007「幻奏魔王は未来幻界の反響聴く」
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昔の拠点に辿り着きました。
ギ、ギィィ……と、大きな扉が軋み開かれる。
蝋燭一つ灯っておらぬ広い玄関広間。
辛うじて差し込む日光が屋内を照らす、煤けた部屋の内にて。
パチンと咲和が指を鳴らすと、全ての灯りが、一斉に灯り始めた。
元『幻奏の魔王城』とも呼べる古城。
異能学園が転移した荒野を西に暫し進んだ先にある史跡である。
同時に、帰還の目処が立つまで学園に提供を考えている建造物の一つでもある。
一部蝋燭が切れていたり、泥棒にでも入られたのか燭台自体が無かったりして、全体的に歪な灯り方となってしまっている城内。
一通り主要な部屋を見て回るべく、俺と銀桜色の鹿角を生やした少女は、周囲の様子を事細かに目に焼き付けながら奥へと歩を進める。
貴族に見えない事も無いブレザー姿に、咲和の方も碧墨色の髪が和風お嬢様風な上和とゴシックが合わさった様なワンピース姿の為、今の俺達の服装も少しは城主として見て貰えそうな、城内内装とマッチした姿であろうと思う。
と下らぬ事を考えながらも、幾つか階段を上り、城主の執務室へ向かう。
「ふむ、特に変わり無しと」
「私達が入居してから持ち込んだ物や、必要そうな貴重品は私達が持ってっちゃいましたから、盗み出そうにもそもそも金目の物がありませんからねー」
先ず入る意味が無いよな、そりゃ。
同様に、魔導や機械機器系の研究開発室もすっからかんで大して変わり無い事であろう……と思いたいが、何処かの組織に部屋だけでも悪用されていたら堪らないので、一応城内の部屋は大方見て行く事とした。
小部屋や隠し部屋を回る事を優先して。
寝室、謁見の間、食堂、研究室、地下室、礼拝堂等を見て回ったが、何れも荒らされた形跡無く埃が積もり蜘蛛の巣が張っている部屋ばかりであった。
魔獣や虫以外の野生動物の類いが住み着いている様子すら無いのは、当時咲和が仕掛けた獣避けが未だに作用していたからであろう。
改めて彼女の優秀さを実感した瞬間である。
最後に残ったのは、舞踏会用の、俺達からすれば戦闘訓練や挑戦者との対戦場としての役割を果たしていた、城内で最も大きな空間――大広間。
踏み入れる。咲和が他の部屋同様に灯りを付けようとするが、何れも蝋燭や照明用魔石が破損してしまっているのか、僅かな日の光しか入らず薄暗いままの部屋。
探索し易い様に一つでも直そうと奥へ進み出した瞬間……。
俺達以外の気配が、部屋に生まれた。
「「っ!?」」
ばっと、二人して背を合わせる形で飛び退き、周囲を素早く見回す。
気配の元。音響が人型に跳ね返って来る場所……大広間の上部通路、左側壁際のギャラリー脇に立つ通路と同じ高さ辺りで崩れた柱の上へ、視線を向ける。
床から数メートル離れた狭い足場に静かに佇む、一つの真っ黒な人影。
頭巾か何かを目深に被っている様だが、僅かな日光を反射してか、頭巾奥の闇、その左側より紅い瞳を不気味に光らせる、黒尽くめのローブ姿の人物。
何処か、大きな翼で前まで覆う鴉を思わせる者が、其処に居た。
全体的に、靄掛かった闇により構成された鴉の様な姿に、紅い右目の瞳。
どう見ても、怪しく、何故か危機感を湧き立たせる雰囲気を感じる。
そんな人物が、すっと左腕を真っ直ぐ此方に向ける様上げた。
此方から見て、闇の右側に青く小さな光が灯った、と認識した次の瞬間。
