001「幻奏魔王は特撮世界で沈黙する」★
色々な都合と書きたい物が合わさった結果、こうなりました。
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音使いの魔王様と相方の少女が、特撮世界の異能学園ごと再び剣と魔法の世界へと転移させられた、と言うお話です。基本二人と彼等が奏でる曲が無双します。傍役他仲間達も、特撮世界の存在故キャラの濃さはお察しで。そんなこんなで、たった二人の魔王軍による異世界再出撃の物語、始まり始まり……。
英国の時計塔より流されるクラシック音楽を元とした鐘の音。
――典型的な学校のチャイムが、時限を区切るべく鳴り響く。
それが、この学園であれど他の学校と変わり無い僅かな共通点。
伏せられた俺の頭は、側頭部より周囲の音を聞き集める。
耳に入って来たのは、次の授業が移動教室であると言う事。
体内時計が示すのは、数分の休憩後が今日最後の授業である事。
其処までの情報を得ておきながら……俺は、腕の中に顔を埋め続ける。
そして、そんな俺を次の授業に誘う奴は、誰一人として、居ない。
こんな様子では説得力の欠片も無いやも知れないが、実は殆ど苛めらしい苛めを受けていないのが現状だ。
では何故、誰一人として、次が移動教室だと言うのに俺を起こさないのか?
無視、それも集団で団結した存在の否定と言うのは、苛めとは言わないのか?
否。そもそも俺は、無視“は”されていない。
ただ、軽く避けられているだけである。
「……ちょっと、誰か謌談さん起こしてあげなよ。次の授業遅れちゃうよ?」
「えっと確かりつ、りつ……律門君だっけ?」
「うん。あ! 名前分かるんだったらしーちゃんが」
「む、無理無理! ボクはちょっと……」
繰り返す。
“軽く”、避けられているだけである。
泣いてはいない。伏せた下で諦観しているだけだ。
因みに『半ば自業自得』のこの事態。
原因は、“次の一言”に、全てが込められている。
「だって彼……『魔王様(笑)』なんでしょ?」
「…………」「…………」
「行こっか」
「うん」
パタパタと、遠ざかる二人分の足音。
同時に、漸く上げた俺の顔からは溜め息が漏れる。
簡単に説明しよう。
先ず、この世界の名は『特撮地球』。
数ある地球の平行世界の中でも、『特撮の存在が実存する』世界である。
次に、現在地はある特殊な中高大学一貫校、通称『異能学園』。
“異能力者”や“超能力者”、“超人”等の“異能保持者”を中心とし、『戦士の資質』を持つ若人達を集わせ、『正義の超人に育て上げる事を目的』とした教育機関だ。
此処までお聞き頂ければ分かる通り、当学園では超自然的現象等日常的に起こり得る場所とも言える。そんな非日常的要素が詰まった学び舎が此処なのだ。
だからこそ、俺はやらかした。
裏では魔法が僅かでも横行していた『普遍地球』に対して、より更に魔素が薄い事から、『魔法は空想上の物』とされるこの世界の中に居りながらも……
俺は、“魔王である”と、自己紹介で名乗り上げてしまったのだ。
いやだってほら、しょうがないだろう?
周囲が「俺は戦隊戦士の◯△だ!」やら「私は覆面騎手の#@です」とか、更に「僕は欧米で〜〜マンを勤めていた超人の▽*と言います」とか名乗ってたらさ。
ノリでつい、“普通じゃない職業”の事まで、答えちゃうだろ?
