もう一人の犯人と呼ばれる人
捜査を開始し始めた二人の高校生探偵。
(まずは証拠探しといこか!)
篤史は自分が最初に何をするのかを考えた後に、証拠探しをしようと思い、行動に移す。
(西川さんの旦那さんと山岡さんに当たってみるっきゃねーな)
裕太は夏子に近い二人に事情を聞いてみようと思っていた。
篤史は鑑識官の邪魔にならないように夏子が刺された周辺を調べていく。現場近くには凶器が落ちている。凶器だけでは何もわからないことくらい篤史にもわかっている。
(凶器は果物ナイフか。しかも、腹部を刺されただけなのに血痕がすごい飛び散っているな。あれだけの出血なら仕方ないんやろうけど・・・)
現場は夏子の血痕が事件の凄さを物語っていたと同時に夏子は助かるのだろうかと思っていた。
「ええ!? ホンマですか!?」
篤史が証拠探しをしている時、男性の大きか声が響き渡った。
その方向を篤史が見ると、メガネをかけた三十代半ばと思われる男性が町田警部から話を聞かされている。
「そんな・・・。私はここで待ち合わせしていたんですよ」
「どのような用件で待ち合わせをしていたんですか?」
水野刑事は夏子と待ち合わせの理由を男性に聞く。
「話があるので午後二時に来て欲しいとだけ言われて呼び出されたんです」
「その話とは何かわかりませんか?」
「さぁ・・・私にはわかりません」
男性は皆目見当がつかないという表情をする。
「テメェ、何しにきやがったんや!?」
突然、慎吾がその男性に罵声を浴びせる。
「西川さん、落ち着いて下さい。どうしたんですか?」
町田警部は慎吾に落ち着くようになだめる。
「コイツは夏子と不倫をしていたんですよ!」
慎吾は怒りに任せて答える。
「この男性が被害者と不倫?」
町田警部は聞きづてならないという声を出す。
「二年前から夏子は毎週日曜日に英会話教室に通っていたんです。そこでこの男と出会い、不倫関係になってしまったんです。一年前に夏子の様子がおかしいと事に気付き、山岡さんに事情を話し、一緒に英会話教室まで行き、二人が仲良く教室から出てきたところを捕まえて、話を聞き出したんです」
慎吾は今にも自分の妻の不倫相手に飛びかかりそうな勢いで話す。
「そこで二人が認めたという事なんですね?」
慎吾の話で大体の話はわかったと頷いた町田警部は確認するように聞く。
「そうです」
「ところでお名前を聞いていませんでしたね」
慎吾の返事を聞いた町田警部は、夏子の不倫相手だという男性に名前を聞く。
「鈴木卓也です。中学の英語教師をしています」
メガネをかけたいかにも教師だと風貌の鈴木卓也は、夏子に呼びだされた上に事件に巻き込まれてしまい、どうしようという態度でいる。
「ところでその怪我はどうされたんのですか?」
水野刑事が卓也の右手の中指を怪我している事に気付き聞いた。
「昨日、料理をしていたら包丁で指を切ってしまったんです」
卓也は右手の中指を二人の警官に見せながら答える。
それを聞いた水野刑事は何か事件と関係があるのではという表情をする。
(ん? 鈴木さんの首の後に何か跡がある)
篤史は卓也の首の付け根に何か赤い跡があるのを見つけた。
「夏子と別れたんじゃないんですか?」
恵は卓也に聞く。
「どういうことですか?」
町田警部は恵の質問の意図がわからないでいる。
「一年前、慎吾さんと話を聞きに行った時に二人は別れるって約束してくれていたんです。なのに、この場にいるって事はまだ別れていなかったっていうことですよね?」
前半は二人の警官に説明し、後半の質問は卓也にする恵。
「あ、いや、それは・・・」
不意をつく質問をされた卓也は動揺してしまう。
「どういうことなんですか?」
水野刑事は卓也に詰め寄る。
「確かにあの時は別れると言いました。僕もそのつもりでいました。でも、夏子さんが別れたくないと言い張ってしまい、そのままズルズルと・・・」
卓也は夏子との関係をどうしても終わらせる事が出来なかったと答える。
「あなたにも被害者を襲う動機がありそうですね」
町田警部は卓也にも夏子を刺す事が出来たと考えていた。
「そんなことをしていませんよ!」
疑われた卓也は速攻で否定する。
「山岡さん」
独自に捜査をしている裕太が恵を呼ぶ。
「何?」
自分の友人に裏切られたという思いの恵はショックを隠し切れないまま、裕太を見る。
「夏子さんが刺された時、どこに行っていたんですか?」
夏子と一緒に行動をしていなかった事に疑問に思い、そのことを問う裕太。
