003「幻奏魔王は戦闘職者と喧騒奏す」
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前話の様な半端者では無い、『本職達』との狂躁。
『相手』の思惑に乗り、此処まで来た。
そろそろ、状況からして好い加減襲撃を仕掛けて来る頃合いでもあるだろう。
だが……先手は譲らなくても、良いよな?
では、始めよう。
「《噪波》」
足下に衝撃波を放ち、一瞬で電柱を超す高さまで跳躍する。
――尾行者全員の姿が、確認出来る高さまで。
「《鳴刀》」
両手を手刀の形にし、それを最も離れた“二人”へ放つ。
「なっ!? ま、『展装』ッ!」
「チッ、《電磁能力》」
透明ながら、『刃の様に鋭い衝撃波』が放たれた事が“空気の歪み”により判ったのか、片方の女は慌てて鍵型の『展具』を用いて碧色を基調とした“覆面騎手”へと変身し、大体正反対の位置に居た帽子は被らずとも如何にも海外マフィアと言った姿の男は“超能力”を発動し『自らを雷と化して』俺の攻撃を回避する。
双方が一瞬前まで居た場所に、鋭い擦過音と斬撃痕を残しつつ。
それにより、他の尾行者達も俺が“全員”に気付いている事に気付いたのか、各々物陰より姿を現し、行動を開始した。
『……『展装』』
「ィヒッ、『戦隊登場』――ッ!」
「……構え」
「「解放」」
元より如何にも下っ端戦闘員の様なシンプルな衣装で全身を覆う男。
サングラスに立ち襟の上着を着るチャラそうな嗤う男。
金髪碧眼にニット帽とジャケットと言う一見好青年そうな狙撃銃の男。
それに、怪人特有の本性を現す際の掛け声を唱える男と少女。
先に、それぞれが“何”か確認しておくか。
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・霞水 矜
† 女性:覆面騎手『翠泉』:161cm
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・愚打 眷磁
† 男性:超能力者《電磁能力》:179cm
※備考:僅かに《空間能力》も保有。
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・戦闘員176号
† 男性:戦闘員/覆面騎手『骸樹』:174cm
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† 男性:戦隊戦士『咲命桑狐』:175cm
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・ヴァルドゥス=ルダーリオ
† 男性:掃除人/武装『銀鴉の双嘴』171cm
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・鋼犀怪人:男性:183→336cm
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・樹蛛怪人:女性:153→253cm
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……っておい、一人あからさまに怪しい奴居るじゃねぇか!?
名前は恐らく和名か中華方面だとは思うが……いや、それ以前にだ。
――何で、此奴からも“魔力”を感じるんだ……?
此奴もっつぅのは、魔力の質、魔力より分かる『魔衝紋』っつぅ指紋や声紋みたいな物があるんだが、それがこの『結界』の作成者と異なるからだ。
その『作成者』自体は、魔力の扱いに関しては俺より長ける筈の咲和でさえ探知出来ない程、魔力の扱いに長けた奴である事は分かっている。
だが、この名無しの狐は其奴とは別に、“何故か魔力を持っている”訳だ。
それも、俺の対象の情報を調べる半異能にすら入る高度な魔法、《理通眼》すら弾く様な、そして此処に至るまで“魔力を持っていた事自体”に気付けなかった程の魔力操作技術、並び魔法による情報隠蔽に長ける“実力”も持って、だ。
……そもそも魔法を扱う事すら無い、研鑽のしようが無いこの世界の中で。
まぁ、それは置いておくとしよう。
下の二人は、恐らく元より怪人で『人間に擬態していた』タイプの奴等だな。
人間から改造された者ならば、末端でも人間時代の名が表示される筈だ。
属に言う“悪の組織の戦闘員”である176号とやらは、量産型の人造人間だろう。
これは、魔法技術でも俺からすれば超科学に当たる技術でも造れるからな。
そんな悪の組織の一員が何故『覆面騎手』になれるかと言えば、そもそも彼等の変身用具たる『変身装置』は、元々『覆面騎手』の先輩が組織から逃げ出した際に持ち出した物――彼奴等の開発した発明品であり、だからこそ恐らく覆面騎手系の組織の戦闘員たる彼も、当然ながらそれを配備されていてもおかしくない訳だ。
『異形化せずとも世の『怪人』の様な力を発揮する為の装備』ってのが、本来の『変身装置』開発の目的だったらしいしな。人造人間や、洗脳、記憶操作した人間やらを人外化せず強力な兵士にするにはどうすれば良いか?何てコスト削減の考えから、覆面騎手系列の犯罪組織が作ったとか言うし。
そして、こんな奴等の中に《理通眼》で『洗脳状態』と表示されていない矜や、『咲命桑狐』と言う『変身超人』も平然と混じっているかと言えば……此奴等が、『政府に登録された正式な超人ではない』者達であり、金さえあればどんな者からでも、如何なる依頼でも受ける傭兵的存在であるからであろう。
眷磁やヴァルドゥスに至っては、ほぼ傭兵その物みたいだしな。
こうした非合法な襲撃とかに組する様な超能力者や、明らかに自衛の域を超した武装を持った奴が政府側の組織に属している訳が無く、『掃除人』に至っては政府から依頼を受ける事もあれど、『証拠の始末から暗殺、組織の解体まで請け負う』っつぅかなり怪しい“始末人”的戦闘職者だし。
ってか、こんな奴等揃えやがって、奴さんは何を考えてるんだよ。
一般人に向けるなら過剰戦力も良い所だぞ?
