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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
白の勇者
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其の一

 轟音。雷鳴。震えるような音の後、扉が開く。


「さて、おはようだな白の勇者よ。久方ぶりの朝日はどうだ?」


 そういって目の前に現れた人物。それは……


「魔王マオ……貴様何のつもりだ」


「落ち着け、詳しいことは後で話す。ついて来るがいい」


 そういって手で後をついて来るように促す魔王マオ。当然、着いていくわけがない。


「ふむ、まあ当然だな。お主の体感であればつい先程までには殺しあっていたところだ。それも音の魔王マオ……つまり我の写し身とな。それで信用しろという方がおかしいか。……では勇者よ。まずは自己紹介といこうか」


 そう言ってマオは目の前に座り込んだ。


「はじめましてだ。我が名はマオ。姓はない。先程まで貴様が戦っていたのは我が写し身……まあ、勝手に動く人形のようなものだ。なぜそんなことをしたかと言うと、要は実力を試すための試験。詳しい説明は後でする。何か質問は?」


「………最後のあの光。あれはなんだ」


 そう訊くとマオは目を逸らす。


「すまなかった。不意を突く様な真似をして。まあお主が死んでいないことからもわかる通りあれは攻撃ではない。時を止める魔法だ」


「時を止める魔法…?」


「そうだ。詳しい原理を説明するのは面倒なので省くがそういうものだと思ってくれればいい。本題に戻るぞ。今はな、お主の時代から二七六〇年後の未来だ。」


 *


 今が二七六〇年後の未来であると告げられ、混乱治まらぬまま言われる通りにマオについて外へ出ると、そこは瓦礫の山だった。私が入る前の荘厳な出で立ちなどはどこにもない。

 恐らく魔王城が崩れたのだろう。その瓦礫は誰にも片付けられず雨風に晒され削られていったあとが見える。百年や二百年では効かぬほどはっきりと。


「本当に三千年後なのか……」


「そう言っているであろう?それに、あの部屋もいつ崩れるかわかったものではない。中の時は止まっていたとはいえ外側は削れているのだから。少し歩くぞ」


 三時間ほど歩いただろうか。遠目にだが街が見えてきた。帝都に比べても引けを取らないほど大きな街だ。三千年で大きく変わっているのだろうか。では私が憎んだあの帝都は今どうなっているのだろう。


「さあ、ようこそ。この世のありとあらゆる知識の集う場所、大図書館街ミーンへ。少しばかり早いが歓迎しよう」


 *


 さらに一時間ほど歩き街の外門へたどり着く。そこから一時間かけて街の中心部へと到達した。中心部は小高い丘になっており、頂上には四角い部屋を縦に横に何個も付け足していったような不恰好な建物がある。建物を囲む塀からはみ出さんばかりの勢いで広がっているそれは……


「この街の象徴である大図書館だ。古今東西、ありとあらゆる書がつまっている。増築に増築を重ねたから(いささ)か不恰好ではあるが、強度は保証しよう。………イルミナ、居るか?」


 中に入るとマオが人の名前を呼ぶ。しかし返事がない。


「ああ、そういえば今日は学舎の方にいく日であったか。であれば仕方ない。挨拶は後回しにして先に説明を済ませてしまおうか。……こっちだ。ついてこい。」


 無人の室内を移動しながら気になったことを質問する。


「………ここは図書館…なのだろう?司書はいないのか?」


「居るぞ。最も、誰も姿を見せようとはせぬがな。用があるなら各部屋にある呼び鈴を鳴らすといい。誰か駆けつけるであろうよ。ただし、無断で本を外に持ち出すなよ?本を盗もうとする(やから)は積極的に殺しにいく連中だ。イルミナというのは筆頭司書だな」


 司書ってそんな物騒なものだったか…?