黒い濁流の様な、木の幹程太い触手の様な物体が、目前へと迫っていた。
「咲和っ!」「きゃっ!?」
少女を抱きしめながら、その場を飛び退き、彼女を内に抱えたまま地面を二転、三転転がる。直後、俺が立っていた場所を穿つ黒い“何か”。
ばっと体を跳ね上げ、咲和も脇にしっかり立たせてあげた後、相手を睨む。
闇の鴉を思わせる無機質な雰囲気の人物。上げた腕は既に仕舞っており、微動だにせず薄暗がりの柱の上で沈黙を保ち佇み続ける相手。
如何にしてこの正体不明の相手に対応するか。
警戒を緩める事無く思考を早め出した。
その時の事だ。
周囲に、“鴉の羽”が、舞い始めたのは。
一瞬、眼前にまで舞い落ちて来た羽に、つい気を取られる。
はっとして視線を戻すと……其処には、既に影も形も無く。
否。薄らと見て取る事は出来たのだ。
“霧散しようとする相手の姿”を。
俺等はただ、正体不明の怪しき人物を、おめおめと逃してしまったのであった。
× × ×
「で、主殿は何もせずそのまま帰って来たので?」
「ああ。あの後は特に何も無かったしなぁ」
鴉の様な人影と対面してより数分後。
何か怪しい変化等無いか調べるべく再度城中を調べ回った俺達は、やはり何一つ城に異変が無い事を確認した後、昼食を摂る為に特撮地球の自宅へ帰還していた。
丁度お昼時にやる事も終わったし、俺の精鋭達に“謎の人物”の意見を聞いておきたくもあり、落ち着いた所でゆっくり食べたいのもあったからな。
流石に、朝っぱらから色々あり過ぎて疲れた。
「そうですか。何にせよお疲れ様です。食事終え次第、心身共々の疲労によく効くマッサージでも致しましょうか?」
「いや、結構。てかすぐ出掛けっしな。あ、お前等は留守番頼むわ」
「は、仰せのままに」
イケメンな美女がキリリと生真面目に返事をする。
服装がダブついたジャージかパーカーの様である為、如何せん締まりが無いが。
其処へ、タンクトップにカーゴパンツと言うミリタリースタイルな幻肆奏将一の巨漢、カーゴスが無言のまま入って来、俺に一礼した後席に着く。
数秒後、ドッタタタタタッとの駆け足の音と共に部屋へ飛び込む人影が一人。
「まっおうっさまぁーーーっ、遅くなったのーっ!」
「よっす。取り敢えず御膳前で走んな、埃舞うだろ? いや、掃除完璧で綺麗だから正直大して舞わんとは思うが。兎に角座れ」
「ラジャーなのっ!」
上着フードに付く狐耳もあって、白い九尾に見える幼女が元気良く反応する。
彼女ロカも、カーゴスも自室の掃除片付けに少々手間取り、食事の席に着くのが遅れていたと言う訳だ。
ラアロ? 誰よりも素早く個人的な物は片付け、昼食をささっと作った後ささっと食い終わり、家全体の掃除開始してたが?
つくづく有能な執事である。
てか、そもそも此処を拠点として利用する事暫く変える予定無いし、皆さもこの家引き払う様な準備しなくても良いんだが……そう言った後も諸々の作業を続けている所見るに、皆年末年始の大掃除気分でやってるよな、多分。
俺も一応、掃除整頓しといた方が良いだろうか?
「そう言えば魔王様、お体は大丈夫なの? あんな高い所から、ひゅーって気絶したまんま落ちてたから、幾ら魔王様でもちょっと心配なの……」
「おう、見ての通りピンピンだから大丈夫だ。有り難うな。お前等も」
とテセラ、カーゴスの方へ顔を向ける。
すると何故か、素早く目を逸らされる二人。
心なし、彼等の目が泳いでいる様にも見える。
ん?
