幸せの資格取ります
本気で資格が、好きなんだ。
この世には、ヘンテコな資格が、あるけど、まあ普通のもある。
高校の頃から、学歴不要の資格を取ってた。
親父が変わってて、いくらでもお金は出してくれたから、専門学校も、昼間と夜間の2校に行ってた事もあったし。
なんとかソムリエってのが意外とあって、取りまくる。
国家試験的なものは、興味が薄く、ヘンテコなのが良い。
カクテルを勉強しながらバーテンをし、全然違うジャンルの専門学校に昼間通っていた時、授業中も休み時間も本を読み、何やら書いてる子が、いた。
大抵カバーをした文庫本を3、4冊抱えていた。
研修も授業も、興味がないのがわかる。
専門学校じゃなくても、夏休み明けは、皆変わる。
何回か見てるけど、女の子は凄い。
元がわからないのがクラスの半分。
ちょい変わりが後の半分。
中には、整形しましたよねって、聞きたいくらいの強者も、いたりする。
専門学校は、年令がバラバラなので、おば様おじ様達は、もう通り過ぎた道だから、変わらないけど、高卒の子達は、特に変わる。
で、期待大で、新学期に行くと、変わらないのが、文庫本の子。
俄然、興味がわく。
まず何を読んでるのかリサーチ。
後ろから覗くと、挿絵が見えた。
何やら全身戦闘服らしき物を着た少年の姿だったが、挿絵画家が、凄い。
もうだいぶ前に亡くなった、有名な漫画家のようだった。
今時の子は、リアルタイムで読んだことなんか無い大御所だ。
思わず、話かけていた。
「その絵を書いてるの、漫画家の中澤サトルっしょ。」
ああ〜、軽すぎたか。
返答が無理かと、がっかりしていたら、意外と返事をしてくれた。
文庫本のカバーを外し、挿絵画家の名を探してくれた。
「書いてあるよ、中澤サトルだって。
有名な人だったんだね。」
彼女の中では、絵はあくまでも挿絵で、文章の方に重きが置かれていたようだ。
「この人、いろんなのに、書いてるよ。
でも最近のじゃなくて、古いのに。」
聞くと、父親の学生時代の本との事だった。
セピアに染まった頁にはカラーの挿絵が、差し込み式に挟まっていた。
題名を聞くと作者も、もう亡くなってる人だと言う。
彼女の読んでいたのは、昔のSFだった。
彼女の今の年齢の頃、父親の時代に、海外SFのブームが、あったのだと言う。
文庫本は、持ち歩きしやすいから、こうして持ってきて読んでいるのだが、自宅にはまだまだ蔵書があり、それは外へ持って出ることを、父親が許してくれないそうだ。
彼女の読んでる本の題名を覚え、バイトの前に、古本屋街で、探す。
手に取ると、何となく読み捨てる文庫本なので、状態が悪い。
挿絵だけ、取られてるのもあった。
まあまあのを見つけて、買う。
彼女の文庫本がいかに大事に読まれていたのかが、わかる。
読むと、古臭さはなくて、引き込まれる。
王族から陰謀の為、追われる逃亡者になり、出会った異形の化物と戦い、敵討ちをし、王国を取り戻すまでの、話なのだが、魔法とか力任せかと、思いきや、心理戦が凄い。
宮廷の嘘や建前、身分が、がんじがらめにする、運命と、裏切り。
バイトのバーテンの仕事に、遅刻しそうになった。
何十年前の本とは、思えないほど、濃厚だった。
最近の本が、軽く感じられた。
これなら、あの大御所の漫画家も、挿絵を書くのが楽しかっただろう。
その後、古本屋の文庫本巡りをしてる間に、1年きりの専門学校は、おわり、彼女とも、別れた。
いや、付き合ってないけど。
バーテンをしていて、飲食業にも、興味が湧き、そっち関係の資格も取る。
意外な漫画家や画家が、挿絵を描いてる昔の文庫本を片手に、気ままに人生を漂う。
で、商業施設の雑貨屋さんで、働く彼女に、出会う。
あんなに本ばかり読んでて、人付き合いの悪そうな子だったのに、接客業してるなんて。
昼休みに、社員食堂に来た。
お弁当を広げながら、ヤッパリ本を読んでいるが、店のビニールの透明バックに、タバコとライターが、異質。
何回か見たが、吸ってないのが、不思議。
友達らしき人に、ライターを貸しているぐらいしか、使い道が無いようで、ついつい、声かけちゃったよ。
覚えていてくれて、タバコの事を笑って教えてくれた。
単純に面倒だから、だって。
ここの女の子達の喫煙率は、百%に近いので、吸わないって言うのに疲れて、見せタバコと貸すためのライターを持って歩いてるそうだ。
「内緒ですよ。
本気で面倒くさいです。」
専門学校では見せなかった笑い顔が、ツヤツヤしている。
今、読んでいる本の話を少しして、別れる。
彼女が1人の時は中々なくて、やがて、雑貨屋さんを辞めて行ったのを、人伝てに聞いた。
飲食業の修行と自分で決めて、あるチェーン店に勤めた時、彼女が小さな娘と、現れた。
すぐにわかって、声をかけた。
レディースセットを、2人で分け合って食べてて、娘の傍若無人ぶりが、可愛かった。
デザートの小さなメロンに、かじりついてる。
チョッと困ってる彼女が、お母さんの顔で、幸せそうだった。
かなり混んでいたんだけど、構わず、メロンを大きめに切り、テーブルに、持っていく。 「サービスだよ、娘ちゃんにね。」恐縮する母親をほっといて、メロンは、娘の口の中に消えた。
笑い顔が、あふれる。
接客中に帰って行ったけど、何回も頭を下げてくれたし、娘ちゃんは、小さな手を振ってくれた。
彼女達が帰ると、静かな喜びが、あふれてきた。
笑顔のでる店を、やろう。
次の日、ここを辞めて、本気で店を出す準備をはじめる。
カフェの一角に、本の読めるコーナーを作ろう。
昭和の匂いのする、古いけど古くならない本を置くんだ。
大人が読める絵本や児童文学も。
その中に、幸せになれる本が混ざってると良いな。
何せ、資格取るのが、今でも好きだったから 。
今は、ここまで。