「ついたぞ」


 そういって木製の扉を開ける。位置的には一階の中心部だろうか。

 六つある椅子のうち二つにそれぞれ向かい合って座ると、マオが話を始める。


「さて、どこまで説明したか。今が二七六〇年後という話はしたな?」


「ああ」


「ならばいい。では話そうか、魔王について。それから、“厄災”について」


 マオは力を抜き深く腰掛け足を組む。


「五人の英雄の話を知っているな?」


 マオが尋ねて来る。

 五人の英雄という話は誰もが知るほどの有名な話であり、誰もが一度ならず何度も聞いたことがあるであろう話だ。


「ああ」


「では話してみろ。細部が違っていることもあるからな」


 何度も聞かされた話だ。一言一句、母が語ってくれたように語ることができる。


「わかった」


 *


 西に五人の男女がいた。


 彼らは正義感が強く、世界に蔓延る魔獣を討伐することを決意し、旅立った。


 まず彼らはイノリの街道を通り東の帝都を目指すことにした。


 イノリの街道の入り口、彼らの村から少し離れたところで、彼らは大きな脅威に遭遇した。

 彼らのうち一人が犠牲となりその大きな脅威を封じることができた。


 彼らは仲間の犠牲を嘆きながらも旅を続けることにした。


 しばらくして沼地に差し掛かった時、また別の脅威が現れた。

 また一人が犠牲となってその脅威を封じることができた。


 彼らは旅を続けた。


 もうすぐで帝都に辿り着くところでまた新たなる脅威に遭遇した。

 また一人が犠牲となりこれを封じた。


 彼らは帝都を抜け東の果てへと向かった。

 そこで今までで一番大きな脅威と遭遇し、一人が犠牲となってその脅威を封じた。


 最後の一人はどこかへ消えてしまった。


 彼らは世界を四つの脅威から救った英雄であった。


 *


「ふむ、まあ合っておるな。大した差違は無さそうだ」


 一通り話終えるとマオは満足そうに頷いた。


「では話そうか。まずは再び自己紹介といこう。我が名はマオ。五人の英雄、その最後の生き残りだ」


 ……あり得ない。一四、五ほどの少女にしか見えない彼女が二百年前……今から数えてまさに三千年前の伝説の登場人物である訳がない。


「疑っておるな?まあ、信じろという方が無茶か。我も同じ話を他人がしたら疑うところだ。だが事実だ。受け入れてくれ」


 受け入れろと言われても……


「話を続けるぞ。我々はその四つの脅威……“厄災”に勝てなかった。四人の犠牲を払ってなお封印することしかできなかった。そしてその封印はいずれ破れてしまう。おおよそ……三千年ほどでな」


 ……つまり、もうすぐ世界を脅かす厄災とやらが蘇ってしまう訳か。


「そこで我は考えた。どうすれば来るべき厄災を退けられるか。封印するだけなら簡単だ。三千年の時で我も強くなっておるからな。だがそれでは根本的な解決にならない。そこで考えたのが五人の勇者計画だ」


 勇者……魔王の方のマオもこのマオも度々言っていた。

 恐らく勇者というのは魔王を討伐したものに与えられる称号なのだろう。


「勇者とは……勇気あるものに与えられる称号だ。愚かさからの蛮勇ではないぞ。魔王を倒すだけの実力があって、なおかつ世界のためでなく戦った者が勇者だ」


 世界のためでなく…?そんなことは……


「そんなことはない、とでも思っているのか?違うな。お主の根幹にあるものは英雄願望だ。英雄に憧れ過ぎて英雄というものをまるで理解していない。ゆえにお主は勇者なのだ」


 英雄願望……?英雄に憧れ過ぎた…?そんなことはない……そんな……


「英雄とは、誰よりも勇気があらねばならない。

 英雄とは、人々の希望であらねばならない。

 英雄とは、何よりも他人(ひと)を思わねばならない。

 そして何より、英雄の行動原理はただの蛮勇ではない。臆病さ故の深慮であらねばならない。声にならない雄弁さであらねばならない。退くことのできない絶対であらねばならない。

 ()は、誰を思う?誰に想われる?

 ()にそれはあるか?ただの勇気だけでは得ることが出来ないそれを」


 誰を思うか……誰に想われるか………答えることは出来ない。

 誰もいない。誰も残っていない。記憶の中で笑っていた人物は皆消えた。

 英雄となる理由。

 私にそれらはあるのだろうか。


「だから勇者…。勇気しかない者…」


「そうだ。では話を戻そうか。五人の勇者とは、我々五人の英雄を越える者らだ。我々ではなし得なかった“厄災”の討伐を行う……な。写し身とはいえ我らを越えたのだ。であれば“厄災”に届き得るかもしれない」


「……そうでなかったら?」


「また三千年待つさ。幸い、寿命などないのだから」


 彼女は本気だった。本気で再び待つと言っていた。その瞳からは昏い希望と積み重なった諦観が滲み出ている。


「ところでお主、なぜ鎧を脱がない?おおよそ2マイン(約176cm)のお主がそのような鎧を纏っていると圧迫感が凄いのだが」


「……それは出来ない。いつ何時、敵に襲われるかわからないからな。それに貴様の前ではなおさら、な」


「…ふむ、隠したいのは外見か?出自か?………いや、そういうことにしておこうか。

 ではお開きだ。イルミナも帰って来た頃だろうし、部屋には彼女が案内する」


 そういってマオは呼び鈴を鳴らした。

Q.何で魔法が効かないはずのシアトに対して時を止める魔法が効いてるの?


A.解りやすいように魔法と言っただけで実際は魔法ではないから

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