第三章 夜桜(よざくら) 其の四
こうして、『夜桜』が始まった。
この時期に桜が見られるとの話を聞きつけて、多くの人々が『大門』をくぐった。彼らはまず目に入る三本の桜を感嘆のため息と共に見上げ、次いで屋台から飛んで来る呼び込みの声につられて『仲見世通り』を練り歩き始める。
柵の向こうに並ぶ雪洞の灯は夜をじわりと柔らかく照らし、スピーカーから流れる祭囃子は人々の心を浮き立たせる。柵の所々には有志による川柳狂歌が毛筆で記され、道行く人がそれらを目に留めては素人評価を披露し合う。
侘びと寂び。洒落と酔狂。相反する二者を貪欲に取り込んで自らのものとした江戸の町人文化が、ここに花と開いていた。
「大したものじゃないか」
協力者の方々にお礼をして回っていた俺に、四方儀兄がそう声をかけてきた。
「想像していたよりずっと人の入りが激しい。やはり地方の人は祭りを好むんだね。なんとも心地よい賑やかさだよ」
「神社の祭りの流れに乗っかっただけなんだけどな」
神主の協力なしに、ここまで滞りなく会場を作り上げることが出来たとは思えない。あの男性が長年積み上げてきた手法と人脈を借り受けられたことが、今夜の成功の一番の要因だと俺は考えていた。
「桜だって、十羽織の無茶と四方儀兄、七生兄の協力がなかったらどうにもならなかった。俺は大したことをしてないんだよ」
「それは謙遜だと思うけどね」
四方儀兄の呟きに、俺は答えを返さなかった。
何と言われようとも、今自分が口にしたことは事実だ。
そして──だからこそ胸に期すものもあるのだが、それは今ここで言うようなことじゃない、と思っている。
「ふうん。まあ僕がしつこく言うことじゃないんだろうけどね。でも、祭りのホスト役があんまり固い顔をしてるのは良くないんじゃないか? そろそろ例のやつが始まるんだろうし」
「……ああ、そうだな」
出来るだけ考えないようにしていた話題に触れられ、俺は一段と憂鬱になった。
別に俺は何もしないので、必要以上に気にする必要はないといえばないんだが……世の中そう単純に割り切れないものもあるのだ。
「楽しみだよ。十羽織の演奏も勿論だけど、九郎の奥さんがどんな舞を踊ってくれるのか」
「だから、それは誤解なんだが……」
「ははははは」
四方儀兄はまるで俺の声を聞いちゃいなかった。妙に良い笑顔で、俺の肩をばんばんと叩く。くそ、見かけに寄らず力が強いなこの兄貴。
「さ、行こう行こう」
「いや、待った! 四方儀兄と一緒にいるのは勘弁してくれ! 頼むから俺を一人にさせてくれ!」
「だからホスト役が一人になってどうするのさ。人間諦めが肝心だよ。早く観念して結婚してしまいなさい」
「待て、なんか話が変わってる! そういう話は今していなかった! してなかったぞ!」
「ははははは」
四方儀兄は俺の腕を掴んでぐいぐいと引きずっていく。俺はなんとかその場に踏ん張ろうとするも、踏ん張りの利かない草履履きではどだい無理があった。そのまま俺たち兄弟は、周囲の奇異の視線に見送られながら、『夜桜』の次の演目の場へと向かうことになったのだった。
◇
嫋、と三味線が鳴る。
嫋々と、節が立つ。
地にひそむ虫の声のように始まった奏楽は、一節の囃子を契機にがらりと色を変え、怒涛のようなたくましさで空気を揺さぶった。
その中心にいるのは十羽織である。
十羽織は二mほどせりあがった舞台の中央後方に端座し、二人の囃し手を従えて三味線の弦を弾いた。
その音は時にはしゃぎ、時に静まり、やがて興り、辺りを震わせ、吼える。悲しくむせび、転じて晴れやかに踊り、いつしか浪々と謡う。
幼少時よりあらゆる楽器を引きこなし、『神の手』と称された六花姉。その教えを受けた十羽織の三味線の技量は、咲き誇る桜に比して何ら遜色がないものだ。
加えて、今の妹は髪を高く結い上げた花魁姿から、普段の下ろした形に戻していた。十羽織の長く美しい髪は、やはりこの髪型でこそ映える。更に、襦袢に白い打掛を重ねた装いには艶があり、見上げる者たちの視線を引きつけてやまない。
だが、妹のこの姿すら、演目のうちでは前置きなのだ。
演台の側方から、華やかな振袖の打掛を身に纏った少女が現れる。
鮮やかな緋の友禅染めに艶麗な金箔を併用したその装いは、婚礼の際に使用されるものだという。
少女──灯はそのまま十羽織の前方、舞台の中央に進み出た。束の間奏楽が止み、観衆が固唾を呑む音が響く。
嫋──と。
しなやかに、十羽織が三味線を弾いた。その細く長く続く余韻が覚めやらぬうちに、灯はひとたび大きく頭を垂れると、華下駄を滑らせて演舞を始めた。
わっ、と歓声が周囲を満たし、尾を引きつつ消える。
灯の踊りは、彼女の装束そのままに美しいものだった。月明かりを背に、桜を前にして、静やかに足を運ぶ。決して急ぐでなく、遅れるでもなく。裡に秘めた力強さを感じさせながらも、あくまで表面はたおやかに。
それは女を表していた。女の体が秘める軟らかさと躍動を、彼女はこの静かな舞台で見事に演じていた。
能の開祖・世阿弥は、この姿を指して幽玄と称した。彼は美しく柔和な体を、その女性的な美しさを、己の芸における大きな軸とした。
しかし灯は世阿弥のことを知らない。彼女に能楽の真髄を知ろうとした過去はない。
にも関わらず、今彼女を中心とした空間には幽玄の世界が広がっていた。
月を背に桜を前に。所作鮮やかに拍子伸びやかに。
灯という一個の存在の中で静寂美と優雅美が合一し、それが一つの『女』となる。
男は見蕩れた。女は嫉妬した。
そしていずれもが、江戸に生まれなかった己の不運を嘆いた。
このような『女』があるのかと。吉原とはどれほどの桃源の郷だったのかと。
だがその舞は、かつての吉原の『夜桜』で舞われたようなものではなかった。十羽織同様髪を下ろした灯の姿も、遊郭の催しとはやや趣を異にしている。
それは、灯の意思によるものだった。
大丈夫だからと。これが踊りたいのだと。
彼女は数ある候補の中から、この舞を選択した。
その意図が俺にはわからなかったのだが──今はわかった。わかってしまった。
仮初に、一夜限りの逢瀬を演じているのではなく。
形ばかりに、偽りの縁を誓っているわけでもない。
すなわち灯が、今まさしく、末永きを約す──婚礼の舞を舞っているのだということを。
◇
「見事な嫁入りじゃないか」
四方儀兄の声を、俺はなかば上の空で聞いた。
今は二人、並んで灯の舞台を見上げている。
「畑は違うけど、僕はこれでも芸術の世界に片足突っ込んだ人間だからね。あの子が今、どんな心で舞を演じているのかくらいはわかる」
「……ああ」
「随分綺麗な子じゃないか。そして九郎は随分と惚れこまれている。あの子は大した踊り手だよ。自分を完全にトランス状態にまで引き上げてしまっている。でも、そのせいで気持ちがここまで余さず踊りに出てしまうことまでは想像してなかったのかもしれないね。いったい九郎は、あの子に何をしたんだい? どうしたらこんなにまで愛されるようになったんだい?」
問われても、これまでのことを思い返しても、俺には到底わかりそうになかった。
そりゃあ、彼女とは何度かちょっと良い感じになったりもしたとは思う。
けど、これほどの思いを受ける理由になるとは思えなかった。
それとも、灯はどこかで演技をしていたのか。
あるいは幼い頃から演劇に親しんでいた彼女は、こういう形でこそ本当の心を表に出すことが出来るのか。
それもやっぱり、俺にはわからない。
「さあ、な」俺は灯の舞台を見上げたまま、首を振った。「見当もつかないよ」
「だとするなら、九郎は大した果報者だな」
「ああ」
本当に、心からそう思う。この舞を見て、彼女の心に気付かない人間はいないだろう。勿論俺だって例外じゃない。周囲の男たちどころか女性からも羨望の視線が俺に突き刺さっている。心なしか舞台上の十羽織まで不機嫌そうだ。