「おや、お二人も終わった様ですな」
不自然な二人の反応を訝しんでいた所、老執事ラアロが部屋に入って来た。
が、入って来た時二名の様子を見た時、何か納得した様に呟く。
「成る程、戦闘終了直後に関しお話されていた所でしたか」
ピクッと肩を揺らすテセラとカーゴス。
彼の言葉と二人の反応にちょっと違和感を覚えた俺は、軽く目を細めながらこの場に居る皆に対し質問を放つ。
「……俺が落ちた時、お前等、どんな反応した?」
「ロカと咲和様は吃驚して声あげちゃったの」
「“は”?」
首を傾げ、紅黒色の髪が揺れる。
俺の疑問にゆったりと返したのは、食卓に隣接する台所に入って行くラアロ。
「実際、悲鳴を上げたのは咲和様とロカの二人だけでしたからなぁ」
「で、一方テセラとラアロとカーゴスは?」
「冷静にそれを見送っておりましたな」
「おい」
ちったぁ心配して駆け付けてくれよ、振りだけでも良いから。
まぁ無論、身体能力面に対する信頼の裏返しなんだろうけどさ。
やっぱ少女二名みたく心配して貰った方が、此方としても嬉しいんだよなぁ。
「ちょっと拗ねても良いか?」
「うっ、申し訳ありません……」
「……済マヌ」
俺の少々暗い言葉に反省の意を示す二人。
一方、ラアロは一人だけ悠々と台所にて埃が舞わぬ程度の掃除を開始している。
ラアロ……。
「所でご主人様、ご飯終わった後何処へ行く予定なのですか? 咲和は其方についてまではお話聞いてないのですがー」
「おお済まん済まん。なに、魔王時代には出来なかった事をやっておこうと思ってな。まだ魔王としての自覚が無かった頃にゃ、軽く憧れていた事だ」
「“憧れ”? ご主人様の憧れ。何でしょう」
難しい顔をし、ぅんーと考え込み始める咲和。
彼女の姿に、思わず微笑ましい気持ちになる俺。
そんな、難しく考える様な事でもないんだがなぁ。
なので、俺は苦笑を浮かべつつも彼女に伝えた。
幻界における、目下の第二の目的を。
「冒険者組合。あそこへ登録しに行くつもりだ」
× × ×
『組合』。
地球でも過去に“同業者組合”と呼ばれ似た物が存在したそれは、同じ職種者達による職業別の大規模な同盟組織である。
一つの国に属すると言う事はなく、同時に何処の国にも存在する。
又、それぞれの組合が、同業者といえかなり広義で多様な人々を内包する。
それこそが、俺の探している物だ。
中でも、所属を考えているのが『冒険者』組合。
戦闘を中心とした何でも屋達が集う、この世界において最も人気ある組織だ。
ま、命の危険も傭兵や狩人と同じ位ある職種組織でもあるのだが。
現代では其処ら辺がどうなっているか些か心配であったが、“街”に着いてからはそれが杞憂であった事を理解した。
何せ、町人達から聞いた冒険者組合の場所に向かうと、相変わらず“冒険者然”とした武装した人々が、幾人も当の建物を出入りしていたのだから。
今も昔も、変わらず皆冒険者やっているらしい。
其処までの経緯を順に語ると、以下の様な感じだ。
特撮地球より再び幻界の荒野へと降り立った俺等は、元魔王城たる古城に関する事を報告する為に一度学園に戻った後、組合へ行く為に、先ずは“街”を探す事から始める事とした。
此方に来てからすぐ、一度《反響探知》を用いている為に、大まかな方向は分かってはいたのだが。
学園より古城とは正反対、東に向かう事少し。
岩山と森林に囲まれつつも、そこそこ豊かそうな街へ辿り着いた。
身分証明は門番に仮発行して貰い、その一人に同行して貰いながら先に食料品店へ行き道中狩り血抜きまで済ませた肉等を売り払い、一先ず通行税を払った後に、彼と別れた後彼の言通り歩いた結果、無事目的地へと歩き着く事が出来た。
「ふーむ、そこそこ大きな建物ですね」
「ああ。中堅規模位はありそうだ。この街もそれなりに大きな街なんだろう」
「ですねっ。では、早速入ってみましょう!」
二人してわくわくしつつ、木製の扉へと手を掛けた。