魔王とか。
実際の所、『魔王』と言う単語は実存する対象を指す事も可能だ。
だがそれは、故人……それも、ある『悪の組織の総大将』を指す単語でもある。
故に俺は先に、該当の人物とは全く別物の『魔王』である事を説明して行った。
しかしコレもまた、間違いであった。
俺が懇切丁寧に『剣と魔法の異世界で嘗て魔王を勤めていた存在である』と皆に話せば話す程、周囲の反応は訝し気になって行く。
何せこの世界では、『魔法が無い』=『魔法主体の世界――“幻想世界”も架空の存在』として考えられているのでな。
“魔族”や“魔物”を名乗る『怪人』を統べし『悪の組織』ならまだしも、西洋中世風の魔法が浸透している異世界の存在などは、“妄想”として聞き流されてしまう。
つまりは『設定』。
つまりは、中二病。
そう……俺は、『異能学園』と言う俺からすれば非常識の塊である場に在籍しておりながらも、更に非常識な塊『重度の中二病患者』として認定されてしまったと言う訳である。現実に“設定”を持ち込む程の、重度な。
……声を大にして「誠に遺憾だ」と叫びたくなる。
無論の事、そんな真似をすれば更に余計な注目を集め、更なる状況の悪化に対面してしまう事は間違い無しだろう。
今はまだ、一応話し掛けてくれる人も結構居るのだ。
ただ、こうした場面流れでは取り残されがちと言うだけで。
皆は皆、俺と言う『変人』より『友人』を優先しがちと言うだけで。
よし、自己暗示完了。
さっさと行かねば真面目に遅刻してしまう。
次の授業は俺の好きな科目でもあるからなぁ。
等とつらつら考えながらも、必要な教科書等を纏めた後、俺はさっさと自教室を後にして行った。
『俺の周囲にのみ魔素を生成』し、転移と身体強化の魔法を併用しながらも。
× × ×
学校を後にした俺は、帰路につく途中である。
遥か後方で何やら爆発音が轟いて来たが、先程覆面騎手特有の「装展っ!」との掛け声とカシャーンキュイーン等と言う機械音が聞こえて来たので、恐らく自分が動かずとも何の問題も無いだろう。
『反響探知』した限りでも、戦場に向かった彼であっても対処可能そうな相手である事が既に分かっているしな。
と言う訳で、俺は自宅の方向へ向かい遠慮無く歩を進めさせて貰う。
「ただいまー」
二階建ての一軒家。
一人で住むには些か広いこの住居。
しかし、この家に住んでいるのは俺一人“ではない”。
トッタッタタタタタッと、軽快な足音が奥より近付き始める。
それが数メートル圏内に入った所で、曲がり角より一人の少女が現れる。
そしてキュッと片足で器用にブレーキを掛けると共に、玄関の俺の姿を確認するなり……満面の笑みを浮かべた彼女は、勢い良く駆け寄り此方に飛びついて来た。
「ごっしゅじっん様ぁーーーっ!!! お帰りなさいませっっ!」
ひしっと腹部の当たりにしがみついて来た彼女はそのままギュッと抱き付く。
自分と20cm位身長差がある為、胸の当たりに頭をグリグリと押し当てながら。
尚且つ――『頭部より生える、二本の鹿角』が俺の肩より上にぶつからぬ様気を付けながらも。
そう。俺の同居人は、明らかに“人ならざる特徴”を、有している。
「よ。『咲和』、出迎えご苦労な」
取り敢えず、二本角の間を縫う形で、彼女の頭を優しく撫でてやる。
「にゅ〜」と猫の様に気持ち良さそうな反応を見せる咲和。
反動で、ピシッパシッと少し鹿角が俺の両肩側面に当たる。
鹿なのに猫とはこれ如何に。……可愛いから別に構わんが。
ん? 余りにもあざとい? 大丈夫だ。相思相愛だし問題無い。
あと破裂しろと考えている非リア充共、よく考えてみろ。
男とは言え“見た目スレンダー美人な俺”と美少女が絡み合っているんだぞ。