これは嫁入りなんだなと、改めて思った。
結婚式の場で、わざわざ新婦の新郎への気持ちを疑ってかかる者はいないだろう。
「後であれは嘘でしたって説明しても、誰も信じやしないよな、これ……」
「そもそも、彼女に本気で訂正する気があるのかどうかも怪しいけどね」
「……」
俺は眉根を押し揉んだ。四方儀兄の言葉がぐさぐさ脳天に刺さる。
いきなり横合いから、がつんとぶん殴られた気分だった。
すっかりパンチドランク状態だ。頭の中がふわふわして、だけど目だけは勝手に灯を追ってしまう。
「──九郎君」
けれど。
けれどこの時──俺の意識は、唐突に現実に引き戻された。
俺の腕を強く掴む、一人の少女の手によって。
◇
そこにいたのは、夜宵だった。
いつになく切迫した顔で、俺を凝視している。
ここまで走ってきたのか、息も荒かった。
「夜宵? どうした、何かあったのか?」
中立の立場を取り、『夜桜』を静観することにしていた夜宵。言い換えれば、それは傍観者に徹するということだ。その彼女が慌てるような事態が想像つかない。
けれど夜宵は俺の問いに答えず、腕を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。その目は、周囲の視線を気にしているようだった。
「ここじゃ駄目なのか?」
今度はこくりと頷く。
「……そうか」
俺は僅かな逡巡の後に決断した。
舞の途中で離れることに葛藤はあったが、夜宵がこれほど焦った顔を見せることは滅多にない。何か大変な事態が起こっていることは確実なのだろう。ここであれこれ問い質している場合でもなさそうだ。
だが、夜宵に手を引かれる形で舞台を離れようとした俺の背に、皆の軽蔑の視線が突き刺さった。あれほどの踊りを見せられて、なおこの男は別の女に手を引かれて去るのかと、不義を責める眼差しが。
それでも、他人の目であれば無視することも出来た。どう蔑まれようと、こんな夜宵を放っておくわけにはいかない。そうと思えばいくらでも抗えるはずだった。
けれど──背中には灯の視線が感じられた。一世一代の舞を演じ、ひたむきに心を注いでくれた彼女の視線が。
それだけは、どうしても無視することが出来ず──俺は振り返った。
「……」
灯は、じっと俺の方を見ていた。俺を、見ていた。そしてきっとその目は、俺の手と、それを掴む夜宵にも向けられていた。
夜宵も灯に向き直った。僅かな時間に、二人の視線が交錯したようだった。
親友の二人。少なくとも表面上は、一人の男を取り合っているかのような状況にある二人。
その間に、どんな意思の疎通があったのか──。
最初に動きを再開したのは、灯の方だった。
今の一連のやり取りが、まるで無かったかのように。
足を運ばせ腕を揺らめかせ──先ほどまでの舞の続きを演じ始めたのである。
そして、夜宵も動いた。
俺の手を強く引き、演台から離れる方向へ連れ出そうとしたのだ。
「大丈夫」
夜宵はそう言った。
「灯は誤解してない。全部わかってくれたから」
前を向いたまま、そう言ったのだった。
◇
夜宵に連れられていった先は、人気のない裏道だった。辺りに人影がないことを確認した彼女は、胸に手を置いて、すうっと一つ深呼吸をする。
それからおもむろに着物の合わせ目をくつろげると、懐から白い紙の包みを取り出した。
だが──その包みの所々から染み出している不吉な色に気付いて、俺は一気に灯の舞の高揚から醒め、総毛立った。
「そ、それは──」
「……九郎君。驚くのも当然だと思う。私も、手が震えてる。でも、これは静の願いなの。あの人が必死になって、私にこれを託したの。だから怖がらないで、どうかこれを受け取って。そして中を確かめて。九郎君の目で」
そう言って、夜宵は紙包みを俺に差し出した。
「静が、これを……」
俺は震える手でそれを受け取った。端々が赤く染まったその包みを、受け取った。
手のひらに乗せた途端、その軽さと紙越しでもわかる大体の形状から、俺には中身の想像がついてしまった。それを思い浮かべてしまって、俺は動揺のあまり取り落としそうになってしまった。
「どういう、ことだよ、静……」
呟きながら、包みを開けていく。途中、貼り付いたようになった箇所を、ぺりぺりと剥がしていく。
そして、最後に畳まれた紙を開いた時──
「──っ」
予想はついていた。確信も抱いていた。けれど直接目で見てしまったそれは、俺に想像を遥かに超える衝撃を与えた。
俺は吐き気を覚え、手のひらで口元を覆った。しかし、さっきまで包みを開けていた指先には誤魔化しようのない血の匂いが残っていて、俺は慌てて手を離した。それから胃の中からせりあがって来たものを、無理やり飲み下さなければならなかった。
「あいつは、どうしてこんなことを……」
俺は呻いた。
わけがわからなかった。
あまりに日常から乖離したものを間近に見て、思考が麻痺してしまった。
──夜宵から渡された包み。
静が俺宛に用意したというこの包みの中からは。
きっと、静のものだと思われる──女性の小指が出てきたのである。
◇
狼狽する俺を前に、夜宵は声の震えを抑えながら説明してくれた。
「静は言ったの。これが、自分の『こころ』だと。それから小刀を取り出して、私の前で指を切り落とした。私にはそれがどういうことなのかわからなかったのだけど……問い質す前に静は消えてしまった。でも、その後私に流れる真幌木の血が知らせてくれたの。今、土地神様が葵屋を訪れていることを。静がそこに向かったことを。私も追いかけようと思ったのだけど……九郎君にこれを渡す方が先だという気がして。だから──私も知りたいの。九郎君、どうして静はこんなことをしたの? 九郎君なら、その理由はわかるの?」
俺は動揺を必死で鎮めようとしながら、その声を聞いていた。
とてもじゃないが、すぐに答えを返せるような状況じゃなかった。
まだ、まだまだ頭は混乱のさなかにあった。手どころか足だって震えが収まらないままだった。
けれど──悠長にしている時間が無いことも、本能的に理解していた。
そして、これを『こころ』だと静が言ったのなら。そこに彼女の願いがあるのなら。
俺はどうあってもその真意を知らなければならない、と思っていた。
「……こんな話を聞いたことがある」
俺はかすかな記憶を手繰り寄せ、口を開いた。
「吉原の女郎は、男に不実を疑われた場合、何らかの証を立ててその誤解を解いたのだと。それには文を綴ることだったり髪を切って渡したりと様々なものがあったが、中でも一番の誠実を伝える手段が、自身の小指を切り落として捧げることなのだと」
これは、まさに静本人から聞いた話だった。
もし他に男がいた場合、小指を落としたことはすぐに知られてしまう。浮気相手に、自分の本当の伴侶の存在を悟られてしまう。だからこれが、決して自分は浮気などしていないのだという何よりの証となるのだと彼女は言っていた。
「でも……静は不実を犯したの? 私には、そうは見えなかったのだけど……」
「……ああ。俺に甲斐性なんてものはないが、だからってあいつが簡単に心変わりするような奴だとも思っちゃいない」
言いながら、俺の頭の中では徐々に整理がつき始めてきたようだった。
いくら廓の流儀だとはいえ、この指落としはどこか静らしくない。そんな思いが芽生えたのだ。
あいつは、必要以上に俺に重みを感じさせようとする性格じゃない。そんなことをするくらいなら、何も言わずに身を引くことを選ぶだろう。
それに……そもそもあいつは憑喪神だ。血も出ているわけだし負担じゃないということはないだろうが、指を落としてそのまま戻せないということはないんじゃないか? すっかり狼狽えてしまったが、力が戻れば治すことは出来るんじゃないか?
