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偽典-英雄邪道-  作者: あしゅけーね
白の勇者
10/54

其の八


 *


「ハハハ、それは取り囲まれて当然だろう。もう竜騎士なんていないからな。竜種ももうほぼ絶滅したと言ってもいい。竜の鞍を作れる職人なんているはずがない。それで、こんな早く帰って来たのはシャーレに乗って帰って来たからか」


 あのあと一度冒険者組合に顔を出し、一通りの説明をしてから食事取って帰ることにした。

 何度かシャーレに乗り飛ぶ練習をしたため少々時間はかかったがなんとか乗れるようになったため、痛む体を無理矢理誤魔化しシャーレの背中に乗って空を飛んで帰ってきたのだ。その速度から一日も経っていない。

 かつてと比べてもシャーレの移動速度は格段に上がっている。地を走ることと空を飛ぶことの違いだろうか。


「ああ、そうだ、この鞍の保管を頼めるか?昔使っていた鞍なのだが……」


「む、そんなものをどこで?」


「シャーレが大切に持っていてくれた。頼めるか?」


「まあ最初の勇者が使っていた鞍となれば資料館に置いておいても問題ないだろう。任せておくといい」


 良かった。その資料館とやらは少し気になるが後でいいだろう。


「それで鞍だな?用意させてもいいが……」


「それとシャーレの服が欲しい。子供用の服はどこで買える?」


「いや、竜に戻るのであろう?であればおそらく……そうだな、後でシャーレには魔素の纏い方を教えておこう。普通の服ではいちいち脱がねばならぬからな。ついでに鞍の作り方も覚えればわざわざ注文させる必要もあるまい」


 魔素の纏い方…?魔素とは纏えるものなのか?


「理解出来ないという顔だな。まあ顔見えぬが。少し説明してやろうか」


「頼む」


「まず、竜から人になるだろう。そのとき竜の巨体としての質量はどうなると思う?」


 質量……重さのことか?あの巨体であれば相当な重さになるだろう。それに比べ人間としてのシャーレの体は軽い。翼と尾の重さを除けば同じ身長の女児のそれより軽いだろう。


「煙…か?」


「ああ、おそらくな。話によると煙を出して人間に変態し、竜に戻る時は煙が体に吸い込まれるようだった、合ってるか?」


「ああ合っている」


「ではおそらくその煙は魔素だ。シアト、お主の記憶にあるシャーレはどのくらいの大きさだった?」


 シャーレの元々の大きさ………三千年ほど前はここまで大きくはなかった。翼も持っていなかったしな。


「馬と同じくらいだったと思うが……」


「翼は?」


「なかったはずだ」


「ああ、そうだろうな。二六五二年前の文献によれば勇者シアトの騎竜は小型の地竜だったと記されている。だが今は大型の古竜だったとされる説が有力だ」


「つまり民衆の意思によってシャーレの姿が変わったとでも?」


「そうだ。それを裏付ける証拠もあるだろう。シャーレ、お主は元々人型になる能力があったのか?」


 マオは少し離れたところに座っているイルミナの隣で七杯目になるスープを啜っているシャーレに問いかける。

 そういえばなぜ人になれるのだろうか。長く生きた竜ならそう言うものだろうか、と流していたが……マオの反応的におかしいのか。


「ううん、なかった」


「では人型になれるようになったのはいつだ?」


「わかんない。でもなんか声が聞こえたー」


「声?」


「うん。ありがとー、とかかんしゃー、とか」


 その答えに納得したのか大きく頷くマオ。


「そうか、食事の邪魔をして悪かったな。………さて、これではっきりした。シャーレの竜形態は魔素によって汚染されている」


 汚染されている…?