眼福だろ? なぁ。……因みに俺には、女装趣味も同性愛思考も無いがな。
あ? なら長髪切れと? 何言ってんだ。勿体無いし咲和に泣かれるだろうが。
それに、髪ってもんは良い魔力貯蓄庫になるからな。何かと便利なんだよ。
まぁ、長過ぎる分は切った後魔導媒体用にこっそり保管したりもしてはいるが。
「ん〜大丈夫ですよ! ご主人様と一緒に居られるのが咲和の幸せなのでっ」
ぬふふーとだらしない笑みと共に中々嬉しい事を告げてくれる咲和。
「そうかー」と言いながら、鹿角がありながらも存外身軽な彼女を抱き上げつつ振り向き様に踵を玄関縁に掛け、靴を脱いで上がる。
やや白銀で桜色の角が振れ、和を連想させる墨色に近く低彩度の碧髪が揺れる。
紅黒い俺の髪と対照的なそれを眺めていると、廊下奥より新たな声が掛かった。
「ぬ? おや。主殿、ご帰還なされておりましたか」
深海色のポニーテールが凛とした雰囲気を放つイケメン、テセラが佇んでいた。
ゲームで言う所の四天王の一人みたいなもんだと思って貰えれば良い。
但し、ダブッとしたフード付きのジャージ姿ではあるが。
因みに咲和は、ゴシック調のワンピースに和風要素が加わった感じの服装だ。
俺か? 冬になると学園指定の丈長のコート風の上着が似合う、ブレザーに近しい異能学園特有の制服姿だな。俺からすればちと二次元染みたデザインだ。
尚、女子でもズボン可な為、俺の女疑惑を加速させる一因ともなっている。
「おう、テセラ。今夜の飯は何だ?」
「今晩は“ラアロ殿”が担当故、残念ながら私には見当付かず。……確認して参りましょうか?」
「構わんさ。アイツなら何作っても美味いだろ」
「確かに。……咲和様、そろそろ降りられては? 律門様も動き辛うかと」
「うー、もうちょっと駄目? 折角ご主人様と一緒に過ごせ」
「学園でも八割方ご一緒されてたでしょうに」
「……らじゃー」
ひょいっと俺の腕から抜け出し、廊下に降り立つ咲和。
テセラの言う通り、彼女はずっと“俺の影に”潜んでいた。
しかし、学園へ通うより観光を優先した少女はうちの学校へ在籍していない為、用事が無い限りは通学を許可されていないので学園では殆ど姿を見せない。
……あと、つい影に向かい語り掛けたりすると、それがまた俺への中二病認定を悪化させる要因となり得るのだが、それはまた別の話である。
廊下を引き返し本来の目的地へ向かうテセラを片目で見送りながら、二人揃って上階の自室へと向かい階段を踏みしめる。
二階の廊下に着くと、突如奥の窓付近の“宙空”にひび割れが生じた。
直後、パリーンと音が鳴り響くと共に、人影が真っ暗な空間より飛び出す。
「まおーさまーっ、おっかえりーっ!」
幼少期特有の甲高い声音。
咲和より更に10cmも低い、正に幼女と言った容姿の少女。
狐耳の頭巾付きの外套を羽織った純白髪の彼女は……鹿角に刺さった。
「ぐふぇっ!?」
「あ、すみません」
ぶんっと頭を振り被り、半ば床に叩き付ける様に幼女を払い落とす少女。
対する幼女は、激突する直前に巧く受け身を取って軽やかに着地する。
「サナさまぁっ! あぶ、危ないのーっ!」
「つい」
「ついじゃないと思うの!」
九本の白く大きな尻尾らしき物をふりふりさせて、怒りを示す白狐風の彼女。
「てかお前、今まで何処行ってたんだよ、ロカ」
普段は自室でゲームや漫画に嵌りきりな彼女。
家の面子の中で最も低身長な幼女、ロカは俺にこう報告する。
「えっとねっ、うーんとねっ。『たまには外で体動かしてきなさい』ってラアロに言われたから公園で遊んでたらね、魔物か亜人種っぽい格好の変なおじさん達……えーっと“怪人”? に連れてかれそうになったから、その人達から持ってた変なの、危なそうな物集めた後に纏めて始末しておいたのっ」
