6話
それから風紀委員会の本部に戻った俺たちは、木場先輩の悪意のない精神攻撃を喰らいつつも渋谷さんの依頼について説明した。
木場先輩は俺と月島に依頼を託すという。
「はあ……めんどうだわ」
月島のため息は無視しておくことにする。
次の日から早速働きかけるとしよう。
「おはよう、月島」
一応、風紀委員会の仲間なので声を変えておく。
「…………」
まあ、予想通り返答はなかったけど。
そんなことより、昨日依頼を受けたことを実行しなくて。俺は渋谷さんの友達になりたい人のことは名前が「板橋栄子」、もしかしたら渋谷さんと同じ小学校出身かもしれない、ということぐらいしか知らない。だけど渋谷さんに板橋さんと会わせる約束をしている。なんとかして板橋さんと接触をしなくてはいけない。
時刻は8時だからまだ始業まで時間がある。
俺はとりあえず件の女子生徒がいる教室を目指し、まだ閑散としてる廊下を歩いた。
そこは俺の在籍してる3組から少し歩いた先にある5組。やはりこの教室もまだ人が少ない。これはチャンス。
覗いて見たけどその姿は見えない。
俺が不審者感全開でいると、
「どうした?」
と声をかけられた。
「あ、蓮か。いや、ちょっと風紀委員会の仕事で用があって……て、蓮は5組だよね? ちょっと頼まれてくれない?」
「頼み? 珍しいな」
「うん。実は――」
俺は渋谷さんの相談内容を蓮に話した。
「なるほど。それでうちのクラスの板橋さんにお願いしたいと」
俺は肯定の意を示す。
「了解。でも、俺が間に入るより直接のほうがよくないか?」
まあ、それもそっか。
「じゃあ、ちょっとお願い」
「おう」
程なくして蓮が板橋さんを連れてきた。
「えっと……あなたが椎名くん? はじめまして」
丁寧な人だ。
女子の髪型についてはあまり詳しくないがこれはボブカットというのか? さらに真っ直ぐに揃えられている。ボサボサ頭でもなく制服もシワひとつない。どっかの誰かさんとは大違いだ。
「ああ……はじめまして」
「こいつが絢人だ。それで板橋さんに協力してほしいことがあるらしい」
廊下は人が増えつつある。短めに聞かなくては。
「俺は風紀委員なんだけど渋谷さんという女性が板橋さんと仲良くなりたいんだって。それで1回会ってみてくれないかな?」
「…………」
俺の話を聞いた途端、板橋さんの目が見開いた。さっきと明らかに反応が違う。それに急に視線が合わなくなった。
「あ、ああ! 急に知らない人と会えってというのは難しいよね。別に無理ならそれでいいんだ。そう伝えておく」
俺は何とか取り繕うとしたが、板橋さんは無言で下を向きながら何か考えてる様子だ。
しばらくしてから板橋さんは意を決したように一回頷くと、
「わかりました。会います。お願いします」
その顔はどこか嬉しそうに見えた。