それでも、これだけの戦闘職者、一個人に向けて良いもんじゃねぇだろ。
……まぁ、だからこそ。『相手は俺を知っている』可能性も高いんだが。
―――一人で全員、相手取れると言う事実から考えて。
自然落下により俺の足が地に着くより先に、鋼の装甲を纏った“二足歩行の犀”の様な怪人『鋼犀怪人』と、無機質な面と肌から成る人型の花や蔦を纏う上半身に、緑の植物からなる大きな蜘蛛を模した下半身の怪人『樹蛛怪人』の二体が、猛然と此方に向かって迫り来る。
邪魔なので『技』を放とうと思った瞬間――。
「……撃て」
離れた路上の角から、狙撃銃を持ったヴァルドゥスより弾丸が放たれた。
校舎内での乱闘時と異なり此方はしっかりとした実弾ではある。
風音を立てて迫る、相手の凶弾。
が。
「《響爪》」
これに対しても、左腕に振動を纏わせ……“不良相手の時よりも”振動率を上げた状態で払う事により――弾丸を斜めに弾き受け流す。
キィンッ、と鋭い音を立て後方へ“弾かれた”弾を見、目を見開く青年。
ついでだ。お返しをしよう。
「《廻導》《拡爆》」
この『弾いた際の音』を誘導、拡大する事で……。
「《響撃》」
指向性を持たせ、鋭い音の砲弾としてみようか。
―――ギィインッッ! と耳を劈く音を響かせながら、銃弾より大きく、砲弾より小さい紡錘形に近い“歪み”が狙撃者に向かい放たれる。
それに気付き、少しでも軌道から外れようと横へ駆け出すヴァルドゥス。
音速のそれに発射とほぼ同時に動く事で避けるその反射神経は賞讃に値しよう。
だがな。
今回の《響撃》は、追尾弾なんだよ。
スローモーションの景色の中、ゆっくりとその矛先を青年が避ける方向へと修正して行く、鋭い衝撃波の塊たる砲弾。
青年がそれに気付いた時には遅く……。
穿たれ、血飛沫と共に俺から距離を離す形で吹き飛んで行った。
その光景に、思わず一瞬足を止める二体の怪人と、碧色の外装を纏う矜。
他の三人は流石と言った所だが、此奴等は駄目だな。
これで『隙が出来た』のだから。
「《拡爆》《鳴刀》」
先の《鳴刀》より振動率を上げ、切れ味を強化した音の刃。
それを、右手、左手、左足を身体を回転させる様に払う事によって……三方向に向かって、放った。
無論それ等は、唖然としていた怪人達と、碧色の覆面騎手へ。
そんな彼等には抗う間も無く――身体を両断とまでは行かずとも、深く一文字に各々の胴が切り裂かれるに至った。
そして、怪人達が吹き飛んだ事により空けられた空間に着地する俺。
(……この怪人達ゃ、比較的普通の生物に近い体構造してるみてぇだな)
地面に散らばる赤い飛沫を見て、ふとそんな事を考える。
其処へ、迫る影。
『ヒヒャッ、《桑狐凶爪》ッ』
「《電磁能力》」
『……《骸樹濫》』
薄い胸当てと黄土色のライダースーツを着、狐を模すフルフェイスヘルメットを被った男が、大きな爪を模した獣の拳型の刃物を振るう。
雷を纏い、雷と化している男が、目前で片手に雷を凝縮し放とうとしている。
アスファルトすら“腐食”し穿ちながら迫る暗色の樹木の様な物が、やや禍々しく毒々しい覆面騎手と化した少し離れた位置で片膝突く男より放たれている。
……ふむ、ならば。
右手の中指と、親指を合わせ。
「《拡爆》」
指を鳴らすと同時に、その音を一気に増大させた。
俺の身は通り抜け、俺を中心に広がる波紋状の衝撃波。
発生地点の足下を少しへこませ、罅を広げる程度には威力の高いそれが――間際まで迫っていた二人の男と、毒々しい樹木達に激突した。
『ギャヒッ!?』
「――ァガッ」
声を上げ吹き飛び行く男達。
樹木の方は、触れた箇所より“粉々に”なって後退して行く。
二人が地面に叩き付けられた頃、176号は樹木の消滅具合から衝撃波が勢いを尚衰えさせず迫っている事を察知し、上方へ逃げようと飛び退く……が、『球形に』広がっていた衝撃波から逃れる事は出来ず、彼もまた吹き飛ばされた。
『――ッ!』
先の二人より高い位置より地に叩き付けられ、声ならぬ声を上げる戦闘員。
