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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
白の勇者
11/54

其の九

 先行するイルミナ女史に連れられてきたところ。そこは……


「なんというか……凄いな」


 そこは、山の中腹にぽっかりと空いた広場だった。それも自然に出来たものではなく人工的に作られたもののようで、周囲は鬱蒼と木が茂り夜のような暗さなのに広場だけは明るく日が差している。

 真円状の広場には切り株のひとつもなく、地も踏みならされている。


「来たか。待っておったぞ」


 広場の中央に退屈そうに座り込んでいたマオがこちらを見つけるやいなや声をかけてくる。


「お連れしました。では私はこれで」


「待て」


 役目を終えたとばかりに帰ろうとするイルミナ女史を引き留めるマオ。


「何ですか」


「シアトの実力を測ると言っただろう。一戦目の相手はお主だ」


「…………まだ業務が残っているのですが」


「後でもよかろう」


「貴女が急にカーテとタメル、コーレンを行かせるから大量の書類が残っているのですが」


「…………」


「では、失礼します」


 再び去ろうとするイルミナ女史をまたもマオが引き留める。そんなに戦わせたいのだろうか。


「ま、待て、戻ったら手伝ってやるから」


「本当ですね?」


「ああ」


「言質取りましたからね?今週は寝かせませんよ」


「今夜ではなく……?まだ週始めだぞ?」


「今週です。本当は一ヶ月くらいかかるところですが館長程の能力があればそのくらいで終わるでしょう」


 そんなにたまっていたのか。手伝えるならば手伝いたいが部外者の私では何も出来ないだろう。

 シャーレは飽きたのかそこら辺の雑草を抜いて遊んでいた。


「では、決まりだな。我の今週分の睡眠と引き換えにイルミナが稽古を着けてくれることとなった」


 どんよりとした顔で呟くマオ。自業自得な部分もあるようなので何とも言えない。


「いえ、他の勇者の方々の分を考えると五週ですね」


 その言葉を聞き、マオの目が死んだ。


「冗談ですよ。二人目の方はともかく三人目の方が来るまでには一段落しているでしょう」


「………お主の冗談は分かりにくいのだ」


「そうでしたか。でもまあ、これくらいの意趣返しがあってもいいでしょう」


 そういって広場の反対側に立つイルミナ女史。マオは中心から端まで避け、右腕を前につき出す。


「時間が勿体ないです。早く始めましょう。館長、眼の使用は」


「却下だ。厄災には基本精神汚染をするものはいないからな。それに眼はお前の負担も大きいだろう」


 眼………なるほどイルミナ女史は魔眼の持ち主か。どういったものかはわからないがマオの台詞(せりふ)からして精神に働きかけるものなのだろう。


「どうした、早く位置につけ」


「ああ」


 一度シャーレをマオに預け、イルミナ女史のちょうど反対側につく。


「それでは、両者尋常に………始め!」


 掛け声と共にマオの腕が振り上げられた。

 それを合図に眼鏡を外し、胸元にかけるイルミナ女史。袖を捲り裾を捲り腰帯をきつく締め始めた。


「何をして……」


「いえ、こうでもしないと服が余ってしまうので」


 そう言うと彼女の体が光始める。光が弱まるにつれて彼女の背が縮み、代わりに頭頂部に二つの大きな獣の耳と腰に獣の尾が現れた。

 その耳と尾は白い狐のそれに酷似している。


「魔人……だったのか」


「ええ。驚かせましたか?」


「いや、マオが重宝しているのだから何かあるとは思っていたが……」


 その言葉に審判としてこちらを見守っていたマオが口を挟んだ。


「我は魔人か大陸人かなんぞで選んだりはせん。人型であれば腕も足も目も耳も二つ、鼻と体と頭は一つ付いておるだろう。我が買うのはその能力の高低だけだ。もちろん、どれかが欠けているのなら相応の職を斡旋しよう」


「……とか言っていますがうちの司書は全員世界中から集められた迫害されていた魔人です」


 さも当然という様な態度で格好をつけるマオに対してイルミナ女史が横槍を入れる。

 人の能力部分だけを見て他を切り捨てる冷徹な人物かと思えば案外優しい奴なのか。


「い、いやそれはた、たまたま……たまたま我が望んでいた能力を持つものが魔人ばかりだったというだけでだな……」


 少し赤らんだ顔で反論するが目がそれている。なんなら首がそっぽ向いているため説得力がない。シャーレにすら暖かい目を向けられる始末だ。

 気まずくなったのか一つ咳払いをし、模擬戦闘の続行を促す。


「ンンッ、早く続きをせぬか」


 とはいえこのやり取りの間も互いに臨戦態勢を解いていない。

 こちらは腰を軽く落とし槍を構えたまま動かず、あちらは左手の指を揃えて前に付きだし右手を握り腰の位置まで引く独特の構え。両者一歩も動かず睨み合っていた。


「……来ないのですね。では、こちらから」


 っ、速い!!言葉とほぼ同時に動き出してもう距離を詰めて来るとは!