「私が見たい服屋があると言ったら、夏子がこの先の靴下店に行くと言ったから、別行動になったのよ。しばらくしたら夏子の悲鳴が聞こえてきて・・・」
恵は別行動を取るんじゃなかったと後悔しているようだ。
そして、夏子の旦那の慎吾に話を聞いてみる事にした裕太。
「話ってなんだい?」
話を聞きにきた裕太に優しく聞く慎吾。
「夏子さんが鈴木さんと不倫をしてたっていつ気付いたんですか?」
「さっきも刑事さんに話したけど、一年前だよ。英会話教室に行く時の夏子の様子が変やなって思い始めて、それで疑いだしたんや。証拠がないから夏子の友達である山岡さんに相談をして、夏子が通う英会話教室までついてきてもらったんや」
慎吾は卓也が憎いという口調で答える。
(英会話教室に行く夏子さんの服装や態度でわかったっていうことか)
裕太はそれならバレるだろうなと思っていた。
「当たり前ですけど、ショックでしたよね?」
「そりゃあね。今でも信じられへん。僕の何がいけへんかったのか・・・」
慎吾はまだショックから立ち直っていないようだ。
「理由は聞いていないんですか?」
「聞いたけど答えてくれへんかった」
慎吾はため息混じりで答える。
(今の証言を聞いてしまったけど・・・いいやんな)
二人の近くにいた篤史は、自分が聞いたわけじゃないのに・・・と思っていた。
「鈴木さん、どちらから交際を持ちかけたんですか?」
町田警部は卓也に夏子との事をより詳しく話を聞く。
「どちらからというより自然な成り行きでした。夏子さんから話があると言われ、度々、一緒にお茶をしていたんです。何度かそういうことがあり、お互い惹かれ合っていったんです。夏子さんには旦那さんがいる事は知っていました。しかし、どうにも自分の気持ちを抑える事は出来なくて・・・」
卓也は自分の気持を抑える理性が利かなかったと答える。
「鈴木さん、ご結婚は?」
「一度もしていません」
「もしかして、別れ話なんじゃないですか? 被害者の旦那にバレてしまい、別れ話をした。なかなか被害者が別れてくれない。それで被害者を刺したのではないですか?」
町田警部は不倫の別れ話のもつれから犯人は卓也なのではないかと推測する。
「違いますよ!」
卓也は再び大袈裟に否定する。
「被害者を刺して、それから後から来たというふうに見せかけたんじゃないですか?」
町田警部はさらに追及する。
「違いますって! 確かにいけないことをしている事はわかっています。だからって別れ話で夏子さんを刺したりなんかしていません!」
卓也は不倫がいけない事だと認識していたが、夏子を刺した事は否認している。
町田警部は自分が犯人の場合、そう簡単に認めないのは承知の上だと頷く。
「ところであなた方はどうして別行動をしていたんですか?」
水野刑事は慎吾に聞く。
「三人それぞれ行きたい店があり、それで別行動になったんです。一緒に行動しても良かったんですが、別行動のほうが買い物がすぐに終わると夏子が言い出したんです」
慎吾が別行動になった経緯を話す。
「鈴木さんを呼び出している時点で、夏子さんが別行動を撮りたいと思っていたのは事実のようですね」
町田警部はますます卓也が怪しいというふうに言う。
そう言われた卓也は思わず俯いてしまう。
(こんな人混みの中で夏子さんだけを刺したんやから、夏子さんがここに買い物に来ているって事を知ってる人物が犯人やな。そろそろ証拠が欲しいところやな)
篤史は町田警部の話を聞きながら、そろそろ証拠を見つけないといけない思いになっていた。
「警部、被害者が刺された近くでイニシャルのシールが貼られたリップクリームが発見されました」
鑑識官が町田警部に報告する。
「イニシャルのシールが貼られたリップクリーム?」
鑑識官からリップクリームを受け取ると、イニシャルはなんだろうと見る。
「N、か・・・。犯人が落としたんやろうな」
顔をしかめる町田警部。
(リップクリーム・・・? しかも、Nっていうイニシャルが入ってる。Nって誰や?)
恐らく、夏子を取り巻く三人の中にいると思うが、誰だか見当がつかないでいる篤史。
「小川! 犯人わかったのかよ?」
裕太は篤史に探りを入れてくるように聞いてくる。
「さぁな」
本当は何もわかっていないのだが、あたかもわかっているニュアンスを出して答える篤史。
「オレは少しわかったぜ」
裕太は鎌をかけて言う。
「ホンマか?」
「うん」
意味ありげのまま、裕太は返事をする。
「推理する時、オレからでいい?」
篤史の態度で自分が有利に動いていると確信した裕太は、自分が先に推理したいと言い出す。
「いいで」
篤史はヤバイと思いながらも返事をした。