食堂の日々
※作者はあまり料理をしません
「センリ、いるんだろ?飯だ。開けてくれ」
扉を叩き、大声で呼ぶ。こうでもしないと声が届かない。
しかし、しばらくたっても返事は返って来なかった。どうやら奥の方にいるらしい。
仕方ない。扉の前に昼食を置き、その場をあとにする。きっと禁書庫の住民が飯を思い出してセンリに教えるだろう。
できれば温かいうちに食べてくれるといいが。
禁書庫から伸びる階段を上がり、一階を通って入り口付近の階段をまた下って、地下にある食堂へと戻った。食堂には誰もおらず、静寂が漂っている。
今は一時半。今から軽く仕込みをして連中が降りて来る頃に作り始めればいいか。
「シャヘルはいつものようにハンバーグだろう。茸たっぷり混ぜといてやるか。どうせ気付かねえだろうし。アイゲムはまた鶏ハムと野菜しか食わねえんだろうな。後で野菜のケーキでも焼いてやるか。んで、ハゼンは何でもいいとか言い出すんだろ。昨日は何出したっけな。多分うどんだったか。今日はオムライスでいいだろう。クイネルは多分食わねえだろうから蒟蒻でも与えておくか。イルミナさんは…まあ自分で作るだろうな」
ぶつぶつと独り言を呟きながら支度を進める。
まずはオムライス。といっても特にすることはないな。玉葱を刻み、一口大に切った鶏肉と一緒に炒めて火を通しておく。火が通りきる一歩手前で火を止めたら終了。
ここから先はハゼンがきてからでいいだろう。
次はハンバーグだ。占地と玉葱を刻み軽く炒める。炒めたものと挽き肉、卵、牛乳を混ぜ、塩胡椒を振る。
手でよくかき混ぜたら形を整え、何度か叩く。タネを三つにわけたら冷蔵庫で寝かしておこうか。
最後はサラダ。といっても作り置きしておいた鶏肉のハムを切って野菜と一緒に盛り付けるだけなので今しておく作業はない。
終わってしまった。コーレンもカーテもいないとやることがないな。俺の昼食なんて余り物でいいし。
暇だしこのあと食堂の一般開放のときに出す品物一品くらい増やすか……?
十分程経った頃、クイネルが降りてきた。
「ほれ、今日は蒟蒻」
「いつもすまない。本来は食事などしなくていいのだが何か腹に入れなくては落ち着かなくて」
そういって蒟蒻を頬張る。明日は油揚げでも用意してみるか。豆腐屋のおっちゃん用意してくれてるかな。
クイネルが立ち去って十分経った頃再び足音がした。今度は小柄だがうるさい足音と大柄で静かな足音だ。
「ハンバーグ!」
「俺は何でもいい」
「あいよ。今準備するから待ってろ。ハゼンはオムライスでいいな?」
「構わない」
じゃあ焼いてしまうか。
ハンバーグのタネを焼き、両面に焦げ目が付いたら水を入れて蒸し焼きにする。その間にチキンライスを作ってしまうか。
鶏肉と玉葱に火を通す。そしたらケチャップを絡めて水気を飛ばし、水気が飛んだらご飯を入れる。十分にケチャップが絡まったらチキンライスの方は完成だ。次はオムレツの方を作るか。
フライパンに油を引き、温まったら卵を敷く。少ししたら一旦火を止め、余熱で温めながら、固まりきる前にチキンライスの方に巻き付ける。
お皿にひっくり返したら完成だ。
ハンバーグもそろそろいいだろう。
「ほれ、完成だ。シャヘルはもうちょっと待ってくれ」
「はーい!」
ハンバーグを焼いたフライパンでソースを作る。
皿に盛り付けたハンバーグにソースをかけて一緒にサラダを盛り付けて完成だ。ライスも付けとく。
「ほいよ。シャヘル、とりにこい」
「やったあ!」
おっと、いつの間にかアイゲムも降りて来ていた。