けど、だとしたら何が目的だ? あいつは指を切って、何を俺に伝えようとした?
「ん……指を切って?」
「どうしたの?」
「いや……すまん、ちょっと待ってくれ」
何かが今、頭の端っこに引っ掛かったような気がした。
「指を切って……指きり……あれ、ゆびきり?」
自分が口にした単語に、ん? と首を捻る。
もし──もしこれがゆびきりの指だとするなら、どうして静はそれを俺に渡した? 俺はあいつとゆびきりをしたことがあるのか? あるとしたら、それはいつだ?
「この最近でそんな記憶はない……うん、ないはずだ」
「九郎君? 大丈夫?」
ぶつぶつ呟く俺を心配して、夜宵が問いかけてくる。けれど、悪いが今は集中しなければならない。
最近で覚えがないのなら、もっと前……もっと前に俺が静と会っていた可能性はあるか?
その記憶はない、はずだが……いや、待て待て待て。
そういえば今朝方、四方儀兄が何か言っていなかったか?
たしか、十年前がどうとか……俺が昔から葵屋を気に掛けていたと思っていたような口振りだったが──
「──あれ」
俺は自分の胸に手をあてた。
今、何かがすとんとここに生まれ落ちた気がした。
それはすぐさまおぼろげなイメージに変わり、頭へと駆け上がってきた。
胸で生まれ、頭に届けられたイメージ。
忘れていた記憶。
その内容を俺は一瞬で理解した。そして、「ホントかよ」と呟いた。
この現代に、今更こんな使い古された展開が自分に降りかかってくるなんて、思いもしなかった。
けれど──俺と静にはそれが相応しいのだろうか。
江戸をこの地に再現しようとしている俺たちには、結末まで古臭い筋書きとなることを求められているのだろうか。
(だったら──)
俺は拳を握った。
茶番、結構。三文芝居、上等。
その呼び名こそが、長い間民衆に親しまれてきたしるしだ。
だから、俺はこの人情劇に恥ずかしげもなく乗っかることにした。
『少年と少女が実は幼い頃に出会っていた』だなんて──そんなありふれた話を、堂々と演じてやろうと思ったのだった。
◇
イメージはどこまでもおぼろげだ。
だが、それで十分。全部を綺麗に思い出せたら、それこそ嘘臭い。
十年前。誰かに、恐らくは四方儀兄に連れられて葵屋を訪れた俺は──そこでなんだか薄汚れた姿の女の子と出会った。
その時、どんな会話があったのかはろくに思い出せないが──俺は女の子の埃まみれの顔をハンカチで拭いてあげた後、言ったんだ。
なんだ、お前って綺麗じゃん、と。
そうして赤くなった女の子の顔は、たしかに静に似ていたように思う。
俺はそして、女の子に言ったんだろう。また会おうぜ、と。それから、ちょっと可愛いなと思ってしまった女の子と、ゆびきりをしたんだろう。
不確かなイメージは、けれど俺の記憶を呼び覚ますに十分なものだった。
静が何を思って俺をあるじさまと呼んでいたのか、気付かされるには十分なものだった。
けれど──ではなぜ静は小指を切って落とした?
なぜそれを俺に渡した?
約束を忘れていた俺に愛想を尽かした、という意思表示──その可能性もないではない。
けれどやっぱり、それは静にそぐわない気がする。
夜宵はこれを託された時の静の様子を、「必死だった」と語っていた。
そんな離縁の仕方があるか?
