006「異能学園は幻想世界に開演する」
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光に包まれると其処は異世界!――よくあります。
目覚めると、其処は知らない天jy……あ、天井無いや。
代わりに、真っ青な青空にのんびりと雲が流れている。
快晴だなぁ。風も随分と気持ち良いし、魔素も充実して……って、魔素っ!?
背中に感じていた、ゴツゴツとした地面の感触から体を離す。
ばっと上半身を起こし、辺りを見回してみる。
すると、学校外部の様子が見える開かれた一角より、山が見えた。
普段の学園であれば決して見える事無き、其処に在った筈の物と異なる岩山が。
よろりと立ち上がる。
ついでに背中やズボン、自慢の紅黒色の髪も払う。
もう一度同じ方向を見れば、学園の外には荒野が広がっている事が見て取れた。
岩肌覗く山脈は、その遥か先にある様だ。
「…………」
いや待て、落ち着け、落ち着くんだ謌談 律門。
俺は魔王だ。俺は嘗て、幻界にて『魔王の一人』として恐れられた存在だ。
これ位の異常事態や危機には幾つも対応して来た、王たる存在だったろう?
……国民は、俺含めても六人。内四人が半分幽霊みたいなモノではあったが。
色々と確認しておきたい事がある。
《反響探知》で、ある程度の所まで視ておくか。
でもしなけりゃ、『此処が俺の知る異世界』か否かすら判じられんしな。
魔素が豊富な剣と魔法の世界――『幻想世界』か、否か。
やや視線を落とせば、数秒前の俺と同じ様に倒れ臥したままの連中や、既に起き上がっている者、あとは襲撃者たる魔獣共の死体が散乱した校庭が視界に入る。
魔核は……ふむ。魔獣体内の魔石は、大方回収出来ている様だな。
咲和が指示通り、しっかりと全て集めておいてくれたのだろう。
相方にあの戦乱の最中わざわざ魔石回収までも頼んでおいたのは、特撮地球ではああ言った特殊な資源があっさり『悪の組織』等の犯罪組織や一般人の手に渡り、結果悪用や大事件に繋がる事案がしばしば発生しているからだ。
何故かああ言った重要な物程、悪い奴等の手に渡り易いからな。
そんな訳で、下手な奴が手にする前に、さっさと集めておいた訳だ。
「ごっ、ご主人様ぁあ〜〜っっ!!!」
背後より迫る、涙声含む甲高い叫び。
どんっと背中に走る、柔らかめな衝撃。
鹿角の一部が、俺の肩口脇より飛び出す。
涙で顔をぐしゃぐしゃにした咲和が、俺に飛びついて来た。
「おう」
「おう、じゃありませんよー! 心配しましたっ! あっ、いえ、ご主人様の強さは特に心配してないのですがっ、それでも、それでも〜……っ!」
「あー、済まんな。まともに受け身も取らず墜落してたっぽいしな」
魔王時代で鍛えた俺の体、めっちゃ頑丈だからな。
学校の屋上から飛び降りた程度の高さじゃ、大した怪我も負わんのだよなぁ。
気絶した時には、《妖饗奏曲》と“鱗”で、身体能力強度共々更に上がってたし。
故に俺は、今もピンピンしているっつぅ訳だ。
「あ、汚れてますので綺麗にしときますねっ。《浄化》」
中級生活魔法の《浄化》は、認識した“不浄”な対象を“指定範囲”より排除して、綺麗にすると言う使えると便利な物ではあるが、混成属性の上効果が効果な為に、難易度としては若干難しい術でもある。
魔法が苦手な行商人や冒険者、魔力を温存したい魔導師等は、《浄化》の魔法を付与した魔導具を携帯している人が多く、需要も高い製品となっている。
