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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
毒の勇者
15/54

其の一

シャーレ戦は一回やったし全カット

  ──シアト


 二日経った。この三日間、午前中はマオと戦い午後はシャーレと戦うを繰り返していた。

 今も午前中の訓練の合間に一度休憩を入れたところだ。


「明日…ではないか?」


「何が……ああ、第二の勇者を目覚めさせるのが、か。明日であるな」


 やはりもう二週間経っていたのか。


「どんな人物なのだ?」


「我も直接会ったことはないが……そうだな、英雄に最も近く、故に英雄足り得ない者だ」


 英雄に最も近いから英雄になれない…?


「どういうことだ?」


「そのままの意味だ。たった一人を愛したから、他に誰も愛せない。一度埋まった席を永遠に空けられない男……らしい」


「らしい…?」


「ああ、詳しい者から聞いただけだからな。我も人となりはわからん」


 詳しい人物……もう居ないのだろうか。第二の勇者が何年前の人物か知らないが、やはり長いこと眠っているのだろう。

 私は心配させる人なんていなかったが、その詳しい人物とやらは帰って来ない者に何を思ったのか。


「ずっと待ってるのは辛かったのだろうか……」


「………言っとくけどご主人、シャーレも待ってたからね」


 ………待たせていたな。


「でも辛くなかったー」


「なぜだ?」


「ご主人ならきっと帰って来てくれると思ってたからー。ちゃんと帰ってきたし。ねー、ご主人?」


 正直、誇り高き竜としてどこかで生きていくだろうと思っていた。最初は私を乗せるのも嫌がっていたし。


「……そうだな」


 本当のことを言わない方がいい場合もある。それに戻るつもりであったのは事実だ。


 蚊帳の外に置かれたのが気に食わなかったのかマオが手を叩き注意を引く。


「話を戻すか。明日は第二の勇者を呼び起こす日だ。正直忘れていたが。昨日は覚えていたのだがな、うん」


 いよいよ明日か。一体どのような人物なのだろうか。マオに聞いてもいまいち要領を得なかった。


 ……そういえば二週間というのは目覚めさせるための魔力を貯める期間であったはずだ。しかし、この三日間で魔力を消費しているのではないだろうか。


「魔力は足りているのか?ここのところ対魔法使いの鍛練に付き合わせてしまっているが」


「ああ、それなら問題ない。先にも言ったがあれは魔素を消費しないからな。魔力自体は不足の事態に備えて余剰に貯めてある」


 そうか、ならよかった。私のせいで目覚めるのが遅れたとなれば申し訳が立たない。


「ということで戻るぞ。今日は食堂で食べて午後に出発する予定であったのを忘れていた。そろそろ戻らないとまずい」


 手荷物…といっても大したものはないが、素早く纏め帰り支度をするマオ。我々は特に何も持ってきていないのですぐに帰路につく。


「急ぐため少しズルをするぞ!少し失礼。ほれ、シャーレも早くせんか」


「あ!ずるーい!!」


 そういって私の鎧にしがみつくマオ。あとを追いシャーレが飛び付いてくる。


「な、何をして…」


「喋るな、舌を噛む。ほれ上を向けい」


 上?ズルというものに何か関係があるのだろうか。訳がわからないがとりあえず言われた通りに上を向く。

 これに一体何の意味が……


「もっと背を反らして…そうだ。ではいくぞ」


 その言葉に従い背を反らす。とたん、破裂音が鳴り響き空が近付いてくる。恐らく背中側から風で押しているのだろう。それこそ矢のように弓なりに街の方へと飛んでいく。

 その後も右から左から大小高低を問わない様々な音が鳴り響き、体が小刻みに揺れる。この軌道だと街の門の前に着地するのだろうか。

 一分程で空中の演奏会は終わりが見えてきた。


「着地する。少々響くが我慢してくれ」


 なんでもいいから早くしてくれ。このままだと地面にぶつか………る前に腹の底に響くような重低音が鳴り響く。それにより大きな土煙が巻き上がると共に体がふわり、と浮き上がり体勢を整える余裕ができた。そのまま着地する。大した衝撃もなく、無事に街の前まで飛ぶことができた。が、


「うっ」


「きもちわるいー!!!」


 吐き気がしてくる。体が常に揺さぶられ、最後に至近距離であの大きな音だ。体調もおかしくなろう。シャーレも同じようで、口元を抑え蹲っている。まあ彼女なら意地でももどしたりするまい。