中々物騒な事をおっしゃるお嬢さんだ。
まぁ、相手が女児誘拐しようとする様な『怪人』なら当然の報いと言った所か。
怪人だろうが超人だろうが、犯罪者は皆等しく裁かれるべきだしな。
……どう始末したかについては、触れないでおこう。
精神衛生上余り宜しく無い事になりそうだから。
「お、おう、そうか……回収物はどうした?」
「カーゴスに渡しといたの!」
カーゴスか。アイツなら其処ら辺の管理もしっかりするし大丈夫だろう。
ま、念の為着替えた後に何持って来たのか確認しとくかね。
変なもんならアイツでも扱いに困るだろうしな。
「そうか。何にせよご苦労。今日は夕飯までゆっくり休んどけ」
労いの言葉と一緒に、ぽんぽんっと軽くロカの頭を叩く。
にへらっと笑みを浮かべ、白色の尾らしき物達をぶんぶんと左右に揺らす幼女。
そのままとててっと歩を離した彼女は、振り向き様にこう言った。
「明日もまおー様の為に色々頑張ってくるのー!」
「いや、どっちかってぇと家で大人しくしてて貰いたいんだが」
そんな俺の言葉も聞かぬ間に、自室へしゅるりと潜り込んで行くロカ。
軽く溜め息を吐いた後、脇の咲和に告げる。
「んじゃ、ちと着替えてくるから先手ぇ洗っててくれ」
「了解ですっ」
くるりと踵を返し、階下へ向かう少女を見送った後、俺は着替えに自分の部屋へ入って行った。
「で、コレがロカが集めて来たっつぅやつか」
サンタクロースが背負っていそうな大きなズタ袋の中より、入っていた幾つかの物品を手に取りながら、目前の大柄な強面の男――カーゴスに問い掛ける。
「……ウム」
「見た所、新型の変身装置と言った所か。ま、元々覆面騎手の奴等は悪の組織から装備かっぱらって来た連中から始まった変身超人達だしな。怪人の奴等も似た様なヤツ持っててもおかしかねぇか」
「……ウム」
「……いや“ウム”じゃなくて、お前さんの意見も聞いときたいんだが」
そんな俺の言葉に反応したかの様にゆっくりと目を開けた彼は、自分の目をやや虚ろな瞳で真っ直ぐ見据えながら、片言混じりに答える。
「……主ナラバ、全テ、扱エル筈」
機械に詳しいコイツの言だ。
異能より機械寄りのこの装置に関してならば、信用に値する意見と言えよう。
「そうか。じゃ、機が来るまでは“仕舞っとく”わ。何かコイツ等について調べたりしたいときゃ声掛けてくれ」
そう言いつつ、回収物をズタ袋ごと『異空間へ』放り込む。
空間魔法の一種だ。魔王としてそれなりに魔法の研鑽はして来たからな。
これ位は片手間に出来なきゃ話にならん。
ましてや、『たった二人の魔王軍』の片割れならばな。
「んじゃ、また晩飯ん時に」
「ウム」
こうして、ロカの戦利品を回収した俺は、暫しの休息を取りに自室へと戻った。
夕飯時。
会議室兼リビングには、この家の住人が勢揃いしている。
俺の大切な家族とも言える、鹿角を生やす相方の少女、謌談 咲和。
俺より余程“美男子”と言う言葉が似合う、騎士で男装の令嬢、テセラ。
フードの狐耳とコート裾より覗く九本の白色物が特徴的な幼女、ロカ。
ブロンドで短めな髪下に無機質染みた強面を見せる家一番の巨漢、カーゴス。
そして……目の前を彩る食卓を作り出し、外見年齢に反した毛髪量を適度に分け整えたロマンスグレーの髪が彼の渋さを増している老執事――ラアロ。
見た目的には俺とテセラの性別が反転しているが、何れにせよ男女比3:3が、現在の我が家の総勢となっている。
「魔王様、他に何かご要望等御座いますかな? この私めが作り得る範疇であらば、何であれ今からでもお作り致しましょうぞ」
「いや、十分ってか十二分だから。寧ろよくこんな豪勢な料理毎度作れるよな」