 突き出された爪を首を捻ることで辛うじて避け、右の拳を左の籠手で受け止める。体格差があるにも関わらず腕を押されそのまま腹まで押し込まれた。

 何とか鎧で勢いを止められたが腹八分で止めておいて正解だったな。満腹で腹が出ていたら鎧の衝撃がそのまま伝わり吐いていただろう。


「まだですよ」


 流れるように蹴りが入る。右手を押さえ込まれ、左手は突きの体勢のままだというのによく動けるっ!

 一度右手を放し、後ろへ飛び退く。そのまま彼女の右側をすり抜けるように回り込み、広場の中央へと回る。


「避けますか。結構行けそうですね?なら手加減はもういらないでしょう」


 手加減していたのかあれで!!


「それでは、今度は全速力で」


 っ!

 無我夢中で槍を振るう。かなりぎりぎりのところで彼女の爪と槍の穂先が交わっていた。あと一瞬に満たない程の時間でも遅れていたら槍をすり抜け首に突き付けられていただろう。


「どうしました?遠慮は要りませんよ?」


 そうは言われてもこちらは対応するだけでも手一杯だ。

 幾度となく繰り出される爪、拳、蹴り、たまに頭突きまで。その全てを避け、防ぐだけで攻勢に転じられない。

 そんな様に苛立ったのか一度距離を開け、言葉を荒げながら更なる挑発を重ねるイルミナ女史。


「ああ、ならこう言いましょうか。全力で来てください。少しの傷はすぐ治りますから。それに、()()()()()()()()


 …………悔しいが確かに彼女ならば避けられるだろう。

 さらにここまで挑発されて乗らない、というのも情けない。

 そして何より、少し頭にきた。


「行くぞ」


 体をしならせ軽めの突きを入れる。当然、その穂先は掠りもせずに避けられてしまう。

 それでいい。

 そのまま距離を詰めて来た彼女の足を蹴り飛ばす。左側を槍で封じられ、右側からは足狙いの低めの蹴り。彼女が逃げられるのは上しか開いていない。

 しかし彼女が取った行動は全く別のものだった。

 いや上に逃げるというのはあながち間違ってはいない。

 ただ背面跳びの要領でくるりと体を回し槍を飛び越えようとしたのだ。

 だが彼女が飛び越えようとしているのはただの鉄棒ではない。槍を振り上げ、その背中を狙う。


「危ないですね」


 一瞬赤い光が彼女の体に走ったかと思えば、空中でさらに加速し槍が背中を打ち抜くよりも速く着地したイルミナ女史。

 何かを思いついたのか一度距離を離した。


「…………た。自……化…らい………?………みま…………」


 頭のなかを整理しているのか何かを呟くイルミナ女史。距離があるため詳しくは聞こえないが、その指先はくるりくるりと回されている。

 そんなところまで似なくても……

 考え事はまだ続いているのかどこか詠唱然とした呟きはまだ聞こえてくる。

 そして彼女の人差し指がこちらに向けられた。


「“火の一(ゼン・アト)”!」


 その指先から炎が矢の如く打ち出され、周囲に熱を振り撒きながら飛翔する。本当に魔法の詠唱だったとは。

 火矢はこちらを指す指との間に糸でも引かれているかのように真っ直ぐに飛び、目の前で風に吹かれるように霧散していった。

 どうしたのだろうか。マオから魔法が無効化されることは聞いていたはずだ。


「やはり………ですかね」


 今の結果に何かを得たのか再び考察に没頭し始める。

 その隙を見逃す程甘い性格はしていないつもりだ。


「考え過ぎたな」


 一気に距離を詰め素早く、しかし甘めの突きを打ち込む。

 鎧の音に気付いたのかこちらを見上げ、槍の穂先を回避したところを蹴り上げた。


「かっ……がふっ!」


 顎を大きく蹴りあげられ後ろに吹き飛び、そのまま地面に叩きつけられ呻き声をあげるイルミナ。しかし頭を打ったにも関わらずそこからの復帰は速く、体を転がしその勢いのまま立ち上がり後ろへ跳んだ。