組合内部は大まかに言えば、左脇に奥へ続く通路と上階に続く階段があり、右へ視線を動かして行けば、冒険者用の受付が三つ、依頼人用のが二つ、隣に換金所、それ以降のスペースは軽い居酒屋の様になっている様だ。
如何にも冒険者組合と言った感じで実に良い。
人数は、互いに歩き回れる位には空いているが、賑やかになる位には沢山居る。
周囲を軽く見回した後、二人揃って冒険者用の受付の方へと向かう。
もう少しで受付の列に加わる、その時の事。
酒場方面より声が掛かった。
「ぅお〜い嬢ちゃんらぁよぉー、其方は餓鬼が行くよーな所じゃねーぜぇ〜?」
あからさまに出来上がっているであろう男の声。
右へ眉をひそめつつ顔を向けると、案の定酔っ払った優男が立っていた。
まだ酒臭さが分かる様な距離ではないが、ジョッキが置かれた席から既に立ち、ゆっくり此方に近付いて来ているので、それも時間の問題であろう。
同席していた無精髭の壮年の男から「あんま絡むんじゃねーぞー」と声が上がるものの、「だぁ〜いじょーぶさぁ〜」と聞き入る様子も無い。
「依頼すんならぁ、隣の隣だぁ〜。まぁんな事よりもよぉ、嬢ちゃん達、ちょっと俺等に酌してくんねぇー? なぁ〜良いだろぅ、かわいこちゃん達よ〜!」
彼の言葉に、顔を顰めると共に俺の後ろへ隠れ出す咲和。
まともに相手にする気は無いが、一応言葉を返しておく。
「親切に教えてくれた所悪ぃんだが、俺達は冒険者登録しに此処へ来たんだ。後、済まないが酌の方は他の奴に頼んでくれないか? 貴方に酌出来る程、俺等は其方の事を知らねぇし、居酒屋の従業員でもないんでな。悪いな」
片腕で手刀を掲げ空いて来た受付に並ぼうとする俺達。
所が、俺等の態度の何処かが彼の気に障ったのか、声を荒げ出す優男。
「ぅんだよ手前ぇ! ひょろっちぃなりしてる癖して冒険者になるだぁ!? くははぁ! 笑わせんなよ〜っ! しょんべん臭ぇ女子供がやっていける様なもんじゃねぇっつぅの! くぃっはははぁーっ!」
「優男に言われる言葉じゃねぇな」
ぶふっと、事の次第を見守っていたらしい周囲より上がる声。
固まる優男。次第に顔が真っ赤になって行く。
あ、ヤベ。
咲和ごと馬鹿にされたもんだから、つい売り言葉に買い言葉しちまった。
昇級に響かん様、穏便に済まそうと思ってたんだがなぁ。
まぁ、テンプレ楽しいし良っかぁ!
「おい手前ぇ、何笑ってんだぁ!? ぁあ!?」
済まん。余りに典型的な流れにちとテンション上がってた。
にしてもどうすっかなぁ。
今からでもコイツ落ち着けるのが良いんだろうが、向こうからも色々言われて、タダで下がるにゃプライド的にちと許せんものがあるからな。
てか正直、コイツ一発殴っときたい。
「お、おいおい落ち着けって! 何歳下の女子供に絡んでんだよ!?」
「はぁ!? ヤダね! 俺のぉ腹の虫がぁおさまらねぇっつうんだよっ!」
「……はぁ。済まんなお嬢様方さ。俺の連れが馬鹿な事言っちまって」
歳下な筈の俺等に頭を下げてくれる、優男の相棒らしき壮年の男。
此方は良い人っぽいな。中々歳下に素直に頭下げられる大人は居ない。
つくづく隣のが残念過ぎて不憫な奴さんである。
「別に構わんよ。が、ちと俺の方も其方さんに思う所あるからよ、どうせなら軽く手合わせとかしてみてぇんだが、良いかい?」
「ああ!? 外見だけ綺麗に取り繕った貴族のお嬢様がぁ何言ってやがんだぁオイ!」
貴族?
ああ、そう言や、今の格好小綺麗な上現代技術の産物だから、確かに貴族の様な質の良い服装に見えるっちゃあ見えるよな。
てかアンタ、貴族の令嬢だと思っておきながら酌頼んだのかよ。
変に度胸だけある野郎だなおい。
「亜人種の従者連れてるからっつてぇ増長してんじゃぁねぇぞぉ手前ぇ……?」
因みに、この場には獣人族や妖精族、魔族らしき人々の姿もちらほら見える。
『亜人種』とは、彼等『人間族』以外の三種族を纏めた俗称である。
ま、この世界じゃ其処まで差別用語って訳じゃないから良いんだが。
しかし……従者、ねぇ……?