何せ、食卓の上には高級レストランさながらの食事が用意されているのだ。
まるで仏国にでも来たかの様な、上品且つ旨そうな香りと見た目の品々。
これ等が全部、安売り中の肉やらおつとめ品の野菜に近場の山で採って来た山菜等の、超低コストで調達した品々を調理したもんだってんだから、彼の炊事能力の高さが伺えると言うものだ。
いや、料理所か家事全般、加えて秘書的な役割までこの調子でこなすんだがな。
「如何なる条件下であれ、その場で出来る最大限の持て成しを主人や同胞達へ提供するのが、老輩めの役目ですからな」
「それにしてもやっぱり凄いと思うのです」
咲和の言葉に激しく同意する事を示すべく何度も首肯する俺。
一緒に揺れる血色のロングヘア。
それを目で追う幼女。
そして彼女の手元で倒れるコップ。
「「「「あっ」」」」
ロカと執事以外の声が一つに重なる。
次の瞬間――一瞬ラアロの姿がブレたかと思えば、元通りとなるコップ。
斜めになる辺りで飛び散っていた筈の飛沫すら、一つとして残っていない。
さながら、何事もなかったかの様にすら思える収集能力。
老執事ラアロの身体能力を活かした完璧な対処である。
まぁ……此処に居る全員、同じ事出来るっちゃ出来るんだがな。
「ロカ、気を付けなさい。魔王様の御前で粗相を見せるものではありませんぞ」
「う、ごめんなの……」
老紳士の静かな威圧感に、思わず体を縮こめる幼女。
これ位別に構わんのだがな。
どっちかって言うと、幼女らしい様子に和むと言うか。
とは言え、食卓を汚さずに済むに越した事もないが。
個々が好き好きの飲み物コップに入れてる中、ロカの中身は、他の面子の物より汚れが落ち難い葡萄ジュースだったので、余計に。
「相変わらず見事な手際だこって。あと、お前もさっさと席座っとけ」
「それでは、失礼して」
立場関係無く、俺の家では全員が同じ食卓を囲む事を義務付けている。
たった六人しか居ないってのに、堅苦しい真似されても困るしな。
此処じゃ魔王たる俺の威厳なんぞ、あって無い様な物だし。
尚、席順は、俺の右に咲和、左にテセラ、正面にロカ。
正面左にカーゴスが座り、正面右側にラアロが腰掛けている。
そんなこんなで、晩飯が温かい内に食べるべく、合掌の体勢に移った。
「んじゃ、冷めちまう前に食うか……。頂きます」
「「「「「頂きます」」」っ!」」
ロカが無駄に元気な事以外は、皆声を合わせての挨拶。
早速がっつく幼女等、各々の個性が見られる食卓の光景。
いつも通り、今宵の晩餐もほどほどに賑やかな物となった。
こんな日常が送られているのが、俺達の“この世界における我が家”である。
× × ×
翌日、特に変わった事も無く、昨日の帰り道を逆走する様に通学する俺等。
無論、咲和は俺の影の中に入ったままだ。
正確には影を“扉”とした、異空間の『中継点』に留まっているらしいが。
なるべく俺と一緒に居ようとしているとは言え、昼食を食べる為等の理由から、所々で一旦家の方へ帰還したりもしているとの話だしな。
影の中は、一日中留まり続ける『本拠地』には向かない場所なのだろう。
学園に着くと、ある程度の生徒が振り向いた後に暫し視線が止まったかと思えばそれをそっと反らし、ある程度の者達はしっかりと俺にも挨拶をしてくれる。
一応これでも、見た目にはそれなりに自信があるからな。
きめ細やかな肌や手触りの良さそうな色艶良き紅髪、顔の美形具合等。
……いや、男としちゃ余り持ってはいけん方向性の自信ではあるが。
ついでになで肩で、全体に線が細く、更に平均身長より低いが声音は高いと言う徹底っぷりである。神は俺に、一体何になれと言っているのだろうか?
