9話
「本当に大丈夫?」
板橋さんが待ってると思われる風紀委員会の部屋の前まで来た。それはいいがこのまま素直に行かせてもよいものか?
俺が心配していると、
「大丈夫よ」
「根拠は?」
「特にないわ」
おい……。これで何かあったらどうするんだ?
渋谷さんと板橋さんの間には何かあったようだけど、その話に口出しするのはいいとは言えない。でも、月島はある程度予想がついてるから大丈夫と……。もう、これは任せるしかない。あのやる気のない月島がちょっとやってくれてるのだ。どういう心情の変化があったのかは知らないけど。
「だ、大丈夫。私はできる……」
そう言い聞かせる渋谷さんはとても大丈夫とは思えない。
「無理しなくていいからね?」
俺が言うと渋谷さんは首を横に振り大丈夫と言った。
「い、行きます」
ガラガラと横開きの戸が開く。
中には部屋を出たときと変わらない配置で委員と板橋さん、あと、蓮が座っている。
渋谷さんはさっきの様子とは違って、しっかりとした足取りで板橋さんの前の席まで向かう。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
2人は挨拶を交わし始めた。俺たちは外に出なくてはならない。
他の委員と目を合わせて出るように暗示する。とりあえず、俺たちの仕事はこれで終わりだ。これ以上することは特にないだろう。
外に出ると各々壁にもたれたり座ったりとした。なんとなく気まずい空気が流れる。
俺はまず東雲さんに話しかける。
「それで板橋さんは何か話していた?」
「あ、はい。渋谷さんと小学校のとき同じ学校で、仲がよかったと楽しそうに話してましたよ」
「『楽しそうに』ね……」
たぶん、月島の予想は当たっていた。渋谷さんが板橋さんに対して過去にあった何かで迷惑をかけたと思っている。だけどそれ以外については月島は予想できてない。それは過去にあったことを気にしていたのは渋谷さんだけだったということ。
板橋さんに会うように頼んだとき嬉しそうな様子だったし、たぶん相手が誰かもすぐにわかったのだろう。
まあ、これ以上のことはわからない。詳しく過去に何があったかとかそういうことはわざわざ聞くのは申し訳ない。
それと月島に対して俺は言わなくてはいけないことがある。
「月島。渋谷さんに対してあれはダメだよ」
「…………」
返事はない。構わず話し続ける。
「あの人が何をしたかはわからない。だけど、怖気付いて迷った状況で2度と戻ってこられなくなるようなことを言っちゃダメだ」
月島は俺から顔を背けた。
「悪かったわ……。気をつける」
ちょっとは素直なやつだ。でも、それがさっきまでの月島と違っておかしかったのでつい笑ってしまう。釣られて他の人も。
「ちょっと!」
気まずい空気は収まったようでよかった。
めんどうと言いつつちょっと手伝ったりと彼女はよくわからない。