さて、残りの二人は……。
地に落ちると同時に受け身を取ったらしく、体勢を整え、各々反対方向から俺に向かって駆けて来る所であった。
「《電磁空間能力》」
先手を打ったのは、黒いロングコートとスーツに身を包む超能力者の男。
二つの能力を合わせ、俺の間際に出現した“空間の罅”より電流が溢れ出す。
「《噪波》――《拡爆−残響》」
対する俺は、その罅と身体の間に威力を増した衝撃波を、《残響》と言う『音を留める』技を用いて透明な障壁の様に固定する事で、相手の雷を防ぎつつ振動波によってそれを散らした。
その様子を見て再び雷と化し、俺の本来視界外に当たる屋根の上に移動する黒服纏う|眷磁《けんじ
》と、ザッと軽く片足でブレーキを掛けつつ大きな爪を携える両腕を後ろへ引き――それを勢い良く前へ振り抜く狐を模した戦隊戦士。
「キヒッ《桑拾切》ッ!」
黄系の光から成る三日月形の斬撃が爪より形作られ、計十のそれ等が此方に向け一斉に高速で放たれた。
アスファルトに深い爪痕を残しながら迫る、十の軌跡。
だが。
「無駄だ。《鳴刀−拡爆》――《超音波震》」
超音速時に発生する衝撃波を、手刀と共に擬似的に再現。
扇状に広がる刃の様に指向性を持たせたそれは……飛来する桑色の刃達と各々が十字を描き交わり、双方を巻き込む様にして消滅させた。
……本来なら、そのまま『刃』を相手に届かせる積もりだったんだが。
思ったよりも、あの爪による技は威力があったみたいだな。
学園内で応戦した戦隊戦士『楝鴟』と異なり、此処に居る彼の呼び名が四文字と成っているのは、彼が『咲命戦隊』と言う『戦隊に所属』しているからである。
『咲命戦隊』――それは、戦闘職者の界隈では有名な、『仕事を選ばぬ』と言う半犯罪者に位置する危険な戦隊戦士の一隊。
『戦隊』でありながら全員が集まるのは稀で、普段は各々が主に『裏の仕事』を引き受け、並の戦隊戦士“以上”の実力を持ってそれ等をこなす、全員が警察機関や『超人協会』より警戒されている“危険人物”に当たる。
そんな一員故に、例え名が伏せられて無かったとしても十分警戒対象と成り得た相手なのだが……此奴、まだ“何か隠して”やがるな。
魔法の方は、恐らく露見した後の影響を考え使う可能性は低い。
使ったとしても『異能』として誤摩化しの効く範疇であろうし、第一『戦隊』の
一員として名が売れている以上、『装甲の機能以上の事』はそうそうにしてこないだろう。変身超人と言うのは、『武装を自ら顕現する異能を持つ者』か、『異能を顕現する武装に適合した者』の事を指すのだから。
が、そもそも裏稼業に関わっている此奴は別だ。
行いにより戦隊ごと協会から『破門』されている為、最早『協会の定める制限』から外れた『違法改造』も行い――先の技の様に予想以上の威力を見せる技をも、平然と使って来れる輩であるが故に。
それと……さっきから生き残っている超能力者の、愚打 眷磁。
此奴も、今まで聞いた事こそ無かったもののかなり厄介な相手だ。
雷と化す、それこそ光速に近しき移動法もそうだが、何より厄介なのはまだ多用して来ていないもう一つの方――『空間能力』。
狐の爪を凌ぐ前に対処した、彼の“罅”。
あの罅こそ『空間を割った』際に生じた物であるが、あの大きさを見るに『首に向かって“空間切断”も使える』程度の空間操作能力は持ってそうなんだよな。
しかしだとすれば、だ。
……何故、未だに“それ”を使って来ない?
『空間切断』とは言わば、『空間その物を分割』する事により発生させる『防御不能な切断攻撃』である。
言うなれば、“一撃必殺”。
詰まり、さっさとそれを使っていればこの“仕事”は終わっていても可笑しく無い筈であり、ともすれば……『終わらせない何らかの“理由”』が、あるのではないだろうか? そう、例えば……。
あくまでこれは、俺を害する事では無く――襲撃その物が、目的である、とか。
それによって得られる物はなんだ?