「………なあ、これ…シャーレに乗って飛ぶのでは……駄目だったのだろうか…」


 その質問は予想外だったのか目を丸くするマオ。どうやら焦りでその方法を思い付かなかったらしい。


「い、いや、街の人々を混乱させるまいと思ってな……」


 なるほど、効果的だ。街の人を言い訳に使われてはこちらも強くは出れない。

 ………しかしそれは初めての場合のみ。三日前からすでにシャーレのことは認知されている。


「貴様が街の皆に説明し納得してもらっただろう。それにこの三日間山を飛んでいても街は常に平穏だった。逞しいというかなんというか………」


「うぐっ」


「なんならシャーレは皆の人気者だ。この前街を出歩いた時は様々な店で食べ物を貰っていたからな」


「い、いやでも…」


 なおも見苦しく言い訳を続けようとするマオを見かねたのか、それとも門の前で口論する我々を見かねたのか門番の男性が声をかけてくる。


「あのー館長さん?急いでるんじゃないんですか?それとシャーレちゃんは皆に認められるいい子ですよ?」


「そ、そうだ急がねば遅れてしまう。言い争ってる場合じゃない!急ぐぞ!」


 守衛の援護もあって、旗色が悪くなったのを察したのか露骨に話題を逸らすマオ。急いでいるのは事実なので仕方ない、先を急ごう。


 急かされるままに慌てて大図書館に戻ると時計は十一時半を指していた。


「おう、お帰り。今日は素麺(そうめん)なんでしばらく待ってろ。今湯がくから」


 地下にあるこの食堂は夏でも涼しいが先程までの鍛練で火照った体はすぐには冷めそうにない。素麺で内側から涼しくなるというのも乙だろう。


「ふむ、ではその間にこの後のことを話しておこうか」


 この後のこと……勇者を目覚めさせに行くのか。


「まず魔王城前まで行く。この街は五つの魔王城の中心にあるから前回と同じくらいの時間で済む。到着したら部屋の前で一晩を明かし、夜明けを待って部屋を開ける」


「なぜ一晩待つ?」


「よく知らぬ相手と共に夜道を歩きたいのか?」


 確かに、よく知りもしない相手と出歩くのは避けたい。夜は魔獣の動きが活発になる。そんな中ろくな連携も取れない状況ではまずい。最悪、その場で仲間割れが起こる可能性すらある。


「確かに恐ろしいな」


「お主が思ってるような恐ろしさとは違うだろうが……まあ、話によれば誠実そうな人物だ。心配するだけ無駄だろうよ」


 そうだな。

 話が一段落したところで出来上がったのか料理が運ばれてくる。


「待たせたな。それと館長、今は俺しかいないからいいがあんまりこういう所でそんな話しない方いいぞ」


「……そうだな、迂闊だった。次からは気を付ける」


 運ばれて来たのは…


「素麺…?」


 確かに素麺には違いないだろう。だが皿には色とりどりの麺が盛り付けられていた。


「ほう…紫の甘藍(キャベツ)でも売っていたのか?」


「ああ。行商人のおっちゃんに分けて貰ったんだが調理方法が解らなかったんでイルミナさんに教わって、な」


「ふふ、あやつはそんなことまで教えているのか」


 紫の甘藍…?そんなものがあるのか。

 しかしこの色…食べても大丈夫なのだろうか。


「きれー!!」


 シャーレはこの色とりどりの麺に目を輝かせている。食い意地に勝るものが残っていたのか。


「食べてもいいのー?」


「いいぞ。味の方も特に変わったりはしてないから安心しろ」


 その言葉を聞きすぐに手が伸びるシャーレ。やはり食欲第一のようで安心した。

 では私もいただこう。腹も減っていたことだし。


 共に出されたつゆに付け、啜る。うん、おかしな味はしない。普通の素麺だ。


「お口に合いましたかね。食堂で出すのは初めてなんですが」


「悪くない」


「そりゃよかった。ところで館長、慌てていたようですが時間大丈夫ですか?」


 その言葉にはっ、としたのか勢いよく振り返り時計を見るマオ。針は十二時半を指していた。


「…まだ大丈夫だ。あと一時間程経ってから出発するからそれまでに出発の準備を済ませておけ。食糧や水の手配はすんでいるからそこの心配はいらない」


 準備…と言ってもシャーレを迎えに行った時のものがまだ残っているから特別するようなことはない。ほとんど済んでいるようなものだ。ゆっくりするとしよう。

 素麺と共に並べられた天麩羅(てんぷら)に箸を伸ばした。

「マオってシアトのこと知ってたし勇者のことを全て知ってるんじゃないの?」

「いや誰が勇者になるかわかんないんだから一から十まで知るってのは無理だよ。誰かが勇者になったあと取材の名目で詳しい人から聞き込むしかない。大図書館の話は世界中に広がってるから取材に出ても疑われないしね」

「ふーん?シアトを知る人なんて私達以外に誰も……」

「シアトのことは僕が全部話した」

「なにしてくれてんの!?」

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