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決着の時

それから一時間が経ち、慎吾や恵は夏子がどうなったのか心配になり、町田警部などにその後の経過を聞いたりしていた。

「小川君、犯人わかったのか?」

町田警部は篤史にそっと聞く。

「まだやねん」

篤史は悪いなと思いながら答える。

「警部、凶器の果物ナイフの根元についたと思われる血痕は途切れています」

近くにいる鑑識官が報告する。

「そんなに深く刺していないっていう証拠やな。そういえば、小川君のライバルはどこに行ったんや?」

町田警部はキョロキョロと辺りを見ながら裕太の事を聞く。

「青山のヤツ、どこ行ったんや? もしかしたら、事件の事で何か探ってるのかもしれへん」

篤史もキョロキョロして答える。

その頃、裕太は犯人が夏子を刺した後に来たと思われる路地に来ていた。そこで何か証拠があるかもしれないと思っていたのだ。

(あるはずだ。犯人が落とした証拠が・・・)

裕太はしゃがみ込みながら証拠を探す。

そこに鑑識官が見つけた物とは別のイニシャル入りのリップクリームを見つける。そのイニシャルはNとは別のSだ。

(あった! これだ! このリップクリームさえあれば犯人を追い詰める事が出来る!)

裕太は確信しながら一人で頷いていた。

一方、篤史の方も犯人がわかり、最後の追い込みをしていた。

「凶器には指紋はついてなかったんか?」

篤史は町田警部に凶器について聞いている。

「ついてへんかった。犯人は手袋をして犯行に及んでいたんやろう」

町田警部はついていない指紋に手袋をして犯行が行われたと推測していた。

(指紋が見つからへんのは当たり前やろうな。それにしても、なんでリップクリームが落ちてたんやろう? Nのイニシャルはあの人や。あの人が夏子さんを刺したんや。鈴木さんの首の付け根についた赤い跡の正体もわかった)

篤史は全ての謎が解けた。

「オレ、犯人がわかったぜ」

そこに裕太が自信満々な表情で犯人がわかったと言い出した。

「ホンマか?」

町田警部は裕太のほうが先に犯人がわかったと言い出したのにあっけにとられてしまった。

「うん。警部さん、悪いけど被害者の役をやってくれませんか?」

裕太は町田警部に夏子の役をやってくれと願い出る。

戸惑いながらも承諾する町田警部は裕太の指示に従う。

「事件当時、この道端では大勢の人がいるにも関わらず犯行が行われた。凶器は果物ナイフ。鑑識さんに借りた凶器には血痕が大量に付着している。見てのとおり、刃物の根本には血痕が付着していなくて細い隙間が出来ている。この隙間はナイフを握った時にこの部分に何か着いていたんだ。例えば、何かが結んであったとかな」

裕太は鑑識官に借りた証拠品である凶器の刃物の根元部分を全員に見せて推理する。

「警部さん、歩いてきて下さい」

裕太は指示する。

町田警部が歩くのと同時に裕太も歩き出す。

「犯人は被害者とすれ違い様に凶器でグサッと刺したんだ。そして、誰にもわからないようにハンカチなどで凶器を包み、カバンに入れて逃走した。さっきそこの路地でSとイニシャル入りのリップクリームを見つけたんだ」

裕太は町田警部を刺す実演をした後、次にSのイニシャル入りのリップクリームを出す。

「Sって・・・」

夏子役の町田警部はその場に倒れたまま、犯人が誰だかわかったという表情をする。

「Sというのは鈴木さん、あなただ!」

卓也が犯人だと告げた裕太。

犯人だと言われた卓也は何も答えない。

「どうだ? 間違ってるか?」

何も答えない卓也に、裕太は自分の推理が間違っているかどうかを問う。

「フン・・・バレたか・・・」

卓也は自分が犯人だと認めた。

その瞬間、

(小川に勝った!!)

裕太は自分の推理が勝利を確信した。

「いや、それは違うな」

ずっと裕太の推理を聞いていた篤史は、自分の見解と違うと言った。

「何!?」

裕太は卓也が犯行を認めたというのに何を言い出すのかと怪訝な表情をする。

「犯人は鈴木さんと違うで」

「でも、鈴木さんはバレたかって言ったじゃねーか? それに凶器は見つかってないんじゃ・・・?」

裕太は自分の推理が否定され、明らかに動揺を見せる。

「犯人は別にいるし、凶器も見つかってる。鈴木さんに罪を被せるためにな。さっきお前はハンカチで凶器を包み、鈴木さんがカバンの中に入れたって言うたやろ。あれは間違いや。ほぼ当たってるけど鈴木さんの中にカバンには凶器は入ってへん。犯人が凶器に鈴木さんの指紋を付けて、凶器は現場に放置したんや。刃物の根元までは血痕が付着してへんけど、鈴木さんの右手の中指は料理中に怪我をして包帯を巻いている。犯人なら包帯に被害者の血痕が付着しているはず。怪我の程度を見てる限り、包帯はしっかりと巻かれている。仮に犯人なら短時間で包帯を交換するのは無理やと思われる。これこそが彼が犯人ではないとはっきりと示している」