あるとするなら──そして、その後彼女がすぐ土地神のもとへ向かったというなら──
「くそっ!」
「ど、どうしたの、九郎君?」
「夜宵、俺は今すぐ廓に向かう! 悪いが先に行かせてもらう!」
「……静の身に、何か起こってるの? 土地神様が何かしたの?」
「わからん! けど──けど静は多分、消える気だ!」
この指はたしかに絶縁状だ。
だが、あいつは俺に愛想を尽かしたんじゃない。自分が消えてなくなることを予想して、俺との約束をなかったことにしようとしたんだ。
十年前からの縁も、今年二月から育んだ繋がりも、すべてをゼロに戻し、自分のことは忘れてくれと──そう告げているんだ。
「勝手に全部決めちまいやがって!」
後押しされて、助けられて、流されて。
何一つとして一人で成し遂げていない俺だが──これだけは勝手にさせるわけにはいかなかった。
「消えるなよ、静──」
俺は宴の喧騒が瞬く間に遠ざかるのを感じながら、葵屋への夜道を限界の速度で走った。
◇
夜宵の言っていたとおり、葵屋の前には静と言問命がいた。
『張り見世小屋』の紅殻格子を背景に、二人は五メートル程度の距離を置いて向き合っている。
どうしてそうなったのかはわからないが──何が起こっているのかは明白だった。
「静!」
「──来てはなりんせん!」
その姿を見るなり駆け寄ろうとした俺を、静が押し留めた。
「な、なんでだよ──」
「わちのそばにおれば、巻き添えとなりんしょう」
そう告げた静の顔は、血の気が引いたように真っ青だ。
小指を切り落としたため、ではない。
それも一つの要因ではあるだろうが、指だけでなく、彼女は全身のそこかしこに傷を負って地面に膝をついていたのだ。
以前、大蛇──有藤という名だったか──相手に使っていた縄も、細切れになって辺りに散らばっている。
そして──彼女の前には悠然と佇む言問命の姿。
状況は明らかだった。
有藤相手に苦戦した静では、その主たる土地神には到底及ばなかった、ということなのだろう。
けれど──
「んなもん怖がってられっかよ!」
俺は静の制止に構わず、彼女に走り寄った。しかし助け起こそうと伸ばした手は、横合いから突如襲ってきた衝撃によって大きく弾かれてしまう。激痛が後に残った。だらりと下ろした腕に、血の筋が走っている。
「あ、あるじさま!」
静が悲鳴を上げた。なんてらしくない声を出しやがるんだと思う。
「だ、大丈夫! ちょっと切られただけだ!」
俺の返事に、静はほうっと肩を落とした。それから言問命に刺すような視線を向ける。
「あるじさまに手を出すでない! ぬしの相手はわちでありんしょう!」
そう叫んだ静を──言問命は冷徹な目で睥睨した。
「──何を愚かなことを」
彼女は手にしていた扇子を横に振った。途端、俺の体が真横に吹っ飛ばされて地面を転がった。
「あるじさま!」
「なにゆえわらわが御厨の者を見過ごさねばならぬ。甘い考えも大概にするがよいぞ」
「く、くそ、なんだってんだ。人間に直接手出しはしないんじゃなかったのかよ」
「覚悟をもって挑む者には相応の力で報いる。そなたらは以前と違い、わらわを明確な敵と定めておるじゃろう? ならば全力で立ち塞がるは神の勤めよ」
「そんな余計なお勤め、忘れてほしいもんだがな……」
「九郎君!」
痛みを堪えて立ち上がろうとした俺の身体を、追いついてきた夜宵が支えてくれた。彼女は俺を助け起こしたのち、言問命を困惑の目で見つめる。
「土地神様! なぜこんなことを!?」
「真幌場の娘か。理由など知れておるじゃろう? 神は世に言われるほど自由な存在ではない。わらわは約に従っているに過ぎぬよ」
「どうして……! 『夜桜』までは手出ししないという話だったではないですか!」
「誰がそのようなことを申した?」
「え?」
言葉を失った俺たちを、言問命は平然とねめつけた。
「わらわは三月一日の昼に、一ヶ月の猶予を与えた。ならば期限は今日の昼までじゃろう? 『夜桜』のことなど一言もわらわは申しておらぬ。昼刻となり、わらわは葵屋のこの一ヶ月の行状を省みて、約定に届かなかったと判断した。ゆえに土地の神としてこの場所を我が手に戻すこととした」
「そ、そんな……」
夜宵は足の力を失ったかのようにその場に膝をついた。
その心情は察して余りあるものだ。
それはそうだろうと思う。俺も同じ気持ちだ。
たしかに、言問命の告げたことに破綻はないとも言える。きっかり一ヶ月という条件を厳格に考えれば、今日の昼までが期限だ。
しかし、通常は今日の夜までは大丈夫だと考えるだろう。そして俺たちがその前提で『夜桜』の準備を進めていたことを、言問命が気付かなかったとは思えない。
だというのに、今になってこんなことを言い出すなんて──随分と無体な話ではないか。単なる嫌がらせと取られても仕方がない所業だと思う。
まして、先祖とずっと共にあった一族の守護神からこんな仕打ちを受けて、夜宵のショックは計り知れないものだろう。
「神様のくせに、横暴すぎやしないか。これならあんたの部下だったっていう有藤の方がよっぽどマシだぞ」
皮肉を思い切り込めてそう言ってやる。だが言問命は涼しい顔だ。
「人の尺度を神に押し付けるか。そなたこそ傲慢に過ぎよう。言葉を連ねたとて、わらわに通じるなどと思うでない。それこそが不遜じゃ」
「──け、けれど、土地神様! 貴方とてかつては人間であったはず! その心がわからないはずはないのに、なぜこのように辛く当たるのですか!」
「人間? そうなのか?」
思わず問いかけた俺に、夜宵は首肯を返した。俺は驚きの目を言問命に向ける。だが、返ってきたのはよりいっそう凍てついた瞳だった。
「……わらわが人の身を捨てて幾年を経たと思うておる。御厨のみならず、真幌場の者までわらわに人の甘さを求めるか。それで代行者を気取るとは片腹痛い。神を知らぬそなたに真幌場の一族の資格はない」
言問命は扇子を夜宵に向けた。まずい。咄嗟に判断した俺は夜宵に飛びついて地面に押し倒す。直後──俺の足元付近の土が、一直線に抉れた。
「……まじかよ」
俺はその跡を見遣って絶句する。人の身であれを受けていたら、骨まで容易く切断されていただろう。つまり──言問命は夜宵を躊躇いなく殺そうとしたのだ。
「き、貴様ぁっ!」
激昂した静が言問命に飛び掛ろうとする。が、先ほどの俺と同じように容易く弾かれ、地面を転がった。まるで、見たままの──大人と子供の喧嘩のような状況。絶望的な力量差が両者の間に広がっていることは、誰の目にも明白だった。
「廓の霊如きがわらわに抗し得るなどと思うでない。所詮そなたは周囲に害を為すことしか出来ぬ存在よ。身の程を知り、在り様を変えることすら出来ぬのならば、潔くここで絶え果てるがよい」
言問命が再び扇子を一閃させた。待て、と俺は叫んだが、到底間に合うものではない。静が身に纏っていた打掛が裂け、その身から霧のように血飛沫が舞った。
「──!」
静は声にならない呻きを漏らすと、ぐったりと地面に倒れ伏した。その額から、幾筋もの血が流れて落ちる。長い髪が顔に張り付き、幼い顔を凄惨に彩る。
静の目は俺に向けられていた。唇が動き、何かを言おうとしている。だが次の瞬間、背を曲げて苦しげに咳き込み始めた。──喀血している。そう気付いた俺は獣のような咆哮を上げて言問命に殴りかかろうとした。だが遠い。人の身に神の体はあまりに遠い。扇子を振るわれ、なすすべもなく吹き飛ばされる。
まるで歯が立たなかった。
これほどまでに強大な存在だとは、想像もしていなかった。
言問命は転がった俺たちには目もくれずに、扇子を葵屋の建物に向けた。
直接破壊してしまうつもりなのだろうか。
だが──どこにそんな余力があったのだろう? 気付いた時には、言問命の前に静が立っていた。自らが吐いた血で打掛を赤く染めた彼女が、両手を大きく横に広げ、その小さな身で廓を傷付けさせまいと立ち塞がっていた。