「どういうことだ?」


 その質問に対し自身の頭を整理しようとしているのかマオが軽く唸る。


「んん、どこから説明したものか。……そうだな、まず魔素について軽く説明しようか。魔素の主な特性は三つ。周囲の魔素に与えられた命令を伝達する、思考を読み取る、空気の振動を読み取る。この三つだ」


「思考を読み取る?」


「あー、なんというか、何かを想う者から発せられる意思の波ようなものを読み取るのだ。強い意思であるほど大きな波となる。続けるぞ?」


 よくわからないがとりあえず続きを聞こう。


「それが何の関係がある?」


「魔法とは一つ目と三つ目の二つによって行われる。魔法という命令を隣の魔素に伝達することで空気中の魔素を媒体に魔法は移動するし、詠唱という空気の振動を読み取ることで魔素はどんな命令を受けたのかを判断できる。

 そして残った一つ、意思の読み取りは魔法使い同士が対決するときどちらがより多く周囲の魔素を操作できるかに関わって来るな。体内にある自身の意思で染め上げた魔素の総量が魔法に対する命令権の強さに直結するわけだ。まあ体内の魔素が多いということは魔法を受けた時の威力も大きくなるわけだが。だって媒介となる魔素が豊富に含まれてるのだから」


 喋り疲れたのか一呼吸おき、再び説明を始めるマオ。


「そしてこの意思の読み取りが動作不良を起こすのだ。強い意思が魔素に影響を与えその魔素が様々な効果を及ぼす」


「様々な効果?」


 くるりくるりとマオが指を回す。おそらく無意識のうちに出ている癖なのだろう。


「例えば転生現象とかな。今回の例で言えば魔王の一体を倒した勇者シアトに対する民衆の感謝の念がこもった魔素が、その騎竜であったシャーレに擬似的な魔法として作用し、その結果地竜から古竜へと変化したのだろう。その変化分の魔素が煙となって体外へ排出されているのだろうな」


 なるほど…?てっきり三千年の間で成長したのかと。


「竜としての見た目が大きく異なっている理由は大まかにだがわかった。それで、人間になれるようになった説明はどうするんだ?」


 再び唸るマオ。


「どこまで説明していいか………。要らぬ知識は余計な混乱を招くしな。……そうだな。うむ、本来竜は魔素を取り込まない……というか取り込めないのだ。だが膨大な量の魔素が指向性を持って襲って来たため対処仕切れなくなったというか…ある種の防衛機能が働いたのか自身を別の情報として保存しそれに魔素を鎧のように着込ませているのだろう」


 よくわからないな。


「つまり人間になるというのは人間体へ変態しているのではなく服を脱いでるという表現に近いのだろう。翼、角、尾、鱗は竜体を纏うための目印…人間体は魔獣でいうところの魔石にあたるか。前例はないしあとにも先にも似たような現象はないだろうから断言はできぬが……古竜としてのシャーレは魔獣だが人間のシャーレはお主のよく知る竜としてのシャーレだ」


「………シャーレがなぜこうなったかはまあ理解した。それが服と鞍な何の関係があるのだ?」


「わからぬか?竜になるように服として魔素を纏わせればいいのだ。鞍は竜として魔素を纏う時に追加する感じだな。やり方は我があとで教えよう。取り敢えずは長旅で疲れているだろうし今日のところは休むがいい。明日から三日の間やっておきたいことがある」


「やっておきたいこと?」


「ああ。旅に出るというので二番目の勇者と同時でも良いかと思っておったのだが、予定より早く帰って来たなら問題あるまい」


「それについてはすまなかった。それで、何をするのだ」


「現在のお主の実力を見るのだ。我が写し身に勝っていることからある程度の実力はあるのだろうが人形と厄災では天と地程の差がある。そのあとは等級を上げたり鍛練をしたりだな」