「……俺の“嫁”を従者たぁ、手前ぇ、良い度胸だなぁ……?」
高くも、ドスの効いた声を、軽い威圧感と共に目の前の“勘違い野郎”へ放つ。
その気に当てられたのか、冷や汗を掻き俺等から離れ始める周囲の観衆。
が、当のご本人は、絶賛酔っ払っているからか通用しなかった様だ。
「んだと手前ぇ」
「……やんのか?」
え? 嫁? と言う男の声が前方脇より聞こえた気がしたが気にしない。
一先ずは、コイツを如何に料理してやっか? と言う一点に尽きる。
別に従者は構わんのよ? メイドは可愛いし執事は恰好良いし。
家の老執事も滅茶苦茶優秀だし、第一身分差意識する事からして無いしな。
だがな。『嫁』たるこの娘を従者扱いってのはぁ、納得が行かんのだよなぁ。
お互い一色触発の間際。
当事者の一人たる、鹿角の少女から声が上がった。
「あ、あのっ! こう言うのはどーでしょうかっ!?」
「「ぁあ!?」」
「二人して少女にドス効かせてんじゃねぇよ」
ゴスッとおっさんより俺等に下る鉄拳。
揃って頭が下がる。てかあんた、赤の他人まで殴る事ぁ無いだろう。
あと済まんかった咲和。
「いえ、別に構わないのですが……それよりご主人様も其方の人も、公正な場にて決着をつけると言うのはどうですか?」
「“公正な場”だぁ?」
「はい。何処か、怪我してもすぐに治せそうな決闘場とかあれば良いのですがー」
決闘場、ねぇ。
ん? そう言えば、死ぬ前辺りに見た“組合の資料”にゃ、丁度良さ気なのが一つ、あった様な……。
「そんならお前等。其方の、えっと、お嬢様? お坊ちゃん? の登録試験の、実技試験時にでも決闘したらどうだ? 彼処なら、死のうが怪我しようがどうなろうが、お互いに五体満足で決着付けられるだろうしな」
「オイオイ、この嬢ちゃんの為にぃ、俺が『試験官』やるっつぅのかよぉ?」
「そうすりゃお前、『決闘場』が使えるだろうが」
「……んな所使わねぇでも良いってぇの!」
「いや、相手が貴族の令嬢なら、それこそ怪我させたらヤバいだろうが。その点、決闘場なら“全ての怪我が退場時に治る”んだから問題無いだろう?」
ああ、そうだそうだ、『決闘場』だったな。
各組合の裏手には、大抵訓練場が広がっている。
んで、その一角、訓練場の三分の一の広さの長方形の空間。
四つ角を魔導具の柱で囲まれた広々とした空間が所謂“決闘場”と呼ばれている。
ホントは、安全に色々な技や術を確認する為の空間だから、『試験場』って名前付いているらしいんだがな。
「“治る”と言うのは、会場に回復機能でも付いているのですか?」
「いや、《時間回帰》の術式が組み込まれていてな。何でも、森人族や一部の長寿種族やお偉いさん方位しか知らん技術らしいが、伝説級の魔導技術が使われた設備らしいから、退場時には『死』や『破壊』された物すら『元通り』になるっつぅ、とんでもねぇ施設なんだよ」
古式魔法の域に入る超時代技術だからな。
死んだ所で即強制退場され、一度退場すれば『入場前の状態に完璧に戻される』との現象仕組みすら可能としている、中々とんでもない技術である。
数百年前よりあるのが、これまた凄い所だ。
「じゃあ、其処で戦えば、最終的には誰も怪我無く決着を付ける事が出来る、って訳なのですねっ!?」
「おう、そうなるな」
「ではではご主人様っ! 早速行きましょー!」
俺の手を引き何処へと行かんとする少女を引き止める。
「待て待て、ちと待てって。多分だが、その設備利用するにゃ何らかの書類手続きだか、冒険者として登録する事が必要な筈だ」
「その通り。冒険者でも利用出来ん事ぁねぇが、申請すんのも許可されんのも少し面倒な行程を辿る羽目になるな。んで一方、冒険者に登録してりゃ遥かに軽く利用する事が出来るし、登録試験時なら仮登録用の資料さえ書き込めば即座に利用する事が出来るっつぅ特典付きでもある。登録時は実技試験用以外では利用される事ぁ無いんだがな」