「痛いですね……いくら隙を晒したからといってこんな幼い子を蹴り跳ばしますか普通」


「いやお主は三千年以上生きておるだろうが」


 性別も年齢も関係なく、それだけの実力があったということだ。

 しかし不意をついてようやく一撃、それも大した傷は与えられていない。これが模擬戦だから良いものの実戦なら確実にすでに殺されているだろう。

 不意をついたので通用しただけで一度見せたものだ。もう二度と同じ手は通用しない。

 イルミナ女史も先程の一撃で慢心が消えたのか、互いに一定の距離を取ったままゆっくりと左にずれて行く。

 互いに右にずれて行くことで互いに死角となる左側に入ろうとし、結果互いに同じところを回ることになった。

 相手を見据え、距離を取りながら円の半径を縮めて行く。

 互いにじわりじわりと……


「っ!」


 躓いた!?どうして!?窪みも小石も先程まではなかったはず!!

 いや今はそんなことはどうでもいいこの隙を見逃すような…


 勘だった。それが目に入った訳でもなく、来るとわかっていた訳でもない。ただ直感的に槍を()()振るっていた。

 しかし今度は爪と打ち合ったわけではない、異質な感触が返って来る。

 それまでの金属質な爪ではなく、柔らかな肉に掴まれた感触。そしてそのまま槍は動かなくなり……


「ぐぁ」


 後頭部に鋭い衝撃を受け、そんな間抜けな声と共に意識は黒く落ちていった。


 *


「ほう…これは意外と……」


「ええ…………しい…もっと………い……」


 頭の後ろに柔らかい感触。頬を直接撫でる風。夏の強い日差しが瞼を貫く。

 眠っていたようだ。今まで何をして……


「目が覚めましたか?少しやりすぎました。が、あなたも同じ事をしたので水に流してくださいね?」


 そう言いながらこちらを覗き込む白髪の女性。元の姿に戻ったイルミナ女史だろう。

 ああ、そうだ。さっきまで模擬戦をしていたのだった。


「負けたか」


「ああ、それは見事に蹴り跳ばされてな。まあ、気に病むことはない。奴は勇者候補だったからな。今の時点では勝てないだろう」


 勇者候補だった…?


「怪訝そうな顔だな。イルミナは勇者が出揃わなかった時に代わりに厄災の討伐をするはずだった。まあ勇者が出揃ったので我が右腕として働いて貰っているがな」


 なるほど、だからこんなに強いのか。

 ………そういえば風が吹いていて、頭には鉄とも草とも異なる感触が伝わって来る。それがわかるということは……


「兜は!?」


「ここだ。介抱するときに邪魔だったのでな。鎧の脱がしかたなどは知らぬので着せたままではあるが」


 自らの隣に置かれた兜を掲げるマオ。その膝元ではシャーレが気持ち良さそうに眠っている。


「………見たのか?」


「見たも何もはじめから知っておる。もちろん口外はしないとも。余計な混乱を招く必要はないしな。なあ、イルミナ?」


「ええ、髪もですがその瞳は確実に混乱を招くでしょう。口外いたしません」


 まあ、この二人なら口は固いだろうから問題ないか。

 対面に──正確には膝枕をしているイルミナ女史の対面にだが──座っているマオから兜を受け取り立ち上がる。


「では、私はこれで。まだ仕事が残っていますので」


「ああ、では」


「あ、館長は後で大事な話があるので事務室まで来てください。大事な、話があるので」


「……ははは」


 これはしらばっくれるつもりだったな。

「どう考えても作者はロリコンだね」

「少年好きでもあるわ」

「なので全キャラロリ/ショタ形態があるんだよね。実装予定ないけど。あとイルミナがロリ化したのは作者の趣味ってのもあるけどあの耳と尾と爪は体内の魔素で作られてるから質量保存的なあれそれで縮んでるんだよね」

「あのモフモフの耳と尻尾にそんな重量なさそうだけど」

「だから大人形態のときは体重が平均よりだいぶ軽い。それでも高身長でいようとしてるのは肉体が7歳から成長できないコンプレックスだろうね」

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