ま、魔法を使えても付与が出来ず製品化出来ん事もあるし、製造は作る所でされている“商品”だから、一般人が金稼ぎにとか、んな真似は出来ないんだがな。
「サンキュー、咲和」
「えへへ、どういたしましてー」
抱き付いた時に汚れが付いたであろうが一緒に浄化したらしく、戦闘に参加したとは思えぬ位清潔な状態になっている彼女の方へ見向き、少女の頭を撫でつつも、今後の事を考える。
探知の結果、興味深い事が幾つか分かった。
その内容を咲和と共有しようとした所で、校内放送が流れ出す。
『高等部一年クラスA、謌談 律門。高等部一年クラスA、謌談 律門。至急、学園長室へ来る様に。繰り返す。高等部一年……』
相変わらず、情報収集も対応も早ぇよこの学校。
明らかに、“此方”の事情知ってるって事で俺呼び出してるだろう。
んで『襲撃者の正体』並び『この世界』について訊かれるんだろうなぁ。
はぁ、もうヤダ疲れた。
「咲和、一緒に行こうぜ」
「はいっ!」
左腕に抱き付いて来る咲和。
彼女がしっかり俺に接触している事を確認してから、座標も確認。
広大な敷地面積を誇る『異能学園』は大きく円形に見るとすると、敷地の半分を中等部と高等部、もう半分が大学部となっており、外側が校庭や野外の施設、次に各学科の教室や特別教室棟、続いて普通教室棟、各棟おきに中庭を挟む等し、学園中央部にて学園の運営陣の部屋や下部には食堂等の共有空間、教務室や上階に学園長室等が並ぶ……と言った構造をしている。
要するに、学園長室まで行くには、此処からではそれなりに時間が掛かる。
なので、魔法を使い易いこの世界ならではの、ちょっとした抜け道を使う。
「《転移》」
中級空間魔術にて、学園長室の前まで飛んで行った。
やっぱ楽出来る時に楽しとかないとな。うん。
× × ×
「失礼します」
ノックをし、所属を名乗り上げた後『入れ』と言われた為、重厚な扉を開ける。
当然の様に追従し、俺と共に学園長室へ足を踏み入れる鹿角の少女。
しかし、学園長はそれを咎める事無く、静観し続ける。
それ以前に……“此方が見えているか否か”すら“判らない”のだが。
何故か?
学園長の席と思わし気場所を中心に、幾つもの長方形の画面――青緑色の光にて構成された立体映像が浮かび、回って、彼、乃至は彼女の周囲を取り囲んでおり、時折その隙間よりそれらしき人物の影が見えるだけだからである。
“普遍地球”出身の俺からすれば、物凄くSFチックな光景だ。
『やはり、其方の娘も連れて来たか』
との声も雑音掛かっていて、性別も年齢も判別する事は難しい。
何て言うか、学園の長と言うよりは、“秘密組織の頭”と言った方が納得出来る。
ほんと何者なんだよこの人。あと何なの、この部屋のSFな内装。
『さて、此処に君……いや、君達を呼んだのは他でもない。君達は先程の襲撃者、並びに……この世界について知っているのだろう? 残念ながら、学園側は今まで、この世界について“は”観測した事が無い為に情報が皆無に等しい。故に、迅速なる調査、加えて聴取が必要でね。……無論、話してくれるだろう? 『魔王』殿』
ちっ、やっぱりこうなったか。
まぁ別に敵対している訳でも、隠すべき様な情報でもないし、寧ろ早急に共有化しておいた方が色々と都合が良いだろう。
今後続けて、『異能学園』と言う施設を利用するに当たっても。
だが、俺とて“この世界”に関し話せる事は限られている。
寧ろ全盛期には、容易に人里と関われる様な事が無かった為に、色々と常識方面等に関しては抜けているだろうと思うしな。
