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爆砕した。家が公園がビルが、街を構成する要素が触手の海に沈んでいく。
壊れてく街の上空を奇妙な物体が飛行している。長い毛に包まれた真ん丸い物体であり、微かに身じろぎしているようなのでおそらく生物なのだろう。
その奇妙な生物の上にシュリュズベリイと久遠彩名いた。危機を察知したシュリュズベリイがこの生物を召喚して一旦空に逃れたのだが。
地上に降りれる箇所はもうなかった。遠く、海底にあるルルイエの石柱群を召喚し、それを利用したクトゥルフ召喚は最終段階まできている。止めるとすれば石柱群を破壊するぐらいしかないが、残念なことにシュリュズベリイには自衛隊へのパイプラインはない。幾重もの結界にまもられた石柱に対して魔術的アプローチは時間がかかりすぎるだろう。
万事休すといったところか。
それでも。
シュリュズベリイに諦めはない。あのセラエノ大図書館で諦めと絶望は散々味あわされた。そもそも、シュリュズベリイの戦いが悪あがきであることを誰よりもシュリュズベリイ自身が知っていた。
とにかく強力な魔術を発動させようとした瞬間、シュリュズベリイは強烈な悪寒を覚えた。おぞましい邪神共と戦いなれたシュリュズベリイに悪寒を感じさせるなど並大抵ではない。
シュリュズベリイが勢いよく振り向くとそこには少女がいた。へたりと座り込み、ふるふると震えている。怯えているようにも見えたが、目にはおびえがない。かっと眼を見開き、壊れていく街を見下ろしている。
「あそこは悠真の学校じゃない、あのビルはお父さんの、あれはお母さんの学校、理緒の家が壊れてる、ああ叔母さんの家が」
ぶつぶつと呟く。シュリュズベリイは彩名にどす黒い魔力が溢れていくのがみえた。
「嘘、どうして、なんでよ、何か悪いことした? なんでこんな、壊れていくの、死んだ? 死んだよね? そりゃあ死ぬよね、こんなんじゃ」
彩名は顔を上げてふらふらと立ち上がった。
そしてばっと天を睨み付ける。
「ふっ、ざけんじゃねえええ! こんな理不尽許せるかあああ!」
バサバサバサとルルイエ異本がページに分解する。先ほどとは明らかに規模が違う。街全体を覆いつくさんとばかりに広がっていく。
「許さねえ、許さない!」