「……わちは……葵屋は、あるじさまの、ものでおす。貴様なんぞに……好きにさせて、なるものか……」
「静……!」
俺は体の痛みを強引に忘却し、静のそばに駆け寄った。今度は言問命は俺を一瞥するのみで、邪魔をしてこなかった。その理由はわからないが、いちいち考えている場合じゃない。俺は静をかばう位置に立ち、真っ向から言問命と相対する。
そうして改めて感じる神の威圧。どうしようもなく足元から震えが湧き上がったが、両手で腿を掴んで無理やり押さえつけた。
「あるじさま、離れてくりゃれ!」
「ざけんな。十年も女のこと忘れてた馬鹿が、ようやく格好つけられるんだぞ。ここで逃げてどうするってんだ」
「お、思い出してくださったのかや?」
無言で頷くと、背中に静が縋り付いてきた。
「無茶な願いと思っておした。あやかしは人の心に残り難いものゆえ。だ、だから、せめて傍に侍ることだけでもと」
「あの手紙にがつんとやられたからな」
声を詰まらせる静に、冗談半分でそう言ってやる。静はいっそう強くしがみつき、背中を温めるように吐息の声で囁いた。
「……くろうちゃん」
途端、ぶるりと身体が震えた。そう呼ばれていたんだなと思い出すと同時に、当時の記憶が鮮明に蘇る。自分がその時、この娘にどんな思いを抱いたかについても。
(ああ、自分は本当に三文芝居をやってるな)
そう思うと、笑えてきて仕方がなかった。だがこのテの話の結末は大抵悲劇だ。出来れば心中ものの浄瑠璃のように共倒れする落ちは避けたいが──少なくとも俺の方は覚悟しなければならないだろう。
言問命はそんな俺たちを冷然と眺めていた。扇子は変わらず葵屋に向けられている。俺たちを直接攻撃する気はなくしたようだが、一瞬の油断も出来ない状況だ。打開策を必死で考える俺たちの前で、言問命は呆れたように息を吐いた。
「ほんに、憑喪神とは哀れな存在よの。大した力も持たず、ただ物に宿っただけの己に疑問を抱かず、一途に在ろうとする。じゃから人はそれに情けを覚え、惑うてしまうのだというのに。まあ良い、ここはわらわが納めじゃ。廓を破壊したのち、表で行われておる宴を断ち切って、神の政をこの地に改めて敷くとしようぞ」
「……お前は『夜桜』まで無茶苦茶にしようってのか!?」
「何を意外に思う? 廓そのものが害悪なのじゃ。関わる事物はすべて無に帰すが理じゃろう」
「土地神様、それは本気なのですか!?」
言問命のあまりな論理に、夜宵が声を荒げて問い質した。
「祭りは政。あの催しだってこの土地の栄えとなるはず。なのにそれを土地神様自らが壊すというのですか!?」
「そうじゃ。政なればこそ、わらわの預かりでないものは認めぬ。当代の真幌場よ、そなたはそんなことも知らぬというのか」
「で、ですが、それではあまりにも──」
「しかし、真幌場が理を忘れたは、わらわが幾百年姿を消しておったせいでもあるか。ならば、良い。これまでのことは水に流すとしよう。そして夜宵よ、そなたには機会を与える。これよりわらわの手を取るが良い。そして『まほろばのひめ』となりて、わらわの代行者の勤めを果たすのじゃ」
言問命はそう言うと、扇子を畳んでから右手の先を夜宵に向けた。
ただそれだけの何気ない所作であるのに、そこには抗いがたい力を感じる。
「と、土地神様……」
夜宵の瞳に、激しい葛藤が見える。
だが、それは当然なのかもしれない。
今、神が人に手を差し伸べているのだ。この世の何者がそれを拒むことが出来るだろう。
まして夜宵は真幌場の人間だ。遥か以前より土地神と共にあった一族の末裔なのだ。
言問命の手を取ることは長年の本懐でもあるはずだ。
それに──
「どうした? 夜宵よ。わらわと共にあれば、これまでのように悪霊に怯えることもなくなるのじゃぞ。そればかりか、わらわの力をそなたに分け与えることとて出来るのじゃ。さすれば、父母の仇を討つことが出来るかもしれぬのだぞ?」
「──!」
その言葉に──夜宵ははっと目を見開いた。
それから何かを決断したのか、唇を引き結ぶと、言問命に向かって足を踏み出した。
「夜宵……? お前、まさか」
俺の声が届いた様子はない。夜宵は前方だけを見据えて、恐ろしいほどに真剣な表情で歩き続ける。
言問命は笑みを浮かべていた。邪悪な、と言いたいところだが、悔しいがその笑みは慈愛に満ちたものだった。自分を信奉する相手へと向ける、神の微笑み──。
夜宵は言問命の前で立ち止まり、左手を持ち上げた。
言問命が差し伸べた手のひらに、それが重ねられようとする。
神と人による、主従の儀式。
西洋の騎士の誓いに似たそれが、俺たちの前で執り行われようとしている。
言問命の笑みが深まった。
さあ、とその口元が動いた。
頷いた夜宵は、神の手に触れようとして──
直後、その手を強く弾いた。
「や、夜宵!?」
「貴方は──」
夜宵は、初めて見るような憎悪の篭もった目で言問命を睨んでいた。
「貴方は、真幌場の神じゃない。こんなことをする存在を、私は一族の神だとは認めない」
「……」
言問命は無言だった。ただ、弾かれた自分の手を静かに見つめている。
「それに貴方は、お父さんとお母さんのことを、まるで他人事のように口にした。二人を殺した悪霊を、私だけの仇であるかのように言った。本当なら、貴方にとっても憎むべき仇であるはずなのに」
「ど、どういうことだ、夜宵?」
「土地神様は……東雲斎言問命は、初代の『まほろばのひめ』の母親。つまり私の両親は、言問命にとっての子孫に当たるの」
「……そうだったのか」
俺は理解した。元々は人間だったという話。それと、どうして夜宵の一族が代行者となりえたのか。その二つは、極めてシンプルな形で繋がっていたのだ。
「でも、言問命はもう真幌場の一族のことを単なる従者としてしか見ていない。言い伝えでは、貴方はかつて、自分の夫と娘を守るために神となったという話だった。けれど、もう貴方はその時の心を失ってしまっている。自分が何を守ろうとしていたのかを忘れてしまっている。そんな貴方を、私は認めるわけにはいかない。──だから」
そこで夜宵は一旦言葉を切り。
それから、言問命と、その後ろの静に向けて──告げた。
「だから、当代の『まほろばのひめ』は、これより貴方を拒絶する。そして、代わりに──静を信仰することとする」
「──え?」
そう素っ頓狂な声を発したのは、静だ。
無理もない。俺も夜宵の言葉の意味が一瞬わからなかった。そして意味がわかった後も、結局は何がなんだかわからないでいる。
「や、夜宵? 何を言ってるんだ?」
「口にした通り」
夜宵は、前を向いたまま俺にそう答えた。
完全に思いを定めた顔だった。一族を守ってきた守護神に、絶縁状を突きつける──そこにはどれほどの決意が込められているのだろう。
けれど──これはどういうことになるんだ?
「夜宵。これを聞くのはすごく躊躇いがあるんだが……その、お前が言問命から静に、ええと──『乗り換える』ことには、何か意味が出るのか?」
「……ううん。ただの私の立ち位置の問題」
「そ、そうか」
やっぱりそうだよな、という落胆に肩が落ちそうになる。
だが、俺はそれを表に出さないようにした。
自分が悪霊たちの手から庇護されるメリットを捨ててまで、夜宵は言問命に歯向かったんだ。
その意志を尊重しないでどうする。俺がわかってやらないでどうする。
でなければ──今度こそりつさんに見限られてしまうだろう。
「……」
言問命は変わらず無言だった。
変わらず、夜宵に拒絶された手に視線を落としていた。
そこにどんな感情が渦巻いているのかはわからない。
夜宵の啖呵は心地よいものであり、ざまあみろという気持ちも湧き上がったが、言問命のあまりに変化のない表情を見ていると、不思議とそれが萎んでいってしまう。
言問命は、奇妙なほど静かな顔をしていた。
静寂の中に佇んでいた。
先ほどまでの威圧的な態度はどこへ行ったのか──それとも、夜宵に拒まれたことが、よほどのショックだったのだろうか?