第一、少々『想定していた物と違って来ている』が故に、余計に俺が持つ情報が役に立つかが、些か怪しくなっている事もある。
だからこそ俺は、先に一点忠告しておく事とした。
同時に、俺にとってはかなり重大な、一つの『事実』を。
「話す事は別に構わんのだが、先に言っておく事がある。……簡潔に“この世界”について話すならば、『剣と魔法の幻想中世風世界』と言った所なんだが……」
―――俺が居たのは、少なくとも“数百年前”の、この世界だ―――。
長き時による変化。
“今の”この世界は知らないと、画面越しの人物へ告げる。
俺が異世界転生中に、嘗ての異世界は、確かに変化していた。
× × ×
学内を、ぶらぶらと歩き回る俺と咲和。
全体的に中世風や戦国時代風の文化に、魔法と言う要素が加わる事で近代兵器に匹敵する、場合によってはそれ以上の技術も存在する事や、先に襲撃して来た魔獣共に似た、と言うより彼等がしっかり理性を保ち文明社会の一種族、知的生命体が一人として認められ交流している『魔族』が存在する事、魔族の他にも『獣人』や『妖精』と言った“亜人種”が人間の他に存在する事等を学園長に提供した俺達は、さっさと中央棟上階を後にした。
無論、今回の件が俺に要因がある可能性が高い事も話したのだが、何故か画面の向こうに座る人物はただ『そうか』と言い流し、『ご苦労。また他に何か、有用な情報が手に入り次第、担任や此方に報告してくれ』と言い放った後に、あっさりと退室を許可されて、今に至る訳である。
ついでに、別れ際に学園長が此方に投げ渡して来た物を見る。
長方形の一枚のカード。其処には、咲和の名と顔写真、高等部一年Aクラス所属である事等、“学園の生徒である事を証明する情報”が記載されている。
要するに、何時の間に作られたのかは知らないが、学生証を渡されたのだ。
なので今、彼女も堂々と学内を歩き回れている。
……何だか、学園側に借りばっかり作ってて、後が滅茶苦茶怖いんだが……。
「そう言や、幻肆奏将は何処行ってんだ? 俺帰還させた記憶無いんだが」
「えっと、皆さんなら“帰りました”よ?」
「ん? 何処に?」
「“特撮地球の”私達の家に」
「へ?」
何? 帰れんの?
てか、えらいあっさり世界渡りやがったな彼奴等。
「ああ、私が先の戦いの最中で『孔』を解析し、それを元にお一人様用ではあるのですが『異世界接続』用の『門』を開発してみたんです。で、上手く行ったので、家の事色々途中で放り出しちゃった皆さんが『家の片付けしてきたい』と言ってたのもあって、四人全員向こうの自宅へと送る事に……」
「マジか」
流石だな俺の嫁。
種族傾向的に魔法に精通してるものあるし、異能で一部系統が突出しているから名乗らないものの、多種多様な系統魔法を魔法使いの最上位『魔法師』名乗れる程使いこなせたりもするしな。
実際に『異世界接続魔法』見りゃ、そりゃ似た様なの作れるか。
やはり流石としか言い様が無いだろう。
「凄いな。流石俺の咲和だ」
繰り返し思った事を思わず口に出してしまう俺。
俺は己の言葉にピキッと固まり、咲和はピピッと止まる。
ぐんっと此方へ振り返りつつ満面のきらきらした笑みを浮かべる少女。
今にも飛びはしゃぎ回りそうな彼女を抑えるべく、人質に刃を突き付ける犯人を宥める警察官かの様に両手を前に出すも、内心の動揺が現れる様震えている両腕。
そんな両手をがっしり摑み取った彼女は、ぶんぶん腕を振りながら声を上げる。
「よよよよよ嫁で良いとですかっ!?」
