008「幻奏魔王は冒険者達に共鳴する」
何故一日中に此処まで連続投稿しているか。
答えは作者名より飛べる『活動報告』、又は夜投稿予定の012話後書きにて。
009〜012話&001話の前に入れる“設定資料の粗筋”は夕方〜夜間更新予定。
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決闘兼試験。果たして兼任して良いものだろうか。
組合の通路を暫く歩いて行くと、広々とした場所へ出た。
平にならされた白に近い土色の地面に、左右に伸びた長方形の空間。
訓練場を三分割した丁度真ん中の、やや左側の地点へと繋がっていた様だ。
右へ視線を向ければ、全体の三分の一程の、今度は縦長の長方形の場所。
ちょっとしたフェンスで区切られた空間には、所々端に長椅子が置かれている。
その更に壁際から数メートル地点の四つ角に立つ、上部分が魔石製であろう事が分かる魔導具の柱が、教室の約三倍の領域を示しているかの様に見える。
其処へ向かおうとした所、背後より風切り音。
パシッと頭斜め後ろへ手を向け、飛来物を掴み取る俺。
前側に手を戻せば、手元に予測通りの形状の飛翔物があった。
トランプ程度の大きさ、厚さの、仮登録と端に書かれた一枚の証明証が。
恐らく、あの空間――『試験場』に入るには監視員にこれを見せ、魔力登録等をしなければいけないのだろう。
とすれば、相手は先程の受付嬢だろうか?
否。反響から感ぜられる体格、主に身長面が彼女と些か異なる。
振り向けば其処には……白縁の楕円の眼鏡を掛けた、女性にしてはそこそこ長身であろう、組合職員らしき20代後半程の女性が立っていた。
手は、分かり易く顔の手前辺りで、小さな物を投げた後で止められている。
すっと腕を下げるなり、余り足音を立てず、すたすたと此方へ近付く職員。
近場で見ると、美人ではあるが、機械を思わせる無表情である事が分かる。
あと、身長が俺と全く同じである事も分かった。正直微妙な気分となった。
そんな彼女は、俺に追い付くなり自己紹介を始めた。
「突然のご無礼失礼致しました。……が、やはり“それなりの実力がある事”も確認出来ましたので一安心、と言った所でしょうか。……失礼。私は組合職員が一人、ミルスティナ=イヴァンホルストと申します。此度は、リット=ウタカタ様の実戦型登録試験の『審判』を担当させて頂く事となりました。以後、お見知り置きを」
すらりとした綺麗なお辞儀を見せるミルスティナ。
前に揃えた両手を体脇に戻した彼女に問い掛ける。
「『審判』? 『試験官』とは異なるのか?」
「はい。『試験官』は実際に登録者との対戦を行う戦闘官を、『審判』とは組合側より公正を期す為に派遣された勝敗判定や戦闘能力の度合いを判定する判定員係となっております。『試験官』は体感より評価を告げ、『審判』はそれに加え自らの判定を元に、登録後“Gランク”より始めるか、“Fランク”より始めるか……つまり、『非戦闘職者』からのスタートか、『戦闘職者』としてスタートするかを決めると言う訳です」
「あんたが其処ら辺の最終決定権を持っているのか」
「はい。又、『審判』は組合職員内でも特に『公正さ』より信頼されている人物を選出されておりますので、一応ご安心下さい」
何か不穏な言葉が聞こえたな。
「一応って何だよ、一応って……」
「世界中に存在する組織ですから、中には権力に屈した腐りきったゴミ捨て場かの様な場所も存在し、そうした場所では賄賂等も横行している事でしょう。ですが、G、Fランクの差等、例え不当にGランクからスタートを切る事になったとしても、本当に実力をお持ちの方は悠々とFランクへ上り詰める事が出来ますので、然程、問題は無い……と言う話となります」
