を刻んだ物だな。中身まるごと入れ替わったりしていなければ本人だろう」


「怖いことを言う」


「冗談……まあ次からは合言葉でも決めておくか。ほれ座れ」


 促されるまま近くにあった椅子に座る。机はないが対面にラロウ翁が座った。


「さてと、この小刀の素晴らしいところをみっちりと聞かせてやろうと思ったが……」


「時間がないので手短に頼む」


「まあ、だろうな。爺の長話など好く奴の方が少ない。では手短に話そうか。この小刀は誰にも作れん」


「は?」


 誰にも作れない?だとしたらこれはなんだ?この三千年の間に技術が落ちたというのも考えにくい……むしろ向上していると考えるべきだろう。では自然に作られたとでも……


「この小刀は少々特殊な鍛え方をされていてな。儂の先祖がキヌス様から授かったという鍛え方でなければ作れない。儂は代々伝わる教えを完璧に理解出来とると思っているが、その粋を尽くしても元の形に治すことが精一杯だ。おそらく儂の先祖の誰もこんな業物を産み出すことは出来ん」


「他にも教えられた人がいるという可能性は?」


「なくはない。なくはないがキヌス様は一から十まで全て教えようとする方だ。他にも教えられた者がいたとしても全く同じところまでしか教えてないだろうよ。そしてキヌス様本人が作ったという可能性はほぼない。なぜなら──」


「「賢者キヌスは一振も武器を持たないから」」


 賢者キヌスは一振も武器を持たない。常に携えるのは世界を見渡す杖。口先一つで村を滅ぼす力を持ちながらその口は世界を平和に導く。ありとあらゆることを知りながら、ただ一言のみしか語らない。武器を持たぬは平和を愛するが故、そして武器などなくとも全て滅ぼせるため。賢者キヌスは一振も武器を持たない。


「本人が作るとは思えない。それにこの小刀は師匠が持っていたものだ。キヌス様は未来を見れるという。あの駄目人間の手に渡ることになる未来が見えたのなら決して手放したりしないだろう」


「そこまで言われるのかお主の師匠……さて、少し長引いてしまったな。とりあえず覚えておくべきはこの小刀を修理できるのは現状儂くらいということだ。だから何かあったら儂のところにこい。ないとは思うが余所に修理に出したら形だけ真似た粗悪品が返って来たなんてことになりかねん」


「貴方はそんなことしないな?」


「酷いのぉ、年寄りを疑うなど。それに、館長の知り合いにそんなことをしたと知れたら後が怖い。死ぬ程度で済めばまだ良い方だ」


 死ぬより恐ろしいことがあるのか。そしてそれを出来ると思われているのかマオ。


「ほれ、受け取れ。代金は後で館長に請求しておこう。どうにも館長が悪い様だし」


 そういって胸元から鞘に収まった小刀を取り出し、渡してくる。あの赤毛の女から守るため肌身離さず持っていたのだろう。


「ところで、この小刀の銘はなんという?」


「銘…」


 そういえば考えたこともなかったな。師匠はなにも言っていなかったが…


「それらしき文字は見つかったが読めなくての」


「文字…?そんなの見たことがないが」


「だろうな。この文字は柄に隠れておった。この小刀、本来はもう少し長かったんだよ。柄は新しいものに取り替えたから今なら見えるはずだ」


 確かに、柄が少し長いなと思ってはいたが、銘を隠していたとは。あの師匠本当に何か後ろめたいことでもあるんじゃないだろうな。

 手渡された小刀を抜き、まじまじと眺める。確かに、刀身は長く、柄は短くなっている。そこには小さく桜流と彫り込まれていた。


「オウ…リュウ……?」


 いや、違う。直感的にわかる。そうではないこと。他に読み方があったはずだ。師匠が言っていた。確かオンだのクンだの……


「……サクラナガレ……桜流(さくらながれ)。多分」


「奇妙な()じゃの…まあ良い。少々長話になってしまった。これだから年寄りはいかんな。すぐ話が長くなる。さぁ、早く行きな。もうすぐ正午だ。昼の若者は動いてこそだぞ」


 言っている意味が良くわからないがまあ働ける者は働けということなのだろう。それよりもうすぐ正午だということの方がまずい。今から急げば間に合うだろうか。

「口先一つで村を滅ぼすより後は嘘じゃない」

「未来を見通すのは本当だよ。正確には微小の現実改変を絡めたラプラスの悪魔的な未来予測だから十秒くらいが限界だけど」

「微小ね……。でもほとんど嘘であることには変わりないじゃない」

「まあね。でも実際の僕と解離させた方が仕事しやすいし何かあったら賢者キヌスのせいにしておけるし、何より上位次元の存在に名前を与えない偶像として都合がいいから」

「よくわからないわね。短刀の方はなんなのよ」

「実家の蔵から掻っ払ってきた脇差しをちょっと弄くったもので………この話はこの辺で」

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