「あ、ああ。てか今更だろあと落ち着け」
「だだだって! 一応魔王軍の皆さんだけで小さな式は挙げましたけど神父さんとか居る様な正式な物は幻界ではやってる暇ありませんでしたしっ、地球に来てからもやっぱりする様な素振り無くって、私ほんとにご主人様のお嫁さんだって胸張っても良いのかなぁ、って、心配になってぇ……」
やばい、めっちゃ泣きそうになってる。
「すす済まんっ! 済まんかった! いや、ほら、地球だと俺等まだ外見年齢やら、現地での所属組織からしても正式な結婚はし辛い所で、中々決心が付かんでな……やっぱ、来てから直に結婚届だけでも出しときゃ良かったか……?」
「……っ、いえ! 此方こそごめんなさい、です。無理言ってるのも分かりますし、ちゃんと一緒に余裕出来た時に上げるのが一番とも思います。ただ、正直あの式を挙げた後からも、余りお嫁さんっぽい事出来てませんし……そそその、い、一緒に寝たりとかもっ、まだしてないですし……」
「……ぐふぁぅっ!?」
盛大に咽せた。
あの、あれだ、うん。
添い寝位はしてるからそっちの“寝る”だとして、直球過ぎるもんだから揃って顔真っ赤にしてるが少々冷静に考えさせて貰うとするとだ。
其処ら辺の事は、学業に勤しむと言う比較的のんびりした生活を送る今であれ、 あの戦乱の世の中であれ、ちゃんとした式挙げた後の方が良いかと思ってだな……うん。……万が一の時に動けなくなっても大変だしな。
まぁ要するにあれか。
咲和は『繫がり』がちと薄いんじゃないかと感じてしまってるんだな。
んで、ちょいと焦りが出てると。
……たく。そんな事、全くないっつぅのに。
可愛い焦りを見せる彼女にしっかり俺の思いを伝える為に、右手を伸ばし彼女の頭の上にのせ、軽くぽんぽんと撫でながら口を開く。
「大丈夫だ。お前だっていつもやれる事精一杯やってるのは分かってっし、第一、俺はお前が居るだけで色々と満たされるから、無理にあれこれしようとする必要もない。あと、それ以前に……今も昔も、お前は最も背中を、俺の隣を任せられる、最高の相棒だしな」
「最高の、パートナー……」
「オマケにその相棒が嫁さんとくりゃあ、男冥利に尽きるってもんさ」
人生大勝利っつうな。
どうだ非リア充共、羨ましかろう。
因みに先の会話で分かる通り、俺は未だに『魔法使い』である。
このごたごた色々片付いたら、咲和と二人してゆっくり過ごしたいものだ。
……おい。“ゆっくり”の中に意味深な妄想勝手に付け加えんな。
真面目に此方は怒濤のラッシュで疲れてんだよ……。
「はいっ!」と喜色を全面に出した笑顔で、片手を繋いだまま俺の横へ移動し、再び廊下を歩き出す咲和と、少し彼女に引かれる形で追従する俺。
ああ、やっぱ此奴と一緒に居れて良かった。
彼女の爛漫とした一挙一動に苦笑を浮かべながら思う。
そんなこんなで、俺等は高等部一年A組へ向かい歩を進めて行った。
× × ×
教室後方窓脇、最も窓側から咲和、俺の順で並んで座り、咲和に関し同級生から嵐が如き数多の質問をされる中、校内放送が流れ出した。
どうやら、学園運営側で今後の方針が決定した様だ。
内容は以下の通りだ。
曰く、学園全体が元の世界に戻れる目安が立つまで暫し授業は休止するとの事。
曰く、その間生徒達には現地の人々との伝手を作ったり、情報収集に勤める事を推奨するとの事。但し、学園行事毎には必ずこの学園へ『帰還』する様に、とも。
総じて、此方に居る間は学園を『本拠地』とし、生徒含め『一組織員』としての行動に勤める様に……そんなお達しが、全校生徒、並び教職員へと言い渡された。
