愛しき者には
──アレン
扉を蹴破る。大きな音をたてて開いた鉄扉は、俺が通り抜けるとこれまた大きな音をたてて閉まった。
部屋の中では、一人の女性が本を読んでいる。
「乱暴ですね。もう少し静かに入ってくることはできないのでしょうか?」
「はっ、無理だね。静かに入って欲しいんならもっと重厚な扉を付けとくこったな」
そしたら開けるのが大変そうだがな!
「………貴方を倒したらそうすることにしますか。お名前は?」
「アレンだ。覚えなくていいぞ」
「アレンですか。いい名前ですね。………フフッ、左に置くべきでしょうか。いえ、会長はあれでいて鬼畜なところがありますし右でも……フフフ」
左?何が?
「何の話だ」
「ああ、いえ、何でもありません。取り乱しました。はしたなかったですね、反省します」
「そうかい」
腰の短剣を二本とも抜き、前に構える。目の前の女も仕方ない、とばかりに本を閉じ胸元から小瓶を取り出し蓋を開けた。
「ああ、お気になさらず。願掛けみたいなものです。さあ、来なさい」
なら遠慮なく行かせて貰おうか!!!
………………
…………
……
「けふっ……何ですか…これ…。私の力で浄化出来ないなんて…」
「呪いみたいなもんだ。俺でもどうしようもねえ。悪いな」
実際体から溢れ出すこの毒をどうすることも出来ない。魔法で体内に留めることはできるがそれも一週間程で溢れてくる。
「おっと、あんたの名前を聞いてなかったな。墓くらいは作っといてやるよ」
「……そうですね。名乗って…ませんでした…。“清浄の魔王”…コトリ…です」
「へえ、案外可愛い名前してんのな。それじゃ、これ以上苦しまないようにしてやるよ」
逆手に持った短剣をそのまま胸に突き立てる。
骨の隙間をするりと抜けた短剣は心臓に突き刺さった。
「最後に…お願いです……終わったら……この部屋を燃や……し……」
最後まで言い切ることはなかった。
その前に彼女の体から白い光が溢れ出したからだ。
ああ、あの扉が開かない理由ってこういうことかよ。
*
──???
「ご存知かしら?第二の勇者のお話を」
「存じておりますわ。第二の勇者様のお噂を」
青い少女と黒い少女は机を挟み、今街で噂になっている勇者の話をお茶請けに紅茶を啜る。
「何でも、愛したお方がおるのだとか」
「愛しい、愛しいお方のために魔王すら倒してしまったとか」
「素敵、素敵よね!」
「ええ、ええ!とても素敵なことですわ!」
愛しき彼女。愛した彼。一体どういった人物だったのか。彼女達の想像が膨らむ。
しかし、その話に続きはない。なぜなら───
「魔王城は崩れ、大広間の扉は閉ざされたまま」
「魔王討伐のその証。それこそが彼女を永遠に苦しめる」
「シアト様の扉も、二百年間開いてないのでしょう?」
「ええ。これまでも、そしておそらくこれからも」
偉業の証。開かない扉。主を失った城が崩れる中で唯一無傷のその部屋は、勇者を飲み込み口を閉ざしたままでいる。
「そしてもう一つ、新たな噂。ご存知かしら?」
「あらまあ、なんですの?一つお聞かせ願えます?」
「ええ、いいでしょう。新たな噂、鬼の噂。扉の前で涙を流しながら祈る女性の鬼の噂です」
「その鬼というのはもしかして?」
「ええ。第二の勇者様の愛しのお方だとか」
「魔人と人の許されざる愛!!」
「燃えますわね!」
「ええ、憧れますわ!」
そしてはた、と思い出したかのように話が変わる。少女達は、恋に焦がれると同時に娯楽にも飢えているのだ。
「祈りと言えば…皇城の図書館に出るという三百年前に病死してしまった皇女の幽霊……誰も祓えなかったそうですわ」
「なんと…それほどまでに強い思いがあるのですね。三百年も続くなんてなんと悲しいことでしょう」
少女達の茶会は続いていく。時を越えても、世代を経ても。
甘いお菓子と、好奇心に伸びる手は止まらないのだから。
「コトリちゃんは腐ってるよ。曰く汚れに触れすぎたとか」
「腐ってる?どういう……」
「キョウカちゃん、知らない方が良いこともあるんだよ」
「???」
「というか見てよこの設定メモにかかれた内容を!できる秘書風の擬態ってなにさ」
「本当に書いてあるから困るわね。これ書いた時の作者は何を考えていたの?」