「そ、そうか。まぁ、此処がそれに当たらん場所である事を願」
「有り得ません。有り得ませんが、相手が王族等では外交関係よりそうした面にて配慮する必要性も出て参りますので。今回は特にそう言った事も御座いませんし、当人以外よりの干渉が無い限りは公正に判定致しますので、一応ご安心下さい」
「……りょ、了解した」
何て言うか、ちと癖のある職員だな。
まぁ、『公正さ』にゃ拘っている様だし良いか。
あの優男が“審判”の場合私怨から俺の評価意図的に下げそうな気もするし、奴がその“試験官”になるよりゃ余程マシと言うものだろう。
女性職員に付き従う様に、『試験場』へと踏み入れる。
入る時には、柱の一つに職員が触れると出現した立体映像……魔法陣を思わせる図形をなにやら操作した後、領域内部へと入って行った。
すると……上方にも長い半透明の直方体が、突如柱に沿って形成された。
ダブルスのテニスコート以上、バスケットボールで一番広い、大人用コート以下位の床面積に、十メートル程度の壁と天井が作られたと言えば分かるだろうか。
「ルールを知りたい。あと、この《結界》についても」
「了解致しました。勝敗は実力差によっては殆ど判定に影響致しませんが、基本、どちらかが負けを認めた際、或いは死亡判定により強制退場させられた時点で試験終了となります。勝負は基本一回。結界は余程の力を加えない限り破壊される事は御座いませんし修復能力も高い為、場外判定と言うのは御座いません。又“結界”が破壊されたとしても《時間回帰》は発動致しますし、万一に備え近場にて医療員が待機しておりますので負傷死亡に関しても特に問題御座いません」
「流石組合。用意が過剰な程に良いな」
「これ位しておかねば、特定の国に所属せず、且つ大量の害敵や犯罪者を相手取る事など出来ませんので」
確かに。
組織自体が『一つの国』みたいなもんだからな。
自衛手段は備えるだけ備えられなきゃ、色々と困るよな。
等と考える中で、もう一点だけ問い掛けておく。
「あと、つう事は『壁』も『天井』も、退場判定を受けない限りは『足場』として利用出来るっつう訳だよな?」
音の“反響”に利用出来る、『物理判定』があるか、否か。
「……はい」
その意図を察しているか否かは分からなかったが、彼女は肯定を示す。
「りょーかい。咲和、お前は出……って、先ず入れてなかったか」
結界の壁際で、泣きそうな顔でベッタリ張り付いて此方を見詰める少女が一人。
鹿角をぐぐっと押し当て突破しようとしているみたいだが、今の此処には案内係たる職員と俺、あとは対戦相手位しか入れない様設定されているのだろう。
苦笑を浮かべつつ、其処らのベンチで見守っててくれと目で伝える。
其処に漸く、組合本館側より対戦相手の上位冒険者――イザークが現れた。
優男ながらも、酔いを醒して冷静さを取り戻しているのか、若干眉は顰めているものの、油断と言うものが感じられない真剣な表情をしながらも。
なんだ。アイツ、あんな表情も出来たのか。
「登録希望者リットの『試験官』を勤める、冒険者イザーク、唯今参りました」
その言葉に、訓練場内にちらほら見えていた冒険者達、先程の俺達のやり取りを見ていたのか本館内より姿を現す者達も含め、野次馬が周囲へと集まり出す。
……っつぅかイザーク。あんた、キャラ変わり過ぎだろ。
そんな彼の事をよく知るのか、周囲の者達がざわめき出す。
