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2回目。俺は誕生日プレゼントを希望した。

「今日さ、何の日か知ってる?」


 俺は隣を歩く幼なじみの美羽みうに聞いた。

 美羽は額に汗を浮かべ、うんざりしたような顔をする。


「ハルトの誕生日でしょ? 家でてから何回も聞かないでよ。暑苦しい」


 額の汗が流れ落ちる。美羽は通学用カバンからタオルを取り出して拭い取った。


 ジィジィと鳴くアブラゼミの声がうるさい。

 4DXかってくらい多重音声で攻めてくる。

 つんざくようなセミの鳴き声だけでも真夏の暑さが倍増したようだ。


 今日は八月四日。

 朝だというのに気温はすでに三十度を越えていた。

 日差しは暑いというより痛い。


 予想最高気温は三十六度らしい。

 アスファルトに囲まれた街中ここだと四十度はいきそうだ。


「もうほんと暑いんだからっ」


 美羽は誰に言うでもなくプリプリしながらタオルで扇いだ。


 世間では夏休みの真っ只中。

 っていっても、中三の夏休みなんてあってないようなものだ。

 今日も午前中は学校で補習、昼からは塾。

 受験生はつらい。マジつらい。


 さらに俺たちが通ってる中学校は小高い丘を上がったところにある。

 街路樹なんてものはない。

 日よけがない坂道がだらだら続く。


 夏休みに補習なのも最悪なのに、なんなのこれ?

 嫌がらせ?罰ゲーム?


「それで? 何が欲しいのよ」


 美羽は根負けし、前を向いたまま言った。


「あー、受験終わったらさ」


 俺は息を吸った。ゆっくりと吐きながら、


「俺と付き合って」

「は?」


 美羽は立ち止まり、タオルを取り落とした。


 アブラゼミの鳴き声が一瞬止まった。

 電動自転車が音もなく横を通り過ぎる。


 美羽も俺も何も言わない。


 俺は坂の上を見上げた。

 すでにアスファルトが焼け始め、立ち上る水蒸気が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れていた。


「考えといてね。俺ずっと好きだったんだよね」

「ええええ??」


 美羽は俺が初めて好きになった女の子だ。

 最初から好きだった。


 美羽とであったのは俺が小学二年の、今日と同じ暑い夏の日だった。




 俺が七歳の時、両親は離婚した。

 俺の父親――ともいいたくないクズは、最低の男だった。

 DVにDVを重ね、妻子は殴る、家屋を壊しまくる、真夜中に酒に酔って大暴れするのキングオブクズ。


 そんなクズにとって子を殴ることなんて当たり前の事だった。

 殴られることなんて俺にとってただの日常。

 小学校から直接児童相談所コースもなれたものだった。

 激しい暴力やネグレクトに近所の人から通報されたのは一回や二回じゃなかった。

 うんざりした警官を遠巻きに見るなんて、そう体験できることじゃないよな?

 おかげで警官と顔見知りになれたよ。


 なのに母親はなかなか離婚しなかった。

 DV男と依存女とはよく言ったものだ。


 散々揉めに揉め、ようやく別れたのが俺が小学二年の夏休み。

 俺は母親に引き取られて、母親の生まれ育った土地に戻って来た。


 それまで育った土地とは全く違う地方での生活の始まりだった。


 引越しの挨拶をしている時に出会ったのが美羽だ。

 温かい優しい両親に大事にされてるんだろうなってのが一目で分かった。


 俺はすぐに惹かれた。


 この子はなんて優しいんだろう?って。

 なんて穏やかに話すんだろう?って。


 俺は美羽に出会って当たり前の平穏を知ったんだ。




こんにちは。

ゆえろんです。


読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価も沢山いただけて嬉しいです!


すごいPVのびてる!と震えていたら原因がわかりました。

日間に載っていたようです。

初めてのことなのでとても驚いています。


ゆるい感じの話になると思いますが、次回もまたお会いできたら幸いです。


小説家になろうとノクターン(R18)、平行して書いています。

R18が大丈夫な方はそちらもぜひ。

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