その時、ようやく言問命が顔を上げた。
それから、夜宵を見て、静を見て、最後になぜか穏やかに──こう告げた。
それで良い──と。
◇
どういうことだ、と俺は問い質そうとした。
だがその声は、突如上方から聞こえた風の音によって遮られた。
「な、なんだ!?」
見上げると、人の身長ほどのサイズの竜巻が葵屋の屋根の上で発生していた。
それは見る間に言問命の横に滑り降り、瞬きのうちに消える。
そして風が収まった後には、一人の男性の姿があり。
「へえへえ、旦那さん、ご無沙汰でござんすね」
慇懃に頭を下げるその顔は、初めて見る相手のものだった。
だが、どこか記憶の隅に引っかかるものがある。たとえば男の目。全体は人の姿でありながら、そこだけは異様だ。黄色く、濁り、そして光っている。
まるで爬虫類のような──
と、そこで一つの可能性に思い至り、俺はぎょっとした。
まさかこの人物は──
「お、お前、まさかあのときの大蛇!?」
「へえ」
男──有藤はあっさりと頷いた。
「どうしてお前がここに……いや、それよりたしかお前は、言問命に──」
「済まぬが、あれは偽りじゃよ」
尋ね終える前に、言問命がそう答えた。
「そういうことでやんす。旦那さん、怪我はもう大事ありませんかい? ちと加減を間違えちまいやして、本当に申し訳ないことをしやしたが」
「まああれをそなたのせいにするのは無体じゃろ。よもや人一人を抱えて二階の高みから飛び降りるとは、わらわでも予想がつかなんだ」
「ど、どういうことだ……?」
妙にくだけた調子で話す二人を前に、俺はそう口にするのが精一杯だった。
「これはいったい、どういうことでござんしょう?」
後ろに立つ静も、俺と同じ問いを口にした。
なぜかその声が普段より大人びているように感じて、振り向くと──
絶世の美女が、そこにいた。
「え? あれ、お前……静、か?」
「あ、あい。そうでおすが……」
そう頷くも、どうやら当人にも状況が掴めていないようだ。
静はいつものちんまい姿から、二十歳前後の妙齢の美女に変化していた。普段から片鱗を覗かせてはいたものの、こうなるとまさしく傾城の美貌だった。
「……もしかして、それがお前の本当の姿なのか?」
10年前に生まれたから10歳の姿なのだと思っていたのだが、こちらの思い込みだったのだろうか。
「わちは蓄えし力のほどによって外見も変わりんす。それゆえ、どれが本当ということではござんせんが……」
「そうなのか……いや、それより静。お前、傷が治ってないか?」
「……あい。なぜかはわかりいせんが、あるじさまにお渡しした小指まで戻っておりんす。いずれこやつらの仕業じゃとは思いんすが、わちには何が起きたか皆目わかりいせん」
そう言って、静が言問命に目を向ける。隠すつもりもないのだろう、土地神はすぐさま口を開いた。
「なに、単純なことじゃ。静よ、そなたの在り様に変化が起きたのじゃよ。最早そなたは単なる憑喪神ではない。わらわから土地神としての位を移譲され、この地を統べるものとなった」
「わ、わちが神に!?」
とんでもないことをさらりと言い渡され、静が愕然とした。
「そ、そんな簡単に出来るものなのかや!?」
「簡単ではなかったのじゃがの。土地神の権限の移譲には、明確な条件がある。それは、土地神となる際に一つだけ定められるものじゃ。それ以外には条件は存在しない代わりに、他に移譲を可能とするすべもない」
「……一体そいつは、どんな条件だったんだ?」
「想像はつくであろ? 直前に夜宵がわらわに向けて放った言葉が誘い水となったのよ」
「……私の言葉が?」
意外そうな顔で夜宵が繰り返す。それはそうだろう。当の本人が、あれは気持ちの問題だと言い切っていたようなものなのだから。
「正しくは言葉ではなく、夜宵の心が、じゃの。わらわは初代の真幌場の母。神となった目的は一族の守護。ゆえに自らに定めたのよ。わらわが真幌場の一族からの信を失った場合、ただちにこの座を明け渡すことをの」
「……だから、私が貴方を拒絶したことで、静に土地神の権能が移ったということなの?」
「うむ。そして移譲先は、当代の真幌場の心によって定まる。それが人であればたやすくはないじゃろうがの、憑喪の霊であれば本質はさほど神と変わらぬ。見る限り、上手い按配に移譲は行なわれたようじゃ」
「そういう、ことかよ……」
混乱しっぱなしだったが、段々と俺にも状況が飲み込めてきていた。
つまり言問命ははじめから、静を土地神にするために動いていた、ってことなのだろう。
「急に無茶苦茶言い出したりしてさんざ煽ってくれたのも、全部お前の芝居だったのか」
「うむ。なかなか悪くはなかったであろ?」
くふ、と意地悪い笑みを扇子の裏に隠す言問命。
俺はその時、ようやくこいつの本性を見た気がした。
つまり、こいつは……性格が悪いんだ。
「あたしの演技も褒めてほしいもんでやんすがね、へへ」
有藤がそう言って主に追従する。元からの性格なのか主の影響を受けてなのかは知らないが、この蛇霊も大概だ。誰が褒めてやるものか。
「そう不満げな顔をするでない。その者がおらなかったら、神主がそなたらに協力を申し出ることもなかったのじゃぞ?」
「そう、なのか?」
「うむ。その者がわらわに進言したのよ。あのままでは『夜桜』は間に合わないから、神主に協力させましょうと」
「こいつが……」
俺は意外なものを見る目で有藤に顔を向けた。するとこの蛇霊は、照れくさそうに額に手をやった。
「へへえ、そんな目で見んでくだせえ。ちょいと怪我させちまったお詫びがしたかっただけなんですから」
「……いや。助かった。有難うな」
実際、あの神主の助けがなかったら『夜桜』は成り立たなかった。
どうして突然協力を申し出てくれたのか不思議だったが、後ろに土地神がいたのであれば納得だ。そして、その土地神を動かしてくれたのだから、この男には感謝してもしきれるものじゃない。
「いや、旦那さんにそんなこと言われると、照れちまいますな」
自分の頭をぺちぺち叩いて笑う有藤。瞳だけは恐ろしい蛇のままだったが、こうなると急に愛嬌があるように見えてくるのだから俺の現金さも大概なものだ。
などと思っていると、その有藤が急に表情を引き締め、硬い声で言問命に呼びかけた。
「さて……ぬしさま」
「うむ。そろそろじゃの」
「? どういう意味だ?」
「なに、たいしたことではない。わらわは元は人の身。神の座を降りれば人に帰る。じゃがとうに肉は喪われておるでの、音もなく消え行くことになるだけじゃ」
「な──」
俺は息を呑んだ。だが言問命は平然としている。有藤はいつのまにか彼女の前で膝をついていた。あるじの最期を見届けようとする神妙な表情だけをその面に浮かべていた。
「貴様……それはまことかや!?」
激昂した静が問い質すも、言問命は泰然としたものだ。そればかりか、どこか肩の荷を降ろしたような穏やかな表情にも見えた。
「この期に及んで偽りなどないぞ。わらわは消える。わらわはようやく、千年に及ぶ任から解き放たれるのじゃ」
「初代様……」
夜宵は複雑そうな顔で言問命の声を聞いていた。実際、やりきれない思いがあるのだろう。相手の思惑通りとはいえ、最後に引き金を引いてしまったのは夜宵自身ということになるのだから。
「我が末裔よ、気に病むでない。これはわらわが選んだこと。何より、わらわは嬉しいのじゃ。これでようやっと良人と娘に会える。この時をどれほど待ちわびたか知れぬ」
言問命は、そう言って深く嘆息する。
やがて、その輪郭が徐々にぼやけ出した。頭を垂れた有藤が耳慣れない言葉──祝詞の一種だろうか──を唱える。