「おいおい、《妖精蛇剣》のイザークが『試験官』になってっぞ!?」「大丈夫か、あの嬢ちゃん」「いや、性別は男らしいぞ」「は?」「ついでに、向こう側で一人座っている鹿角の嬢ちゃんがあいつの『嫁』らしい」「「「「「チィッ」」」」」「つうかマジで大丈夫なんか、対戦相手」「酔うと酷いが、実力は確かだからな」「ま、取り合えず俺ぁアイツに銀貨一枚賭けるぜ」「さ、咲和はご主人様に大銀貨賭けます!」「おわぁっ!? い、いつの間に近くに?」「んじゃあ、俺はイザークに銀貨三枚な」「僕は紅髪さんに大銅貨一枚で」「私はイザーク様に「我輩は登録希「ウチは——」」
何やら、えらく周りが騒がしくなって来た。
多分、登録者が現れる度に起こる軽い祭りの様な物なのだろう。
ま、やろうとしている事は、勝敗余り意味無いにせよ決闘みたいな物だからな。
因みに大銅貨は一枚百円。銀貨は五百円。大銀貨は千円位の換算となる。
……賭け金、低くねぇか? 特に一人称“僕”の青年君よ。
少し戸惑う俺に、腰に細めの片手剣を差した優男が一歩踏み出す。
同時に、場に走る緊張感と共に、静まり行く空間。
イザークが、数メートル先で口を開いた。
「手加減無用だ。……来い」
普通の剣か、魔法剣か、絡繰り仕込みかは分からない。
《妖精蛇剣》の通り名より、精霊術師か妖精族の混血なのだろう。
まぁ、何にせよ……。
「遠慮なんかしねぇよ。……さぁ、開演の時間だ……っ!」
冒険者へ踏み出す第一歩。その為の戦いの幕が、切って落とされた。
× × ×
両腕をだらんと垂らした後、ピンと手刀状に伸ばし、体勢を低くして前方の敵に向かって勢い良く駆け出す。
魔人族の上相当の鍛錬を積む俺は、身体強化などせずとも駿馬以上の走破速度を瞬間的に発揮する事が出来る。
相手からすれば、紅黒い弾丸の様に見えた事だろう。
だが、相手はそれを――受け流す。
目を見開いたものの、彼の目前に出された左手の手刀を、反射的に腰から外した剣の鞘によって、弾く様に俺の攻撃を避けていた。
同時に……魔力強化を施して尚、鉄製の鞘を僅かに切り裂く俺の手刀に対して、驚愕に僅かに顔を歪ませながらも。
「は、はえぇっ!?」「今、手刀なのに鉄切ってなかった?」「きょ、強化してんだろう? 風属性辺りででも」「……いや、してなかった」「……は? う、嘘だろ!?」
今の手には《響撃−響爪》を施している。
『音でコーティング』しているからこそ、今の俺は素手で鉄を切り裂ける。
手刀を往なされた俺は、左足を軸に、右足で後ろ回し蹴りを相手に放つ。
戻した鞘の代わりに両腕をクロスさせ受け止めようとする相手を――《噪波》で足裏に生み出した衝撃波によって、弾き飛ばす。
「ぐっ」と呻き声を上げつつ、数メートル飛んだ後、両足で後ろ向きながらしっかり着地し踏ん張って、ガガガッと音を立て止まろうとするイザーク。
弾き飛ばすと同時に駆け出していた俺は、足に集中している彼に掌底を放つ。
「《響撃》」
指向性を持たせた《噪波》が、レザープレートらしき軽装備の男に襲い来る。
所が。
「『震音の精霊よ』ッ!」
咄嗟に何かを叫んだ彼は、それを打ち消した。
(ほぅ。手加減したとは言え、コレを無効化するか)
打撲痕が出来る程度の威力は込めてたんだがな。
恐らく今のは、『精霊術師』の《精霊言語》ってやつか。
空気中の『精霊』に頼んで、衝撃波を相殺して貰ったのだろう。
精霊術師らしい技を見せた彼は、警戒心を保ちつつも、鼓舞する様声を上げる。
「……成る程『音遣い』か……厄介な。だが、ネタが割れた今……そう簡単には、やられはせんぞ……っ!」
すらりと、片手剣を左脇より引き抜く。
細剣程では無いが、細めの片手剣、それも刀身に“くの字型の切れ込み”が幾つも入った奇妙な物が、陽光を軽く照り返しながら現れた。
