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豪風が吹き荒れた。あまりにも強すぎてシュリュズベリイは膝を屈した。歴戦の戦士であるシュリュズベリイですらこの有様なのに彩名は平然と立ち、得体のしれない言葉を唱え始めた。
「燃え盛る焔より、真白き閃光の神。揺らぐ立場に惑わず、ただ歩むのみ。そは焚き付ける者。そは砂を騒がせる者。荒ぶる焔にて敵を滅ぼせ。汝が名、VorvaDoss。我が名は彩名。汝と反する者なれど、汝を理解する者。ルルイエ異本の呼び声に応え、力の一端を示せ!」
無限に広がるかと思えたページがぴたりと動きを止め、外側から内側に向けて順番に焔を放っていく。
中心点であるところの彩名の周辺まで勢いよく燃え上がると、今度は燃え盛る焔達が一気に中心点に集まっていく。
集う場所は彩名の頭上。圧縮された赤い焔は集まった熱量を誇るように白い閃光へと変化した。その白い閃光の中で、赤い影が身じろぎしている。
大きさや姿形は子犬であったが纏う雰囲気は神そのものだ。人間などとは比較にならない存在感。
「ヴォルヴァドス……」
呆然とシュリュズベリイはその神の名を呟いた。その名はシュリュズベリイがしる限り、地球最強の代名詞である。
召喚されたヴォルヴァドスは朱く赤熱する瞳で地上をはい回る触手を睥睨した。召喚されたのは力の一部とはいえ、ヴォルヴァドスとクトゥルフでは格が違う。
クトゥルフは敵の存在に気付いたのだろう。無秩序に蠢いていた触手達が一斉にヴォルブァドスへ矛先を向けた。
ヴォルヴァドスはつまらなそうに触手を見下ろし、小さな口を邪悪な形に歪めた。
そして。
「イイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
金属をすり合わせた音に似た甲高い咆哮が世界を震わせた。
真白き閃光が、ヴォルヴァドスから放たれる。球状に膨れ上がっていく閃光に触れた瞬間。触手は一瞬で蒸発した。
咆哮は止まない。閃光は触手を無に帰しながら暴虐な力を示し、やがてクトゥルフ召喚の要である石柱群にとどいた。
石柱は淡い文字を明滅させ、結界を起動したが、閃光は結界もろとも石柱を蒸発させていく。
『今日昼過ぎ、××市をおそった地震は各所に深い爪痕を残しています。幸い、気象庁より発令された地震避難勧告により死傷者は奇跡的にでておりません。しかし、復興にはかなりの時間がかかると思われ……』
すべて蒸発したのではないかと危惧していたがどうやら杞憂だったらしい。