「おい律門。お前これからどうすんだ?」
バトル系の少年漫画かラノベの主人公でも勤めていそうなイケメン――現在は、 覆面騎手を主に勤めている男子生徒、冒皓 大晴が俺に問い掛ける。
五段警棒を差し込んでいる、変身装置を筒状に圧縮したホルスターを腰に下げた姿が妙に様になっているのが少々ムカつくのだが、外面はともかく、俺と相対する時にはイケメンらしからぬ残念さを見せる為、まぁ気軽に付き合える貴重な相手、悪友とも言える同級生である。
「俺等は一先ず、次の学校行事までは此処離れてる予定だ。幾つか行っておきたい所や、やってみたい事なんかがあるからな」
「そうか。ま、俺は取り敢えず……噂の“冒険者”とやらになってみるぜっ!!!」
「おー、頑張れよー」
彼の言葉に適当に返事を返しておく。
間延びした俺の反応に「なんだよノリ悪ぃなー」と愚痴る正義漢モドキ。
だってお前、“お前の能力”と“武装”がありゃ、楽勝で冒険系成り上がりテンプレストーリー展開するに決まってんじゃねえか。
んなイージーゲームなんざ応援する気にもなれんわ。
等と内心で呆れ愚痴っていた所、当人より再び質問が出される。
「んで、行きたい所っつぅのは? 第一目的地点だけでも聞いときたいんだけどよ」
「何でお前に話さにゃならん。まぁ言うが……強いて言えば、昔の拠点だな」
「昔の? つまりお前が魔王時代の……。……! まさか、俗に言う“魔王城”とか!?」
「そんなもんだな。とは言え、あくまでほんの一時しか居なかった極一時的な拠点ではあったんだが……調べてみたら、此処ぁその近くっぽいんだよな」
俺が此処を『魔王時代より数百年進んだ同世界』であると判じたのは、知ってる土地や建物が幾つか確認出来たからなんだよな。
此処いらの地層構造や大地の形、俺等が嘗て拠点として使っていた“古城”の老朽具合、とか其処らを音響技術使って調べてみたら、経過年数が大体分かってな。
流石に範囲が滅茶苦茶広かったから大雑把な物になったが、それでも多くの情報構造を知る事が出来た。
故に、後はそれ等がどれだけ変わったか詳しく調べるべく、直接探査しに出掛けたいと考えている訳である。
「俺も見てみてーなぁ。ま、食い扶持確保して余裕出来てからにすっかね」
「それが良いだろうな。この学園のこったろうし結構早めに帰還法なんぞ編み出しそうだが、その間最低限の衣食住以外の資金も集めといた方が色々安心だろうし」
備えあれば憂いなしってな。
あと、この学園に限って可能性は限り無く低いが、此処に骨を埋める覚悟を決めかねん場合も、有り得ん事ぁ無いと言うのもある……。
「じゃ、俺ぁ先にオサラバするわ。お二人さん、元気になぁ!」
まるで今世の別れ際みたいな言葉だな、と思いつつ片手を上げ彼を見送る。
俺等の席から離れ行き、一人飄々と教室の外へ歩み出て行く大晴。
そんな彼の姿を見、慌てて駆け出すツインテールの女子生徒に、その様子を見て面倒くさそうに彼女を追い掛ける髪で片目を隠した少女。あと、三人の一部始終を見て、同じ方向へと足を踏み出す眼鏡の青年。
……うーん、流石イケメン。美男美女をよく惹き付けるぜ。
「さぁーてっと。俺等もさっさと出るかね。……咲和、『門』は何処からでも開く事出来るのか? それとも俺が《幻肆奏将》奏でて喚んだ方が早いか?」
「何時でも展開可能ですっ。帰宅したい時には言って下さいねー」
「あいよ」
さてさて。では、『幻奏の魔王軍』、いざ出発!