それを、右に振り切ってから、左に向かい勢い良く薙ぎ払う。
危険を感じた俺は、上半身を仰け反らす。
次の瞬間、俺の真上を、何かが唸り声を上げながら通り過ぎた。
切れ込みの間に空の隙間を作りながらも、刀身全体を伸ばした剣の刃が。
蛇腹で、魔法によってかワイヤーも無しに刀身を伸ばしてしならす片手剣。
これが彼の普段より扱う得物らしい。
成る程、妖精“蛇”剣ね。
言い得て妙な。
「……《響撃−震衝波》」
仰け反った体をくるりと回転させ、そのまま地面に片手を付き、小規模且つ局地的な地震を発生させる。
隙を突いた強烈な揺れに、体勢を崩す相手。
そんな彼に向かい――片手を、手刀のまま振り切った。
「《響撃−鳴刀》」
優男に向かい、『音が飛んで』行く。
此方から見て、右肩を斜め前に、左肩を斜め後ろにする様転びかけていた彼。
結果。……イザークの左頬と左前髪が、切り裂かれた。
飛来した『音響の刃』によって。
「残念ながら、“間合い無き刃”は此方も持っててな」
男の頬寄り、たらりと血が流れ落ちる。
カッと目を見開かんばかりに、此方を睨み付ける優男。
口を開き、彼が何らかの呪文をぶつぶつと呟き出した。
次の瞬間。
「それと……済まんが、もう“終幕”の時間とさせて貰う」
ピタリと、彼の動きが止まった。
奴は、既に俺の『音』に『脳から捕われて』いる。
対象を音で操る技術《幻奏響》の《指揮》にて。
音を用いた幻術の様に、音を通して相手を全身麻痺状態としたのだ。
そんな、体の自由を奪われた男を余所に、俺は軽めの終曲を奏でる。
「『姫君共よ、さぁさ、唄えや謡え舞い踊れ。今宵は其方の為の“命日”である』。
――《慌狂祭宴−妃啼祭》」
楽器一つ無い環境下で、『曲』が奏でられ出す。
落ち着いた風情ある和風の曲想に、何処か哀し気な旋律が混じる。
曲が流れ出すと同時に……イザーク一人だけ、突如呻き声を上げ出す。
「あ、がっ……!?」と苦し気な声で顔を歪め、地面へ倒れ臥す。
のたうち回る彼をよく見てみると、何か、小さな物が零れ落ちて見えた。
形は、片方が紡錘形、片方が半円形――つまりは、花弁型に。
徐々にそれ等が、くるり、くるくると舞い上がり出す。
その姿は、まるで季節外れの桜吹雪の様で……。
短き間ながらも、区切り良い所で演奏が止められた頃には、粉雪が如く、結界の天井付近より、幾つもの『命の花弁』が舞い落ち、宙空へと消えて行った。
同時に、自らの花弁を尽きさせた男が消える。
「……っ、かはっ!?」
結界外に飛ばされた彼は、結界外部側面にて息を吹き返す。
しかし、戦闘による消耗が激しかった為か、再び意識を薄れさせ行く男。
そんなイザークの様子を見ながらも、花弁舞う中赤黒き髪を靡かせ立ち竦む俺。
彼の意識が闇に埋もれる間際に見たのは、そんな、幻想的光景だったらしい。
× × ×
館内医務室へ運ばれて行く優男を見て、やり過ぎたかと一人ごちる俺。
と言うか、本来此処は全力で相手をボコる場じゃなかったんだよなぁ。
自身の実力を、冒険者組合所属に足り得る物であると証明する為の場であり。
だと言うのに、俺は速攻であの優男に出来る限りトラウマを植え付けられる様な手段を優先して選んでしまった。
勝敗関係無く、煽りを見事に買って自分の単純な性根を試験中に戦闘と言う形で披露してしまった事実が、何とも残念過ぎると、誠に遺憾ながら思う。
まぁ、そもそも死んでもOKな環境下における試験だったしな。
元より、全力を出そうと構わない形式の内容ではあったのだろう。
だが……少しは魔法を使い多様な有用性を示すべきではなかったのか?
