1話
「明日からか……」
真っ暗な部屋の中でいろいろと考えていたら思わず独り言をついてしまった。明日からは高校生。
小学6年生に上がったとき、クラスが変わったため新たに学級委員を決める必要があった。通っていた小学校での学級委員は一クラス男女1名ずつで構成される。学級委員の女子は彼女が抜擢され満場一致で決定。だけど、男子の方は「お前やれよ」状態で決まらず、ジャンケンで決めようと誰かが余計な提案をした。
何が何でも学級委員になりたくなかったため隅で大人しくしていた俺ももちろん参加させられた。そして、無事に負けた。
そういえば、小学校6年生になるまでクラスが違ったから彼女との関わりがなかったけど、学級委員になると彼女と関わることが多くなったんだっけ。
***
「失礼します」
職員室に入るが誰も振り向かない。キーボードを打つ音とプリンターの動く音しか聴こえてこない。先生たちは自分の仕事に集中していて気が付かないのか、それとも生徒が入ってきたことに興味がないのかもしれない。
職員室に生徒が入り難いのはきっとこういうことなんだろうな……て、そんなことを確かめたくてここに来たんじゃなくて担任に呼ばれたから仕方なくこんなにタバコ臭い部屋に来たんだ。
「山本先生いらっしゃいますか」
積み上げられた教科書と書類の山から「お、椎名来たか。遅かったな」と、言いながら担任がヌッと顔を出す。
職員室に来た時は何も反応をしなかったのに『遅かったな』というのは酷い気がする。
「さっき言い忘れたけど今日の放課後、学級委員の集まりあるからよろしくな。場所は……が知ってるだろうから聞いとけ」
呼んでおいてこの扱い方はイラっとする。というか、委員会当日じゃなくてもっと早く決めてほしいかった。
正直、やりたくないが公平公正なジャンケンで決められてしまったからにはやるしかないと諦める……。
「きをつけ。レイ」
「さようならー」
帰りの会が終わり、クラスメイトが一斉に廊下へ飛び出していく。みんな楽しそうだ。放課後になって解放されたみんなはこれから遊びに行くんだろう。
いつもだったら友達と公園に集まってサッカーをするけど、午前中に学級委員にされてしまった俺は参加できない……。
今日はこの春一番の雲一つない晴れ模様だというのにまだ学校にいなくちゃいけないと思うと気分が下がる。
よし、サボって帰ってしまおう。
「椎名君、学級委員会行こう」
来るの早い。
俺を捕まえるために構えていたらしく、礼と同時に俺の机の前に来ていた。
俺は行きたくないという気持ちが表情に出ないように意識しながら、自分の名前を呼んだ方を見る。
「さあ、行くよ! 委員会に!」
と、彼女が物凄い勢いで迫ってくる。そして、俺の手を取り、他の生徒がいっぱいで賑やかな廊下へ引きずり出した。学級委員会が開かれる教室まで連れて行くんだろう。これは思っていた以上に大変そうだ……。
「椎名君は去年は学級委員じゃなかったよね? 大丈夫、私がフォローするから! 教室はこっちね。学級委員はけっこう楽しいよ」
「…………」
さっきから俺は一言も話していない。彼女の勢いに圧倒されている。なんとなく負けている感じがする。
「どうしたの?」
彼女のマシンガントークが止まった。この隙に俺も何か言っておかないと。
「……さんは毎年学級委員やってるの?」
すごくどうでもいいことを聞いてる気がする。でも、大多数の人が学級委員に限らず委員になりたくないのに、そんな委員の仕事を彼女は楽しんでいるみたい。
「うん」
「好きなの?」
「嫌いではないかな。いつも推薦されてやってるだけだし。でも、そこそこ楽しいから好きなのかな? やっぱり……」
後半の方が周りの声にかき消されて聞き取れなかったけど何となく、みんなの憧れも大変なんだなと相槌を打つ。
「さあ、ここだよ」
案内された教室に入り席に着く。
うちの学校は生徒があまり多くはないので1学年2クラスで、男女合わせて24人が教室に集まる。
最初の委員会ということなのでそれぞれ自己紹介をして役職を決める。もちろん、俺は何もやらなくて済むように大人しくする。
ここでも彼女が重要な役職である副委員長になった。
委員会は無事に進み解散。帰り道が同じだからということで彼女と帰ることになった。
帰り道も例の如く、マシンガントークを浴びせられると思ったけど、さっきとは違い一方的でなく俺と会話をしようとしてくれる。
大した内容じゃないけれど「好きな食べ物はなにか?」とかみたいな話をしたと思う。話しているうちに思ったけど、彼女はみんなの憧れだけれどもその前に一人の女子だということ。普通に好きなことはあるし嫌いなこともある。少しイメージが変わった。
「椎名君、また明日」
「うん」
――今考えると、自分なりに不味い点を見つけて修正できる彼女は小学校6年生の割にはよくできている子だった。
夕飯のときに学級委員になったという話をすると、両親からは「おお、絢人が学級委員か!」と喜ばれたが理由はよくわからない。今までそういう重要なことをやったことがないから?
「ふぇ、がっくうひひん?」
小学4年生の妹は珍しいという意図を込めた反応だ。まあ、そっちの方が来そうな反応だ。というか、口にものを入れたま喋らない。行儀が悪い。お母さんに怒られるよ。
「翔子。行儀が悪いわよ」
ほら、怒られた。飲み込んでから話しな。
「お兄ちゃんできなさそう。相方に任せきりなのはだめだよ」
余計なお世話。でも、悔しいが妹の言う通り俺には出来る気がしないし、やるようなことでもない。
食卓の話題は翔子の学校生活に移ったが俺は急いでご飯をかきこみ、その話を聞かずに自分の部屋に戻った。
初めまして。黒い怪鳥と申します。
私は今まで小説は読むことはありましたが書くということがありませんでした。いろんな小説を読むうちに「自分でも書きたい!」となりやってみることにしました。
妄想、空想は得意(?)なので初心者なりに研究しつつ、これからたくさん書く予定です。どうぞよろしくお願いいたします。