「んじゃ、先に仮登録済ませて来るわ。……待ってろよ、優男」
「はっ! お前こそ逃げ出すんじゃねぇぞ」
やや酔いが醒めて来たらしい男の言葉を後に、受付へ向かう。
カウンターに着くと、反対側に座る受付嬢より声を掛けられる。
「ようこそ、冒険者組合へ。ご用件は何でしょうか?」
「登録で」
「畏まりました。此方に必要事項をご記載下さい。代筆は必要ですか?」
「大丈夫だ」
名前、性別、年齢、種族、職業、連絡先、特技、追記項目と並ぶ書類を見る。
全て必須事項と言う訳では無い様なので、名前と性別はそのまま、年齢はボカす事とし、種族は『魔人族』に。職業は『響奏師』。連絡先も今はぼかし、特技には『音響操作技術(※戦闘技術)』と『魔法全般』を、追記事項も今は空欄のままにし、受付嬢へと紙を返す。
因みに、此処では此方の英語に似た言語で記載している。
名前の部分はどうしたかと言えば、『英名/和名』と言う形にしておいた。
尚、隣で咲和も、空いた受付にて登録作業を進めていた。
「此方に手を置き、数秒程お待ち下さい」
書類を受け取った彼女は、大きな水晶らしき物体を差し出す。
下は辞書程の台座ががっちりと付いている為、転がり落ちる事は無さそうだ。
其処へ手を置くと、軽く発光した後すぐに光が納まる水晶。
今回は仮登録の為に、特に魔力測定まではしていないのだろう。
身元証明用に、『魔衝紋』を指紋の様に登録する為の作業と思われる。
「お疲れ様です。仮登録完了致しました。組合に関する説明は実技試験終了後説明致しますのでご了承下さい。何か質問等は御座いますか?」
「この後、すぐ『試験場』を利用する事は可能か?」
「はい。と言うよりも、『実技試験』の会場が試験場ですので、今からでもご利用出来ますよ。……あ! すみません。ご希望の『試験官』はおりますか? これより行うのは貴方の戦闘能力を確認する為の戦闘試験となりますので、出来ましたら、現在組合内に居ります方をご指名下さいますと助かるのですが。特に居ないと言う事でしたら、此方で常駐している何れかの試験官をお連れ致しますが……」
「先の騒ぎを見ていたので知ってると思うが、彼処の優男を指名しても良いか?」
その言葉を聞くなり、戸惑いの声を上げる受付嬢。
「……イザーク様ですか!? し、失礼。……別に構いませんが、彼は殆ど“試験官”の経験が無い方の上『上位冒険者』ですので、余り試験官には向かないかと思われるのですが……もっと下位の他の方か、常駐の方に致しませんか?」
「問題無い。俺は元より戦闘職者だ。それに……こう見えて、少なくとも『受付のお嬢さんよりは、長生きしてる』しな」
生前より戦闘職を全うし、『魔王』としてこの世に二度目の生を受けてからは、『魔人』として数百年間も生きて来ている。
並大抵の相手じゃ、負ける気にはなれんよ。
「……成る程、失礼致しました。とは言え相手も達人級に達しようかと言う御仁である事を念頭に、油断無き様お気をつけ下さい。ご健闘をお祈りしております」
中々お人好しではあるが、良い受付嬢さんだったな。
今後もこの人に出来るだけ受付頼むとしよう。
そう考えつつも、左奥の通路に足を向ける。
「戻って来たら、また本登録と説明の方頼むな」
そんな言葉を残し、咲和と俺は、試験場へ続く通路奥へと歩を進めて行った。
《回帰》の術が持ち込まれた際の戦争はめっちゃカオス&R-18G。
次回、現地人(現役冒険者)との本格バトル。但し相手は酔っぱらい。
但し相手は酔っぱらい。
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