篤史ははっきりと卓也が犯人ではないと言い切る。

「でも、さっき見た時は・・・」

うろたえる裕太は路地で見た事が真実ではなかったのかとわけがわからなくなってしまっている。

「全て鈴木さんを犯人やと思わせるためにしたことなんや。現に鈴木さんは犯人によって気絶させられていた。そうでしょ?」

篤史は卓也に確認する。

「そうです。夏子さんとの待ち合わせ時間より早く来てしまい、路地で後ろから誰かに襲われたんです」

卓也はよくわかったなと思いながら答える。

「なぜそれを言わなかったんですか?」

町田警部は襲われた事を申告しなかったのかを問う。

「言いづらくて・・・。言ったところで信じてもらえるかどうかわからないって思ってしまって・・・。首の後ろにスタンガンの跡がついてるでしょ?」

卓也は二人の警官に自分の首についたスタンガンの跡を見せる。

「それなら言ってもらえばいいですよ」

水野刑事は呆れながら言う。

「スタンガンで襲って気絶した鈴木さんの指紋を付けた。Nのイニシャル入りのリップクリームも見つかっている。これで二人分のリップクリームが見つかったという事になる。Nは被害者のN、青山が持っているSは被害者の旦那である慎吾のSの意味なんや」

篤史はわかりやすいように言う。

「・・・ということは、被害者を襲った犯人は・・・」

町田警部は恐る恐る犯人のほうを見る。

「あぁ、鈴木さんを犯人に仕立てたのは、西川慎吾さん、あなたや!」

本当の犯人を告げる篤史。

「鈴木を犯人に仕立てたのに見抜かれてしまったか・・・。そうや。僕が犯人や」

「なんで? なんで夏子を刺したの?」

恵は友人の旦那が犯人という事に動揺しながら慎吾に聞く。

「夏子が鈴木と不倫していたのが許せなかった。夏子の顔を見ていたらイライラしてどうしようもなかった」

慎吾は妻の不倫が許せなかったと言い張る。

「おかしいと思ったんや。あなたが言った、待ってりゃいいんでしょ? 待ってりゃ・・・という言葉がずっと引っかかってたんや。あなたは一刻も早く現場から逃げたかった。被害者の旦那だから病院に行っても大丈夫やと思ってた。でも、それが出来ひんかった」

篤史は早く現場から逃げたいと思う慎吾の気持ちを言い当てる。

「夏子を刺して逃げたいという気持ちがあったのは事実や。バレるなら夏子を刺すんじゃなかったな・・・」

そう言った慎吾の言葉の中に、不倫されてもまだ夏子を愛しているという思いが含まれていた。

「今、病院から連絡があり、被害者の手術が無事に終わって助かったそうです」

連絡を受けた警官がその場にいた全員に報告した。

「ホンマか!?」

町田警部は目を丸くして確認する。

「はい!」

警官は自信を持って返事をした。

その返事を聞いた全員の表情は安堵感の表情だった。

それは夏子を刺した慎吾も同じだった。












事件を解決した後、その足で通天閣に行った篤史と裕太。翌日には京セラドームで野球観戦をして、串カツやたこ焼きなど大阪のグルメを食べたりして、あっという間に時間が過ぎた。

裕太が東京に帰る日の午前、篤史は新大阪駅の新幹線のホームに見送りに来ていた。午後から部活があり、反岡高校の制服のままで新大阪駅に来た。

「やっぱりお前には勝てないみたいだ」

裕太は事件が起こった日を思い出し、完敗したという表情をする。

「そんなことないって。青山の推理もいい線いってたし・・・。オレだってまだまだや」

篤史は自分もまだ未熟だという思いがあると言う。

「でも、お前の推理する時の顔、凄い良かったぜ」

「照れる事言うなよー」

顔を赤くする篤史。

「照れんなよ! また大阪案内しろよな!」

裕太は軽く篤史の肩を叩く。

「わかったよ。次はオレが東京に行くな。まぁ、ゴールデンウイークか夏休みになるやろうけどな」

「了解」

裕太がそう言うと、東京行きの新幹線がゆっくりとホームに入ってくる。

「小川、またな!」

新幹線に乗り込む前、裕太は篤史に手を振る。

「うん。またな!」

篤史も手を振り返す。

そして、新幹線がゆっくりと走り出す。

「篤史!」

裕太を見送っている篤史の背後から声がして振り返る。

そこには留理と里奈がいる。

「来ちゃった」

里奈はテヘッと笑いながら言う。

「お、お前ら、なんで・・・?」

篤史は驚いて目を丸くする。

「アカンかった?」

留理は控えめに聞く。

「そんなことないけど・・・」

篤史は頬をポリポリ掻きながら答える。

「篤史のライバル、行っちゃったんやね。一目会いたかったなぁ」

里奈は残念という表情をする。

「また会えるって・・・。近いうちにな」

篤史は裕太が乗った新幹線を見つめて言う。

そう言った篤史の胸中はまた裕太に会いたいという思いだけが残っていた。

春の暖かい風が三人の間を吹き抜け、春の訪れを感じていた。

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