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ダッシュツカイシ

「ありがとう、みんな」

 命を助けられた礼としては、本当に簡単なものだったけど、心からの言葉だったし、今のこの状況では飾る必要もないと思った。

 みんなも俺の言葉には目を見て頷いただけだった。

 今は、脱出することがなにより最優先だ。


 俺たちは魔王の間から離れ、元来た道を引き返し始めた。

 天井から煙が放出されているとはいえ、煙は通路にも流れ込んできていたし、モンスターもやって来そうだった。

 ただモンスターの数は、俺たちが魔王の間に至るまでの間に、パーティー全体でかなりの数を倒してきていたから、多少楽観はするところはあったのだけど――


「――みんな。そこの部屋に入ってくれ」

 前衛を務めていた俺の言葉に、みんなは足を止めた。

「さん、しぃ、ご……五匹もいるぞ。大丈夫かい? 新入り」

 アイラ先輩が、俺をからかうような声音で問い掛けてきた。

 閃光に続く塔の大きな揺れや、擬神力の使用が不可能となったことで一時は豪胆で知られるアイラ先輩も動揺していたけど、今は平常心を取り戻しているようだ。

「はい。やってみます」

「ハハ! 謙虚だねえ。でもさっきの戦い方を見た感じじゃあ、アンタは相当な戦い慣れをしているよねえ。それも、ホンモノの剣でさ。なあ、サーシャ」

「ええ……あなたは、剣の達人。それも、擬神力剣ではなくて、本当の剣での戦い方に精通している戦士……に見えたわ」

「あー、えっと、とにかく今は早く部屋に」

 俺は誤魔化した、というか、モンスターがもう迫っていたから半分は本当に扉のないその小さな部屋へ、待避所代わりに入って欲しかった。

「よっしゃ! 任せたよ、新入り。アンタの戦いっぷり、観戦席からたっぷりと拝見させてもらうかんね!」

「……以下同文」

 アイラ、サーシャ両先輩はなにやら楽しそうだ。

 シーズカ先生とファルは不安げにしながら入室し、そしてオールトはさっさとサーシャ先輩の真後ろにポジションを確保したようだ。

 よし……これでひとまずは安心だ。

 後ろを気にすることなく、存分に戦える。

 幅およそ10メルトルの通路の一方から、5匹のモンスターが二列になってこちらに迫って来る。

 背後からは薄っすらと煙が迫る。

 なるべく時間を掛けないで倒さないと、煙に巻かれてしまう恐れがある。

 状況の厳しさは刻一刻と増していく――が、俺はとある感情を内に秘めていた。 

 それは、高揚感。

 ワクワクとした楽しさに似た興奮が、心臓から全身へと鼓動の度に走る。

 意外だった。こんな状況で、これから始まる戦闘を楽しもうとしている自分がいるなんて。

 この剣で、自分の力だけでモンスターと戦うことに、喜びを覚えている。

 俺は鍛錬を続けながら、どこかで思っていたのかもしれない。

 

 ――擬神力など、この世界から無くなってしまえばいいのに。と。


 もし本当にそうなってしまえば、この世界も再びモンスターが跋扈(ばっこ)する日常になってしまう。

 人間にとっては万物の霊長ではない存在へと変わるということだ。

 それでも俺は、ただの剣の修業をし続けることで変えなかった自分ではなくて、世界の方から変わってくれることを願っていたのかもしれない。


 これは、その罰なのだろうか?


 俺は、浮つこうとする心の手綱を握って、前方を見据え集中する。

 敵は5体。

 5匹の虎人。虎の顔を持った塔の巡回兵。

 幸いなことに、鎧を身に纏っていないタイプの小隊だ。

 しかも、俺たちが倒してしまったのか、小隊長らしき白、または黒虎もいない。 

 この塔では中級のモンスターで、単独であればさほど強いというわけでもない。

 でも5匹もいれば油断をすることは、もちろん出来ない。

 それに、元の世界とも違う状況がひとつだけある。

 それは、俺自身の身に、防具を纏っていないというところだ。

 つまり敵の攻撃を完璧に避けながら、相手を完封しないといけない。

 それには数が少なければ少ないだけいい――巨躯のミノタウロス一匹を相手にするより、よっぽど気を付けなければならない敵だ。


 フサフサの毛に覆われた虎の顔に、マッチョなボディ。手には長剣。

 その虎人部隊が右と左、二手に分かれた。

 敵の意図は、もちろん挾撃。

 一人であればどこか細い路地に誘い込んで、一体づつを相手にしたいところだけど、部屋の中のメンバーを守るためにそれは出来ない。

 俺は、真っ直ぐに駈け出した。

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