005話-兆候らしい?
ヒロイン朱里の悲劇の始まり
それは特に、何か特別な理由も無く突然起きたことだった。
いつもの日常、いつもの学校、いつもの更衣室。
「着替えるから出て行け」
と言う朱里に言われて更衣室の部屋の外で空を眺めていた忠犬なオレはタロー(仮)。
(更衣室がなんだかザワザワしてるな)
とか思ったが、女はたいてい群れるとザワザワするものだ。
大して気にしないで窓の外の飛ぶ鳥を眺めていたが、
更衣室から出てきた朱里の顔は真っ青になっていた。
『……どうした?』
太ったか?と聞きそうになったがセクハラみたいなので止めておいた。
それにどう考えても事態はそれより深刻に見える。
「……れた」
朱里が絶望した顔で小さくつぶやく。
余り近づくなと言われて離れているのでよく聞こえない。
『はっきり言え。聞こえん』
発言したのだから聞き手に伝えるべきだ。
気を使うかどうかは発言を聞いてからでいいだろう。
「ねぇ、タロー。ちょっと隣の空き教室で話しましょう」
『?……構わないぞ』
今は体育が終わった休み時間、
着替えに時間を消費したので次の授業まで猶予は残り3~4分。
遅刻を絶対にしない、
自他が認める(オレ以外)完璧美少女にしては珍しい状況だ。
オレたちはとりあえず、無人の教室へ移動することになった。
***
『何があった?言いたくなければ言わなくていいぞ』
言いたくないことを聞き出す趣味はない。
そもそも世の中、
『聞かなければ良かった』の方が多いのが俺の見解だ。
「いや、多分100%タローのせいだから聞いて……」
『オレの?』
オレは更衣室の外で鳥を眺めていたただの無害な亡霊なのだが……。
「更衣室のロッカーを開けようと思ったの」
「ロッカーの扉を掴んで引っ張ったの」
「チリ紙より簡単にロッカーの扉がもげたの……」
『ほぅ……』
どこら辺がオレのせいなのだろう?
朱里の腕力が実は凄かったとか、才能が開花したと言う方が自然だ。
何しろオレと入れ替わっていたわけでもあるまいし……。
『オレと入れ替わってないのだからオレは無関係だろう』
『朱里の腕力が目覚めただけだ。何の問題もない』
成長期の身体能力向上は普通だ。
かの有名なドーピング剤ステロイドだって、
身体を成長期にするようなものだ。
「いえ……実は」
朱里が頭を抱えて語りだす。
「ドア壊しちゃって見てた隣の子と目があったんだけど」
「隣の女の子の頭を見て、あ、ギュッって握ったら砕けるなって思っちゃった」
完璧美少女がなんか凄いことを言い出した。
クラスメイトにアイアンクローしたら頭蓋骨を砕けると言うのだろうか?
『さすが天界に認められた完璧だな』
『オレの想像以上すぎて言葉が見つからん……』
「いや!これ100%タローのせいでしょ!!この悪霊守護霊!」
朱里はキレ気味に睨みつけてきた、目の端が光ってるのは涙か?
『落ち着け。力がみなぎるようなのは今も続いているのか?』
「いえ、さっきのが嘘みたいに今はなんとも無い。普通に私の身体よ」
『ふむ……』
一時的なものなのだろうが、無意識だと日常が危ない。
なにより朱里に殺人でもされてしまったらオレの善行どころではない。
『しばらく人間に触れるのは止めた方が良い。スポーツも見学して様子を見よう』
『本当に何か異常事態であれば、眠ったら天使とやらにでも聞けばいいさ』
「えぇそうね……わかったわ」
「取り乱してごめんなさい」
まだ顔は青いが朱里の表情はいつもの「作ったキャラ」に戻っている。
最低限、日常は問題ないだろうが、今回の件を朱里が冷静に分析できるか、
期待はしないほうが良さそうだ。
***
オレとしては、
主に嫌われた守護霊、というだけで諸事情は現時点で全力で面倒だ。
今後は危険を避け、朱里の様子を観察しなければいけない。
正直、死ぬほど面倒くさいし関わりたくないが、
オレの宿主なのだからと早々に諦めた。
ただ、この事案を早めに解決しておけば、
オレと朱里の将来や人生はもう少し平和になっていたのかもしれなかった。
***
不定期・更新再開です
方向修正しつつ書き直し繰り返しています。
単話に慣れてしまったので、
ゴールを決めてダレないように書く練習中です。