『戦闘能力』と言う『情報』?
『対処』から見られる『思考パターンの割り出し』?
逆に、俺と言う『脅威』に対処する事による『襲撃者側の実技試験』?
ああ、クソッ。
情報が少な過ぎて相手の目的が割り出せねぇ。
とにかく今は。
「ぶっ倒す」
全員な。
『《翠泉湧扇》――《斬流雫》ッ!』
視界外を『反響を利用した“音響探知技術”で“見続けて”いた』為、色が見えぬが故に血飛沫だと勘違いしたそれが、身体を一時的に“水へ変換”する事で避けていた碧色の覆面騎手の、半透明の鉄扇の刃を分離し放つ攻撃も。
『《骸樹濫》』
今度は俺を取り囲む様、四方八方から伸びる“腐食の樹木”を放つ戦闘員も。
「《電磁空間能力》」
俺の周囲に複数“罅”を展開し雷を放とうとする黒服の男も。
「……撃、て……ッ」
止血し再度狙撃して来た、掃除人の青年も。
――全部纏めて。
「《嗤忌宴》」
鳴り出す、鳴り出す。
楽器一つ無く、頭の中に直接聞こえ。
『楽曲』が、響き出す。
それが“奏でられ”出した途端――。
「…………」
全ての攻撃は止まり。
襲撃者達は――皆一様に倒れ臥した。
後に残るは、狂騒的雰囲気の、幻想と和風を伴う『前奏』のみ。
……さて、『襲撃者』は片付けたが……『首謀者』は何処に居るやら。
魔力の痕跡が掻き乱された上で本人の魔力も隠蔽され、物の見事に『巻かれた』と言う事も分かる。
何せ、戦闘能力等の『確認』が目的ならば……。
「流石に、もう此処には居ないだろうからな」
此奴等が全員倒された時点で、“目的を達している”筈なのだから。
記憶の方から調べられないかと倒れている奴等に『記憶を読む』生体等を対象とする『無属性魔法』を使用してみたが、それでも相手の情報は得られなかった。
電子端末の方も同じだ。
ま、これだけ魔力操作に長けた輩が早々に証拠を残す訳無いわな。
「取り敢えず、この辺りはその手の専門機関に任せるっきゃないかね……」
嘆息し、歩き出す。
如何に魔法での隠蔽が得意と言えど、国家組織等となればそれを破れる『異能』保有者やら『異能を持った機器』があるのではないか、と僅かな希望を持ちつつ。
そうして俺は、後始末を警察か他の超人に任せる事とし、再び帰路に就いた。
× × ×
紅い長髪を揺らし、少女の様な青年が後にした現場より、やや離れた電柱。
その上に止まっていた『鴉』が紅い目を光らせ――呟いた。
『……見込ミ通リ』
ノイズ掛かった、響きを残し。
× × ×
翌朝、相変わらずの晴れ間とも曇りとも言えぬ微妙な天候の中、HRの教室へ。
常人には無視され、変人からは集られ気味ないつも通りと言える時間を過ごした後、一時間目はそのままの教室で授業を受ける。
続いて二時限目が過ぎ、別の棟に行く必要があった為、教室を移動した後に三時間目に入った。
その時の事だ。
ビキリ、ピシ、パキッと、何かが割れるかの様な音が、外より聞こえて来る。
音の発生源へと目を向ける。即ち、窓の外、校庭方面の“空の方”へと。
其処には……ロカが姿を現した時に似た、そして昨日の襲撃者が空間能力を用い形成していた空間の裂け目に似た……しかし、あれ等より遥かに規模が異なる、大規模で非常に不自然な光景――大きな亀裂が走っていた。
中央を、猫科の瞳孔の様に、細く真っ二つに分つ、波打つ黒い溝。
其処より左右へ広がりつつある、細く枝分かれした罅達。
亀裂の先は、広がるごとに徐々に円形を成して行く事が見て取れる。
恐らく、この先に現れるは、巨大な黒き『孔』。
此処ではない、何処かへと繋がる『門』。
それが今、解き放たれた。
パキィィイイインッッ! と言う、甲高い破砕音と共に。
ギュオッと広がる、黒く、暗く、何処か不吉さを呼び起こす『孔』と共に。
この日、『異能学園』における『日常』が、終わりを告げた。
『異能学園』での平穏を享受(?)する魔王の前に現れたのは、上空の『黒き孔』。
果たして、其の奥に待つモノは一体何であると言うのか……?
次回、異能学園VS侵攻者達。
……主人公、THE・不注意。まぁ、裏社会の住人と言う訳でも無いので、一応。
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誤字脱字の報告、並びにご意見ご感想等お待ちしております。