手早くレタスをちぎり、深皿に盛り付ける。胡瓜人参、唐柿、甘藍、茹でたもやしをのせて鶏ハムを付ければいつものだ。
「ほれ、またサラダだろ」
「ああ、ありがとう」
さて、続きを……始めようとした時ハゼンが立ち上がった。
「ご馳走さま」
「はいよ、お粗末さま」
昼飯の前に洗いものか。シャヘルの皿にはもうハンバーグが一つしか残ってないし、ハゼンもそろそろ食べ終わりそうだ。
いつも思うが速すぎねえか。これは全員食べ終わるのを待ってた方がいいか。
「ごちそーさま!!!」
「ご馳走さま」
「おう、お粗末さまだ」
「それじゃ!!」
皿を返し、逃げるように駆けて行くシャヘル。
こいつが急いでる時は決まって……
「おい待て!お前またこぼしただろ拭いてけ!」
「ちぇー」
いやそれくらいはやってくれ。
そうこうしているうちにアイゲムも食べ終わったようだ。
「ご馳走様」
「なあ、いつも思うんだが足りるか?」
その巨体にサラダだけで足りるのだろうか。
「ああ、十分だ」
「そうか」
それだけ言って食堂から出て階段を登って行く。
まあいい加減腹も減ったし。その前に皿洗いか。……あいつ結局拭いてかなかったな。机も拭いておこう。
………………
…………
……
もう三時か。少し遅めの昼にしよう。
冷めてしまった料理を温め直しているとイルミナさんが降りて来る。
「いい匂いがしますね。夕食の仕込みですか?」
「いや、俺の昼飯。イルミナさんは何か作る?」
「いえ、さすがに疲れました。良ければ私もご相伴に預からせてはいただけませんか?」
確かに、心なしかやつれて見える。それだけ仕事が残っていたのだろう。
「いいよ。多めにとっといたから」
温まったところで二皿分よそう。イルミナさんに片方差しだし、自分は対面に座った。
「いただきます」
「ええ、召し上がれ」
イルミナさんは俺の師匠とも言うべき人だ。そんな彼女が久し振りに俺の料理を食べるのだから緊張してしまう。
暫し、沈黙が漂う。時計の振り子の音だけが静かな食堂に程よく響き渡る。
「美味しいですね」
「本当か」
「ええ、腕をあげましたね。もう私が教えるようなことはないでしょう」
「当たり前だろ。最後にあんたに教わってから五十年経ってんだ」
しかし嬉しいような寂しいような…まだまだ聞きたいことがあったのに。
「ふふ、そんな顔しなくてもいいですよ。何か聞きたいことがあればいつでもお教えしますから」
そうか、良かった。そういえば免許皆伝の時に教えてくれるって言ってた料理があったな。ここに来て初めて食べた料理だった。名前はなんだったかな。
「あれ教えてくれよ。あんたに認められたら教えてくれるって約束だろ」
「あれ…?ああ、南瓜のそぼろ煮ですか。確かにそういう約束でした。今週は忙しいので来週末にでも」
そうか。今から来週末が楽しみになってきた。
「ご馳走さまです。お皿、洗っときますね」
「ああ、ありがとう。この後買い出し行くんだが今日の夕食は何がいい?」
「そうですね……鍋…とかがいいですね」
夏だというのに鍋か。地下は涼しいからまあいいか。夜は冷えるし。
「じゃあ買っとくので何か入れたいものとか…」
「お任せします」
参ったな。まあ市場で美味しそうなものがあったら買っとくか。
今日の夕飯は鍋。明日は何にしようか。
「いや~、浮上の時にいっぱいレシピ本残ってくれて良かったよ。お陰で色んな料理を伝えられた」
「でも貴女料理しないでしょ」
「うん。出来るけどやりたくない。何でこの世界はカップ麺がないんだ」
「カップ麺?」
「いや何でもない」