そんな疑問を浮かべる最中。
「勝者、リット=ウタカタ!」
『審判』役の職員ミルスティナが、声高に俺の勝利を告げた。
よって、一応『勝利判定』は最低でも貰えた事が確定し、一安心する。
周囲では新人が上位ランカーを翻弄した挙げ句打ち破ったと言う事でか、わぁーと歓声が沸き上がっており、咲和に至っては、喜びのあまり飛び回り過ぎて彼女の周りの人々が必死に鹿角を避ける事態に陥ってしまっていた。
咲和、第一今回の相手、其処まで喜ぶ程の強敵って訳では無かったろうに。
……いや、完全に素面であったならば、どうだったかは分からなかったか?
普段ならば達人級に達する程の実力を発揮出来ていたであろうイザーク。
その筈が、先ず俺と戦う前には酒癖が完全に露わになる程、出来上がり、飲んだくれた状態となっていて、完全に酒が引く様な間も無く、軽く水か何かにて酔いを醒したと言った位の回復方法しか取っていなかったが為に……冷静な思考判断力が鈍って的確な場面での的確な判断が若干甘くなり、それが総じて彼の“隙”へと繋がってしまっていた。
万全を期せる状況下であったなら、もう少し上手く立ち回れていた事だろう。
……あー、っつうかそれ以前に、俺自身がいつも通り冷静だったなら、わざわざ《慌狂祭宴》なんて高威力の曲、奏でようともしなかったか。
より長く、“戦闘を楽しめる様に”実力を抑えるとかする為にな。
基礎、初級まで奏でりゃ十分な相手に中級使っちゃったんだしな。
正直な所、アイツの言葉に怒り過ぎ大人気無かったと思う。
ま、後悔はしてないがな!
俺の戦闘終了後、今度は咲和が実技試験開始したんだが……これがまた、ホント色々と酷かった。
一応相手はあの優男の相方。
つまり、上級冒険者の壮年の男だ。
其処は特に問題無かった。無かったのだが。
何せ、俺の戦闘見て興奮しっぱなしの咲和は暴走し遠慮無く打撃衝撃波高速移動にてかの男を追い詰め、相手は必死に反撃するも、一切合切を中級〜上級レベルの魔法を出し惜しみなく使って無効化、所か押し返し……結果、おっさん自身の敏捷性、回避性能が下手に高いばかりに猛攻で即死する事も無く、地道に体力を高威力攻撃で減らされ続け、拷問の様な死に際、晒す羽目に陥ってたからなぁ……。
おっちゃん自体に罪は無かったので、同情を禁じ得なく物凄く申し訳無かった。
……咲和、俺が言えた義理ではないが、頼むから手加減と言う物を覚えてくれ。
お蔭で俺、『嫁の方が滅茶苦茶な旦那(?)』又は『鬼子母神の手綱』扱いだぞ?
疑問符の部分は俺の自業自得極まり無い限りであるが。
……いや、やっぱ髪伸ばしてるだけで女扱いってのは納得いかんよな……。
二人して無事実技試験を乗り越えた後は、仮登録手続きをしてくれたあの女性の受付にて本登録を開始する事となった俺と咲和。
組合に関する説明を約束通りして貰った所、以下の様な事が分かった。
①冒険者の貢献度、実力を示す大まかな指標が“階位”。
階位はG-〜A+に、S、SS、SSSランクが存在する。SSSは世界で三名のみ。
自分の階位より上の依頼は基本受けられない。階位より上の敵は遭遇回避推奨。
但し、上位の冒険者が同行する際はその者の階位に順じた依頼も受けられる。
自分の階位以下の依頼は好き自由に受けられるが、前後差3階位程が推奨値。
②組合証は初期作製時に大銀貨一枚(※千円)。再発行で金貨一枚(※一万)を払う。
その分、組合証は身分証明書の代わりや、組合設備を割引、無料で利用可能に。
組合証は魔衝紋並び魂の分離を記録し、討伐履歴を残す為常に携帯を推奨する。
③依頼は失敗すると依頼前に払う違約金を完全に回収され、報酬も貰えない。
階位おきに、一定回数依頼失敗し続けると組合登録を取り消される。
④訓練場以外組合館内における、冒険者同士の乱闘は禁止。