ってな。
× × ×
「《幻奏響-響撃》より――《震衝波》」
「てぇええいっ!」
『『『『『ギシャァアアアッ!!?』』』』』
円形に牙が並ぶ人間大の大口を開く円筒形の怪物達が、突如彼等を襲った大きな地の揺れにより体勢を崩され、地面より突出したその身を次々倒して行く。
威力は《響撃》以上、《館崩至》以下であるこの技で十分な様だ。
其処へ咲和が俺の《妖饗奏曲》より作った異能武具《鱗錠鰐鎖》の、片方の鎖を伸ばし振るい――怪物達を、一刀両断して行く。
大量の体液を撒き散らしながら命をも散らすのは、戦役級の魔獣“砂大蚯蚓”。
砂色の巨大な蚯蚓の怪物みたいな物だと思って貰えれば良いだろう。
地中を掘り進む此奴等は、割と色んな所に地面より出現する。
特に、砂場や地肌がむき出しになっている所では。
現在地は、転移当初に俺が居た校庭とは正反対の方角、大学部側の校庭方面へと真っ直ぐ突き進んだ先の荒野真っ只中である。
後方に見えるのは、既に拳以下の大きさにしか見えぬ学園と、広大な剥き出しの地肌に、それ等を遠方で囲む岩山。
俺が行こうとしている先は正反対をも囲む岩山の一部の麓、中でも辛うじて枯れ木やほんの少しの緑が集まっている薄めの山林地帯となる。
その、瑞々しい色合いに乏しい灰色の林に囲まれた、一つの古城。
ゴシック建築の中でも装飾の少ないシンプルな外見ながら、荘厳な威圧感を発しているこの古びた城こそ、俺が魔王時代に利用していた拠点の一つだ。
此処へ向かう為荒野を疾走していた所、途中先程始末した魔獣達に遭遇した為、此処らの魔獣の平均脅威度を確認する事も兼ねて応戦していたと言う訳である。
駿馬かそれ以上の速度で、戦闘地点より更に走る事十数分。
漸く目的地に辿り着いた俺達は、嘗ての面影を残しつつも史跡の様に荒廃が進みつつあるこの大きな城を見上げていた。
「懐かしいですねぇー」
「相変わらず、二人で住むにゃやっぱデカ過ぎる所だよなぁ。六人でも同じく」
何をとち狂ったのか、当時の俺達はこれを牙城とし、幾人かの勇者や高ランクの冒険者、暗殺者や戦闘好きの魔族等を迎え撃つ日々を少しばかり送っていた。
暫くした後、敷地面積が住人達に対し大き過ぎる事等より引き払い、結局別の、此処よりこじんまりとした拠点を拵える事となったのだが。
「さて。んじゃ早速だが……」
脇の彼女に宣言する様に、久し振りの幻界における『第一目的』を果たすべく、一歩踏み出しながら、こう呟いた。
探索、開始するとしますかね。
× × ×
某日某所。
とある一室。
其処には、計七名の“影”が集っていた。
「すまぬ、遅れたな」
「全くです。第一集合時間前に集まる事は組織所属者として当然の」『クィヒッ! お小言はそれ位にしてよぉ、さっさと始めよぅぜぇい?』「全くだにゃ! にゃあはまだ寝たりないのにゃぁ〜」「ひ、ひ、ひ。これ、小僧、寝るでないぞ」「あー、別に寝てねぇよ……コレはアレだ。待機状態と言うやつだ、うん。あと俺小僧って身なりでも無ぇだろ」『いや〜相変わらず集えば集う程賑やかな面子ですねぇ!』
一人の大柄な人影に対し、各々言いたい事を述べる六名の影。
一方最後の来訪者は、場を緩めた責任を取らんとばかりに怒声を上げる。
「儂が言えた事ではあるまいが……静まれぃっ! これより魔王様のお言葉を頂く! 皆、心して己が身に刻み込む様に!」
彼の一喝により、ピンと張り詰めた空気に戻る一同。
直後、入り口と反対側の壁に、大きな光が灯った。
円形の内に、大柄な人影が映り込むと言う。
学園襲撃者に、よく似た背格好の。
『……我、『傲義の魔王』――“アロガンス”より、皆に命じる……』
幻奏者達の影で、何者か達が、本格的に蠢き出そうとしていた。
主人公が与り知らぬ場で、動き出す者達。
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