 写し身……魔王としてのマオか。

 私は魔法が効かないが普通の人間であれば無詠唱で同時に繰り出される大量の魔法は脅威だろう。


「そう言えばマオ、無詠唱ってどうやっているんだ?」


「秘密だ。言っても真似できるものではないしな」


「そうか。まあ私も魔法は使えないしな。ただの興味本位だ。忘れてくれ」


「そうか、ではまた明日。朝食はイルミナが持ってくる。その後に案内してもらえ。場所はこの街の裏門だ」


「ああ、わかった。では」


 *


 窓もないのに日の光で目覚めるというのはやはり慣れない。まだ三日しか経っていないからだろうか。鎧を着たまま眠ることにはすぐ慣れたのだからいずれ慣れるだろう。

 見計らったかのように扉が叩かれる。恐らくイルミナ女史が朝食を持ってきたのだろう。

 寝台で寝ていたシャーレを起こし、扉を開ける。


「朝食をお持ちしました」


「ありがとう。ではそこに置いておいてくれ」


 指差した机の上に盆を起き、扉の前に立つイルミナ女史。退出するわけでもなくただ立っているだけである。


「食べないのか?」


 シャーレなどは物凄い勢いで掻き込んでいるが。


「いえ、先程食べて参りましたので」


「そうか」


 黙々と食事を取っている中、ふと見上げると扉の前で佇みイルミナ女史と目が合う。


「「…………………」」


「そう見つめられていると気まずいのだが」


「お気になさらず」


 シャーレは気にしていない様だがとても気まずい。食事風景など見ても楽しいものではないと思うが……


「せめてそこに座ってくれないか。人を立たせながらの食事は落ち着かないのだが」


「ではお言葉に甘えて」


 余っていた椅子を引きそこに座るイルミナ女史。

 にこりともせずただこちらと、隣に座るシャーレのことを見つめている。


「何かあるのか?」


「いいえ。ただ、子供というのはいいものですね。美味しそうに食べてくれますから」


 ああ、そういえば料理を作っているのは彼女だったか。ならば確かに、美味しく食べている様子を見るのはとても心地いいものだろう。顔には出さないが心では微笑んでいるのだろうか。


「……あ、そういえば一つ訊きたいことがあるのでした」


「なんだ?」


「その声……どうなっているのですか?男の人のようにも女の人のようにも聞こえない、それでもそう聞こうとすれば聞こえるような声ですが。今は兜の顎部(がくぶ)を外しているのですから兜のせいというわけでもありませんし」


「わからん。生まれた時からこうだったわけではないが……いつからかは少し曖昧でな。原因も思い出せそうにない」


「そうですか。……おかわりは要りますか?」


 その返答を聞き少しがっかりした様子の彼女は食べ終わりもの欲しそうな目で器を見えていたシャーレを見つけ問い掛ける。まあシャーレのことだ。十中八九おかわりを要求するだろう。


「うん」


「ええ、では持って来ましょうか。シアト様は要りますか?」


「いや、いい。この後鍛練なのだろう?なら少し腹が減っていたくらいの方がいい」


「そうですか。では二人分でいいですね。シャーレ様はもう一人分では足りない様ですので」


 図星なのか目を逸らすシャーレ。口元が緩んでいるから丸分かりだぞ。


 それからしばらくして食べ終わり、匙をおく。シャーレはちょうど三杯目に差し掛かったところだ。


「ご馳走さま。美味かった」


「お粗末様です。シャーレ様はまだゆっくり食べていて構いませんよ。普段から仕事をしない館長など外で待たせておけばよいのです」


 彼女なりの冗談なのだろうか。表情を変えずに言うので分かりにくい。だがシャーレはこちらの話など聞こえていないのか、少しでも匙を止めたら消えてしまうと言わんばかりの勢いで掻き込んでいる。口いっぱいに詰め込んだら幸せそうな顔で噛み締め、味わう仕草も見せた。

 そしてすぐにシャーレの器から食事消える。


「ごちそうさまー」


「はい、お粗末様でした。それではお皿をお下げしますからその間に準備をしておいてください」


 そういって彼女は持ってきた時と同じようにお盆に空のお皿を乗せ、退出する。

 しばらくして再び戻ってきた。


「準備はお済みでしょうか」


 特段持って行くものもないので頷く。


「では参りましょうか。裏門……その先にある裏山で待っている館長のところへ」

「つまりどゆこと?」

「魔素の意思観測機能がバグってよけいな感情を魔法として記録する→その魔法がシャーレに作用する→シャーレは魔素に晒され続けるのはまずいと本能的に判断→人間体となり余った力で魔素を纏うように制御って感じだね。

まあシャーレが自分を中心に空気で出来た巨大竜型ロボットを展開出来るようになったって考えてくれれば」

「やっぱりよく解らないわね」

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