始まった、のだろうか。気付けば、言問命の体を通してその先の風景が見えるようになっている。体が透け始めているのだ。
「静よ」
「……なんでござんしょう」
「そなたが土地神となったことで、廓が吸い上げた龍脈の力を広くこの地に行き渡らせることが出来るようになるじゃろう。そなたは最早この地の敵ではない。この地を統べるものとなったのじゃ」
「在り様を変える、とは、そういうことでありんしたか……」
幾度か言問命が口にしたその言葉。それは、静を蔑むものではなく、解決策を提示していたということだったのだろうか。
「じゃが、代わりにそなたはこれまでのわらわ同様、神としてこの地に縛られることとなる。人を愛する身に神の時は長いぞ。心は磨り減り疲れ果ててゆく。わらわはそなたに非道いことをしたのやもしれぬ」
いわば身代わりなのじゃからな、と言問命は自重気味に言う。彼女も煩悶したのだろう。長い間考え続けて、他にすべがないと知っての苦渋の決断だったのだろう。
だが、静はゆっくりと首を振った。
いいえ、それは違う、と──穏やかに。
そして彼女は、
「それでも」
微笑んだ。
「それでも、わちは嬉しいのでおす。あるじさまのいのちを、見届けることが出来るのでありんすから。これに勝る喜びはござんせん。たとえ、そのすえに千代の孤独が待っていようと、今はただ、嬉しいのでおす」
「……そうか」
言問命は、ふっと、肩の力を抜いた。
たった今彼女は、千年の荷をそこから降ろしたのだろう。
「それを聞き、本当に安心じゃ。もはや一欠片の悔いもない。されば──わらわも消えゆこう。東の雲は今より、野辺の霞となる。のちには、澄み渡る空だけが残るじゃろう」
最後に、そう告げて。
東雲斎言問命は、俺たちの前で霧のように消えたのだった。
◇
「さて、あるじさまよ」
「お、おう」
あの後。
言問命の最期を見送ってひとしきり経ってから、俺は静の呟きに尻込みしながらそう応じた。
とんでもない美人となったことに加え、土地神という大層なものになってしまった静に対し、どういう態度を取れば良いのか判断がつかなかったのだ。
静はおどおどしている俺を呆れたように横目で見ながら、ふう、と息を吐いた。
「そのようにびくびくされると、わちも困りんす。それに、どうやらわちは土地神となりんしたというても、廓の憑喪神の性を喪うたわけではないようでおす。じゃによって、あるじさまはあるじさまのままよ」
「そう、なのか?」
てっきり元の性質だか本質だかいうものはすべて捨て去ったものかと思っていたが……。
「なんとなくそういう感じがするだけでおすがの。それに、わちとてだいぶん趣味の悪いことをしんした。たとい神となった言うても、かような出来損ないのものに畏れの心など向ける必要はありんせん」
言いながら、静は小指を立ててみせた。すっかり元通りになったそれは、彼女が一度は離縁のしるしとして切り落としたものだ。
「たしかに悪趣味だと思ったが、それも悪いのはお前のことを忘れていた俺の方だろうに」
「先に言いしたように、あやかしは人の心に残り難いもの。加えて、記憶から消えゆく時は周辺の事柄ともども道連れに致しんす。葵屋を訪れなんしたことを含め、すべて忘れ去るは必定だったのでおす」
神隠しに遭ったものは、その前後の記憶も忘れてしまうという。同じように、俺が十年前のことを丸ごと忘れていても、何ら不思議ではなかったらしい。
「なのに、十年を隔ててなおあるじさまはそれを思い出しなんした。さすればわちの心、どうして不義などと思いんしょうか。わちにあるのはただ喜びのみでおす」
そう言って、静は俺にしなだれかかってこようとした。
と、そこに脇から別の手が伸びる。間に挟まって俺たちの接触を禁じる。
「なんじゃ。ぬしも嫉妬を覚えたのかや?」
特に怒るでもなく、静が手の主──夜宵に尋ねた。夜宵は「たぶん」と自分でもよくわかってないような答えを返す。だが、その手は俺たちの動きを封じたままだ。
「そ、そういえば、俺が葵屋に自分でも不思議なくらいにこだわりを感じていたのは、やっぱり静が何かしたからなのか?」
なんとなくきな臭い雰囲気になりそうだったので、俺は咄嗟に話題を変えた。静は完全にお見通しの様子だったが、俺の軌道修正には応じてくれたようで、くふふと艶のある笑みを浮かべた。
「わちにそのような力はござんせんよ。わちはこの十年、ひたすらにあるじさまの訪いを待ちわびるのみでおした」
「……本当か?」
きっと本当だろうとは思うが、意味ありげな静の顔を見ているとそう問わずにはいられなかった。
だが静は俺の問いを軽くいなして、背を向けた。
「信じるも信じぬも、あるじさまの胸先一つでありんす。それより、そろそろ参らぬかえ」
「参るって……どこにだ?」
「いつまでも灯と十羽織にだけ気を張らせるわけにはいきんすまい。夜宵もこれ以上のわだかまりはないのでありんしょう? ならば葵屋の『夜桜』はこれからが本領。わちらの演舞をあるじさまに見せつけて、晴れて『惣仕舞い』と致しんしょう」
◇
祭の喧騒は続いていたが、桜の先に築かれた演台の周辺は、やや弛緩した空気が漂っていた。
それも当然だろう。舞台の主役たる灯が演じていたのは『女』、だがこの場にはその相手となる『男』がいなかったのだから。
俺が夜宵に伴われて姿を消した後も、灯と十羽織は演舞を盛り上げようと奮闘してくれていたようだ。表情には隠しきれない疲労の色が宿り、雪洞の照り返しを受けた額には汗が浮かんでいる。サポート役の囃手たちにも、状況がまったく掴めないながら頑張ってくれた様子が窺えた。
けれど、灯の踊りにはどうしたってブランクがある。まして子供の頃に踊っていたものと今彼女が演じているものは、決定的にジャンルが違う。少ない経験での踊りを続ければ、バリエーションが乏しくなり観衆が飽きてくるのは、防ぎようがないところだった。
だが──そこに俺たちが現れた。俺と夜宵を従えた静は、演台に上るや小休止に入っていた灯に手をかざす。
すると、たちまちに灯の装いが変化した。
観衆には何が起こったか理解出来なかっただろう。
一瞬の光に瞬きした後、そこには花魁装束とはまた趣を異にする、絢爛なる衣装を身に纏った少女がいたのだから。
灯の衣装は、巫女服をベースにしたものだった。
白い小袖に緋袴を履いた、よく正月に見られるような姿である。
ただしこの時の彼女は、千早と水干を重ねて典雅さを加えた上に、かもじ(添え髪)によって豊かにした後ろ髪を、装飾用の丈長と水引とで束ねていた。
これは、大規模な神社での奉納の儀の際に用いられるような装いである。
静は更に、隣に立っていた夜宵と、演台後方の十羽織にも同様に手をかざした。灯ほどではないが、二人とも巫女に近い姿へと変わる。気づけば静も同じ格好に衣替えしていた。
「あるじさまは……そのままかの」
静は顎に指をあててしばし悩んだあと、そんなことを言った。もちろん俺に文句はない。というか、どんな格好したってこの四人と並ぶには役者不足だから、大人しく演台の下で観衆に紛れるつもりだった。
「まあそれはいずれ、かや」
そう恐ろしいことを言って、静が十羽織の向かって右に座った。反対側には夜宵が座し、三人の前に灯が立つ構図となる。
──あるじさまよ。
その時、演台を見上げていた俺の耳朶に、静の声が響いた。
彼女に口を開いたような様子はない。超能力でいうところの、テレパシーというやつだろうか。土地神となった静はなんでもありなのかもしれない。
──どうした?