依頼人や現地の人々に迷惑を掛けない。苦情を受け次第調査も行われる。
違反行為が続いた場合組合登録を取り消し、場合によっては投獄もされる。
⑤上記の事を念頭に、冒険者としての誇りを持ち、世に貢献する事。
要するに、一般常識的な公序良俗と階位を守り依頼をしっかり受けていれば後は自由にして良いと言う、冒険者は何ともフリーダムな職であると言う話だ。
尚、組合証発行用の千円は、襲撃時に集めた魔石を組合内の買取所で換金した物である。手の内をこれ以上ひけらかさぬよう、ポケットから出す振りをしてその実空間魔法で異空間に保管していた物を提出したのはご愛嬌だ。
「で、咲和。何か良さげな依頼あったか?」
「えーっと、コレなんてどうでしょう?」
二人揃い、戦闘技能を既に有する事を証明した俺等は、現在G、Fランクの依頼を受ける事が可能となっている。
実力は少なくとも上位ランク相当なので、其処らの敵は道すがら見付け次第適当に狩って行けば良いだろう。
と言う訳で、早速Fランク、詳細を見ればF+階位者推奨の依頼――遠方の村の、 狩猟級邪精、邪人犬の討伐依頼を受ける事とした。
子供程の身長の二足歩行の猛犬の様な存在で、対話出来る程の理性は無いが軽い簡素な武器を振り回す程度の知能は持っている。が、連携をロクに取れない程しか頭を使えない為、戦闘技術を持つ者にとっては格好の餌食である。
5体以上で依頼完了。以降狩れば狩る程報酬が上がる所がまた、実に良い。
依頼掲示板より剥がした依頼書を受付で受理して貰った後「お気を付けて」との受付嬢の言葉を背後に、俺達は意気揚々と、初の依頼に乗り出して行った。
その先に、何が待っているとも知らずに。
× × ×
折角なので馬車で向かいたい所であったが、今日中に向こうの、村の宿だか宿の代わりに何処かに泊めて貰い一晩過ごしたかった為に、夕暮れ前に到着するべく、二人して半ば全力疾走で依頼の地へと向かっていた。
俺達の足でも数時間掛かるが、それでも馬車や竜籠――気球の竜版の様な乗り物――で向かうよりは、余程時間短縮に繋がるだろうと思う。
実際に、宵時に差し掛かる前に、無事依頼先へと到着する事が出来た。
早速村長に挨拶しに行き、歓待を受けかけた所で今より討伐に行く事を告げて、数時間後に帰還する事、並び今晩泊まれる宿か部屋を、それまでに用意しておいて貰いたい旨を伝え、邪人犬が沸いているらしい地を彼より教えて貰った後に、村長宅を後にした。
村の周囲を取り囲む形に広がる森の中へ入る。
木こりが度々入るからか、それなりに整備はされている森林。
歩く事数分。木々の間より街道が見え始め、踏み均された地肌の道へと出た。
此処より更に数分先が、目的の場所であると言う。
いざ邪人犬を殲滅せんと勇んで踏み出そうとした、その瞬間。
俺達の周囲で、豪炎が巻き上がった。
俺は《噪波》で、咲和は風属性の魔法で火炎を封じた所。
左上空、街道の上辺りに位置する一人の大柄な人影を、感知する。
其処には……老獪な戦国武将を連想させる、老齢ながら大柄な戦士が、宙空にて仁王立ちし、此方を不敵な笑みのまま、睥睨していた。
そんな彼が、口を開く。
「……儂は、『傲義の魔王軍』が幹部『七罪天』がぁ一人……『勇怒』を司りし、ランガース=エルレイジなりぃっ!!!」
俺達の前に、幻界の一魔王軍、その幹部クラスが、姿を現した。
× × ×
一方その頃、学園が襲撃を受けているとは、気付く事無く。
鉄貨(鉄銭)って江戸辺りでは銅銭(一文銭)相当だったらしいですね。
と言う訳で一番下の貨幣は鉄貨(此処では一円相当)です。
そして普通の銅貨は十円相当。
換算超テキトー。
……決して計算が面倒になったからではない。良いね?
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