6回目:俺は再び告白した。
美羽が歩き出したのを見送りながら俺はプレゼントを眺めた。
小さな手のひらサイズの袋だ。
美羽は家に帰ってからあけてと言っていたけれど気になって仕方が無かった。
自然と口元がゆるむ。
好きな子からの誕生日プレゼントだ。
我慢が出来ずリボンを解き巾着袋の口をあけた。
アクリル製のキーホルダーが入っていた。
かわいいハリネズミのキャラクターだ。
中学男子にはかわいすぎね?と一瞬思った。
「これ……」
額から汗が流れ落ちる。
俺はもう一度キーホルダーのキャラクターを見つめた。
「美羽は覚えていたんだ……」
幼児向けアニメの主人公のハリネズミ。
俺が小学生の頃、唯一もっていた布カバンにプリントされていたハリネズミのキャラクター。
小学校の入学式直前のある日、あのDVクズ野郎が気まぐれで買ってきたカバンだった。
ピンク地でところどころにレースが付いていて明らかに女の子向け。
子供はサウンドバッグでしかなかったクズにとって、何を好むのかとかどうでもいいことだったのだろう。
でも俺は嬉しかった。
クズとはいえ父親だ。
父親から生まれて初めて買ってもらったものだったから。
母親がクズと離婚した後も俺はそのカバンを使っていた。
転校し美羽と会った後も。
転校してすぐの頃、どうして女の子向けなのに使ってるの?と聞かれたことがある。
俺はクズが買ってくれたからなんて言えなかった。
ただこのキャラが好きなのだ、と。
俺はキーホルダーを握り締めた。
美羽が好きだ。
やっぱり俺は美羽が好きだ。
昨日のことを美羽は知らないようだった。俺にしか記憶がないのかもしれない。
――それでも。
世界は変わらない。
俺の記憶の八月四日と同じだった。
朝から気温は三十度を超え、動かなくても汗は次から次へと流れていく。
相変わらず蝉時雨はうるさいし、老人達は公園でゲートボールに夢中だ。
俺は立ち上がりプレゼントをカバンに収めると美羽の後を追った。
伝えなきゃいけないんだ。
どうしても伝えたいんだ。
美羽は俺がぼんやりしているうちにずいぶん先まで行ってしまっていた。
気付けば校門までの坂道の半ばに差し掛かっている。
俺はだらだらと長いばかりの坂道を駆け上がった。
今日二回目の本気ダッシュ。
きつい。
だけどかまってられなかった。
あと十メートル!
「美羽、待って!」
ゼーゼーと息を切らしながら俺は呼び止めた。
美羽は振り返り、俺を認めるとびっくりというか若干引き気味な表情をした。
「めっちゃ息切れしてるじゃん。すごい汗だくだ、ね?」
「そりゃあ……全力で走ってきたんだからさ……」
顎を伝ってボタボタと汗が落ちた。
ガチ運動部でもない俺にダッシュなんて過負荷すぎる。
心臓はバクバクしっぱなしだ。まぁこれは運動だけのせいでもないんだけど。
美羽は困ったように笑い、タオルを差し出した。
「ありがとう」
と言いながら、俺は差し出された美羽の手をタオルごと握り締めた。
「ちょ! ハルト!?」
「俺、美羽が好きだ」
一瞬すべての音がなくなった。
遠くで横断歩道のメロディが聞こえる。
電動自転車が音も無く横を通り過ぎた。
久しぶりの更新です。
リアル忙しく久しぶりに文章を書きました。
話も文章の書き方も全てをわすれていてびっくりしました。
Pv・ブクマ・評価ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。