ためしに念じてみると、なぜかこの声が相手に届いたという確信が生じた。
──舞の前には口上でありんす。あるじさま、よろしくお頼み申しんす。
──俺が? そりゃ誰がやるってんなら楼主の俺かもしれんが、いきなりすぎるぞ!
心の中でそう叫ぶも、返事はない。演台の静は素知らぬ顔だ。まったくもって腹が立つ。
しかし、俺だけが楽しているようで心苦しい気持ちがあるのも事実だった。楼主役として僅かなりとも口上や名乗りを学んだ経緯もある。
静はおそらく、そんな俺のために見せ場を用意してくれたのだろう。
だから俺は──その腹を括った。
「ったく!」
小さく毒づきながら、俺は演台に昇るための階段を駆け上がった。灯たちの邪魔にならないような位置となると、演台の脇の踊り場となる。俺はそこに二本の脚を踏みしめて立つと、舞台下の観衆を見渡してからすうっと息を吸い込んだ。
そして──あとはやけくそだった。
「さても本日はお日柄もよろしく!」
叫ぶ。
「みなみなさま、ごゆるりと見物、なされ候、なされ候!」
うろ覚えの言葉を繋ぎ合わせて、大音声を張り上げる。
「さぁて姫子の神楽踊りぞや! 踊りの音頭を出しゃしゃれ出しゃしゃれ!」
その時、静が俺に向かって扇子を放った。
──こちらを!
──あいよ!
そんな刹那のやり取りを経た俺は、
扇子をはっしと受け止めて、
ばさり、開いて月に宣した。
「『夜桜』の宴、これにて仕舞いとなりまする!」
◇
後で聞いた話だが──静以外の三人は、この時どうしてあんな演舞が自分に出来たのかわからない、と口を揃えていた。
しかしその一方で、俺を含めた観衆は一目で理解していた。
すなわち、静・灯・夜宵・十羽織の四人が並んだ演台の上で、喧騒のさなかに灯が舞の一歩を踏み出した時。
この時、『夜桜』の場には紛れもなく神が宿り。
あるいは、演者たちが神懸ったのだと──本能的に理解したのだった。
灯の舞は、ゆったりした動きから始まった。
手にした鈴が鳴らぬほどの滑らかさで、まずは右回りに歩を滑らせる。
足取りに合わせて、十羽織の三味線が一節──二節──三節響いたところで、旋舞の向きが変わる。
続いて夜宵の大和笛が一節、演台の空気を左から扇いだ。
返すように右手の静が和琴を爪弾くと、互いの音が後方でぶつかり、弾ける。
灯はその音に乗るかのように軽く跳ねた。たん、と軽やかに着地し、少しずつ足運びを速めていく。りん、と採物の鈴が清らかな音を引く。
しかし、一般的な神楽の動きはここまでだった。
これは静の神楽なのだ。彼女と楽しむ、彼女が楽しむための舞なのである。
それを他の三人もよくわかっていた。
わかっていたから──一転して賑々しく音が弾けた。楽しげに、音が踊った。
つられた灯が笑みを浮かべた。あはは、と笑いを零した。
普通の神楽では有り得ない表情。けれどこの場の誰がそれを咎めよう? 見れば神も笑っている。後ろで静も笑い転げているのだ。
十羽織がとうとう吹き出した。夜宵までもが頬を緩めた。
月に照らされた玄妙な空間は。
たちまちのうちに自ら光を放つ賑々しい舞台に変貌した。
突如の次第に観衆は呆気に取られた。厳かな神楽の儀、しめやかな奉納の儀。途中まではたしかにそうだったのにと。
けれど、演者は等しく笑っている。なぜだか揃って歯を見せている。
だったら──これでいいのでは?
そうと思えばあとは早かった。
ここに集ったは、元々騒ぎが好きな者たちなのである。
今日は宴だ夜桜だ、飲めや歌えや騒げばよろし。観衆たちは飲み出した。歌い出した。踊り出した。脇に退いてた囃手たちも、再び演舞に加わった。
──古来より、遊びとはこういうものでありんすよ?
静が得意顔で囁いた。
神事の際の芸能を、古語で遊びというけれど。時代と共に移り変わったその意味を、彼女たちはここに体現していた。
すなわち今──この場のすべての者が『遊んで』いた。
その始まりの意味と、現代の意味とを、同時に成し遂げていた。
「あははっ!」
その笑いは誰のものだったか。
いまや静たちは、好き勝手に音を奏でていた。
演目などというものはとうにない。
ただ琴を、三味線を、笛を、思い思いに気持ち良く奏でている。
灯はしなやかに壇上を飛び跳ねていた。
今の彼女を目にすれば、天岩戸も自ずと開くだろう。
この騒ぎは、いつまで続くだろうか。
いや、いつまでも続くのかもしれない。
俺は扇子をぱちりと閉じて、踊り場の上で一人思う。
神と人との繋がりのように。
この神楽はいつまでも終わらないのかもしれない。
だから、これはただの中締めとして。
皆への尽きせぬ感謝と共に。
俺は頭を垂れて、自然と浮かんだ口上を、心の中で呟いた。
合いの手、掛け声、笛の音。
三味線和琴に破顔に爆笑。
音と心が辺りを飛び交い、人と神とが笑いさざめく。
これなるは葵屋の神楽。
これなるは葵屋の惣仕舞い。
土地神、静の初御目見えに御座りますれば、
皆様何とぞ、ご贔屓願い奉りまする──