教室に入れば大方変わらぬ反応で、中には話し掛けてくれる人々も居る。
主に話題が、美容かオタク方面かに限られてはいるのだが。
何せ、重度の中二病だが、美少女にしか見えんリアル男の娘だからな。
同志を求めし“本物の”中二病患者か、綺麗な容姿求めし者しか集まらない訳だ。
それでも、そこそこ世間話が出来る為、情報収集相手としては不足無いのだが。
話し相手が、皆友人と言い難い人々であるだけであって。
……うむ。
「ホント、律門ちゃ……君って、色々と綺麗だよねー」
「うんうん! 性別明言してなきゃ絶対女の子だと思っちゃう程可愛いし!」
「それ、男の俺にとっちゃ褒め言葉になってないからな?」
「てか本当にソレ、何かパックとか付けてる訳じゃないんだよね?」
「何度も言ってるが、まぁ、特に何もしてなくてコレだからなぁ」
「「「羨ましい限りで」」」
「……止めろ。暗い顔して手をわきわきさせながら近付いて来るんじゃねぇ」
微妙にクラスの女子達に壁際へ追い詰められる俺。
やっぱ友人じゃなくて狩人だな、こいつ等。
その後、幼女様経由で得たラノベやアニメ関連の情報をオタク連中と交換したり語り合ったりして時間を潰し、担任が来る前には各々の座席に着くと、直後入って来た担任より出欠確認や連絡事項を受け、一時間目へ突入。
特に代わり映えのしない授業風景を4時限分見続け、やる気は然程ある様に感じられない表情でありながらノートはしっかり取る、要点はメモして行く、と比較的真面目な態度で受講を終えた俺は、中等部でありながらお昼は弁当、乃至は学園の学食で摂ると言う特色から、購買でデザートを買う為に教室を出て行った。
片手には弁当を入れた袋、反対の手に目的の物を入れたビニール袋をぶら下げ、辿り着いた先は青空と街の風景広がる学園の外側に位置する授業棟の屋上。
ホームルームを行う普通教室棟から離れた其処は、他の棟の屋上より人気が無い俺のお気に入りのスポットである。
だからこそ、のんびりとお昼を食べつつ“家に居る部下達からの報告”を聞くには打って付けの場所、と言えるだろう。
……ん? どうせ帰ったらまた聞くのだから、今報告を聞く必要は無いんじゃないかってか? ……いやな、心配性だか生真面目な感じのテセラやラアロ辺りが『定期的な報告は組織として必要な事』だとか言ったり、ロカや咲和なんかは『お昼でもお喋りしながらの方が楽しい』とか言う理由で、いつの間にやら『昼食の間は直接居合わせずとも情報交流を義務付ける』って流れになってな……。
別に大した労力も裂かんし、喋くりながらでも大して食べる速度は変わらん、ってな事で、昼飯時も声だけは家と繋がる事になった訳だ。
まぁ、この情報交換は《念話》の魔法使ってっから、傍目には黙々と飯食ってる様にしか見えないんだがな。
そんな事情から、弁当の中身は殆ど食べ終わりつつも、一時的に家に戻っている咲和や幻肆奏将の面子と『会話』を楽しんでいた時の事だ。
複数人の粗雑な足音が、屋上の入り口より近付いて来る。
余り今は他人と喋る気の無い俺は、相手の姿を確認したら入って来た人の事何ぞ気にせず、我関せずと放っておくつもりだった。
が、視界の端に映った連中は、明らかに此方に向けて足取りを揃えて来る。
……面倒だな。しかも彼奴等、確かこの学園内で素行の悪さで有名な……。
「オイ、男女の魔王サマ、ちょっと面貸せや」
…………。
うん、まぁ良いや。
悪い噂だとか、不良染みた噂とかどーでも良い。
一遍シメた方が、此奴等の身の為にもなるよなぁ?
数百年を経た魂を持つ俺は、この時ばかりはやんちゃな餓鬼の様に、大人気無い感情を抱きながらゆらりと立ち上がって“大人しく”彼等に着いて行く事にした。
当たり障りの無い笑みの裏に、青筋を立てながら、ではあるが。
だが俺は、こんな状況下でも『学園生活』を謳歌していたと言えるだろう。
すぐ近くに、『日常の終わり』が近付いている事にも気付かずに。
何処の学園にも現れる定番の敵、それは『不良』。
“元魔王”たる彼は、彼等を如何にして蹂r……退けるのか?
そして近付く『日常の終わり』とは一体?
次回、相次ぐ“襲撃者”達。
★オマケ★
挿絵擬き一枚のみの公開となります。
①主人公とメインヒロイン、そしてメインメンバーの線画、兼表紙擬きです。
中央手前左が律門青年、右が咲和。その後ろが左手前より時計回りに、テセラ、
ラアロ、カーゴス、ロカとなってます。
……画力に関しては、触れないで下せい……。
あと、主人公がただの長髪な青年になってしまっている事も……orz
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宜しければ今後、他『浮世戯作』シリーズ共々お読み頂ければ幸いです。