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章前
藁葺き屋根の門の内側から、彼女は外の世界を眺めていた。
門とは言えど、其処に扉は存在していない。永き歳月を経るうちに腐り落ち、枠だけが残されているのである。
何者をも留め置くことの出来ぬはずの、名ばかりの境界。
だが彼女だけは例外だった。戯れに一歩外へ足を踏み出そうとするだけで、抗いようのない力により引き戻されてしまうのだ。
それは、彼女が彼女である限り逃れられぬ定め。
10年の歳月で雛は鳥となったが、いまだ彼女が籠から出ること叶わぬ身であることに変わりはない。
今頃、自分の良き人は何をしているのだろうか。
彼女はそれを思い、小さく嘆息する。
寄り添えぬ我が身の不自由を嘆き、伝えきれぬ我が心の不器用に呆れる。
──いつか。
いつか、気づいてくれるのだろうか。
彼女は門柱に肩を預けて外を見遣りながら、切なげに小指の爪を噛んだ。